監督 デミアン・チャゼル
脚本 ジョシュ・シンガー
原作 ジェームズ・R・ハンセン
音楽 ジャスティン・ハーウィッツ
キャスト
ニール・アームストロング - ライアン・ゴズリング
ジャネット・アームストロング - クレア・フォイ
エド・ホワイト - ジェイソン・クラーク
ディーク・スレイトン - カイル・チャンドラー
バズ・オルドリン - コリー・ストール
エリオット・シー - パトリック・フュジット
デイヴ・スコット - クリストファー・アボット
ボブ・ギルルース - キーラン・ハインズ
パトリシア・ホワイト - オリヴィア・ハミルトン
ジェームズ・ラヴェル - パブロ・シュレイバー
ガス・グリソム - シェー・ウィガム
マイケル・コリンズ - ルーカス・ハース
ジョー・ウォーカー - ブライアン・ダーシー・ジェームズ
ロジャー・チャフィー - コーリー・マイケル・スミス
マリリン・シー - クリス・スワンバーグ
リック・アームストロング - ギャヴィン・ウォーレン(幼年期)
ルーク・ウィンターズ(少年期)
マーク・アームストロング - コナー・コルトン・ブロジェット
カレン・アームストロング - ルーシー・ブロック・スタッフォード
予告編
感想
人類初の月着陸を成し遂げたニール・アームストロングの半生を描いた伝記。ただ今回は伝記というより家族を描く事に多くを使い、人間としてのニールを浮き彫りにしている。
公開前の2/7にNHKBS「ザ・プロファイラー」で彼の特集をやっており、それで予習していたので、基本的な流れについては問題なく付いて行けた。その番組では早くに亡くしたカレンの事には全く触れておらず、この映画が家族目線のものである事が最初に予感された。
NASAでジェミニ計画に応募した時面接官が、娘を亡くしたことが業務に影響すると思うか、という意地悪な質問を投げた時、受かろうと考えたら影響しないと言っただろうが、静かに「影響しないという事はない」と答えて退席した時には、ちょっとグッと来た。
物語の合い間に差し込まれるソ連との確執。戦争の代用としての宇宙開発競争に巻き込まれる宇宙飛行士たち。
月を目指すと言ったのはケネディ。それが本当に実現されるまで推進出来たのは、彼が暗殺されたという劇的な事象も要因としてあったのだろう。事実、犠牲者が出ても計画は推進された。だがその陰で家族の苦悩は深まる。
そのピークがジェミニのドッキングでの事故。センターで担当官の男がノドに手をやって、カットの仕草で相手の男に指示。そして家で宇宙船との交信をリアルタイムで流していた端末がいきなり音を消す。慌ててそれを振るジャネット。
逆上したジャネットはセンターに乗り込んでニールに何が起きたのか知らせなさいと要求。
本人はともかく、家族はたまらんだろうなという気分は、現代でも職種によっては命の危険があるだろうし、身につまされるものがあった。
もう一つのピークは、ニールが出発する前の晩。ジャネットが子供たちにキチンと話をして欲しいと言うのに、準備にかまけて相手をしないニール。多分ニール自身も判っていて避けていた。
それでとうとうジャネットがブチ切れて、テーブル上の書類をなぎ払う。
これが最後の別れになるかも知れないんだから、あなたの仕事、と言い放つジャネット。
この辺は母親やなァ、と感動。ジャネット自身、情緒不安定気味でタバコが手放せない状況。
それを必死に奮い立たせて子供たちを育てている。
月着陸のためのミッションは、よく知られている事もあり、さほど感動的な演出はなく、着陸船での下降中に起きた「1202」メッセージのトラブルなんか「異常なし」で完全スルー(まあいいか)。
注記:「1202」メッセージはコンピューターの処理能力オーバーによる警告。任務遂行上の支障はないが、当初センターでもその意味を知るのに時間がかかり、本来の着地点を通過する要因となった「事件」だった。
ただ、ちょっと待って。
基本いい映画を観た、という感想ではあるけど、なんか実話の中の人間ドラマ抽出を無理にやった様な感じもあって、却ってマイナスになった。
月を去る前にニールが、クレーターの中にカレンの形見の手作りブレスレットを落とすシーンがあったが、実際に彼が残して来たのは、事故で命を落とした三名及びガガーリンのメダル。
月着陸というミッションにまで亡き娘への思いを引きずる、という演出で却って心が離れてしまった。
