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シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ 2016年 - アベンジャーズ強化月間⑤

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dlife企画第5弾

監督 アンソニー・ルッソ
      ジョー・ルッソ
脚本 クリストファー・マルクス
音楽 ヘンリー・ジャックマン

 

キャスト
トニー・スターク / アイアンマン           - ロバート・ダウニー・Jr
スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ  - クリス・エヴァンス
ナターシャ・ロマノフ/ブラックウィドウ         - スカーレット・ヨハンソン
クリント・バートン / ホークアイ            - ジェレミー・レナー
ジェームズ・ ローズ大佐                  - ドン・チードル
ワンダ・マキシモフ                           - スカーレット・ウィッチ
ジャーヴィス/ ヴィジョン                - ポール・ベタニー

ティ・チャラ / ブラックパンサー          - チャドウィック・ボーズマン
サム・ウィルソン / ファルコン            - アンソニー・マッキー
ピーター・パーカー/ スパイダーマン   - トム・ホランド
シャロン・カーター/ エージェント13          - エミリー・ヴァンキャンプ
ヘルムート・ジモ                              - ダニエル・ブリュール
スコット・ラング / アントマン               - ポール・ラッド
ティ・チャカ国王                               - ジョン・カニ

 

 

予告編

 

 

あらすじ
1991年。男が目覚める。「制裁して奪え」という指示。
自動車事故を誘うバイク。大破した車内の男性と女性を襲うバイクの男。トランクを開けるとアルミケース。中には青い薬品パックが5個。

 

現在。ナイジェリア、ラゴス。ヒドラ残党のラムロウが起こすテロを阻止するために出動したロジャース、ワンダ、サム ロマノフら。彼らの狙いは細菌兵器の奪取。数名が別れて逃げた者をそれぞれ追うメンバー。最終的に細菌はロマノフが確保するが、リーダーのラムロウが、ロジャースを道連れにしようと着ていた自爆用のジャケットに点火。ワンダはそれを超能力で抑え込み上空に投げた。ロジャースは助かったが、ビル横での大爆発で多数の市民が死傷した。

 

トニーが大学で行っている講義。自身を題材にして若い頃の父母とのやり取りを再生。海馬のハッキングで実現。
セプテンバー基金という、研究中の全てのプロブラムに補助金を出すという提案。歓喜する学生たち。
講義の後、面会に来た女性。チャーリー・スペンサーの母親。ソコヴィアで殺された。

 

多数の犠牲を出した事に苦しむワンダ。

旧友バッキーの話で気を取られた、とロジャース。
アベンジャーズを危険な集団だと警戒する国、軍部。ニューヨーク、ワシントンDC、ソコヴィア、ラゴス・・・・
この4年、誰の管理も受けずにやって来た。
対策は国連の監視の下で働くこと(ソコヴィア協定)。

提案を持ちかける国務長官。
ウィーンで行われる国連会議が三日後にある。

 

我々の力が敵を呼び寄せている、とヴィジョン。トニーもソコヴィアでビルの下敷きになったチャーリー・スペンサーの話をして、協定に賛成の意思を示す。賛成の意思は署名により発効。
だがロジャースは行動する権利が奪われる、と反対。
そんな時にペギー・カーター(かつてのロジャースの恋人:エージェント・カーター)の死が伝えられる。
葬儀に参列したロジャースは、そこでコメントする女性シャロン・カーターがペギーの姪である事を知る。

ヒドラの残党が謎の男に襲われる事件が発生。奪われたノート。

 

ウィーンでの国連会議。ヴィブラニウムを産出するワガンダの国王ティ・チャカの演説中に爆破テロが発生し、国王を含め多数の死者が出た。監視カメラの映像からバッキー・バーンズが指名手配される。

復讐を決心する王子のティ・チャラ。
ロジャースは、旧友のバッキーを信じ、単独で接触。だが特殊部隊の攻撃を受ける。バッキー逃亡に手を貸すロジャース。
ブラックパンサーのスーツを着たティ・チャラの攻撃。バッキーの左腕は強化されている。激しい攻防の末にバッキーとロジャース、ティ・チャラ、サムは逮捕される。

 

収監されている施設で署名を促すトニーだが、ロジャースは拒否。
同じ頃、同様に収監されているバッキーを訪れる精神科医。バッキーにコマンドを囁くと、とたんに凶暴になり拘束を破壊するバッキー。

同時に施設内が停電。ロジャースたちも脱出。
逃げるバッキーを止めるロジャースだが、そのまま川に落ちる。
結局逃げた者らの逮捕を国務長官から命じられるトニー。

「人数が足りない」

 

ピーター・パーカー。人知れずスパイダーマンとして人助けをしている。そこに訪れるトニー。YouTube映像で以前からピーターの事を知っていた。困った人を助けるという殺し文句で仲間に引き入れる。

 

正気に戻ったバッキーから、ヒドラが計画していたウィンター・ソルジャーの計画を聞かされるロジャース。
彼以外にもウィンター・ソルジャーがシベリアの施設で冷凍睡眠されているという。
シャロンの協力で武器やアベンジャーズの装備を回収したロジャースたちは、シベリアに向かうため空港に行くが、逮捕を前提としたトニーが立ちはだかる。
アベンジャーズ同士の戦いが繰り広げられ、多数の旅客機が破壊される。中でもアントマンのラングが巨大化して時間を稼ぎ、ロジャースとバッキーはS.H.I.E.L.D.のクインジェットに乗って飛び立つ。
それを追跡するトニー(アイアンマン)とローズ(ウォーマシン)。だがクインジェットを狙った筈のヴィジョンの光線が、ウォーマシンのアーク・リアクターを直撃。エネルギーを失って落下するウォーマシン。地上に激

突したローズ。追跡を断念して戻るトニー。

 

ロジャースに協力したアベンジャーズのメンバー達は、洋上に浮かぶラフト刑務所に収監された。
そこを訪れるトニー。ロジャースの話から、独自で調査をやり直した。そして国連での爆破の真犯人が、謎の男ジモだった事を知る。
ヘリで刑務所から出ると、すぐにアイアンマンスーツを装着してシベリアに向かうトニー。

 

シベリアの施設内でロジャースらと合流したトニーは、休戦して主犯のジモを追う。
冷凍保存されたソルジャーたちの復活が心配だったが、それらは全員殺害されていた。
全てを計画したジモは、トニーの前に映像を流す。

1991年にトニーの両親が死んだ自動車事故。倒れたハワード・スタークにとどめをさすバッキー。そして母親に向かう。驚愕するトニー。

バッキーは洗脳されてその仕事をやった。その後の冷凍睡眠等を経て、見た目より若さを保っている。

 

激昂したトニーはバッキーを殺そうとするが、それを止めるロジャース。すさまじい攻防が始まった。

戦いの様子を眺めるジモの前にブラックパンサーの姿のティ・チャラが現れる。真相を話すジモ。ソコヴィアで、戦闘が激化する市内を避けて、家族を田舎へ避難させていたが、戦いの余波で全員が死んだ。

その事をアベンジャーズのメンバーは知らない。ジモは言う。外からの力には、アベンジャーズはとことん戦えるだろう、だが内側から崩れれば立ち直れない。
銃で自殺しようとするジモを止め、逮捕するティ・チャラ。

 

壮絶なトニーとロジャースの戦い。バッキーは左腕を飛ばされた。

ロジャースは倒される寸前のところで、シールド(盾)をアーク・リアクターに突き立ててスーツの機能を停止させた。
去ろうとするロジャースにトニーが「お前に父が作ったシールドを持つ資格はない!」と叫ぶと、それを置いてバッキーを連れて去っていくロジャース。

 

バッキーとロジャースはティ・チャラの助けでワガンダ国に匿われる。
バッキーは、完全に洗脳を解除する方法が見つかるまで冷凍睡眠に入る事を決心する。

 

ローズのリハビリを助けているトニーのもとに、ロジャースからの手紙。
必要としてくれるなら、またいつでも友として駆け付ける。
そして、ロジャースはラフト刑務所を襲って、アベンジャーズのメンバーを解放した。

 

感想
アベンジャーズにしては、かなりドメスティックな話。

前回のソコヴィアで家族を殺された男が、ヒドラの超人改造計画の一端を利用して復讐を図る。
ヒドラ残党が起こす最初の事件は、本筋とは関係なく、一般人の犠牲者が多数出たという背景のために設定されたもの。
ウィングを装着して飛び回るサム(ファルコン)が今までのシールドメンバーの中では一番”使える”感がある。

 

最初に5パックの薬品をハワード・スタークから奪って、超人計画を進めていた筈のヒドラだが、作られた超人はジモに簡単に殺されてしまい、これまた本筋とは関係なかった。

 

後になって整理してみると、結局仲間うちでの争いに終始して終わったという事。飛行場でのバトルも「争いのための争い」てな感じで空しかったし。まあジモの目的が、アベンジャーズの内部からの崩壊だから、目的は達しているのだが・・・・
しかしトニーは、バッキーが洗脳された上だという事を判った上で、親の仇として怒りを抑えることが出来ない。

その程度の男に地球の未来を託せるのか?
何とも後味が悪いが、その中でもロジャースの手紙が救い。

 

 

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に向けて
ノンジロウさんのレビューで「マイティー・ソー/バトルロイヤル」観ておいた方が万全ですね、とのコメント。

観ていないのでついて行けないかも・・・・・
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー出るの? ヤダなー・・・・・

 

完結しないの?ヤダなー・・・

 

 


インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国  2008年

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監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 デヴィッド・コープ
音楽 ジョン・ウィリアムズ

 

キャスト
インディアナ・ジョーンズ      ハリソン・フォード
マリオン・レイヴンウッド      カレン・アレン
マット・ウィリアムズ          シャイア・ラブーフ
ジョージ・マクヘイル(マック)   レイ・ウィンストン
オックスリー教授          ジョン・ハート
スタンフォース学部長      ジム・ブロードベント
イリーナ・スパルコ         ケイト・ブランシェット
アントニン・ドフチェンコ       イゴール・ジジキン
ロス将軍                             アラン・デイル    
テイラー                 ジョエル・ストファー 

 

 

予告編


あらすじ
砂漠を走る軍用車両。米軍基地「エリア51」のゲートを突破して侵入。車のトランクからインディと相棒のマックを引きずり出す。
連中はソ連兵。リーダーはイリーナ・スパルコ。インディが過去に発掘した中の、遺骸を収めた箱を探していた。
それが強磁気を帯びている事を利用し、散弾を分解した鉄粒を使って見つけるインディ。箱には1947 Roswellと表記。
隙を見て銃を奪うインディだが、マックは買収されていた。

 

それでも何とか逃げ出すインディだが、そこは原爆の実験場。町一つが再現されているが人はいない。ソ連兵が逃げ出す中、鉛遮蔽の冷蔵庫に入り込んで何とか難を逃れるインディ。

 

ソ連への協力を疑われ、FBIの拘束を受けたインディだが、何とか釈放される。だが関わりを恐れる大学は、インディを休職扱いにした。
学校を去ろうとしていたインディを訪ねるバイクの若者マット。

母子家庭に育ち、かつての研究仲間だったオックスリーが父代わりだった。そのオックスリーがクリスタル・スカルを発掘し、その謎を解くためにアケトーへ行ったが、現在トラブルに巻き込まれている様子。

母のマリーに言われてインディに会いに来た。

 

オックスリーからの手紙をインディに見せたマットだが、その時KGBに襲われる。

マットのバイクで追っ手から逃げ、その手紙を解読するインディ。

手紙のヒントによりナスカに渡ったインディとマット。オックスリーが入っていたという病院に行くが、既に誰かが連れ去っていた。部屋の残った壁の絵を解読するインディ。
墓地の地下でクリスタル・スカルを見つけるインディ。

クリスタルなのに磁気を帯びている。
墓地を出たところでマックとソ連兵に捕まるインディとマット。

 

ジャングルの中まで連れて行かれたインディとマット。イリーナが待っていた。
イリーナは伝承されているアケトーの神殿の話とクリスタル・スカルの関連を信じていた。
誘拐されていたオックスリーとの再会。

だがオックスリーは人が変わってしまっていた。
イリーナはクリスタル・スカルの目を見ることで情報が得られると考え、インディで実験を始めた。スカルと目を合わせ、しだいにぐったりとなるインディ。人質になっていたマットの母親マリオンが引き出される。

再会を喜ぶ母子。
インディがオックスリーにアケトーへ行く道を聞き、地図上でそれをイリーナと確認。
その隙にマットが暴れ出して皆が脱出。その途中でマリオンが、マットはインディの息子だと告白。マット、インディ双方ともショックを受ける。

 

再び皆は捕まり、トラックに分乗してアケトーへ向かう。
途中でトラックを奪い、イリーナの車からスカルを奪うインディ。さらに奪い返され、スカルは何度も双方の手に渡る。
最終的にスカルを手にしたインディたちは水陸両用トラックで崖から落ちるが、途中木のクッションで無事に着水。

再度インディ側についたマック。
乗員はインディ、マリオン、オックスリー、マット、マックの五人。

 

オックスリーが三度滝を通ると言い、その通り滝に落とされる。三度目の滝でトラックが破壊されるが、オックスリーがその滝の中途の、骸骨状の岩を指指す。そこに入り口があった。

 

入り口を抜けて、塔のあるところに出て、教えの通りに壁の一面の石を崩すと砂が流出し、塔の岩が開き始めて、巨大な地下空間が現れる。縦穴周囲の引き込みつつある階段を降りて一番下まで行き、更に先へ行くと、神殿を守る種族に襲われる。だがスカルを見せると怖がって離れる。
そうして神殿の入り口を見つけて中に入る。

 

一方イリーナたちは、残された発信器を頼りに追跡していた。

神殿の中には遺物が豊富にあり、貴金属もあった。
更に先へ行くと、円形に配置された十三体の、クリスタルで出来た骸骨の座像があり、一体だけ頭蓋骨がなかった。
オックスリーがクリスタル・スカルをそこに戻そうとするとマックが銃を出してそれを止める。

 

そこへイリーナたちが来る。結局マックは向こう側の人間。
イリーナは、異星人の知識を自分のものにしようと、クリスタル・スカルを最後の一体に戻そうとすると、それは強制的に引き込まれて体と一体化し、十三体の骸骨から光を発した。渦巻きながら、ものが上に巻き上げられる。
周囲の壁が崩れ始め、インディたちは脱出を始める。
イリーナは知識を求めてそこに留まったが、目を光に射抜かれて舞い上がる。
インディはマックも助けようとするが、彼は財宝をポケットに詰め込むのに気を取られて逃げ損ない、巻き上げられた。
残った者でそこを逃げ出す。
外に出た時、渦巻きの下から銀色に光る巨大な円盤が出現し、空に飛び去った。

大学に戻ったインディ。ポストは副学部長。

 

そして、マリオンとの遅い結婚式。だがその式の後、どこからか転がって来た彼の帽子。
それを被って教会をあとにするインディ。


感想
インディ・ジョーンズシリーズを先日までレビューしていたが、最後の作品がずっと放置されていた。

あまり思い入れはないが、一応集結宣言という事で・・・・

*そういえば、最新作(第5作)が予定されているとか。

 

今までのシリーズでは、007じゃないけど、ヒロインとの絡みや、ちょっとしたお色気なんかがあったが、今回のケイト・ブランシェットは、最初から最後まで軍服姿。せっかくの美人女優だから、せめてシャワーシーンでもあったら良かったのに・・・(まあいいか)。

 

今までよくあった謎解き要素はあまりない。マリオンもヒロインというには歳食ってるし、マットとの親子関係もイマイチ盛り上がりに欠ける。

しかし戦争に関して「シンドラーのリスト」の様な高い見識を持つスピルバーグが、今回みたく雑な原爆の見せ方をすると、ちょっとゲンナリ。放射能に関しても呆れるほどの程度の低さ。

シャワーで放射能が落ちるかよ・・・・

円盤は完全にスピルバーグの趣味だろう(未知との遭遇?)。さすがにクリスタル・スカルとのミスマッチ感が半端なかった。
ただ、マヤ文明などではクリスタル・スカルの関わる文明があった様だ。

 

例によってヒコーキねたを。
マットのバイクを乗せてペルーまで飛んだのはソ連の「アントノフ An2 」。質実剛健、頑丈な複葉機です。

 

 

 

ゲド戦記 Ⅲ「さいはての島へ」 作:K・ル=グウィン 

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*Ⅲを飛ばしてⅣを先に出してしまった様だ(一番盛り上がるのがⅢなのに・・・・)
2018.1.22に亡くなった原作者に敬愛を込めて・・・

 

ゲド戦記 Ⅲ「さいはての島へ」 作:K・ル=グウィン 訳:清水真砂子
                              国内初版:1977年


1.ナナカマド

魔法の伝授が行われているロークの館。そこにあるナナカマドの木。大理石の敷石を割って生えている。
少年に声をかける大賢人。少年はアレンと名乗った。

アレンの持ち込んだ問題。

 

