中堅電機メーカが起こしたリコール隠しを巡るドラマ。
八章からなる短編により構成されるが、全体として繋がっている。
登場人物
東京建電
宮野和広 社長
村西京助 副社長
北川誠 営業部長
稲葉要 製造部長
飯山孝実 経理部長
河上省造 人事部長
坂戸宣彦 営業一課課長
原島万二 営業二課課長
加茂田久司 経理課長
佐野健一郎 カスタマー室長
八角民夫 営業一課係長
伊形雅也 人事部課長代理
新田雄介 経理課長代理
奈倉 商品企画部
前川 高崎工場 副工場長
内藤 高崎工場 ライン長
浜本優衣 営業四課
小西太郎 カスタマー室
仁科里美 カスタマー室
遠藤桜子 人事部
谷口友紀 営業部
ソニック
徳山郁夫 社長
田部 副社長
梨田元就 常務取締役
木内信昭 総務部長
その他
三雲英太 移動ベーカリー経営
森島 アジア交流開発協会
増谷寛二 元製造部長
加瀬孝毅 社外調査委員会
佐川昌彦 社長付き運転手
八角淑子 八角の妻
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感想
2月からこのドラマの映画が公開される。単行本は五年ほど前に発売されており、息子が買って読んだ本が家に放置されていた。
企業ドラマは昨年の「空飛ぶタイヤ」も観たように嫌いではない。
そこで映画化で何が違うのかを確認するためまず原作を、と今回読んでみた。
以下映画のネタバレを嫌う方はスルーして下さい。
そういえば小説発売時期にNHKドラマでコレやってた様な・・・・コチラ
あらすじを読むとけっこうアレンジしているみたい。
エレクトロニクス系の大手メーカ「ソニック」の経営多角化のため、業績アップを課せられた子会社「東京建電」の中で生じたリコール隠しを描いたもの。
エレクトロニクス系でこの社名というと「ソニー」を連想するが、実際にはモデルとなる会社はないとの事(映画ではこの会社は「ゼノックス」とされている→これも何だかなァ・・・)
万年係長によるパワハラ告発により、切れ者の課長が左遷させられた事を発端に、企業の暗部が暴かれて行く。
数々の山場が用意されていて読み応えがあった。
まず坂戸の後任の原島が最初に気付くが、これは最初の八角への接触で全てを知らされる。事後処理担当として動き始める原島。
次いで新田。原島への反感からネジ転注による高コストを問題視するが、八角の警告を無視してトーメイテックにまで踏み込んだため、不倫もバレで島流し。
カスタマー室長の佐野は、市場クレームから疑いを持ち、強度偽装に辿り着く。単に北川への復讐のみを考えていたのが、社長までグルだと知り愕然とする。
会社の創成期に、コストダウンのため品質偽装を行っていた北川。その件では事なきを得たが、二十年後にしっぺ返しを食う。
副社長の村西。ソニックのお目付役だからこそ蚊帳の外にされた。ソニックに報告するも、その社長にも隠蔽を指示され絶句。
最終的に、八角がマスコミにリークしてようやく本件の是正が実現した。このインパクトの大きさに比べれば、実は江木を使って強度偽装を指示していたのが社長の宮野だったと判っても、あまりびっくりしない。
企業の中で正しい行いをしようとする者が、なかなか報われない事を良く表現していると共に、企業における自浄がいかに困難であるかを示唆するドラマ。
各登場人物の生い立ちや私生活も描かれ、特に坂戸の過去は自分の犯した犯罪の背景として胸に迫るものがある。
最近本当に多い企業ぐるみの犯罪。この源流にあるものは何か?