そういう人間ではないだろう。それは面接官に答えた様な、理性でコントロールした娘への思いだった筈。
あらすじ
1961年
B-52に懸架されている高高度超音速試験機「X-15」で発進を待つニール・アームストロング。
発進と共に受ける凄まじい振動と圧力。その直後の静寂。
高度14万フィート。次第に上昇し、放っておくと戻れなくなる。様々な操作を経てようやく帰還。
操縦ミスを指摘され、搭乗禁止の処分を受けるニール。
妻ジャネットとの間の二番目の子供である、娘のカレンは脳腫瘍で闘病中だった。放射線治療に望みを託す。
だがその願いも叶わずカレンは亡くなった。
ニールはNASAのジェミニ計画の宇宙飛行士に志願する。互いに民間人だったエリオット・シーとの出会い。
1962年
宇宙飛行士候補として選ばれたニールは、家族と共にヒューストンに引っ越す。向かいには同僚のエド・ホワイト一家が暮らし、親しくつきあう。
世界における宇宙開発では、ソ連に遅れを取っているアメリカ。指揮官のディーク・スレイトンは「月」を目指すと宣言。
だが月まで到達する能力を持つ宇宙船では、重くなりすぎて月からの帰還が不可能。
指令船から着陸船を切り離して月に着陸、その後月から離陸し、司令船とドッキングして帰還する計画。そのドッキングを実証するためにジェミニ計画がある。
1964~65年
宇宙センターでの厳しい訓練。三軸を同時に動かすシミュレーターで、これに乗った者は皆トイレで吐くことになる。
ハードな訓練を共にし、飛行士たちは絆を結んでいく。
ある夜、テレビからソ連が人類初の船外活動に成功したというニュースが流れる。常にソ連に先行されるアメリカ。
1966年
ディークからジェミニ8号の船長を命じられるニール。史上初のドッキング。一方でその任務からは外されたエリオットが、訓練中の事故で死亡。
デイヴ・スコットとのペアで飛び立つニールは、先行した目標機(アジェナ)への結合を成功させる。その状況は逐一家族へリアルタイムで通信されていた。
だが結合後、原因不明の回転を始めるジェミニ。ニールの判断でアジェナを切り離すが、まだ回転は止まらない。計器の想定を超えた回転速度。姿勢制御の逆噴射を手動で掛けて、何とか回転を収束させたニール。
だが危険を生じた途中で家族への通信が切られ、ジャネットがセンターに乗り込む。セキュリティ上の問題だと弁解するディーク。その後ニールの無事が確認されてそれを聞くジャネット。
この失敗を受けてマスコミが人命軽視、膨大な費用について糾弾。
だがニールの適切な対応が認められ、システムの改善点も明らかになり、アポロ計画へと移行した。
そして計画のパイロットにはエドが選ばれた。祝福するニール。
1967年
エド、ガス、ロジャーの三名がアポロの地上訓練をしている。
その時ニールはホワイトハウスで政治家相手のパーティに出ていた。そんな時にディークから電話が入る。アポロ内部で火災が発生し、パイロット三名全員が死亡したとの知らせ。
1969年
莫大な費用と人命をかけた無謀なミッションだと、アポロ計画は世間からの非難を浴びた。
また月着陸練習機の訓練中、突然機体が傾き始めて降下した。
とっさに射出座席で脱出。機体は炎上。
そんな中でも計画は進み、月着陸を行うアポロ11号の準備が整う。船長に任命されたニール。他の乗組員はオルドリンとマイク。
出発の前の晩、出発準備にかまけて家族との距離を取るニール。ジャネットは子供たちに、もし帰れなかった時の心構えを子供たちにしてやってと訴える。
家族四人でテーブルに集まった。無邪気におやすみを言って去る弟のマーク。兄のリックが「戻ってこれる?」 沈黙。
静かに差し出すリックの手を握るニール。
そして出発。
離陸、地球圏からの脱出、着陸船の引き出しまで順調に進み、ニールとオルドリンが着陸船に乗り込む。月への降下の途中で「1202」のメッセージが連発。だがセンターでは「問題ない」と言うばかり。そんな中で着陸用の燃料がどんどん減って来る。着陸に適した所を探し、燃料切れ寸前で着陸。
月への第一歩を踏んだニール。
「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」
無事に帰還したニール。だが検疫のため、三週間は隔離室から出られない。
ディークに案内されるジャネット。ドアを開けて促される。ガラスの仕切りを隔てた向こうにニールの姿。ガラスを挟んで手を差し伸べる二人。