父はモレド家の血筋で、エンラッドとエンレイド諸島を治めている。
交易から帰った船長が、西方のナルベデュエン島では、もう魔法が存在しないという話を持って来た。
年が明けて、子羊の祭りになった時、子羊たちに繁殖の呪文を唱えた魔法使いが「呪文を唱えられない、忘れてしまった」と泣きついてきた。
それで父が代わりに唱えたが、ひどく疲れて戻って来た。そしてこの春、羊たちには死産、奇型が起きた。

アレンはこの件について相談するために、ロークを訪れた。
大賢人は、本件をここの長たちと話し合う事をアレンに約束した。このような知らせは他からも来ていた。魔法の影響力が落ちている兆候。
大賢人の偉大さに触れ、姿を正視出来ないアレン。そしてお仕えしたいとまで言った。
それも含めて皆で相談すると話し、大賢人はアレンに宿舎へ行くよう促した。

大賢人は、それぞれの長を回って、会合を開きたい旨の告知をした。
長によってはこの異変に気付いている者もいた。あの腕環がひとつになったおかげで平和が得られたが、その平和に浸りきっているのが今の状況。

 

2.ロークの長たち

アレンを案内してくれたのはカケ。見習生を過ぎてまじない師となった状態。カケの話が身に入らないアレン。
話が大賢人の事になったため興味を示したアレン。もう五十にもなろうとしている。カケは三年前の入学時に初めて会ったきり。
カケに案内されて夕食を食べるアレン。その後に散歩。
ローク山の南がひときわ明るくなっている。

賢人たちが会合をしている印。
寝室に案内されてアレンは横になった。石の床にわらを敷いただけの寝床。生まれてこれまで、ちゃんとした寝室ばかりで寝て来た。

 

朝になると院生が来て、大賢人さまがお話ししたい、と告げた。
案内されて行くと、細長い部屋に七人の長と大賢人が立っている。大賢人から皆に紹介されるアレン。
一緒に摂る朝食。皆ほとんど喋らず、表情も静か。
大賢人が話す。わしらは長時間話し合ったが、何も決まらなかった。

大した根拠もなしに大騒ぎする必要はないという意見も出る。
また、ハブナーに居るべき王の座が、八百年も空席のままであるのが問題だという者もいる。
大賢人の意見を求める長たち。
魔法の力が弱まっているのは確か。不安定なところが出て来ている。
大賢人が、立ち上がって処置を講じようとしているのを知る長たち。大賢人の術で、災いと混乱の正体を突き止める必要がある。

 

大賢人は、長を同行させずに真相を調べに行くと宣言。ただし一人だけ連れて行きたいと言い、その相手としてアレンに声をかけた。「はい、お供します」と即答するアレン。
長たちが次々に大賢人の決断について意見をするが、彼の意思は強固だった。
長たちは次々と退席し、最後に大賢人とアレンだけになった。
まずはホート・タウンに行こう、と大賢人。

全海域からの情報が集まる拠点。
「何を探しておいでになるのです?」「それが、わからんのだ。多分向こうの方で探し出してくれるだろう」
アレンは自分の心の不安を吐露し、大賢人はそれぞれに答えた。
出発は明日と決まった。

アレンは、郷里に帰る船の船長に、父への手紙を託した。それから母への贈り物である、銀の細工物も買い求めて船長に渡した。
アレンが持つ剣。これはモレドとファーランの息子、セリアドのもの。ハブナー王の塔にある剣を除けば、世の中でこれほど古い剣はない。常に人の身につけられて来た。アレンとは剣の意味。
剣をマントで隠すアレン。
私は何をしようというのだろう?わかってもいないものを、良く知りもしない男と探そうなどとするのだろう。

 

3.ホート・タウン


暗いうちに起き出して船小屋に向かうアレン。桟橋に近づく舟。大賢人が広げた帆が翼のように広がる。
「この舟ですか、はてみ丸というのは?」この舟は伝説ともなっている。舟の暴れぶりに驚くアレン。
今後のために、大賢人は自らをホークという名の商人と、その甥で航海の勉強をしているアレン、という事に決める。

舟は三日かけてロークからホート・タウンまで進んだ。大賢人はこの間一切魔法を使わず、アレンはこれまでの十年をはるかにしのぐ航海術を彼から学んだ。
ホート・タウンで探すものが見つかるでしょうか、と聞くアレン。ペストみたいな疫病なのか。
それは人間だと彼は言った。生きたいと思う、その願望に際限がないから。
またそれは多分、魔法使いだろう。

 

ホート港に入って行く舟。桟橋に舟をつけてから、港の管理人と見張り料の交渉をするホーク。その姿はもう大賢人などではなかった。
人混みの中を歩く二人。道の両側に軒を並べる店。ありとあらゆるものが売られている。
通りを抜けて、別の広場に出ると、そこにも屋台や露店が並ぶ。
広場を取り巻くように大勢の男女がじっとうずくまっている。ホークは「ハジアだ」。
ハジアを口にすると、うっとりといい気持ちになり、精神が肉体から離れて遊泳する様になる。だが中毒性があり、いずれ死ぬ。

 

ホークはアレンを連れて、とある店の前で足を止めた。大柄な女あるじが、大声で様々な生地を売っている。
女に相の手を入れるホーク。次第に返事をする女に「耳から火を出すのは良かった」と以前の出し物の事を呟く。
もう、あんな手品は誰もやらない。客が、騙されている事に気付いてからは楽しめなくなった。だから商売替えした。
まじない師がいたろうに、となおも食い下がるホーク。女は、会いたけりゃ、ひとりいるよと言った。
あのイーガー船長に右手を切り落とされた魔法使い。
女に教えてもらった男に近づくハイタカ。右手首を失っていた。大嘘をついた引き換え。ウサギと呼ばれている。
そろそろと歩く男を辛抱強くつけて行く二人。

 

人気がなくなったところで声をかけるハイタカ。礼をする、と言われて顔つきが変わったウサギ。
ハイタカは魔法使い特有の言葉でウサギに話しかける。
男は自分の住まいに二人を連れて行った。

ウサギが力をなくしたいきさつを聞こうとするハイタカ。
男の妙な話。黄泉の国から夢の中に入って来る者。道があるという。命を差し出すことで命を買う。
続きを話すために金を請求され、金貨を一枚支払うハイタカ。
夢を見ればその道まで行けるという。もし行くなら日暮れまでに戻る、と言い残すハイタカ。

意味が判らないアレンに説明するハイタカ。
力をなくした魔法使いから話を聞く必要があった。
あの男は、力をなくしたのではなく、人にやった、いや、取引きに使った。命には命。言うことが良く判らないが、聞く価値はある。

 

店で夕食を食べてから、二人はまたウサギの住居に行った。
ウサギは、さっきよりはしっかりとしていた。ただ彼は、連れて行くためにはハジアを食べろとしきりに勧めた。それに反論するハイタカ。
それに対してまた理屈をぶつけるウサギ。何度も繰り返される話にアレンは、今回だけハジアを食べるべきではないか、と思っていた。
いつの間にかホークの顔は消え失せ、大賢人がそこに座っていた。
護衛としての責任を意識するアレン。

ウサギの声が次第に呟きに変わった。体が前後に揺れる。ランプをはさんで座る二人。男はいつのまにかウサギの手を取り支えている。アレンはそれを知らなかった。うたた寝したのかも知れない。
アレンの目に映っているのは夢か、死かどこか別の世界。
闇の中で手招きする者がいる。「おいで」。闇の王は手に真珠のようなちいさな炎を持ち、差し出す。命だった。アレンは彼の方に歩きだした。

 

4.魔法の火


影がたわむれる様が見える。ふくらんだり、縮んだり。
後頭部の痛みと共に目覚めたアレン。ウサギとハイタカが倒れており、三人の男が居る。
スキを見て大声を出しながら逃げ出すアレン。敵が追って来た。わざと追わせる考え。部屋から出来るだけ遠ざけたい。
だが行き止まりに入り込んでしまった。向きを変え、追っ手めがけて叫びながら飛び込むアレン。

 

目をさましたアレン。多くの男たちと共に鉄の枷につながれていた。狭い船倉。最後に、追っ手の方に飛び込んだ後の記憶がない。
今自分が乗っているのが奴隷船だというのは判った。売られようとしている。
ひそひそ話をしていると、首輪をした男が上から怒鳴りつけた。

日が沈み、オールが漕がれて船は進む。濃い霧が立ち込め、星も見えなくなっていた。

 

船上が明るくなり、船の前部の甲板が光っている。

そこに男が立っていた。
大賢人はアレンの方にやって来ると、捕われの者全ての枷を外した。立ち上がるアレン。大賢人に助けられて甲板に上がる。
うずくまっている男に宣言をして、横につけている「はてみ丸」に乗り込む大賢人とアレン。

アレンの問いにハイタカは、海賊イーグルまで辿り着いたいきさつを簡単に話した。
役に立てなかったことを詫びるアレン。だがハイタカは、そなたが居てくれて嬉しいと話した。
あなたはウサギと、一体どちらへいらしたのです? アレンの疑問。
闇の世界だという。ウザギは闇の世界を取り巻いている、狂乱と悪夢の荒地に迷い込んだ。

しなければならないこと、に関するハイタカの説諭。

あれこれ考えるうちに眠り込むアレン。

 

5.海原の夢

舟は、天然の風を受けて南西に進んでいた。ハイタカはアレンに海で泳ぐことを勧めた。
最初は乗り気でなかったが、慣れると実にすばらしかった。やがてハイタカも仲間に加わる。アレンが行先を聞くと「ローバネリーだ」
ホート・タウンでは、もうあれ以上探しても何も出ない。だからもっと南のローバネリーまで行くことにした。
そこで魔法使いたちが何をしているのか、探り出さなくてはならない。
アレンはいろいろ質問したかったが、それは控えて歌をうたう事の許可を申し出た。
アレンが何曲か唄った後、ハイタカがエルファーランの歌は良かったと評した。昔、ほんの一瞬だがエルファーランを見たと語る。

 

アレンが、夢の話をきっかけに、魔法の力で死者をこの世に呼び戻し、話をさせる事が可能というのは本当ですか、と聞く。「ああ、呼び出しの術を使ってな」
ハイタカはかつて、その術を勝手気ままに使っていた者の話をした。ハイタカの師だった大賢人ネマールまで呼び出したのを知って、こらしめのために、黄泉の国の入り口まで連れて行った。
泣きわめき、怯えて大変だった。それで逆に自分のした事の間違いを知った。そのあと、その男はどうしました?とアレン。
土下座して、もうバルンの魔法は二度と使いません、と誓った。その後西に向かい、何年か経って死んだと聞いている。名前は、ハブナーのクモと呼ばれていた。

話してしまった後で、口にした事を後悔するハイタカ。

 

6.ローバネリー


ローバネリーに着いた二人。島に生えるハーバの葉を食べる虫が紡ぐ繭を、糸にして織った布がこの島の産業。
「まじない師だと?」アシタカから聞かれたソサラ村の村長は、そんな者はいないと否定。
雨宿りをしている村人たち。雨が繭を台無しにする、と村長。
「ミルディじいさんが生きていた頃には、こんな事はなかった」と村人が言うのを必死で否定する村長。
ホート・タウンでローバネリーの絹を見たと話すハイタカに、もう五年作っていない、と村人。
聞けば、染料にも問題があるという。その議論が続いた後で、染料を作る者の事を聞くハイタカ。魔法使いだという一族に今まで委ねて来たが、すっかり力をなくしていた。

 

ハイタカとアレンは、その染料を作っていたという家を訪ねる。
白髪の老婆が飛び出して、突然ハイタカを罵り、わめく。
ハイタカがじっと老婆を見つめると、老婆の顔つきが変わった。ハイタカを魔法使いと認めている。老婆は、力をなくしてしまった、と嘆く。
力を取り戻したくはないか?と話すハイタカ。話を聞き始めたが、老婆は自分の名前はアカレンだ、と連呼して取り乱す。
老婆の耳元でささやき、静かにさせたハイタカは、そのまま家を辞した。

アレンが聞くと、あの女の名前を取り上げて、新しい名前を与えたという。そうするしかなかった。
あの老婆は、見識を持った立派な魔法使いだった。

だが、もうそれはない。
アレンは、ここの村人がおかしいと話す。色の区別が判らず、手仕事と魔法の違いさえも判らない。
老婆との話以降、気分が優れないハイタカ。敵の存在の予感。
ある場所に行くだけでなく、人にも会わなくてはならないかも知れない。

後ろから急ぎ足で来る男。わめいていたが、ハイタカの声で落ち着きを取り戻す。老婆の息子で、長年染師をやっていた。
ハイタカの耳元で、王を見た時の事を話す。手にろうそくをかざした王が吹くと火が消えた、再び吹くと、火が点いて燃え出した。
奴は死を征服した。俺はそれを知りたくて魔法をゆずり渡してしまった。俺も連れて行ってくれとせがむ男。出発までに支度が出来たら、と返すハイタカの言葉に、もと来た道を走る男。

 

アレンは、男を連れて行こうとしているハイタカに腹を立てていた。

村長と話をして、舟に戻ると染師のソプリが既に来て待っていた。
再度抗議するアレン。ソプリは村で狂人として扱われている。ハイタカは、この男に死の国への道案内をさせようと思っていた。
引きずり回されているだけの自分に腹を立てるアレンは、これは理性に反することだと反論。
これから行くところは理性の導くところではない、と話すハイタカ。
また、今度のこの旅は、そなたのものだ、と続ける。

 

7.狂人


ハイタカ、アレンに染師のソプリを乗せた舟が進む。

アレンに募る不満。
舟をこわがり、海を恐れているソプリ。
オブホルという地名を聞いて、話を始めるソプリ。四年も五年もそいつを追いかけているという、例の場所。

死んだ者が来て、また帰って来れる場所。
こんなソプリを連れて、どうやってやって行けるというのか。

失望と嫌悪を抱くアレン。

 

舟はくる日も来る日も西に向かって航行していた。アレンはいつも恐ろしい夢を見たが、ハイタカには話さなかった。
こんな男に心身を委ねてしまった、自分の愚かさを思い知るアレン。

ある日、ソプリが近づいてアレンに話しかける。
あの人はさる秘密の場所に行きたがっている。そして将来に約束されたものを信じていない。
問い返すアレンに「永遠の命ですだ」とソプリ。
夢を思い出すアレン。死の恐怖。真珠のような小さな明かりを差し出した男。あれは不死の命の光。
そこへ行くためには、持っている力を全て投げ出さなくてはならない。言葉も名前も何もかもなくなる。
アレンの疑い。彼は永遠の命を手に入れるために、自分たちを巻き添えにしようとしている。暗黙の共感を持ち合うアレンとソプリ。

 

舟の行く手に大きな島が見えて来た。オブホルだろう、とハイタカ。この島にまちがいないと誓えと言うのか?と怒るソプリ。
いなす様にハイタカが、水の補給もあるからとにかく降りよう、と作業を始める。アレンが漕ぎ手となって入り江の奥に入って行く。
上陸のため舟を砂地に上げる寸前、ハイタカが舟を海に押し戻した「漕げ!」
ハイタカの手にある投げ槍。そのうちに次の槍が舟の梁にぶち当たる。とっさにオールを漕ぎ始めるアレン。
わめくソプリの頭突きを食らって一瞬気を失うアレン。
直後にオールを取り直し、槍から逃れる様、必死に漕いだアレン。

 

改めてハイタカを見ると、左腕が血に染まっている。槍が肩に命中したのだった。槍を握っているように見えたのは、刺さっていたから。
ソプリは?と聞くと、自分から飛び込んだのだという。泳げないのに。死ぬほど怖がっていたから上陸したいと思っていた、と話すハイタカ。
なぜ攻撃を? わしらを敵だと思ったんだろう。
そこで初めて、ハイタカが傷にあてていた布が真っ赤になっているのに気付く。自分のシャツを引き裂いて傷口を縛るアレン。
ハイタカの指示で舟を入り江から出すアレン。だが回りも見ずに漕いだので、一周回ってまた砂浜に近づいていた。
まじないで舟を入り江の外に出すハイタカ。

だが動かせたのはそこまで。

重体のハイタカを前にして途方に暮れるアレン。
それでも連れの世話を進める。日よけに寝床を用意し、包帯を変え、水を飲ませた。水を飲み終わると眠りに落ちたハイタカ。
絶望の目でハイタカを見るアレン。今までの事が頭をよぎる。

 

8.外海の子ら


ハイタカが目を覚まして水を求めた。そして方角を聞く。

西に向かい、オブホルの西にあるウェロジーに向かってくれと言い、再び目を閉じた。
アレンは彼を見ても感情が湧かない。樽の水も、もう1リットルぐらいしか残っていない。
陸地が見えたような気がしたが、アレンは、積極的な修正もせぬまま舟を走らせた。
何日も過ぎ、もうハイタカにやる水もなくなった。
横になるアレン。舟の中は暑いのに、体はがたがたと震えた。

 