この小説はほんの一例だが、決してフィクションではないところが「恐ろしい」
題名となった「七つの会議」は下記の七つか
1.第一話 営業部内の「定例会議」
2.第三話 環境委員による「環境会議」
3.第四話 売上。経費目標設定の「計数会議」
4.第五話 カスタマー室での内輪の「編集会議」
5. 〃 カスタマーレポートを報告する「連絡会議」
6.第六話 過去組織の産業課で行われた「営業会議」
7.第七話 社長・取締役出席で議事録の残らない「御前会議」
*パワハラ委員会や調査委員会も、会議と言えば言えるので、まあ一例として・・・
ツッコミどころ
ソニックは大手のエレクトロニクス企業であり、家電事業の子会社を持つのはアリだが、営業二課が扱う白モノに対して、花形と言われる一課で椅子を扱っている事が少し不自然。
それから、製造部と営業部は出て来るのに、設計部門が全く出て来ないのもちょっと変。本来ネジ等の部品は資材部門がメーカ選定をして、設計・生産技術部門がメーカの実力評価を行う。
製造業のリサーチをもう少しがんばると、随分リアリティが増すと思うが・・・
オマケ
第二話で逸郎が勤めていた知多の鉄鋼工場は「大同特殊鋼」だな(笑)
あらすじ
第一話 居眠り八角
中堅会社の東京建電。「定例会議」でノルマ未達を営業部長の北川から責められる営業二課長の原島万二。二課は白物家電主体で季節の影響が大きい。
一方営業一課長の坂戸宣彦は、稼ぎ頭でもあり、称賛を受ける。その横で半分寝ている一課係長の八角民夫。万年係長で煙たい存在。
資料作りも協力しない八角にイラ付く坂戸。その会議を境に坂戸の、八角への態度が厳しくなった。ぎくしゃくする関係が日常化。
そんな年度末、坂戸がパワハラ委員会にかけられているという噂が原島にも入って来る。八角が告発した。
パワハラ委員会の結果、坂戸は「クロ」。親会社のソニックのガイドラインだとそうなる。そして坂戸の「人事部付」が決まった。坂戸を高く評価していた筈の北川の提案。
後任の打診を受け、意外にも原島が営業一課長となった。
坂戸の歓送会。八角へのパワハラの処分が厳しすぎる事への不満が送る側からも出るが、八角さんが悪いわけじゃない、と坂戸。
新任の原島が最初に行ったのが、課員十五名との面談。
最後に残った八角。
入社五年で係長にスピード昇進。以来二十八年間の据え置き。当時の課長で、今はソニック常務の梨田元就の仕打ち。
当時はなりふり構わぬ営業で急成長した東京建電。方針に従いユニットバス他多数を売った客が自殺。その息子に「あんたのせいだ」と言われた八角は梨田に方針の間違いを進言。だがその後は目の敵にされた。そして梨田は親会社に栄転。
万年係長でいいと言う八角に、坂戸をパワハラで訴えた理由を聞く原島。それを聞くことで大事な権利を失う、と警告する八角。
長い話を聞いて、全てを理解した原島。
第二話 ねじ六奮戦記
従業員十名ほどの零細ねじメーカ「ねじ六」。三沢逸郎が経営している。逸郎は知多の鉄鋼工場に勤めていたが、父の急死により跡を継いだ。離婚して戻った妹の奈々子母子と同居。経理は奈々子が仕切っており、最近の赤字続きで資金繰りに苦慮していた。
主要顧客の一つ、東京建電の坂戸が出す仕様書を見る逸郎。
坂戸の厳しいコストダウン要求で、最近の利幅は削ぎ落されている。
それから数日かけて試作品を作り、自身としてもギリギリの見積りを坂戸に提出。その結果、拍子抜けするほどあっさりと受注。人員も増やして着々と生産準備を進めた。
そんな時に坂戸の訪問。更に値段を下げる要求。競合他社がここまで下げているという。
とてもねじ六ではやれない価格。量産準備は動いていると泣きつく逸郎に、正式な発注書は出していないと逃げる坂戸。