舟の中に立つ三人。袋から水をくれた。むさぼるように飲むアレン。

あの人はどこだ?
ハイタカの身を案ずるアレン。その人なら生きている。すすり泣きを始めるアレン。連れて行かれたのは大きないかだ。そのいかだに、はてみ丸は繋がれた。いかだの上の小屋に連れられて横になると、それきり意識を失ったアレン。

 

いかだの上で目覚めるアレン。通り掛かった男に、連れのところに連れて行って欲しいと頼む。
小さないかだに乗せられ、小屋を持つ大きないかだに乗り移り、ハイタカが眠るところまで案内される。
アレンを感じて目を覚まし、柔和な笑顔を返すハイタカ。
別の男に「眠らせなければだめだ」と言われハイタカから離れる。
その男を長と知って挨拶をするアレン。
襲われた事を簡単に説明したアレン。長の話から彼らが、世に全く知られぬ外海の上で暮らしている部族である事を知った。
連れの状態が戻るまでは元のところで待ちなさい、と言われると若者たちに促され、泳いで元のいかだに行った。泳ぎ方を笑われるアレン。
その日から泳ぎ、仕事をしたりする毎日。

 

ついに部族の長に呼ばれ、ハイタカに面会するアレン。
アレンはハイタカに、舟が流されても、あなたが苦しんでいても、何もしなかった。舟を陸地に上げることもしなかった、と詫びた。
ハイタカは、その時そなたがどう思ったかを話して欲しい、と言った。
あなたが恐ろしかった、死の恐怖から逃れたかった、とありのままを話すアレン。
ハイタカはアレンの手をきつく握った。そして今まで一度も口にしたことのなかった、アレンの真の名、レンバネンを教えた。

アレンは、自分はあなたと私の死を望んだ、と嘆き、ウサギやソプリが求めた、死を超えて生へ通じる道の事を話す。だれよりあなたがその道のことを知っている、と。
ハイタカが諭す。自分たちがいつか死ぬという事を知っている。これは人間が天から授かったたいへんな贈り物。
わしらが持っているのは、いつか失わなければならないと判っているものばかり、喜んで失っていいものばかり。
だが今まで聞いて来たことづては、生を拒否することで死を拒否し、永遠に生き続けるという事。だがわしは受け付けない。そんな中での道案内がそなただ。

そなたの不安や苦しみの赴くところにわしはついて行く。生身の人間としての恐怖がそなたを引っ張って行く、その場所にどうあっても行きつかなくては。
私にはあなたをそこへご案内する事などできません。また失敗してあなたを裏切ったら・・・
いや、モレドの血をひくそなただ。わしは信じておる。

 

長が戻って来て、二人の話に加わった。
陸のものたちに起こり始めた狂気は、ここまで押し寄せて来ることはない。わしらは外海の子、海のやり方で生きて行くだけ。
だが、陸の人間が漂流しているのを見て、ちゃんと助けてくださった、とハイタカ。
流されるままに放っておこうという者もいた。わしは助ける方を選んだ。
だが、もし陸の人間の間に狂気が広がっているなら、陸の人間がそれを処理しなければ。

長の、好きなだけここに居てもいいという好意を受け、ハイタカはもう少しやっかいになる事を決めた。
「それがいいと思います」ハイタカが想像以上に弱っている事に衝撃を受け、アレンは言われなくても留まる事を進言するつもりだった。

 

9.オーム・エンバー


いかだ族の世話になりながら傷を癒すハイタカとアレン。

夏至の晩に行われる船上での祭り。
吟唱詩人の歌に合わせて踊る若者たち。

それに混じってアレンも踊る。
だが夜も深まった頃、吟唱詩人の歌声は、どのいかだからも聞こえなくなった。長が命令しても「歌詞がわかりません」とうろたえる吟唱詩人たち。
ハイタカが立ち上がって、アレンに歌うよう指示した。言われるままに歌い上げるアレン。

 

その朝、東の空が白み始めた頃、高い空から羽ばたいて来るものがあった。ハッとして見上げるハイタカ。そして大声で叫ぶ。
それは竜だった。翼長90フィート近くあり、目は緑。
竜が口を開いた。太古の言葉で話す。それにハイタカが「メミアス」と答える。それは「よし、行こう」という意味。
竜は大きく羽ばたいて北に去って行く。
「いよいよ、出発する時が来た」

 

外海の子らは二人のために、舟に食料と水を積み込んでくれた。
舟は出発すると北上を始めた。
ハイタカは竜の説明を始める。
あれはオーム・エンバー。セリダーの竜。エレス・アクベを殺し、自分もエレス・アクベに殺されたオームの血を継ぐ竜。
竜は、ハイタカを探していた。助けを求めているという。
その昔、セリダーであの竜はハイタカを殺さず、エレス・アクベの腕環の秘密を教えてくれた。今度はこちらがお礼をする番。
竜の言うには、西国にいる竜王が自分たちを破滅させようとしている。それを助ける見返りに、こちらが探している道を教えるとのこと。

こうして二人の航海が始まった。ハイタカは、今度は惜しげもなく魔法を使って雲を呼び、雨を降らせて水を調達した。

 

いかだ族の吟唱詩人までもが歌を失った今、ハイタカが術を使えるのが驚きだった。術が続くうちは使うつもりだと言う。

ある日、島を通り抜ける時に、内陸で煙が上がっているのを見て訊ねるアレン。争いのために火をつけたという。
正しく導く者がいない。ただ、治める者がいても、王にもなり得れば、闇の王にもなり得る。混乱するアレン。
ひとりの人間が、ひとつの命が、どんなに大きな悪を働き得るかを説くハイタカ。自分自身が生と死、両界の扉を少し開けただけで、その扉を閉めるために大賢人ネマール様は命を落とした。若き日のハイタカ自身の過ち。
よい人間とは何か、の問答。
アレンが聞いた「おいで」という言葉を言い当てるハイタカ。あれはアレン自身の声でもあった。

 

アレンたちが北上を続けている時、ローク学院でも異変が起きていた。
院内の実験室。姿かえの長と、呼び出しの長がいた。
姿かえの長が、大賢人の行き先を知るために「シリエスの石」という水晶を覗き込む。

最初見えていた景色が、ロークを越えると見えなくなってしまった。冷静さをなくした姿かえの長は、石の霊を呼び出してくれと呼び出しの長に頼むが断られる。
呼び出しの長トリオンが改めて水晶を見ると、枯れることのないシリエスの泉が枯れているのが透視出来た。大賢人が死に向かっているとの危惧。バルンの知恵の書にある、生きている者を死者のところに連れて行く呪文。
知恵の書にあるものは危ない、と止める姿かえの長。

 

もう少し考えてみたいと言って、昨夜姿かえの長と別れた呼び出しの長トリオンは、翌朝自分の部屋で倒れていた。死んではいなかったが、わずかに心臓と肺を動かすだけの力しか残っていなかった。
とり付かれたように、皆にこの事件を伝える姿かえの長。生徒が、昨日詞の長も「この歌の意味が判らない」と言っていたと伝える。

その夜、姿かえの長がロークを出て行った。行くところを見た者はいない。鳥かけものか、霧か風か、とにかく姿を変えて大賢人に事態を告げに行ったのだろう。
こうしてロークの九賢人のうち三名までが欠けた。
不安を募らせて行く院生たち。
そんな中でも守りの長だけは、誰とも交わらず、穏やかな微笑を浮かべていた。

 

10.竜の道


竜の群れが舞う島に近づくはてみ丸。
二匹の竜が舟に近づき、船上をよぎると火を吐いた。竜が過ぎ去った後、お互いの髪が焦げているのを見る二人。
更に進むと、砂浜に倒れている竜に出会った。前脚の一本はなくなり、腹も破られている。舟はその前を通り抜けた。

 

更に進む舟。今まで、竜の道を航海した者は、この大賢人をおいて他になかった。
ハイタカとアレンは、細心の注意を払って岩や暗礁を避けて進む。

やがて岩場を抜けると、円柱がすき間なく並んだ高い壁が現れた。
「カレシンの城だ」「カレシンて、誰なんです?」一番年のいった竜のことらしい。
舟はゆっくり進み、城の陰から日の光の中に出た。
空のかなたから、あの竜のオーム・エンバーがやって来た。
「アロ カレシン?」その言葉以降、アレンには判らない内容のやりとり。「レバンネン」と呼ばれ、前に出るアレン。
竜の前に進み出るアレン。「ご機嫌よう、オーム・エンバー殿」
その後ハイタカがやりとりをして、竜は大きくはばたき、飛び去って行った。

 

食事をしながらハイタカは、竜と話した内容を説明した。
我々が探している者は、セリダーにはいないが、見つけ出すためにはそこに行かなくてはならない。
そしてその者は、竜から太古の言葉を奪い、けだものとしての性に従わせている。竜たちが互いの肉を食らい、ばたばたと海に落ちているのはそのせい。
竜の世界、人間の世界とも、あらゆるものの道理が失われて行く。この世界のどこかに穴が開いて、海の水がどんどんこぼれる。光もどんどん薄れて行く。言葉は失せ、死もまたなくなるだろう。

 

その話の中でアレンは、ハイタカが自分の真の名であるゲドと言った事を、彼に話した。
耄碌してはいない。ハイタカは、この先きっとわしの本名が必要になる、と言った。
これから行くところでは、名前を隠すことはできない。
夜があけたら、わしらはこの世界の最後の島を見ることになるだろう。

眠り込むアレンを見つめ、独白するハイタカ。
アレンが王として立つ時の事を思う。だがもしわしらが落ちたらそなたも落ち、他も全部落ちてしまう。
望郷の思い。ゴント山のあの森を歩きたい。

 

11.セリダー

翌朝、舟はセリダーに到着した。入り江に舟を進める。
舟を浜に引き上げ、先に砂丘を登るゲドに付いて歩くアレン。
砂山の間に来るとゲドはアレンを本名で呼び、これから眠るから見張りを頼むと言った。
ゲドの傍らに腰かけているアレンの頭上高く旋回するもの。雷鳴の様な音と共に舞い降り、砂山の頂きに止まった竜。
「主人は疲れて、お休みになっておられる」アレンの言葉に、竜は窪地まで這って来て座り込んだ。
日も高くなり、アレンがハッと気付くと、ゲドが起き出していた。

 

ゲドがオーム・エンバーと話をしている時、剣の鞘の音を聞いて同時に振り返る。アレンが砂山の頂きを見上げて剣を構えていた。
そこには、黒いマントに頭巾をかぶった男が立っていた。そしてにやりと笑う。
「オーム・エンバーか、知っているぞ」「それからハイタカ、おまえもだ」
「現身となって、わしらのところへやって来んか」と言い、アレンには、あれはあやつり人形だと言って、剣を収めさせたゲド。男はハブナーでクモと呼ばれていた者。
どこへ行けば会える?と聞くゲドに、わしの国で、わしの好きな時に、と答える男。そしてふっと消えた。

幻は海を渡れない、奴はセリダーに居る筈だというゲド。
竜の言うには、おれが滅びの主を見つけ出して連れて行ってやる、そして一緒に退治するんだ。

 

野宿に必要なものを舟で準備して、再び内陸に向かって歩き出す二人。
夜、寝る時に死者が出て来てアレンを動揺させる。それを落ち着かせるゲド。

夜が明けると、北西に向かって歩く二人。これはアレンが決めた。ゲドは道が全部同じに見え、アレンに選ばせた。
ゲドが話す、闇の世界。また歩いても生き物に出会わず、苛立ちが募るアレン。
夕方になって、焚火の材料を集めに出たアレンの前に出る亡霊。ゲドにはその事を話さなかった。

翌朝、朝食を摂っていると、あの竜がやって来て頭上を旋回している。ゲドが声をかけても返事がない。
やつまでものが言えなくなった。だが道案内は出来る。

 

二人は荷物をまとめ、竜を追った。
道は途切れ、ついに砂浜に達した。ここがさいはての島の西のはずれ。世界はここで終わっていた。
砂浜には白い小屋が建っていた。近くで見ると、それは竜の骨で作られたもの。中から一人の男が出て来た。金メッキをした青銅のよろいを着ていたが、あちこち破れている。
向かい合ったゲドが声をかける「エレス・アクベか?」頷くが、口はきかなかった。ああ、あなたまでもやつの言い付けどおりにならなければならないとは。
ゲドが言葉を唱えて手を振り下ろすと、男の姿は消えた。

竜に聞くゲド。ここがさい果ての岸。

 

杖を取って呪文を唱えるゲド。「我が敵よ、出て来い」
静寂が続き、その後あたりが暗くなり、更にゲドの前が暗い。
突然、その中から男が現れた。神聖文字を彫り込んだ鋼の棒を持っている。
おれは影なんかじゃない、おれだけは生きているのだ。そしておまえは死にかけている、と。
鋼の棒が突き付けられるが、動けないゲド。同様にアレンも動けない。

その時、不意に竜が男に襲いかかった。男の棒が、竜の胸にぐさりと刺さった。同時に男も竜の下敷きになり、押し潰されて、焼かれた。
だが、竜に倒された男の死体と思われるしなびた醜いものは、もぞもぞと動き出し、竜の下から這い出した。
ついに敵の本当の顔を見る二人。
男が背を向けると、男のまわりに闇が集まり、アーチを形作った。そして中に入る男。
「行こう、レバンネン」ゲドは言って、二人でその渇ききった黄泉の国に入って行った。

 

12.黄泉の国で


石垣をまたいて渡り、大賢人の杖の光を頼りに先へ進む。空は黒々として星が出ている。
命の丘の反対斜面を下り、街中に入って行った。ゆっくりと動き回る死者たち。深い同情を覚えるアレン。
ゲドが急に足を止めた。四つ辻に立つ男に声をかけた。ローク学院の呼び出しの長トリオン。
不死の人についてこの国に来た。もう道がわからない。
抱きしめるゲド。そしてまた歩き出す。取り残されたトリオン。下り坂は続く。

 

やがて町を抜けた。続く田舎はがらんとしている。
道をはるかに下って山のふもとに続く道。

山を指さすアレンに「そう、光の世界との境い目だ」とゲド。その山脈は「苦しみ」と呼ばれている。更に前進を続ける二人。
行く道は次第に平らになっていた。下り坂が終り、この先道はなかった。彼らは「苦しみの山」のすぐ下の谷間にいた。狭い谷間にじっと立つゲドとアレン。
「戻るには遠くまで来過ぎてしまったな」とゲドが言う。
すると闇の中で声がした。
「そうだ、おまえたちは遠くまで来過ぎてしまった」
おまえたちは死の川までも来てしまった、と闇の声。もう生の世界へは戻れないぞ。
ゲドは、そなたの道を探し出すと言い返す。

ゆっくりと姿を現した男、クモ。セリダーの砂丘で見たように背が高く肩幅も広い。だがはるかに年をとっていた。目が、がらんどうになっている。死者についての、クモとゲドの議論。
クモは、俺は傷を癒し、若さを保つ奥義を知っている。魔法使いの中でただ一人、不死への道を見つけた。
クモは続ける。俺はこの世が始まった時から閉じていた扉を開けた。だからここへ来るのも、生きた人間たちのところへ戻るのも自由自在。
この扉はここだけで開いているのではなく、生きている人間の心の中で、その存在の深みで扉を開けて待っている。
人々はそれを知っていて、俺のところにやって来る。そうして生と死の間を行き来する。

ゲドが次第にクモを追い詰めて行く。
繰り返される言葉の応酬。クモは次第に後ずさりして行く。
クモよ、出来ることならそなたに命をやりたい。だがそれは無理。そなたは死んでいるから。しかし死ならやれようぞ。
クモは「だめだ!」と嘆く。自分は両界を仕切る扉を開けてしまった。俺にはそれが閉められない。開いた口が俺を吸い込もうとしている。開いた口は、やがては地上の光の全てを吸い込んでしまうだろう。

開いた口はどこにある? 遠くはない。だが行ったところでどうにもならん。嫌がるクモになおも迫るゲド。
「あかりを!」アレンが叫び、ゲドが杖を掲げると、白い光が闇を破った。クモが速足で進んで行く。それに続くアレン、そしてゲド。

 

アレンはクモに追いついて、その手を掴んだ。その前は水盤状の窪地になっていて、その上には崖がそそり立ち、そこにぽっかりと黒い穴が開いていた。

ここがその場所だ。俺について来さえすれば不死身になれる。
アレンは、その穴に向かって「閉じろ!」そしてゲドも「ああ、閉じようぞ」と言った。
ゲドが両手を上げて呪文を始める。アレンもクモも、呪文の力で動けない。

生涯をかけて磨いた技と、精神の全てを動員して、ゲドはその穴を閉じようとした。
クモは、扉が閉じようとするのを感じると共に、敵が衰弱しつつあるのも感じ取っていた。
クモがアレンの手を振り払い、ゲドに組み付いてその首を絞めた。
アレンはすかさず剣でクモの肩に切りつけた。だが死んだ男を殺したところで何にもならない。その傷はすぐに塞がった。
敵がアレンだと認識して迫るクモ。アレンは再び剣を振り下ろす。脳天を真っ二つに割られるクモ。
その時、ゲドが一言発して、二人とも動きを止める。
そしてゲドは崖に向き「癒されよ、一(いつ)になれ!」と言って、終りを現す神聖文字の「アグネン」の言葉を空中に書くと、岩は完全につながって、扉は閉ざされた。

 

ゲドは、クモに向かって解放の言葉を授けた。彼はゆっくりと踵を返すと、死の川を下って行き、そして見えなくなった。
「終わった、何もかも終わった」「さあ、まいりましょう」
だが力を使い果たしたゲドは、アレンの支えがなくては動けない。ゲドを抱え、必死で歩くアレン。
激しい疲れにたびたびつまづく。それでもゲドを背負い、よろよろと歩く。

 

13.苦しみの石


目を覚ましたアレン。うつぶせになっているゲド。振り返るとオーム・エンバーの巨体が見えた。
死から生への境界線を、この人を背負って超えて来たが、ゲドの体は冷たく感じられた。
川の水を飲みに行った先で、向こう岸に巨大な竜を見つけるアレン。

どうして良いか判らず、とりあえず水を汲んで戻り、ゲドに飲ませたが、目覚めない。
ふとポケットに手を入れると、固いものに触った。固い小さな石。それは「苦しみの山」を形づくる岩のかけら。
彼は今、生まれて初めて勝利というものを知った。

 

ふと気がつくと、対岸にいた竜が川を渡ってこちらに来た。そしてゲドに近づき、彼の名を呼んだ。ゲドの口から言葉が洩れる。
「カレシン。センパニサイン アル ローク」
アレンがゲドを抱き上げようとした時、竜がその大きな足を突き出し、アレンの直前に置いた。
「手を出すな!」とアレンは制止する。
「ここに乗れ、と言っているのだよ」 驚くアレンだが、やがてそれを納得する。竜の足で踏み台となっているところを、ゲドを支えながら登り、首の付け根の窪みに座った。快い暖かさ。
竜は、小さな客を振り落とさないよう用心しながら舞い上がった。

 

ローク周辺の島では、竜が飛ぶ姿を見て大騒ぎとなっていた。人間の歴史が始まって以来、ロークに入って来た竜は一匹たりともいなかった。だがカレシンはひるむ事なく、ローク山の頂まで来て着地した。

 

出迎えた長たちの前で、竜の背から降りて来た二人。
人々の見ている前でアレンの前にひざまずくゲド。そして立ち上がると、若者の頬に接吻した。
「わが連れなりし王よ。ハブナーの玉座につかれたあかつきには、永く平和に世を治められますように」
そして再び竜の背に乗ると、ゲドはゴント島に向かって飛び去った。静かに見送る守りの長。

 


感想
ゲドとテナーがエレス・アクベの腕環を持ち帰ってから25年。

そしてゲドが、ローク学院の大賢人として運営しているアーキペラゴ世界が舞台。
魔法社会にはびこり始めた不吉な予兆。それを知らせに来た若き王子アレンと、解決に乗り出すゲドの物語。

 

腕環が戻ってからの25年間、どうなってたの?という疑問はあるが、その間王が現れず、社会を維持しきれなくなって今回の問題が起きた、という解釈だろう。
読者としては前作で、自分の名前を取り戻したテナーがその後どういう人生を辿ったか、という興味もあったが、それは次作で語られる。

 

かつてゲドが懲らしめた魔法使いのクモが、この異変の全ての元凶だが、そのエピソードはほんの1ページ分の記述でしかなく(5.海原の夢 の終盤)、ここを読み飛ばすと物語の理解度が半減する。

 

言うまでもなく、この巻はアレンの成長物語。1巻はゲド、2巻はテナーと、成長物語が読者に感動を与える手法としては王道だが、今回も非常にうまく構成されている。
最初はごく素直な王子だったアレンが、心酔するゲドに次第に疑いを持つようになって行く経緯は秀逸。

 

ゲド自身、この旅が自分のものでなく、アレンをサポートする役だという位置付け。ただ冒頭で無条件に同行者をアレンと決めてしまったのが、ちょっと不自然な印象がある。ここではまだアレンを「特別な人」と印象付けない工夫をした方が良かった。

 

この巻でも、生と死という観念的なものを具体化して提示し、それにまつわる人々の願望、恐れをていねいに描いている。生と死の境界が低い石垣というのも象徴的。2巻でもそうだったが、石垣という言葉に作者のこだわりがあるのかも知れない。

 

当時はこの第三巻が完結編と思われており、内容的にも一番盛り上がった。その後10年以上を経て四巻、五巻が執筆された。

 

 

 

 

 

 

田植えキターっ!!

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ヤスミン姉様から、高齢じゃなかった恒例の記事がアップされた。
昨年のリブログはコチラ
ヤスミン家の田植機は8条か・・・・
ちなみにクボタのサイト見たら、新品の相場は200~300万。最近の農業も大変ですナ。

 

 

私が子供の頃の実家(伯父の家)は、50年前以上前の昔だから田植機なんてなく「人力」。
それでも、少しでも真っ直ぐ植えるように、スジを引く道具を作ってくれと伯父に頼まれて、作った記憶がある(運動場を掻く”トンボ”みたいなやつの変形)。

 

ただ、今でも田植機がやれない端っことか、ターンするところなんかは手植えなんだろうね。

 

写真は去年の使い回しやね(ちょっとセピアかけてるけど)。

サングラスも併用した方がいいかと・・・

 


同窓会のネタも十分笑った。
ウチの場合、まだ続いているのは中学の同窓会だけだが、2年に1回のペースで、先月開催。それまでは1月2日にやっていたのだが、みんな高齢化で「正月の同窓会で救急車に運ばれるのもヤバいか」と、今年から気候のいい時期にシフト。
だけど今回やったら「花粉症がイヤだ」というジジイが居て、次回は来年の11月になりそう。

 

同窓会で、今でも言われるエビソードは、ワタシが数学の○瀬先生(女性)の授業の前、入り口のドア取っ手にボンドを塗った事。叱ることはせず、蔑んだ目で見られて、ホント後悔・・・・
そのせいか、数学は4にならなかった(4に近い3です、とか書かれて、トホホ)。

 

 

 

 

 

大統領の陰謀   1976年 アメリカ

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監督 アラン・J・パクラ
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
原作 カール・バーンスタイン、 ボブ・ウッドワード

 

キャスト
カール・バーンスタイン         ダスティン・ホフマン
ボブ・ウッドワード            ロバート・レッドフォード
ハリー・M・ローゼンフェルド     ジャック・ウォーデン
ハワード・シモンズ                マーティン・バルサム
ベン・ブラッドリー                  ジェイソン・ロバーズ
ディープ・スロート                 ハル・ホルブルック
ジュディ・ホバック                 ジェーン・アレクサンダー 
ダーディス                          ネッド・ビーティ 
ヒュー・スローン                  スティーヴン・コリンズ
ケイ・エディ                        リンゼイ・クローズ 

 

 

あらすじ
1972年6月1日。ソ連から直行で議場に向かったニクソン大統領。

下院で満面の笑みを浮かべ、演説を始める。

 

同年6月17日。ワシントンD.Cのウォーターゲートビルで発生した不法侵入事件。ワシントン・ポスト紙の社会部記者ボブ・ウッドワードは、部長のハワード・ローゼンフェルドの指示で、その件の取材に出向く。
容疑者は5人。「バーナード・パーカー」「バージリオ・ゴンザレス」「ユージニオ・マルチネス」「エドワード・マーチン」「フランク・スタージス」
多額の所持金と無線機、35ミリカメラ。侵入先は民主党本部。
容疑者は民間弁護士を雇っていたが、結局弁護するのは官選弁護士。なぜ容疑者が電話一本掛けられないのに民間弁護士が来ることが出来たのか。

罪状認否の場面。被告5人の中にはCIA関係者も居た。

 

社に戻ってローゼンフェルドに報告するボブ。なぜ盗聴しようとした?。誰かが雇ったか、自分の意思か。容疑者二人の住所録から見つかった、W・Hのイニシャルとハワード・ハントの名前。
ホワイトハウスに電話を入れたボブは、ハワード・ハントに繋がるニクソンの特別顧問チャールズ・コルソン、マレン社の情報を得る。
マレン社に電話を掛け、本人に確認。なぜ貴方の名がウォーターゲート逮捕者の住所録に?との質問に、なんてことだ!と叫ぶと共に「何も言えない」と切られる。
それから数件の電話で、ハントが小説を書いているがここ2年ほど書いていない事、1970年までCIAに居た事などの情報を集めるボブ。
ホワイトハウスの広報にハントの職務を聞いただけで、彼が3ケ月前から来ていない事に重ねて、特別顧問始めいかなる職員も今回の事件には無関係、とのコメント。

 

ボブが上げたメモが編集会議に上がる。もう三面記事じゃない、専門の政治記者で進めようという声(ボブはまだ入社9ケ月)に、あいつが持って来たネタだからあいつにやらせろ、とローゼンフェルド。

 

ボブが清書に回した原稿を見て手直しをかけるカール・バーンスタイン。それが二度続きボブが文句を言いに行くと「リライトした」。ハントとコルソンの関係が逆に見える、だからコルソンを先に出した。
君のがいい、とボブは下書きを全てカールに託す。

 

コルソンのところで働いていたという女性シャロンに接触するカール。ハントが当時、強敵と思われていたエドワード・ケネディ議員のスキャンダル資料を集めまくっていた。

情報元は大統領府図書館や議会図書館。
二人で手分けして調べるが、大統領府図書館の司書は、最初ハントに貸し出したと言った後で否定。ボブがホワイトハウス広報室のクローソン次長に確認を入れると、問い合わせ自体を否定。

議会図書館に行って貸出票の束を徹底的に調べる二人。だがハントが借りた形跡は見つからなかった。

 

そこまでの情報で記事にしようとする二人。ローゼンフェルドは賛成するが、主幹のベン・ブラッドリーは「無理だな」。
もっと確かな情報をつかめ、と檄を飛ばす。

 

ボブはある情報源に電話を掛ける。今回の事件の事を聞くが「その話はよそう」
ウォレスの時(大統領狙撃事件)とは違う。

自宅での朝。ボブが新聞を読もうとしたらそこに封筒が挟んであった。話があればベランダの鉢に赤い旗を。尾行に注意。午前二時に地下駐車場。
暗がりでの話し合い。ボブの掴んだ情報。ハントはコルソンの部下でケネディ議員の醜聞集めをしていた。ニクソン再選委員会の弁護士リディ。彼はFBIの質問に答えずミッチェルに解雇された。

情報源からの、ロウソクに関する逸話(口は固い)。
ハントが2万5千ドルの現金で弁護士を雇った話をすると

「金の流れを追え」。

 

ニューヨーク・タイムズに抜かれたスクープ記事。侵入犯バーガーが、再選委員会へマイアミから15回も電話していた。
電話会社の担当から、情報は地区検事長に提出したと聞かされたカールは、捜査主任のダーディスに面会を求めるが、秘書が壁。

何とかそれをかわして直談判の末、バーガーの通話記録と銀行の資料を目にするカール。
銀行の資料の中に2万5千ドルの小切手のコピー。振出人はケネス・ダールバーグ。まだ捜査中との事。

 

カールからの連絡を受けてダールバーグを調べるボブ。見つけた写真からミネアポリスの住所を突き止める。
ダールバーグに2万5千ドルの振込み理由を聞くボブに対し「金は全部委員長に渡してある」「再選委員会?」「そうだ」
ダールバーグは中西部の財務委員長。選挙資金を集めている。

なぜその小切手が?
私はまっとうな市民だ、と言い残して電話が切られる。

 

再選委員会のマクレガー委員長に電話をかけるボブ。小切手の事を聞くと「前任のミッチェルに聞いてくれ」
その電話の最中にダールバーグから入電。目で待つように指示するボブ。切り替えてダールバーグと話す。相手は困惑している様子。
選挙資金は全て現金で集めた(フロリダのボカラトン)が、移動には現金では大変だから小切手にした。
なぜバーガーの口座に? スタンズ氏に渡した。モーリス・スタンズ。ニクソンの財務委員長? そうだ。

 

新聞記事:民主党の副大統領候補が辞退。

共和党選挙資金が盗聴犯の手に。

 

編集会議。ローゼンフェルドが「小切手問題の反響を無視している」と抗議。「誰も気にしていない」
「うちのスクープで会計検査院が動いたんだぞ」
編集会議での大勢は「危険なネタ」
誤報を流したら我々はクビ、とブラッドリー。編集責任者は、自滅しかかっている民主党に対して、共和党がそこまでやる事には懐疑的。

ブラッドリーに話しに行くボブとカール。ディープスロート(情報提供者)の話をするベン。
続ける意味あるのか?と聞くブラッドリーに、再選委員会の名簿があれば、とボブ。「つかめ!」

 

同じ部のケイ・エディに声をかけるボブ。婚約まで行った彼氏が再選委員会の男だった。名簿が欲しいというボブに呆れるケイ。恥じたボブは取り消す。不満そうなカール。
数日してケイがボブの前に封筒を置いて立ち去った。

中味は再選委員会の名簿。

 

ジョン・ミッチェル、モーリス・スタンズ、会計係のスローン・・・・
名簿を頼りに電話をかけまくるボブとカール。ほとんどは空振り、というか示し合わせた様に門前払い。
秘書の女性から、ミッチェル委員長が書類を裁断していた話を聞くが、後に否定。 

やり方に疑問を持ち始める二人。起訴されても追及出来るのは侵入犯の5人とハント、リディまで。
予備選挙で共和党候補にニクソンが選ばれたとの報道。

 

ある家を訪ねるカール。スローンの下で働く簿記係の女性。再選委員会に35万ドルあったと言われる金。彼女は活動資金だと思っていた。金の支払い方法:個別に15人の名前と金額を書いたリスト(破棄されている)。記録はそれだけ。
金が不法侵入に使われたかは知らないが、心配している人も居る。
金は2日で600万ドル入った事もある。合法的な資金だと思っていたが、事件後大金がゴードンの手に。リディ? Yes。
腐っている、悪くなる一方。気の毒なのはスローンさん。黙っていたら離婚よ、と言われて辞職。ミッチェルを追い詰めて欲しい。
ミッチェルが事件に関与している証拠は? もう破棄された。
金を受け取った人を教えて。せめて頭文字で。

 

情報を検討するボブとカール。Lはリディ(ゴードン・リディ)、Pはバート・ポーター。大陪審に召喚された。

残るMはマグルーダーか(副委員長)。
再度彼女を訪れるボブとカール。

半分誘導されてPをポーターと認める。

TVでウォーターゲート関係の、警察への取材番組がやっていた。

きっかけはワシントン・ポスト。

司法省とFBIが最大級の規模で捜査している、と関係者。

 

スローンを訪ねるボブとカール。ヒュー・スローン。ニクソンを信じて4年間働いた。侵入事件について大統領は知らなかったとの見解。
金庫の金の事を訊ねると、100万ドル近い事もあったと話す。出金は指示に従って行った。
指示出来たのは4人ですね→5人だ、とボブ。
ミッチェル、スタンズ、マグルーダー。

あと二人は言わない、とスローン。
新聞に書かれ過ぎて一般企業への就職は難しい、とスローン。
金はどうやって渡した?司法省のミッチェルに電話して了解を得た。全て口頭で? Yes

 

社での報告。不正資金の管理者3名までは判明。ミッチェル、スタンズ、マグルーダー。5人確認まで待とう、とブラッドリー。
裏付けを聞くブラッドリー。「ディープスロートは?」ダメです。とボブ。
警察のトップを犯罪者にする記事だぞ!念には念を入れろ、とブラッドリー。

カールからミッチェルに電話。貴方の記事が載ります。激怒したミッチェル。否定するぞ、社主のグラハムのおっぱいを絞り上げてやる!
キチンと名乗ったな、とプロセスを確認したブラッドリー。「おっぱい」だけ省け(家族で読む新聞)。


ディープスロートは信用出来るか? Yes 

人を信用するのは嫌いだ・・・・

記事が報道される。

 

「ミッチェルが共和党機密費を管理・・・」ミッチェルは否定。
アグニュー副大統領は「ミッチェルを信じる」。

不確かな報道、とポスト紙を非難。

 

FBIのコネクションであるジョーにネタをもらうカール。
テネシーの司法次官補シプリーが、軍仲間のセグレッティに誘われて、ニクソン再選のための民主党候補への妨害工作を行っていた。
セグレッティを調べ上げる二人。71年と72年の記録。FBIも彼を調べたが、不法侵入とは無関係と深入りせず。
今はカリフォルニアに住む。当時民主党予備選に合わせて何度も国内を横断。不法侵入は妨害の一部に過ぎない。
一年前から行われていた妨害。優勢だったマスキー候補が自滅する前・・・・自滅---かな?