赤字を出しても契約を繋ぐ方を勧める奈々子。だが坂戸のやり方に不信感を持つ逸郎は受注を辞退。
東京建電を失った影響は大きく「ねじ六」の経営は厳しいものが続いた。
ある日、東京建電の原島という者の訪問を受ける。前任の坂戸は担当替えになったという。何種類かのネジを出して、これと同じものを作って欲しいと言った。仕様・価格は以前の見積りのままでいいと言う。即決で仕事を請けた逸郎。
新たな東京建電部品納入も軌道に乗った頃、原島が持って来たサンプルのネジが二本出て来た。なにげなくそれを引張試験機にかけた逸郎は、要求に対してはるかに低いその値に驚く。
全てを理解する逸郎。だが「言われたままのネジを作ればいい」とそのネジを捨てる。
第三話 コトブキ退社
営業四課の浜本優衣。入社五年。会社の彼(妻帯者)から別れを切り出される。OLに見切りをつけるため、会社の上司に退職を申し出る優衣。面倒になるのを嫌って理由は「コトブキ退社」。
友人で人事部の遠藤桜子に説教される優衣。辞めても次の当てはない。退職までの二ケ月で何かを残そうと考える優衣。
社内の「環境会議」で無人のドーナツ販売を提案する優衣。とりまとめの人事部課長代理、伊形は会議で賛同者が多い事に驚く。
何の準備も考えていなかった優衣は、桜子に指導されて店の打診から始め、企画書までを作り上げた。
店側の協力が得られない中、脱サラで移動ベーカリーをやっている三雲英太を知る優衣。今までの店の対応とは異なる好感触に、この店を前提として企画書を修正。。
企画書は経理課に届き、それをチェックする課長の加茂田と、優衣の彼氏だった課長代理の新田。加茂田に輪をかけてアラ探しをする新田は、三雲のベーカリーをけなす。「あなたはそんなに誠実な人なんですか」と返す優衣。
キャンペーンとしてのドーナツ配布を副社長の村西が食べた事で、あっさり無人販売は認可された。
それからほどなくして、新田からヨリを戻さないかと言われる優衣。再会した時、誠実に生きるという言葉に心が動く優衣。
三雲からの相談。移動販売で販売数と集金が合わない。誰かが金を払っていない。
退職日も迫る中、犯人を突き止めようと見張りをする優衣。犯人は何と新田だった。幻滅した優衣が「この事と、私との事も話そうか」と脅すとガタガタ震え出す新田。
第四話 経理屋稼業
毎月計画と実績の検討が行われる「計数会議」。
加茂田から計画比七千万の下ブレを追求されて神妙な顔の原島。
加茂田の下で働き、それを内心喜ぶ新田は、原島との間で接待費の扱いに関して確執があった。
新田は一課が提出した仕入れ先リストのチェックで「ねじ六」への転注により数百万の支出増となっている事に注目し、それを加茂田に進言。だが原島は平然と「役員会にでも報告したらどうだ」。
役員会に加茂田がその件を上程した。期待した新田だが、加茂田の言うには、それはスルーされたという。恥をかき新田を責める加茂田。
その後の情報収集で、ねじ六の前の納入メーカがトーメイテックであり、引き揚げられたのは全てこの会社のものだった事が判明。原島とねじ六の癒着も疑う新田。
遡って、坂戸がトーメイテックを開拓した事で、同社の業績か大躍進した事も判明。
坂戸更迭の真相を聞くため、八角に接触する新田。接待費計上を口実に八角と話す。坂戸とトーメイテックとの癒着も疑い、同社を調べてみようかと踏み込む新田に「勝手にしろや」
トーメイテックに出向き、決算書を要求する新田。もう取引きがないのだから渡す必要がない、と断る社長の江木。
出口で原島に出くわす新田。苦しい言い訳をするが、当然信用はされない。社に戻るとトーメイテックに行った事が、既に加茂田に知られていた。一課からの抗議。