 

セグレッティの住まいを訪れる二人。穏やかに対応される。
妨害工作を指揮したと言われて、暴力や違法な手段は使わないと反論。盗聴などは論外。
ちょっとしたイタズラ。例えばジャクソン候補の隠し子を暴いた。
ボブが「興味深いのはカナック文書」。マスキーがカナダ人を愚辱したとの煽動。僕は書いていない。
では誰が? 君の記事で教えてもらう。
僕が考えてやった事じゃない。
そこが重要です。

大統領の秘書官から?彼とは大学で一緒だったんですよね。
秘書官のチェーピンと報道官のジーグラーと僕で「マフィア」と呼ばれていた。学生の選挙で不正投票を仕組んだのが最初。敵を潰す事を「ラット・ファッキング」。
ニクソンのためにそれをやったんですね。
除隊して4年も離れて実社会に戻った。そんな時旧友から大統領の仕事をしないかと誘われた。

 

ボブとディープスロートとの会話。
ラット・ファッキングは、昔は「裏切り」の意味。

今は民主党への浸透工作。
セグレッティは、友人を巻き込むため話さない。
ホワイトハウスを当たるんだな。
なおも食い下がるボブは「大局を見失うな」と言われる。
これだけ多岐に亘って様々な事が起きる。

セグレッティ一人の仕事と思うのか?
そこで車が急発進した。思わず振り返るボブ。その間にディープスロートは姿を消した。

 

カールを訪ねる社員のサリー。気のない相手をしていたが「カナック投書」の投稿者を教えるという話に飛びつく。
クローソンが書いたとの事(ホワイトハウスの広報室次長)。彼女の家で酒を飲んでいる時に聞いたという。2週間前。
早速電話をかけるボブに誤解だとうろたえるクローソンは途中で切る。
その後サリーへ電話が掛かって来た。他の電話で同時に聞くボブとカール。部屋に行ったのは秘密だとの口止め。
本件をブラッドリーに報告するボブとカール。そこへクローソンから電話。僕には妻子もいて犬も猫もいる、と決まり文句。
「彼女の部屋に居た事は書かない。君が何を言ったかだ・・・・」

 

カールの自宅に電話。FBIからの情報。セグレッティに金が流れた。彼を雇ったのはチェーピン。

そのボスがホールドマン(大統領主席補佐官)。彼が5人目。
ボブとカールとの話。スローンは知っている。4人までは確実。誰も名前を出さない。
スローンが大陪審でホールドマンの名前を出した事を確認しよう。
スローンを訪れると、妻は出産で不在。4名までは裏が取れた。5人目はホールドマン。僕の口からは言えない。
彼が5人目だと書いたら間違いになる?
こう言えばいいかな?僕は困らない。

 

司法省の情報先にも確認するが、確信が持てない。
原稿をブラッドリーに持ち込む。「まだだめだ」。情報源を聞こう。スローンが大陪審で話した。どこかに記録がある筈。
ホールドマンはこの国のN0.2。間違いは許されない。

司法省の男に再度確認するカール。ホールドマンの不正資金への関与記事を差し止めた方がいいかどうか。これから10数える。危なければ途中で切ってくれ。
そして10カウントが数えられたが切られない。「判ったか、そういう事だ」。
裏が取れた、とブラッドリーに報告。「よし、出せ」

 

報道した日のTV放送。スローンは大陪審でホールドマンの名前を出した事を否定。ホワイトハウスがブラッド

リーを名指しで攻撃「卑しいジャーナリズム」
FBIのジョーにネジ込むカールとボブ。僕らをハメた?との挑発に「Fuck you}。
どこで間違えた?間違いじゃない、ハメられた。
社に殺到する苦情。否定でない否定。「我々は記事を守る。二人に味方しよう」とブラッドリー。

 

ディープスロートと話すボブ。
ホールドマンを逃がしたな、と断じられる。捜査を後退させた、とも。
もうゲームはごめんだ、ヒントではなく全部話して下さい、とボブ。
ホールドマンの仕業だ。金も何もかも彼が仕切った。
彼には容易に近づけない、手を講じないと。
不正工作はミッチェルが始めた。実に大勢が関係している。

この国の全情報機関が関わっている。
FBI、CIA、司法省、途方もない。
隠蔽工作は、違法なスパイ活動を守るのが目的だった。
みんな繋がっている。メモを取れ、君らの命も危険だ。

 

カールの家に行くボブ。

ステレオを点けてタイプでの筆談で状況を伝える。
カールがスローンの話を伝える。大陪審でホールドマンを非難したくても、誰も質問しなかった。

 

深夜ブラッドリーに会いに行った二人。盗聴されている、とガウン姿のまま庭に連れ出して状況を話す。
隠蔽は侵入事件と無関係。ホールドマンが5番目の男。

スローンは言いたくても誰も訊ねなかった。
スパイ活動全部に全情報機関が絡む。

ディープスロートが危険だと警告。みんなグル。
ブラッドリーは言う。

世論調査では国民の半分がウォーターゲートを知らない。
疲れただろう、家に帰って風呂に入り、15分休んだらまた仕事だ。

 

黙々とタイプを打つ二人の横のTVが、ニクソン大統領の宣誓式を伝えている。号砲が鳴る。

 

1973.1.11 ハント、共謀と不法侵入を認める。 8.17  マグルーダー、不法侵入ほう助を認める。 11.5  セグレッティ、6ケ月の禁固刑。 1974.2.26 カームバック、不正資金調達を認める。 4.6 チェーピン、偽証で有罪。 4.12 ポーター、FBIへの偽証で30日投獄。 5.19 クラインディーンスト、罪状認める。 6.4 司法妨害を認める。 1975.3.13 スタンズ不正献金受領を認める。 1975.1.2 ミッチェル、ホールドマンら有罪。 

1974.8.6 録音テープによりニクソンの隠蔽が発覚。 1974.8.9 ニクソン辞任。同ジェラルド・フォード38代大統領就任。

 

 

 

感想 
先日観た「ペンタゴン・ペーパーズ」の後の事件である、ウォーターゲート事件を扱ったものであり、丁度タイミング良くTV放映されたため、録画して視聴。

ロバート・レッドフォードが、かなり早い段階でボブとカールに映画化権のためのアプローチを行っていたという。それが1973年というからオドロキ(ニクソンの辞任前)。
「追憶」では、政治活動に明け暮れる彼女から離れて行くノンポリの学生を演じており、また「華麗なるギャッツビー」などもあって「軽い俳優」やなーと思っていたが、そもそも社会派だったとは・・・

 

ウォーターゲート・ビルでたまたま捕まった不法侵入犯。それの裏に隠れている巨大な陰謀を、地道な取材で暴いて行く、これ以上ないという社会派映画。

入社まだ9ケ月のボブに、不法侵入犯の取材をさせるローゼンフェルド。このおっちゃんが、直属の上司として彼らをフォローする姿が好ましい。そしてその上に君臨する主幹のブラッドリー。

ベンたちが集めて来たネタを「事実が足りない」ととことん締め上げる。この辺りは「ペンタゴン・ペーパーズ」の時の、フライング気味のブラッドリーとは全く別人。

 

ボブとカールの組み合わせがイイ。自分が出した原稿をチラチラと見ながら手直しするカールを見て、イラついたボブが文句を言いに行くと「僕は16歳から・・・・」と言いかけるカール。

多分ボブが大卒で、社歴は短いものの年齢は上。叩き上げで記事の出来に自信があるカールは、反論を覚悟して身構える。
だがボブはあっさりカールの方が表現力が上だと認める。この辺り、自分の手柄に固執しない柔軟さを予感させて好きなシーン。

 

地味な取材ドラマではあるが、事件の究明のカギを握るのは女性。

まずホワイトハウス広報室の女性。ハントへの問い合わせにコルソンの名と、マレン社の名まで口を滑らせる。
そしてコルソンの下で働いていたシャロン。
新聞社の同僚のケイ・エディは、婚約まで行った元カレから委員会名簿をもらって欲しいと頼まれる。途中で「忘れてくれ」と引き下がるボブに不満そうなカール。やっぱカールの方が鈍い(笑)。結果、引き下がったボブに名簿をさりげなく渡すケイのカッコ良さ!
スローンの下で働く簿記係の女性は、スローンに迫るための重要人物。
同じ社員のサリーのエビソードは笑えた。歓心を買いたくて彼女の家にまで言って「カナック投書」の話をしてしまったクローソン。それを逃さずうまくフォローするブラッドリー。

ボブとカールの出した記事自体では、まだニクソンにまで迫る事が出来ず、その時点ではブラッドリーが記事の矢面に立たされるが、二人を守るその姿勢にシビれた。何と言ってもブラッドリー主幹が、このドラマの軸として非常に効いている。

 

要するにこの映画は、ニクソン自身が再選に向けて民主党陣営への妨害工作を指示した、という大事件追及への端緒を掴んだ、ジャーナリストへの最大の賛辞をまとめたもの。
最後の「尻切れトンボ」感が却って好ましい。

 

ディープスロート。元々は女性が喉の奥でアレをナニする隠語として、男性には耳馴染みがいいが、この事件で内部通報者の意味づけがなされた。

そういえば「Xファイル」にもディープスロートってオッサンが出てたなー(結局モルダーの父親)

 

ちょっとツッコミ。
ボブが最初にディープスロートと話をした時、弁護士リディの件と、ハントが2万5千ドルを弁護費用として出した件は、それ以前のやり取りの中で全く出て来ていない。
膨大な情報の海の中でのやりとりなので無理は言えないが、これだけキッチリ作ってある中で、ここだけがちょっと引っ掛かった。

 


実話を拾う場合はこちらを参考に

 
ウォーターゲート事件とは?
実話は映画よりも面白い・・・・・

ウォーターゲート事件(ウィキペ)

 

ディープ・スロート (ウォーターゲート事件) ウィキペ

 


オマケ
ディープ・スロート (性行為)
なるほど・・・・

 

deep throat の具体例。いやはや・・・・

 

 

 

 

 

 

 

レディ・プレイヤー1 2018年 アメリカ

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ネタバレ注意

監督 スティーヴン・スピルバーグ
脚本 アーネスト・クライン、ザック・ペン
原作 アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』

 

キャスト
ウェイド・ワッツ / パーシヴァル       - タイ・シェリダン
サマンサ・クック / アルテミス          - オリヴィア・クック
ノーラン・ソレント                          - ベン・メンデルソーン
ヘレン・ハリス / エイチ                  - リナ・ウェイス
アイロック                                    - T・J・ミラー
オグデン・モロー / 案内人             - サイモン・ペグ
ジェームズ・ハリデー / アノラック    - マーク・ライランス
ゾウ / ショウ                               - フィリップ・チャオ
トシロウ / ダイトウ                        - 森崎ウィン
フナーレ・ザンドー                         - ハナ・ジョン=カーメン
リック                                          - ラルフ・アイネソン
アリス                                         - スーザン・リンチ
レブ                                           - レティーシャ・ライト
キーラ                                        - パーディタ・ウィークス

 


テーマ曲JUMPと全体あらすじ

 

 

ウェイド・ワッツ。2027年生まれ。両親に死なれ、アリス叔母さんとオハイオ州コロンバスに住んでいる。


2045年現在、コロンバスは世界一発展した街。
現実は重くて暗い。みんな逃げ場を求めている。廃車置き場の一角がウェイドの居場所。
ジェームズ・ハリデーとオグデン・モローが立ち上げたゲーム会社「グレガリアスゲーム社」により提供された超現実VR世界「オアシス」。

人類の大半がその世界に没入。
オアシスの中では自由なアバターを選ぶ事が出来、ウェイドは「パーシヴァル」を名乗る。友達のエイチ。リアルで会った事はない。

 

レースの時刻が迫っているとエイチに言うパーシヴァル。ハリデーが仕込んだこの世界では、レースや戦いによりコインを稼ぐシステム。そのコインで様々なアイテムが揃えられる。
ハリデーとモローにより2025年に作られたオアシスだが、モローは数年で身を引き、ハリデーが教祖的存在として富も集中させた。

 

2040年1月7日、ハリデーは死んだ。その遺言。
VR世界の中に隠しアイテム「イースター・エッグ」を残し、それを見つけた者に彼の全財産5000億ドル超とオアシスの全運営権を譲るという。
ハリデーがオアシス内でのアバター、全知全能の神「アノラック」として三つの鍵を授ける。それを手にして扉を開けた者がその権利を得る。

 

三つの鍵を見つけるのが課題。だがこの5年間誰も手にしていない。
一つ目の鍵を得るための方法が判っている。それは定期的に行われるレースにゴールインする事。

だが難しすぎてまだ一人もゴール出来ていない。
ガンター(エッグ・ハンター)は個人ベースだけでなく企業からも参加している。その筆頭はIOI(InnovativeOnline Industries)。ゲームソフト他多岐に亘る総合企業。多数の職員をプレーヤーとして使っており、6で始まる番号で呼ばれているためシクサーと言われている。

会社のトップはノーラン・ソレント。

 

レースの開始。パーシヴァルはデロリアン、エイチはモンスタートラック等。すぐ隣にオートバイに乗った若い女。エイチが「アキラのバイクだぜ」。あの有名なアルテミスらしい。


コース途中で妨害する恐竜やキングコングたち。それをかわしながら走るパーシヴァルだが、先回りするキングコング。

レースシーン

アルテミスも快調に走る。
ゴール直前まで来た時、キングコングの手ではじき飛ばされるパーシヴァル。その直後から走り込むアルテミス。
このままではキングコングに弾かれると、とっさにアルテミスの腕をつかんで倒れるパーシヴァル。バイクはそのままジャンプし、キングコングに握り潰された。

不満そうなアルテミスに、エイチが修理してくれる、と彼のガレージへ案内するパーシヴァル。エイチは改造のエキスパート。

僅かな会話で彼女と好みが合っているのを感じるパーシヴァル。エイチが修理してくれたバイクに乗って去って行くアルテミス。

 

男に声を掛けられて現実世界に戻るウェイド。アリス叔母さんの愛人リックにグローブを勝手に使われて、その上失敗を責められる。家を買う金をつぎ込まれて逆上するアリス。

 

アルテミスの言った「ハリデーはルール嫌い」の言葉が気になっていたウェイド。
アバターになってハリデー年鑑を訪れるパーシヴァル。

遺言と同時に開設された書籍、映像等ハリデーの情報全てが判る資料館。当初は盛況だったが、今ではほとんど誰も来ない。
逆説的に歓迎する案内人に、2029年の情報を要求するパーシヴァル。再生されるハリデーとモローの会話と、ホログラム映像。モローがオアシスから去る直前のもの。

案内人に言わせると「もう千回も聞いた」。
諦めて帰ろうとするパーシヴァルの耳にハリデーの声。
後ろに進んじゃいけないのか、たまには・・・・猛スピードで後ろに向かって逆戻り。
慌てて巻き戻しを頼むパーシヴァル。
・・・猛スピードで後ろに向かって逆戻り。ビルとテッドみたいに。

 

次のレースのスタート。例によってアルテミスも来ている。全員スタートした時、パーシヴァルだけが止まっていた。それをバックミラーに捕えるアルテミス。
パーシヴァルが猛スピードでバックさせると、路面が傾いて車は地階へ吸い込まれた。
そのままバックで基本コースの下を走って行く。上で走る様子がレイヤーを通して見え、車が次々と潰されて行く下を突っ走るデロリアン。
最後の、ゴール前のキングコング。その直後で上のコースに上がる斜面。地上に出ると目の前がゴール。

ゆっくりロータリーを回るとアノラックが現れて「いいレースだった、パダ=ワン」と言って一つ目の鍵を授けた。そして第二の鍵のためのヒントを記した巻物が与えられる。

 

掲示板に初めて名前が載ったパーシヴァルに注目するソレント。

「探し出せ!」
IOI社内での経営会議。ゲームに勝つ事が経営安定に必須。

株価も下がり傾向。

 

コイン10万をゲットして有頂天のパーシヴァル。手榴弾、キューブ、ログイン用のスーツも買った。

始末屋のアイロックを訪ねるソレント。強力なシールドを張れる天球の説明をするアイロック。

 

ボードにはトップ5の名前。

2番アルテミス、3番エイチ、4番ダイトウ、5番ショウ。

 

鍵と同時に示されたヒント ・自分の作品を嫌う作者 ・飛ばなかったジャンプ ・足跡をたどり過去から逃れよ、さすればヒスイの鍵は汝のもの。

 

街でヒーロー扱いされるパーシヴァル。大男に引っ張られて物陰へ。アルテミスの別アバター。変装ぐらいしろ、とのアドバイス。
ハリデー年鑑に行く二人。オアシスがリリースされる6日前の、2025年12月2日。ソレントは当時インターンとしてハリデーの下に居たというのが売り。それでIOIに入ってシクサーの指揮を執っているが、そんなのは大ウソ。せいぜいコーヒーの好みを知ってるぐらい。

 

案内人に、デートのくだりへの早送りを指示するパーシヴァル。ハリデーがデート?と驚くアルテミス。
モローとハリデーの会話。相手はキーラ(アバターネーム)。本名はカレン・アンダーウッド(モローの奥さん)。踊りに行きたいと言うから、二人で映画を観に行った。肝心な事を言えよというモローに「話すような事は何もないよ」


デートは一度だけ。それもモローが結婚するずっと前。でも、彼女が亡くなってもキーラという名はハリデー年鑑に一度も出て来ない。

この一回だけ。
案内人が否定すると「コイン全部賭けていいよ」とパーシヴァル。

だがそれは案内人の負け。コイン一枚を渡す案内人。
告白するチャンスを逃したハリデー。コンテストの大きなヒントがここにある気がする、とパーシヴァル。
別れ際に、木曜夜10時ダンスクラブへ誘うアルテミス。

 

キーラの事を話したパーシヴァルに、何で話した、と不満なエイチ。サイバー世界の女に入れ込むとロクな事がない、と忠告。
デートに着て行く服の相談をするパーシヴァルは、バカルー・バンザイ映像)の服で呆れられる。

 

ダンスクラブでの二人。バカルー・バンザイの服をイケてると褒めるアルテミス。客として来ているアイロック。盗聴していた。
ここはオアシスで最初に出来たもの。建て始めたのはハリデーがデートした直後から。
キーラは踊り好きだった。ハリデーはここに誘いたかった。いわばバーチャル・デート。だけどデートはあれっきり。だから作品を嫌った?
じゃあ飛ばなかったジャンプは?(回りではジャンプしまくり)

 

私たちだけが鍵を持っているから、何か起きるかも知れない、と踊り出す二人。体のあちこちを刺激されて興奮するパーシヴァル。
リアルの世界でも逢いたい。君が好きだ!と告白し「僕はウェイド」と口走ってしまうパーシヴァル。。
慌ててそれを止めるアルテミス。

だがもう遅い。「バカ郎め、ペラペラと」とアイロック。

 

ダンスホールに突然武装したIOIの人間が多数襲って来た。襲われる二人。そんな中でも思いを話すウェイドに「夢に恋しているの!」と諭すアルテミス。
ウェイドは思い出してゼメキスキューブを投げた。全てを60秒前に戻せる。「出し惜しみするな!」とアルテミス。

何とか追っ手から逃れた二人。

アルテミスは自分の境遇を話し始めた。
私はIOIを止めたいの。私のパパは徴収センターで死んだ。ギヤを借りて借金作って、センターで働いて返す筈だった。だけど借金は膨らむばかり。パパは病気になってセンターから出られないまま死んだ。
あんたはリアルの世界に生きてない、と断じられるパーシヴァル。

 

二人を逃がした事でソレントに責められるアイロック。だが最近Xスーツを買ったウェイド、という情報でパーシヴァルの正体はバレていた。

 

ギヤにハッキングされ、ホログラムとしてソレントの前に引き出されるウェイド。エッグを渡す条件でIOIへスカウトされるが、言下に断る。専用ギヤの袖にパスワードのメモを貼り付けているソレント。
オタクと話を合わせようと、イヤホンの指示で喋るソレントだったが、それを簡単に見抜くウェイド。
君の正体は判っている、とソレント。住所も知っているとの言葉に、ゴーグルを外して家に走る。
だがミサイルが撃ち込まれ、崩れる建物。叔母は死んだ。

 

仲間に危険を知らせたウェイドだが、顔に刺青の男に拉致される。

目が覚めるとそこには金髪の少女。顔の右半分を髪で隠している。声でアルテミスだと気付くウェイド。本名はサマンサ。彼女たちは反乱軍。IOIが見える場所。
以前アルテミスの時、リアルで会ったらがっかりすると聞いていたので、それを否定して隠したアザを見るウェイド。ゆっくりと流れる人や風に癒される。

 

突然ヒントの意味が判ったというサマンサ。キスしようと思えば出来た。なのに飛び込まなかった。
年鑑に行き、飛び込み損ねたシーンを探す(エイチも合流)。

デートの場所、映画館。
2025年11月23日から27日に観た映画(キーラとデートした週)。「ザ・フライ」のリメイク、「セイエニシス」・・・ヒントを思い出す。

自分の作品を嫌う作者。「シャイニング」。原作者のスティーブン・キングはこの映画を嫌っていた。

 

覚悟なさった方がいいですよ、との警告を受けながら「シャイニング」の世界に入って行く三人。
同じ文章がタイプされた紙が、一枚づつめくられて時を刻む。残された時間は5分ほどしかない。
廊下で双子の少女を見るエイチ。それを追ってエレベータに乗ろうとするのを止めるパーシヴァル。血の滝が沸き上がって流されるエイチ。

壁に掛かった集合写真を掴むが半分に裂ける。
エイチが237号室に入ると、浴槽から出て来た裸の美女が、突然老婆からゾンビとなって襲いかかる、
危うく壁をブチ抜いて助けられるエイチ。
そういえば、キーラの写真を見た、とエイチ。集合写真にキーラが写っていた。過去から逃れよう、飛ばなかったジャンプ・・・・
ハリデーが怖がったのはシャイニングの本でも絵でもない。好きなコにキスする事。飛び込めなかった・・・・

 

「パーティールームよ」と言い、その部屋のドアを開けるアルテミス。
中ではゾンビが空中で踊っていた。その中にキーラが。
どうやって行く? 飛び込むのよ、とジャンプしてゾンビからゾンビに飛び移る。そしてキーラに手を差し伸べる。
「どれだけ長いこと待ったか、分かる?」
そこにアノラックが現れ、アルテミスに第二のヒスイの鍵を渡す。

 

その後IOIが年鑑から「シャイニング」までを突き止め、多くの人間でチャレンジ中。

 

スコアボードによりパーシヴァルもヒスイの鍵を入手した事を知るソレント。追っ手のフナーレは、サマンサをサポートしている顔刺青の男をマークする。

ヒスイの鍵の時に出されたヒント。究極の答えを魔法の数字で割れば、望みのものが悲劇の砦で見つかるであろう。

 

コンテストの肝は、人と人とのつながりだと言うサマンサ。
ハリデーは、オアシスを世界とつないでくれる人に託したかった。そういうメッセージ。だからハリデーの事を誰よりも理解しているアンタなら勝てると思うよ、とウェイドに言う。

そんな時、刺青男の動向からアジトを見つけられる。

逃げるサマンサとウェイド。先にウェイドを逃がすサマンサ。

「これで良かったっていつか判る」。
サマンサを捕らえ宣告するフナーレ。

 

ウェイドが街を歩いていると、大型のバンに遭遇。目指せカギ、目指せエッグ!。そして二人だけに判る合言葉。
「エイチ!」ハンドルを握る相手は大柄の黒人女性。「ヘレンだ、エイチは親父がつけた呼び名」と返す。
バンに乗り込むウェイドだが、ドローンに見つかる。。
それを破壊した男。本名トシロウ(アバター名ダイトウ)。

サマンサからの情報でシクサーズが第三の試練を見つけたとの事。場所はセクター14。
それを引き継いで「だから奴らは全力でセクター14の砦を探している」。その声にウェイドが「ショーか」。11歳の少年、本名はゾウ。

 

主要メンバーが揃ったところで「サマンサを助けに行く」とウェイド。
いい作戦がある、とヘレン。あいつ本人がサマンサを返す様に仕向けた。ソレントのギヤを覚えているか?の問いに「ほぼ完璧に」

 

徴収センターのポッド内でギヤを付けられ、仮想空間で働かされるサマンサ。

ソレントが聞く「第三の試練の内容は?ビデオゲームか何かか?」
「ええ、アタリ2600です。これ用のゲームソフトは何千とありますから、そのどれか。
総当たりでゲームを勧めて行くIOI社員。負けると氷が割れてプレーヤーが水中に沈む。
ソレントに指示され、オジュヴォックスの天球に呪文を唱えて作業エリアをバリヤーで囲うアイロック。

 

IOIオフィスに侵入し、ギヤに入っているソレントをログアウトさせて銃を突き付けるウェイド。実際にはログアウト寸前にソレントのギヤをハッキングして乗っ取り、ホログラム映像でソレントがオフィスに居ると思い込ませていた。

 

サマンサのポッド位置とアクセスコードを聞き出して、サマンサに通信を入れるウェイド。
サマンサは第三の試練が惑星トゥームだと教え、そこが天球でシールドされている事も知らせた。解除方法を教えられて脱出したサマンサは、シクサーズのギヤを使い、ソレントのバスワードでログイン、シールド解除にトライする。

 

ソレントがホログラムに気付き、あわててサマンサを捕らえたポッドに行くが既にいない。
フナーレを叱咤するが「相手はまだ子供ですよ」と反論するフナーレ。

ネットでオジュヴォックスの天球OFFのための呪文をゲットするサマンサ。

 

ウェイドは、パーシヴァルとしてVR世界全体にメッセージを流す。ソレントの悪行暴露と、惑星トゥームへの集結。
エイチのアイアン・ジャイアントが起動。

次々とゲームをこなして行くシクサーたち。
次の「アドベンチャー」になった時、1分以上経過。

「このゲームで正解だな」

 

天球のバリヤーに押し寄せる援軍のアバターたち。心配するソレントに「一千万年はもつ」とアイロック。
だがドローンを介してサマンサが呪文を唱える。それが三回繰り返された時、バリヤーが消えてみんながなだれ込んだ。
サマンサがウェイドに、IOIが「アドベンチャー」をやっていると伝えた。ハリデーがイースター・エッグを隠した最初のゲーム。

エイチの車が特定された。2036年モデルの郵便トラック。

 

惑星トゥームでの激しい攻防。

ラスボスとしてソレントがメカゴジラに変身。
ダイトウに加勢を頼むと「俺はガンダムで行く!」


ガンダムとメカゴジラとの戦い。だがガンダムは短時間しか戦えない。そして消失した。アルテミスが捨て身でメカゴジラのコクピットに手榴弾を投げ込んで爆破。

 

ゆく手に亀裂が出来、アイアン・ジャイアントが自ら橋になってパーシヴァルとショウを通す、力尽きて溶岩の中に没するアイアン・ジャイアント。最後に残る突き上げた親指。

 

サマンサが指令本部に居ることがばれ、ソレントが探し始める。
ウェイドは、実世界でのサマンサの危機を感じて、ログアウトするように言うが、アルテミスとして言う事を聞かない。
君を愛している、後は任せてと言い、次いで「これで良かったといつか判ると言ってアルテミスを撃つパーシヴァル。
ギヤが停止し、ゴーグルを外すサマンサ。ソレントはすぐ後ろに迫り、逃げ出すサマンサ。

ゆく手を阻む敵に、かつて買っておいた手榴弾を使うパーシヴァル。敵は一掃された。

 

一方「アドベンチャー」を全クリしたシクサーだが、氷が割れて落ちる。
「勝たなくていいんだ」とパーシヴァル。鍵は目に見えぬよう迷路の奥の秘密の部屋に隠しておいた。

そこに現れるソレント。鍵を渡せば口座に5千万入れる。当然断るパーシヴァル。
全てを清算するためにソレントは、オアシス全てのアバターを殺す爆弾「カタクリスト」を爆発させた。

 

だが、何故かパーシヴァルだけが生き残っていた。そのポケットに25セントコイン。案内人がくれたコインは特別なものだった。
そのライフで「アドベンチャー」ゲームを再開するパーシヴァル。その様子は全世界に配信されている。

外を歩いているサマンサをダイトウが見つけて車の中に入れる。ウェイドとの再会。走り出すトラック。だがドローンに見つかった。
フナーレからトラック発見の連絡を受け、自ら殺しに出るソレント。

 

タマゴを拾ってゴールに戻ったパーシヴァル。

そこにアノラックが現れる。
水晶のカギを受け取ろうとするパーシヴァルだが、IOIの車の体当たりで体が揺れて取れない。
「要るのか、要らんのか・・・・」とアノラック。

 

鍵を受け取ると、パーシヴァルはVR上で本名のウェイドを名乗り、コロンバスに集まるよう応援を頼む。
そしてゲットした三本の鍵を、順に鍵穴に挿して行った。

ハリデーが現れて「君こそがこのオアシスの所有者だ」と言って契約書とペンを差し出す。

 

「これで終わり?」違和感を持つウェイド。
「このペンも契約書も・・・・これはモローにグレガリアスの株を放棄させたシーンだ」
ハリデーはずっとその事を後悔してた。まだ終わりじゃない。

あなたと同じ過ちは犯さない。

 

「そうか、それを確かめておきたかったんだ」とハリデー。

場面が変わってハリデーが少年の頃の映像が再現される。大昔の自分を時々眺めているのが好きだった。
そして壁の赤いボタンを見せた。
このボタンを押すと、オアシスの全てのシミュレーションが停止し、ワームソフトがバックアップサーバを消去する。
つまり君はオアシスを永久に消し去る力を手にした。

 

その時、外の世界でバンに体当たりするIOIのトラック。すんでのところでボタンを押しそうになるウェイド。
「初日でうっかり、なんてのは勘弁してくれ・・・・」

「宝を授けよう」とハリデーが探し物を始める。だがどこにあるのか?・・・・

 

オアシスを作ったのは、現実世界の居心地が悪かったから。
回りの人たちとどう繋がっていいか判らなかった。ずっとびくびくしながら生きて来た、自分の命が終わると知るまでは・・・・
でもようやく判った。確かに現実は辛いし苦しいし、いいことばかりじゃないが、唯一現実の世界でしかうまいメシが食えない・・・
なぜなら、現実だけがリアルだから。言いたいこと判るか?
「・・・・判ります」エッグを手渡すハリデー。

 

バンのドアを開けてソレントがウェイドに銃を向ける。だが彼がエッグを手にしているのを見て体が動かない。

警察が到着してソレントを確保。

 

ハリデーに「あなた、アバターじゃないよね?」「いや」「ハリデーはホントに死んだの?」
「死んだ」「じゃ、あなたは何?」
「さよならパーシヴァル、ありがとう、私のゲームをプレイしてくれて」と言って少年の姿の自分と共にドアの向こうに消えたハリデー。

 

バンのドアが開き、そこに老紳士の姿が。
「オグデン・モロー?・・・」「オグと呼んでくれ」
そして君に会いたいという人が居ると言うモローに「先にやる事がある」と言ってまたドアを閉め、サマンサとキス(僕はハリデーとは違う)。

 

再びドアを開けた時に警察が、ソレントの自白動画の事を聞くが、ウェイドは知らない。実はエイチが録画して警察に送っていた。
一方を見るとオグの後方に多数の紳士。グレガリアスゲーム社の弁護士だという。
契約書を持って「株は仲間と分ける。一緒に運営して行く」とウェイド。
「いい選択だ」とオグ。

 

来るのが早かったオグを不思議に思ったウェイド。

実は案内人がオグだった。
「私はコンテスト作りには関与していない、だから特定の人に肩入れしてもルール違反にはならない。だが君は自力でキーラが鍵だと気付いた」
「鍵はキーラじゃなくあなたですよ。あなたがバラのつぼみだった。ハリデーが一番悔やんでたのは、親友を失ったこと」
「ジェームズは言ってたな。オアシスは決して一人でやるゲームじゃない、と」オグが言う。

 

トップ5はオグデン・モローと包括的コンサルタント契約を結んだ。給料はコイン1枚(25セント)。
オグの助言で徴収センターとオアシスを切り離した。結局徴収センターは閉鎖。

 

そして火曜と木曜をオアシスの休みとした。
人には現実で過ごす時間も必要。
だってハリデーが言ったように、現実だけが本当の意味で”リアル”なんだ。

 


感想
VR(仮想空間)での冒険を描いた映画。
原作はアーネスト・クライン原作の「ゲームウォーズ」。
「オアシス」の創設者ハリデーが、自分の全財産とオアシス運営権を譲るためのクイズを残して死んだのが話の発端。
オープニングからVan HalenのJumpで、一気に80年代の雰囲気に飲み込まれる。そう、2045年の世界と言っても、ここは80年代の意識で未来を想像したもの。
だからCG表現もさほどびっくりする様なものはなく、テレビゲーム的なイメージ。却ってそこを狙っている。
Jump以外の曲はコチラ。特にTears For FearsのEverybody Wants To Rule The Worldが好き。

 

ゲーム中、車がクラッシュしたりすると、コインがぶちまけられ、周囲の者がそれをゲット。

子供たちが小さい頃一緒にやった、スーパーマリオを思い出した。
ストリートファイターも一緒にやったので「波動拳」なんて出て来ると気分が上がる。

 

主人公が三つの鍵を解いて、見事ハリデーの財産とオアシスの運営権を手にする。絵に描いた様なハッピーエンド。そういう話なんだから、そこにケチをつけるのは止めよう。

 

この映画での基本テーマは「友情」。モローと違ってハリデーは内向的で、ゲームは作ったが友達や恋人作りの点でハンデがあった。モローとの決裂もその延長線上にあったのだろう。

その事に対する深い後悔。
だがモローもその点は判っていて「ハリデー年鑑」を維持する中で、これはと思う人物を探していた。
エンディングはちょっと優等生的なまとめだが、許せる範囲。