余計な事をするなと叱責され、プライドがズタズタの新田。家庭でも妻と不和。
数日後、部長の飯山に呼び出され、大阪への転任を告げられる新田。抜擢かも知れないという期待は打ち砕かれ、仕事は営業。反論しようとするのを遮り、退職した浜本君と不倫していただろう、と言う飯山。解雇したいぐらいだ、とも。
単身で大阪に行った新田は、三ヶ月後離婚した。
第五話 社内政治家
カスタマー室長の佐野健一郎。かつては営業部次長だったが二年前に移動。当時上司だった北川のイエスマンでやって来たが、業績不振の原因にされた。腐っていたところを製造部長の稲葉にとりなされ、時々北川に不利な情報を流した。それがバレての左遷。
この会社ではクレームに対する感度が低い。クレームは封じ込めるものだ、という認識。
部下の小西太郎、仁科里美と行う「編集会議」でカスタマーレポートに抽出する案件を整理。
毎月一回行われる「連絡会議」。ここでカスタマーレポートを報告。
そんな中で、椅子にかけようとして壊れたという情報を掴む佐野。先方まで出向き状況を調査した。ネジが折れていた。
椅子を持ち帰り製造時期を調べると二年前。それも日本での製造。過去三年のクレーム情報では座面が外れたクレームは7件。揉み消しを恐れて商品企画部の奈倉にネジを調べさせた。結果は規格通りと強度不足のネジの混在。また旧い椅子のネジは規格通り。
問題の椅子は「ラクーン」。十年前から製造している。ネジの調達は営業部の管轄であり、課長には聞きづらい。結局八角に聞くことに。
「モノにはやり方がある」と八角。それ以上は言わない。
女子社員の谷口を使って、このネジが古くはねじ六で作られ、坂戸になってからトーメイテックに転注、そして半年前再びねじ六に戻された経緯を知る佐野。疑われるリコール隠し。
トーメイテックが製造したネジの在庫を回収するため、高崎工場への「工場見学ツアー」を企画する佐野。名目は顧客サービスの一環。
実施される工場見学ツアー。
通り一遍の見学を終え、担当に取り入ってサンプルを集めて行く。
「ラクーン」だけでなく多岐に亘る製品に使われているネジ。
工場に行った事が稲葉にバレた。
「正義は我にあり」と考えるが力ない佐野。
奈倉に預けたネジの強度結果が報告された。32種のうち22種は不良品が混入。特に問題なのが3種。列車、航空機の椅子にも使われているもの。既にカスタマー室が関与するレベルを越えた案件。
「俺は一体、どこで道を間違ったのだろうか」
第六話 偽ライオン
北川部長の執務室に押しかけた製造部長の稲葉。「ネジ強度不足による製品リコールの件」と題した書類。差出人はカスタマー室長の佐野。宛名には北川、稲葉、社長の宮野の名もあった。
かつてトーメイテック社製を採用していた時期のネジ強度不足に対する告発。この件の説得のため、佐野に会う北川だが、宮野社長の判断を仰ぐと言って応じない佐野。
八重洲の居酒屋で八角と話す北川。役職は違うが同期入社。告発文の事を話し、佐野への警告を頼む北川だが、断る八角は北川を偽ライオンと揶揄した。
旧い記憶を掘り起こす北川。立ち上げ時期の厳しい時期に、北川は獅子奮迅の働きで「ライオン」とあだ名されていた。販売ノルマは達成したが、最大の難関はコスト。
列車シート受注に苦慮していた時期に、当時の製造部長からの助け舟が、耐火性等スペックの偽装。
「営業会議」でノルマ達成の圧力を強める当時の営業課長、梨田。それが北川の背中を押した。
そのおかげで北川は受注をクリアし、目覚ましい成績を上げた。一方八角は梨田と衝突し抑圧された。そんな時期に八角から偽ライオンだと言われた。 -こいつ、知ってやがる-
製品の不正は五年ほどで終わった。