 

ここで重要なヒントを与え続けるのは「ハリデー年鑑」。ハリデーの情報全てを詰め込んだ資料館であり、開設当初は注目されたものの、現在ではほとんど訪れる者もいない。
そんな所にコンスタントに足を運ぶパーシヴァル。ハリデーに心酔するその集中力が、第一のヒントを得る元になった。

 

第二の鍵のヒントは「シャイニング」の中にあった。公開後の情報で、一応この映画のおさらいをしていたのが役立った。作者が嫌っていたという所で思わずニヤリ。原作者のスティーヴン・キングは、キューブリックが大幅に内容を変更した事に対し、批判を繰り返していたのをウィキペディアで読んでいた。
ただ「飛び込む」の解釈でゾンビに飛び移る、というこじつけはイマイチか?。


ちょっとツッコミ
三つめのヒント「究極の答えを魔法の数字で割れば、望みのものが悲劇の砦で見つかるであろう」で、ゲームソフトの中に答えがあると導いた根拠がイマイチ判らない。

これはIOIが先に総当たりでゲームつぶしを始めていたので、規定路線で観ていたが、考えてみればおかしな話。
最終的に「アタリ2600」のゲームソフトの中に答えがあるというのが結論なのだが・・・

 

もう一つ、年代的な疑問。2040年にハリデーが死んで、その15年前の2025年にオアシスが開設された。モローの外見から言えば、仮に現在75歳とすれば、同年代のハリデーが死んだのが70歳。

となるとオアシスを開設したのが55歳。そんな時に映画館でキーラとの初デート?シャイニングの中でのキーラは多めに見ても30代ぐらいにしか見えない。
そう考えると、ハリデーとキーラとのエピソードは、もっと若い時のものでないとオカシイという事になる。
ハリデー年鑑の過去映像の二人から見て、デートしたのはギリギリ40代の設定ぐらいが妥当か。


最後にウェイドがモローに言った「バラのつぼみ」は「市民ケーン」に絡む言葉のようだが、唐突でイマイチ判りづらい。
後日検証→「バラのつぼみ」は、ハリデーがクイズのヒントの事を称して言った言葉の様だ。


VR世界での物語と、実世界での出来事が交互に現れ、ちょっと混乱。特にソレントが、実世界とVR内でのアバターの行動との間でゴチャゴチャした(同時に行動していた場面があった様な)。
サマンサがポッドから脱出して、ソレントのパスワードでログインした時も、もしそうならソレントのアバターになる筈だろ!とツッコミ(まあいいけど・・・・)

たくさんの映像が盛り込まれていると言う事で、探してみたが、とりあえずマッハ号は見つからず。こっちの画像で確認したが、そんな所に⑤のマークは付いとらんで。


まあ、対象年齢を十代前半と設定して考えれば、本当に良く出来たSF映画だと思う。もし自分の子供時代にこれを観たら、一生忘れられない映像体験になるだろう。

 

しかし、このお話しをオトナ目線で考えると、そもそも「オアシス」というOSを作っただけで、ハリデーが死ぬ時点でそれほど莫大な財産が稼げたという事は、よほど収益が出る様な仕組みを考えたという事(例えば巧妙な課金システム)。案外ゲスな爺さんだったか・・・

 

それにIOIなんていう、暴利をむさぼる悪徳業者をはびこらせる温床も放置していた。
徴収センターとオアシスを切り離すなんて、そもそもリンクさせていた事自体がゲーム破産者製造の元凶だった訳で・・・・

 

まあ、この辺は原作との兼ね合いもあるだろうが、あまり突っ込んで考えると興醒めするな・・・・・

 

 

 

ニーチェの馬 2011年(日本公開2012年) ハンガリー、フランス、スイス、ドイツ合作

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ほくとさんのところで3月頃アップされ、ずっと気になっていた。

 

監督 タル・ベーラ、アニエス・フラニツキ
脚本 タル・ベーラ、クラスナホルカイ・ラースロー
音楽 ヴィーグ・ミハーイ

 

キャスト
ボーク・エリカ      :娘
デルジ・ヤーノシュ  :馬の飼い主・父(オルズドルフェル)

 


予告編

 

最初のナレーション
1889年1月3日、トリノでの事。フリードリヒ・ニーチェはカルロ・アルベルト通りの部屋を出た。
散歩か、それとも郵便局へ向かったのか。その途中間近に、あるいは遠目に強情な馬に手こずる御者を見た。
どう脅しつけても馬は動かない。ジュゼッペか、カルロか、おそらくそんな名前の御者は烈火の如く怒り、馬をムチで打ち始めた。
ニーチェが駆け寄ると、逆上していた御者は、むごい仕打ちの手を止めた。
屈強で口髭を蓄えたニーチェは、泣きながら馬の首を抱き抱えた。
ニーチェは家に運ばれ、二日間無言で寝椅子に横たわっていた後、お約束の最期の言葉をつぶやいた。
「お母さん、私は愚かだ」
精神を病んだ最後の10年は、母と看護師に付き添われ、穏やかであった。馬のその後は、誰も知らない。


一日目
吹きすさぶ風の中、荷車を引く汚れた馬。

御者は左手で手綱を持っている。


家に着き、娘が来て馬から荷車を外すのを手伝う。小屋に馬と荷車を入れ、母屋に入る二人。
父の着替えを手伝う娘。父の右手が動かないので、作業は面倒で時間がかかる。


夕食の支度をする娘。じゃがいもを二個鍋に入れ、水を入れてかまどにかける。その間、窓際に座って外を眺める娘。
茹でたイモをそれぞれ木の皿に置き「食事よ」
片手で器用に皮を剥き、細かくしながら口に運ぶ父。時折り缶の塩をかける。娘も黙って食べる。


食事が終り、食卓から離れると窓際に座って外を見る父。娘は残飯を片付ける。
「もう寝ろ」
闇の中で、父が木喰い虫の音が聞こえないと娘に言う。58年間聞こえ続けた音がぴたりと止んだ。

 

ナレーション
娘はあおむけになって毛布を被り、オルズドルフェルは横になり、窓を見据えた。
娘は天井を、父は窓を見つめている。瓦が落ちて、地面で砕ける音が、時折り耳に届く。暴風が唸りを上げ、容赦なく吹き荒れている。

 

二日目
水を汲みに井戸へ行く娘。蓋を外し、ロープを引き上げてバケツを持ち上げる。持って来た二つのバケツに半分づつ入れ、汲み上げ用のバケツを再び落とす。もう一回汲み上げてから母屋に戻る娘。
その後父の着替えを手伝う。酒の瓶とコップを準備する娘。父は二杯、娘は一杯飲む。
顔を洗う娘。
外に出掛ける父。荷車を出し、馬を繋ぐ作業を娘も手伝う。
父が手綱を馬の尻に当てるが、馬は進もうとしない。イラついて何度も叩く父に「いくら叩いても無駄よ」
なおも手綱を振る父に「やめて」と鞍を外し始める娘。結局馬と荷車は小屋に戻された。
着替えのためにベッドに戻る父。「来い」と娘を呼ぶが来ない。イラついて靴を脱ぎ捨て、再び「おい!」
娘が来て、袖にシャツを通す。なおも威嚇しようとする父に「いい加減にして」
左手だけで薪割りをする父。娘は、たらいに湯を汲んで洗濯。父が張ったロープに洗濯物を干す娘。


作業をする父(革のベルトの加工?)。
「食事よ」。それぞれイモ一個の食事を済ませ、父は窓の前に座る。

 

戸を叩く音。娘を行かせる父。男が入って来てパーリンカ(焼酎)を分けてくれと言う。
娘に瓶を渡して「差し上げろ」と指示する父。
なぜ町に行かずに?と聞く父に「町は風にやられた」と男。
めちゃくちゃだ、全てダメになった、と続ける男。

 

何もかも堕落した。人間が一切を駄目にし、堕落させたのだ。
この激変をもたらしたのは、無自覚な行いではない。無自覚どころか、人間自らが審判を下した。
人間が自分自身を裁いたのだ。神も無関係ではない。あえて言えば加担している。
神が関わったとなれば、生み出されるものは、この上なくおぞましい。
そうして世界は堕落した。

俺が騒いでも仕方ない。人間がそうしてしまった。
陰で汚い手を使って闘い、全てを手に入れ、堕落させてしまった。
ありとあらゆるものに触れ、触れたものを全部堕落させた。
最後の勝利を収めるまで、それは続いた。手に入れては堕落させ、堕落させ手に入れる。
こんな言い方もできる。触れ、堕落させ、獲得する、または-触れ、獲得し、堕落させる。
それがずっと続いて来た。何世紀もの間、延々と。
時には人知れず、時には乱暴に。時には優しく、時には残忍に、それは行われて来た。
だがいつも不意討ちだ。ずるいネズミのように。
完全な勝利を収めるには、闘う相手が必要だった。
つまり優れたもの全て、何か気高いもの・・・分かるだろう?
相手をすべきではなかった。闘いを生まぬよう、それらは消え去るべきだった。優秀で立派で気高い人間は、姿を消すべきだったのだ。
不意討ちで勝利した者が世界を支配している。
彼らから何かを隠しておく-ちっぽけな穴すらない。
彼らはすべてを奪い尽くす。手が届くはずがないものでも、奪われてしまう。
大空も我々の夢も奪われた。今この瞬間も、自然界も、無限の静寂も。不死すら彼らの手の中だ。
全てが永遠に奪われた。
優秀で立派な気高い人間は、それを見ていただけだ。その時彼らは、理解せざるを得なかった。この世に神も神々もいないと。
優秀で立派な気高い人間は、最初からそれを理解すべきだった。
だがその能力はなかった。信じ、受け入れたが、理解することまでは出来なかった。途方に暮れていただけだ。
ところが-理性からの嵐では理解出来なかったのに、その時一瞬にして悟った。
神も神々もいないことを。この世に善も悪もないことを。
そして気付いた。もしそうなら、彼ら自身も存在しないと。
つまり言ってみれば、その瞬間-彼らは燃え尽き、消えたのだ。
くすぶった末に消え失せる火のように、片方は常に敗者で、もう片方は常に勝者だ。
敗北か勝利か、どちらかしかない。
だがある日、この近くにいた時、俺は気付いた。それは間違いだったと。
俺はこう思っていたのだ。”この世は決して変わらない、これまでも、これからも”と。
だが間違いだった。変化はすでに起きていたのだ。

 

「いい加減にしろ。くだらん」と断じる父。

男は酒を受け取ると、金を払って去って行った。

 

三日目
目覚めて着替えをする娘。かまどに火を入れる。そして水汲みに行く。戻ってから父の着替えの手伝い。
その後パーリンカを飲む。父は二杯、娘は一杯。
小屋へ行き、馬小屋の敷き藁の掃除。

糞を一輪車で外に運び出す娘。
「食べないわ」と娘。「今に食う」と父。
再び食事。食事中に、外の気配に気付く二人。

父の指図で外に行く娘。
二頭立ての荷車で乗り付けた流れ者の男女7~8名。井戸の水を飲み始めた。娘が「出て行って」と言うが聞かない。父が斧を持って流れ者たちに近づく。流れ者たちは荷車に戻り、悪態をつきながら去って行った。その時、

娘が男から何かを貰う(水のお礼)。

 

戻って食事の片付けを終え、貰ったもの・・・本を開く娘。

ひとつ。教会という聖なる場所で、ただひとつ許されるのは、神に対する畏敬の念を表す行為。それだけである。
教会という場所の神聖さにそぐわない事柄は、ことごとく禁じられている。しかしながら、聖なる教会の内部において、間違ったことが行われた。聖なる教会は踏みにじられ、毎週こうして教会に集う信徒の名誉を、著しく傷つけた。

そうした理由から教会では、礼拝を行うことができない。いつの日かまた懺悔の儀式を経て、これまで行われた、いくつもの間違いが改められ、正される時が来るまでは。

そうしてミサの執行司祭は、集まった信徒らにこう告げた。主はみなさんと共におられます。

朝はやがて夜に変わり、夜にはいつか終わりが来る。

 

ナレーション
風は依然として衰える気配がなく、同じ方向から執拗に襲いかかる。もはや大地に風の行く手を遮るものはない。もうもうたる土煙だけが荒野を突進し、乾ききった土埃の塊が次々に押し余去る。風は不毛に地に解き放たれ、猛然と吹き荒れている。

 

四日目
娘がかまどに火を入れる。そして外へ水汲みに行くが、急に戻って来て父に「大変なことが」。
下着にコートだけ羽織って父が井戸を見に行く。干上がっていた。
「ちくしょう」と一言。そして「ふたをしろ」。
戻って娘に酒の用意をさせ、いつもの様に二杯飲んでから、しばらく動かない。
馬小屋に行く娘。相変わらずエサを食べていない。「お前はどこへも行かない」と言って敷き藁の掃除。
せめて水だけでも、と言ってバケツから掬って水を飲ませようとするが、全く飲まない馬。

荷造りの準備を始める父。娘に服、食器、裁縫道具をまとめろと指示。
どうして?と言う娘に「ここには居られない」。毛布とパーリンカ、じゃがいもも。
荷車を引いてこいと言われて、小さな荷車を母屋の玄関まで持って来る娘。荷物を積み込み、父が馬を引いて来

た。荷車の前でなく、後ろに繋ぐ。


そして出発。娘が前で引き、父も横から押す。

馬は繋がれて付いて行くだけ。
暴風の吹く中、小さな丘を登って行く荷車。そして見えなくなった。

 

しばらくして再び荷車の姿が見える。戻って来た。
再び荷物を部屋に戻す。荷車を片付ける父。片付けが終り、窓から外を眺めている娘の顔が、次第にクローズアップ。

 

五日目
朝が来て、体を起こす父。いつもの様に娘が衣類を抱えてベッドの上に置き、父の着替えを手伝う。
そしてパーリンカを二杯飲む父。その後瓶から直接飲む。残された瓶。
馬を見に行く父と娘。やっと立っているが、ほとんど動かない馬。父は馬の首にかけてある、鞍を止めるための縄を外した。
外に出て、小屋の扉を閉める娘。扉のクローズアップ。

 

暴風吹きすさぶ窓に顔を向けている父。

だがうなだれている。娘は縫い物。
食事の準備をした娘だが、父は少し食べただけで、再び窓に向かって座る。

どうしたの、真っ暗だわ、と娘の声。ランプを点けろ、と父。ものに躓き「忌々しい」と娘。
かまどの火を取って、ランプに付ける。壁のランプにも点灯。
しばらくして居間のランプが再び消えた。

かまどの火を入れても点かない。
なぜ油を入れておかん?と言う父に「入れたのよ」
娘から火種を受け取って父が再び点けようとするが、火は消えた。
「何が起きているの?」「わからん」
「ねるぞ」「火種まで消えたわ」「また明日やってみよう」

 

ナレーション
闇の中、手探りでベッドを探す音がする。彼らは横たわり 頭から毛布をかぶる。息づかいが聞こえる。他には何も聞こえない。
嵐は去り、辺りは静まりかえっている。静寂がすべてを呑み込む。

 

六日目
食卓の前に父と娘。

父がイモの皮を剥こうとするが出来ない(茹でてない)。
「食え」動かない娘。
「食わねばならん」と言ってイモをかじる父。だが一口だけでイモを下に置き、しばらくなで回していたが、それも止める。
沈黙と静止。そして暗転。ロールしないエンドクレジット。

 

 

 

感想

はっきり言って、ニーチェの事はほとんど知らない。「ツァラトゥストラはこう語った」を書いた哲学者、ぐらいの事しか知らず、気が触れて馬を抱いたなんて話も初めて知った。
ナレーションも「馬のその後は誰も知らない」と言っている事だし、ニーチェからは距離を置いて鑑賞。

モノクロで、退屈な映画、という事前情報もあり、ある程度覚悟していたのだが、あにはからんや、最後まで緊張感を持って観ることが出来た。

 

最初の5分、ただ馬が荷車を引くだけの画面を見つめているうちに、時間軸がリセットされたのか、以後の場面展開のスローさが全く気にならなくなった。

暴風吹きすさぶ、丘陵地に建つ一軒家に住む父娘が過ごす六日間。
暮らしを維持して行くために繰り返される、ルーチンワーク。

それが少しづつ変化して行く。
まず「木喰い虫」の音が聞こえなくなった。そして馬が歩けなくなった。次いで、酒を求めて男が訪れる。
馬は餌を食べなくなり、流れ者が来て井戸の水を拝借。
井戸の水が枯れ、家を捨てて転地しようとするも、何故か舞い戻らざるを得ない事情があった。
ランプの灯が点かなくなり、そして最後の朝を迎える。


高校卒業まで伯父の家で育った。中学に上がる頃までは、家に居た牛の世話を手伝った。だから映画の中の馬を世話するシーンは、細部に亘って過去の追体験。井戸水もかまども、当時の暮らしの中では使われており、そのまま心の中に入り込んだ。