再び佐野を訪れる北川。佐野が調べた内容を認めた。本件の隠蔽を指示するが、北川の辞任を要求する佐野。社長にも本件を伝えていると言う佐野に、全てを話す北川。
半年ほど前、八角がネジのリストを持って北川を訪れた。損益の改善からネジの要素を抽出し、強度不足のシッポを掴んでいた。
折りたたみ椅子ならいざ知らず、鉄道や航空機のそれを交換するのは不可能に近い。
北川は全てを社長の宮野に話した。坂戸を呼びつけて怒り狂う宮野。だが結局北川、稲葉への指示は「本件、隠蔽せよ」。八角によるパワハラ告発は口実だった。
愕然とする佐野の顔から表情が抜けて行った。
「納得させました」と宮野に報告した北川。
一件落着、と思った二日後、副社長の村西に呼び出された北川。匿名の告発があったと言う。
佐野の告発文とほぼ同じ内容。「これが本当ならソニックに報告しなくてはならない」
村西はソニックから出向して来たお目付役。
この隠蔽を絶対知られてはならない人物。
第七話 御前会議
北川から全てを聞いた村西は、しばらく考えた後ソニック本社の総務部長、木内に電話を入れ、すぐ出向いた。
明日開かれる「御前会議」の議題にすると言う木内。これは取締役以上が集まるもので、議事録は作られない。
翌日御前会議に出席する村西。進行の木内、社長の徳山、副社長の田部、かつて常務を争った梨田も出席。
徳山の指示は、まず状況の把握。調査チームの派遣が決められた。
帰社した村西に打ち合わせを求める社長の宮野。北川、稲葉も同席。今リコールをかければ会社はひとたまりもない、との言葉に怒りをぶつける村西は、本件は既にソニックのマターになったと宣告する。
誰がこの件を把握しているかを整理するため、佐野を呼び出す村西。だがこの告発文を村西に出したのは別人。心当りを聞かれて八角の名を出す佐野。
次いで八角に事情を聞く村西。だが告発文を書いたかどうかには答えない。
なぜこんな事が起きたかを問う村西に「あえて言えば体質かな」
そして昔、製造部に増谷という人がいたと言い残して去る八角。
古い記録を繰って増谷寛二を探し出す村西。最終ポストは製造部長。連絡すると、暇だからと会社へ出向いてくれた増谷。
今回の状況を話し、八角から名前を聞いたと知って、腹を括り昔の悪事を話す増谷。コストで苦しむ営業担当に、規格を下回る部品を作ってデータを捏造すればコストダウンが出来ると吹き込んだ。
その時の営業担当が北川。だがその秘密を知っていたのは八角だけではない。当時の営業課長だった梨田--今のソニック常務。知っていながら知らぬフリをした。
増谷の名を出して北川に確認する村西。
緊張と絶望に満たされる北川。
ソニックからの調査チームが入って一週間。それから一週間後、御前会議に呼び出される村西。
リコールした時に予想される賠償額は概算で千八百億。狼狽する宮野に梨田が追い打ちをかける。村西は二十年前の不正についても報告に入れていたが、それは削除されていた。
取りまとめの木内がやった事。
発表は早い方がいいと思います、との木内の言葉に「誰も発表するとは言っていない」と徳山。
発表しない限り、本件が表沙汰になる事はない。その代り東京建電の経営陣には責任を取ってもらう、と言い残しで退席する徳山。
月日は流れ、年を越した。改修はハイペースで進んでいる。
八重洲の居酒屋で八角と飲む村西は、彼に課長にならないかと打診。八角の組織を見る目は正しい。だがそれを断る八角は、社内人事よりメガトン級の爆弾が必要だと言った。
それから一週間後、東京建電のリコール隠しが新聞報道された。八角の言葉を理解する村西。
第八話 最終議案
東京建電の強度偽装は各メディアが一斉に報道。航空機、鉄道車両は運休に追い込まれた。ソニックの株価も二割下がる。
設置された社外調査委員会の加瀬孝毅に呼び出される八角。
調査委員会の興味は、個人の罪か組織の罪かの判断。坂戸への事情聴取には同席してくれと言い渡す加瀬。
憔悴し切った坂戸に、加瀬は坂戸の実家である館山の不動産について確認を始めた。個人賠償のための手順。だがそれだけは困る、と頭を下げる坂戸。
実家の商店がスーパーの進出で経営不振になった時、父親は商売を継がせる方針を変え、坂戸と兄に好きな仕事をしろと言った。それに従い兄は銀行、坂戸は東京建電へ。
その後兄弟とも家庭を持ち、基盤も安定した頃、父が倒れ母が介護する生活となった。
その生活も一年ほどで母が倒れ、心臓手術を受けた。両親をどうするかで妻ともギクシャク。
そんな時、兄が銀行を辞めて家を継ぐと言った。どちらかがしなければならない中での兄の決心。
大きな負い目を持った坂戸は、会社で成功するしかないと思い詰めた。だが、それで強度偽装を正当化は出来ない、と加瀬。
不正を思いついたいきさつを聞くと、最初の提案はトーメイテックの江木社長からだったと言う。
社内では、再建案についての検討が進められ、新会社の社長と目されている総務部長の飯山から、新会社の課長又は部長代理のポストを打診される八角。
家で妻の淑子と話す八角。新会社に移るかも知れない話をすると喜んだ。八角の複雑な思い。正式なリコールを期待して告発したが上層部は隠蔽に走り、次にリコール騒ぎとなってからは犯人探しばかりで企業再生の理念などない。
「今まで十分過ぎるぐらいスジ通したんじゃない?」と淑子。
取り調べを終えて帰る途中の坂戸を、付き添いの伊形込みで居酒屋に誘う八角。江木とのつきあいの経緯を改めて聞くと、証拠を残さない様な意図が感じられた。またトーメイテックを最初に紹介してくれたのは北川だという。
原島と共に江木へ確認に行く八角。江木は、言われたものを作っただけだと言って提案した事を否定。下請けの立場でそれを言うのは不可能だとも。
北川に、トーメイテックを坂戸に紹介したいきさつを聞く八角。あっさりと、社長からの助言だと答えた北川。江木の提案の陰に宮野がいる。だが証拠がない。
社長付きの運転手、佐川に話を聞く八角。トーメイテックの江木と社長が何かあるかと聞くと、二人でよく飯を食いに行くと答える佐川。そこで坂戸の立場を話すと、彼に同情する佐川。
加瀬に会い、江木と社長の関係を話す八角。だが佐川の名は出せない。
「どうやってそれを証明しますかね」
八角が、加瀬の随行の形で再び江木に面会。相変わらず自分は言われた事をやっただけとの弁明。
加瀬が一枚のコピーを差し出す。宮野氏から江木宛に出されたメールのコピー。だがそれは途中までしか書いていない。データ捏造提案は口頭のみで行うこと、坂戸はこれを拒否しないことなどが書かれている。これが宮野のパソコンの「書きかけ」の項目に入っていたという。
加瀬の追い打ちに、宮野からの指示だと白状する江木。証言を録音する加瀬。
二時間近くに及んだ聴取の後、八角があのコピーは俺が作ったニセものだと言った。違法だとわめく江木に「裁判所に出すわけじゃない。知りたいのは真実」
公表から半年が過ぎ、営業一課の機能だけ残して他の業務は新会社へ移された。
清算事業としての東京建電は、村西が社長となって回した。
宮野は特別背任で告発。トーメイテックは破産を申し立て、江木は行方不明。坂戸は、個人賠償は免れたが懲戒免職。ただ、何とか拾ってくれる会社は見つかった。
梨田は二十年前の不正を問われて子会社へ出向。
八角の新会社への移籍・昇進は流れた。
虚飾の繁栄か、真実の清貧か--強度偽装に気付いた時、八角が選んだのは後者だった。
どんな道にも、将来を開く扉はきっとある筈だ。