家の中に介護が必要な人が居る家庭では、毎回繰り返される着替えのシーンに胸を掴まれる事だろう。
固定されていると思わせて、カメラの視線は定点ではなく微妙に動いており、緊張が維持される。

 

六日目の朝、イモを茹でる水もなくなり、その先は生命さえ危うくなる。それが判っていて、直前まで続けられる着替えの儀式。
振り返って思い出す、あの丘の向こうには一体何があったのか。流れ者たちも向こうから来た。
最後の場面の絶望感は、今まで観たどの映画の中とも異質。

 

馬は要するに家畜。父親は、前に進めようとして手綱で馬を叩いたが、家を捨てて出ようとする時には、牽引する力を失った馬を、荷車の後ろに繋いだ。
この時点で馬は、家畜ではなく家族のような、同胞としての扱いに変わった。この映画で一番感動したところ。
馬を題名にした理由はここにある、とさえ思う。

 

何か、とんでもないものを観てしまったという後悔も含みつつ、これがもし劇場公開を観ていたら、印象はどちらに転んでいただろうか、と思う。
画面の大きさ、鮮明度はともかく、誰もいないところで、一人で観るという視聴形態が似つかわしい映画だと思った。

 

映画の中身をより理解しようと、酒を買いに来た男のセリフを全て書き起こしてみたが、神の否定と、堕落についての様々な言及。父親が「くだらん」と言い捨てる程度の話だった。

娘が流れ者からもらった書物についても、礼拝を禁じた、一種の宗教否定であり、ニーチェ的な香りは漂うが、それほど深いものはない。

 

結局、中で描かれているもの自体に深い意味はなく、映画をエンターテインメントではなく、実際の時間軸で追体験するという、新たな鑑賞方法を提示したという事か。
だが、この手法が通用する題材は、相当限られるだろう。


例によってツッコミ。

ここまでチャレンジしている割に、途中で挟まれるナレーションの何と陳腐な事よ。
六音階のオルガンの繰り返しに重なる陰鬱なストリングス。もうそれだけで十分なのに、中途半端なナレーションが、それを損なっている。

 

娘が水を汲みに行くシーンで、これだけ風がビュービュー吹いて、寒い事が判っている割りに、外に出てから汲んで戻るまで扉が開いたままなのが、どうにも共感出来ない。普通閉めてから井戸に向かうだろう。
中に居る父親の事を思ったら、余計そう行動する筈。

撮影上の演出としては効果的ではあるが。

 

この娘、ただ服従しているだけで、父親の扱いにあまり愛情がない。そういう意味で戸を閉める事に想いが至らないという事ならばナットク。
父親の方も、常に娘の作業をジロジロ見て、ケチをつけようとしている様にも見えるし、そっちの面でも緊張感があった。

 

 

新聞小説 「国宝」 (19)  吉田 修一

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新聞小説 「国宝」(19)  4/8(451)~5/3(475)
作:吉田 修一  画:束 芋

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第十九章 錦鯉 1~25
国立劇場の舞台にかかっているのは「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」近松門左衛門の書き下ろし。与兵衛に斬られ、油まみれでのたうち回るお吉を演じる喜久雄。

 

舞台裏に引けた与兵衛役の京之助が、付き人をしている一豊に喜久雄の体調を聞く。京之助は共に演じていて微妙な異常を感じていた。

三年ほど前から、喜久雄は舞台以外の仕事を一切受け付けなくなっていた。きっかけは酒造メーカとの専属契約満了。それ以後、恒例行事にさえ出なくなった。
そんなわがままも、舞台での喜久雄が群を抜いて素晴らしく、興行的な成功も収めていたため許された。
それが喜久雄自身を神格化させて行った。

 

楽屋でマッサージを受けている喜久雄を訪ねる京之助。彼の先代の追善公演で、喜久雄に「藤娘」を踊ってもらいたい、との依頼。
六年ほど前になる、客が突然舞台に上って来た時の事件。あれ以来その時の「藤娘」は演じられていない。
京之助側として、先々代の追善の時もやった「藤娘」を、という意向。そうなると頼めるのは喜久雄しかいない。
気楽にそれを承知する喜久雄。元々回りが気遣ってやれなかったという面もあった。
古典も調べており、喜久雄なりに新しい解釈も試したかった。
部屋に置いてある喜久雄の写真集「三代目」を何気なく手に取る京之助。記録的なヒットを続けているという。
ページをめくると喜久雄と俊介のキャッチボールのスナップ。
たまには飲みに出て来いよ、と言う京之助に、この世のものとは思えない景色の中で舞いたいという喜久雄。

 

そんな時期に動き出した「人間国宝」のプロジェクト。1950年に出来た「文化財保護法」に基づき創設された十四分野での「わざ」を持つ者の認定。歌舞伎もその中にあった。
その俎上に喜久雄が乗ろうとしていた。だが一昨年、文化功労者を受けたものの、喜久雄の出目を不快に思う者も居て、人間国宝認定への道は険しい。


二年前、文化功労者となった時の取材にもほとんど対応しなかった。その数少ない取材で語られた喜久雄の半生も、喜久雄にとって空しいもの。

 

「女殺油地獄」の最終幕。出番の寸前に、綾乃の家が火事になっているとの知らせ。孫の喜重が逃げ遅れて火傷を負ったという。だが舞台から逃げる訳には行かない。気になりつつも演じる喜久雄。
幕が下り、化粧を落とす間も惜しんで車に乗り込む喜久雄。
築地の病院に着き、廊下を走る喜久雄。その先に綾乃を見つけて駆け寄ろうとすると。
「お父ちゃんは来んでええ!」と叫ぶ綾乃。
お父ちゃんがエエ目見るたびにうちらが不幸になる、との綾乃の言葉。

ずっと綾乃に憎まれていたのだと思い知らされる喜久雄。

 

綾乃が幼い時「太陽のカラヴァッジョ」の撮影で体調を崩し、市駒のところで静養した時、綾乃と近く過ごした。その時に立ち寄った神社で、長い間祈っている事を聞かれて喜久雄が、歌舞伎がうまくなる様、悪魔と取引したという冗談を言った。その代わり他のものは何も要らない、と。
幸い、喜重は命に別状なく、肩の火傷も移植手術で良くなるとの診立て。そんな説明を、離れたところで聞く喜久雄。

 

それから数ケ月も経ってからの、綾乃からの手紙。京之助一座の追善公演が幕を開けた頃。
喜重が入院した時に、自分が吐いてしまった雑言を恥じる詫びを伝えていた。申し訳なさだけが募る喜久雄。
喜久雄が六年振りに踊った藤娘の、研ぎ澄まされた美しさ。だが、完璧を越えたその完璧な芸が持つ意味。芸のためなら客など要らぬという本末転倒な事態の可能性。

 

一豊の楽屋へ出掛けようとする嫁の美緒。三年に及んだ謹慎が解けた頃結婚した。モデルだったが庶民的な性格。次いで家を出る春江。半月ほど前に足をねん挫して入院している幸子の見舞い。
その幸子に隠し事を覚られる春江だが、軽くいなす。
病院の後、三友本社へ竹野を訪れる春江。書類は揃っている、と竹野。だが無理して屋敷を守る事に消極的。
自宅が担保に入る事を一豊は知らない。
三代目には相談出来ない?と言う竹野に、首を横に振る春江。

 

初雪を迎えて、喜久雄の演目も新しくなった。
歌舞伎に三姫と言われるものがある。「鎌倉三代記」の時姫。これはコミカルな役であり、喜久雄には似合わない。
次いで「本朝廿四季」の八重垣姫。こちらはかつて俊介と新派、歌舞伎に分かれて同時に演じたもの。そして今回喜久雄が演じる「祇園祭礼信仰記」の雪姫。金閣寺に立て籠もった謀反人の人質になる話。

 

初日を迎えた「祇園祭礼信仰記」。謀反人には伊藤京之助。縛られた雪姫の妖艶さ。
そのクライマックスの瞬間、一瞬雪姫の動きが止まり、天井を見上げた。だがその直後、最大の見せ場である、足の爪先で鼠を描く場面に移行し、客席の大喝采。

 

珍しく舞台を観た竹野。喜久雄が化粧を落とす楽屋に顔を出す。
爪先鼠のところで間が空いた事を指摘すると「初日だからな」。
竹野の耳に最近入って来る「近頃の三代目は窮屈そうに見える」との声。雪姫をやれば、喜久雄の一人芝居のようになってしまう。それは他の演目でも同じ。まるで錦鯉を小さな水槽で飼っているようなもの。
それ以上は喜久雄を見て居られず、楽屋を去る竹野。

 

今月も喜久雄の付き人をしている一豊に声をかける竹野。
「いつから三代目はああなんだよ」絞り出すように聞く。
「・・・時々、本当にときどき、ああなるんです」と一豊。
たった今見て来た喜久雄の、ガラス玉のような目。正気の人間の目ではない。
藤娘、六年前のあの事件以来だと言う。目を伏せる一豊。
彰子も、春江も知っていた。知ってて放っておいた・・・愕然とする竹野。「みんな、小父さんが必要なんです!」

 

狂人の目に見えるのが、もしも完璧な世界だとすれば、喜久雄はやっと求めていた世界に立っている。
出してくれ、と言うのを気付かぬふりをしているうちに、鯉はその水槽で澄み切った川を想像して泳ぎ始めた・・・・

 


感想
歌舞伎の世界にどんどんのめり込んで行く喜久雄。

ようやく人間国宝のワードが出て来た。
喜重の火傷で吹き出す綾乃の心の闇。
錦鯉に例えられた喜久雄の精神状態は、次第に崩壊を始めている。

 

この小説も、来月で一年半。ここ数年レビューしている新聞小説の最長は、沢木耕太郎の「春に散る」(505回)。

数日前の新聞で、次の新聞小説の予告が出ていたので、この「国宝」も次章で終わり・・・・か

 

 

 

 

 


アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー   2018年

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監督 アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
脚本 クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー
原作 スタン・リー、ジャック・カービー


キャスト
<アベンジャーズ>
トニー・スターク / アイアンマン      - ロバート・ダウニー・Jr
ソー                                     - クリス・ヘムズワース
スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカ   - クリス・エヴァンス
ブルース・バナー / ハルク           - マーク・ラファロ
ワンダ・マキシモフ                     - スカーレット・ウィッチ
スティーヴン・ストレンジ / Dr・ストレンジ - ベネディクト・カンバーバッチ
ティ・チャラ / ブラックパンサー       - チャドウィック・ボーズマン
ピーター・パーカー/ スパイダーマン   - トム・ホランド
ヴィジョン                        - ポール・ベタニー

<エージェント>
ナターシャ・ロマノフ/ブラックウィドウ      - スカーレット・ヨハンソン
サム・ウィルソン / ファルコン         - アンソニー・マッキー
ジェームズ・ローズ/ウォー・マシン    - ドン・チードル

<ガーディアンズ>
ピーター・クイル / スター・ロード    - クリス・プラット
ガモーラ                  - ゾーイ・サルダナ サノスの娘
ドラックス              - デイヴ・バウティスタ 刺青の大男
グルート                     - ヴィン・ディーゼル(声)枯葉モドキ
ロケット                      - ブラッドリー・クーパー(声)アライグマ 
マンティス                   - ポム・クレメンティエフ 精神攻撃が武器

サノス                        - ジョシュ・ブローリン
<ブラック・オーダー>
コーヴァス・グレイブ      - マイケル・ジェームズ・ショウ
プロキシマ・ミッドナイト - キャリー・クーン
エボニー・マウ             - トム・ヴォーン=ローラー
カル・オブシディアン     - テリー・ノタリー

バッキー・バーンズ / ホワイトウルフ  - セバスチャン・スタン
ネビュラ               - カレン・ギラン サノスの娘、ガモーラの義妹
ロキ                    - トム・ヒドルストン ソーの弟
エイトリ               - ピーター・ディンクレイジ ソーの武器製作者
ウォン                 - ベネディクト・ウォン ストレンジの相棒
ペッパー・ポッツ    - グウィネス・パルトロー スターク社社長
シュリ                  - レティーシャ・ライト ティ・チャラの妹

 


あらすじ
詳細についてはウィキペにイヤと言うほど書いてあるので参照方。

サノスに襲われたソウ。サノスは四次元キューブの中にあるスペース・ストーンを求めていた。兄を人質に取られてキューブを渡すロキ。

ハルクをけしかけ、また一矢報いようとするが殺されるロキ。
アスガルドの民の守護神だったヘイムダルがハルクを地球に送り込む(アスガルド滅亡の経緯は「マイティ・ソー バトルロイヤル」参照)

 

地球。ニューヨークのサンクタムを維持している、ストレンジとウォンの元にブルース・バナーが落ちて来る。

ペッパーと、子供の小ネタで話し合っているトニー。

そこへ時空の扉を開いてストレンジが現れる。後ろにはバナー。

事の状況を説明するバナー。
ビッグバンと共に6つのストーンが生まれた(インフィニティ・ストーン)。スペース、リアリティ、パワー、ソウル、マインド、タイムの6個。
サノスは様々な星を襲って、その住民の半数を殺している。かつてロキをニューヨークに送り込んだのもサノス。
サノスはパワー・ストーンとスペース・ストーンを手にして、今や宇宙最強。全てのストーンを手にしたら未曾有の大虐殺が始まる。指を鳴らすだけで住民の半分を殺せるようになるという。
ヴィジョンのマインド・ストーンも危ない。

 

すぐにロジャースに連絡して仲間の集結を、と訴えるバナーだが、トニーは以前の確執があり気が進まない。
それでもケータイで連絡を入れようとした時、街が騒がしくなった。
巨大な縦ドーナツ状の宇宙船の攻撃。サノスの手下のブラック・オーダーのメンバー、マウとオブシディアン。

ハルクに変身しようとするが、拒絶が起こるバナー。トニーとストレンジが応戦するが、ストレンジが宇宙船で拉致される。


スクールバスに乗っていてこの状況に気付いていたピーター・パーカーは、スパイダーマンになって加勢するが歯が立たない。

戦いの最中でトニーからスパイダーマン用のナノテクスーツを贈られ、戻れと言われるが、成り行きで宇宙船に乗り込む。


トニーとピーターの協力でストレンジを解放し、マウとオブシディアンは宇宙に放出された。
残されたバナーはロジャースに連絡を入れる。

 

宇宙を航行中のガーディアンズのメンバー。

アズガルドの宇宙船の残骸に遭遇。船首にへばりついた男を見つけ、船内に入れる。ソーだった。
ガーディアンズのメンバー、ガモーラがサノスの養女である事から、サノスの目的を知っており、その阻止に向けて行動を開始(ストーン、サノスのいきさつは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」参照)。


クイル一行はリアリティ・ストーンを持つ収集家の居る「惑星ノーウェア」へ、ソーとロケット(アライグマ)

とグルートは武器入手のために「惑星ニダベリア」に向かう事とした。

 

前回の事件(ウルトロン)以来、スコットランドに隠れ行動を共にしているヴィジョンとワンダ。二人は愛し合っていた。額のマインド・ストーンが何かに反応している事を気にするヴィジョン。そしてトニーが行方不明との報道。そこへブラック・オーダーのミッドナイトとグレイブが襲う。

腹を槍で突かれ動けないヴィジョン。
ロジャース、サム、ロマノフの救援で何とか撃退。

 

二人を国連本部のローズの元へ連れて行くロジャースたち。軍には逆らう事になるが、受け入れるローズ。
ヴィジョンのストーンも狙われており、何とかその分離を行わなくてはならない。ワカンダ国のティ・チャラを頼るロジャース。

 

惑星ノーウェアでサノスを見つけるクイル一行。ガモーラが「均衡」のナイフでサノスの心臓を突き、倒すが実は幻影。既にサノスはリアリティ・ストーンを手に入れていた。
ガモーラを連れ、ストーンの力で姿を消すサノス。

ロケットにもらった目を、失った右目に入れるソー。

 

惑星ニダベリアに着いたソーだが、そこはサノスに襲われた後だった。
一人残った武器の匠エイトリ。武器を作るためには動力源の起動が必要。乗って来た脱出ポッドを呼び水にして動力源の点火に協力するロケット。
動力を高炉に流すために扉を開くソーは、熱線に焼かれてかなり消耗するが、高炉の材料を溶かし、それでエイトリが斧を作る。だが柄の材料がない。
グルートが自らの腕を伸ばして斧に巻き付かせ、それを途中で切り落とすと、武器として完成(ストームブレイカー)。

 

サノスは、義娘ネビュラを拷問する事でガモーラからソウル・ストーンの場所「惑星ヴォーミア」を吐かせ、連れて行く。
惑星ヴォーミアでストーンを守るレッドスカルは、ソウル・ストーンを手に入れるには犠牲を払わなくてはならないと言う。
サノスはガモーラを差し出す事に涙を流した。

娘として育てたガモーラ。
ガモーラを崖から落として絶命させ、ソウル・ストーンを手に入れたサノス。残るストーンは二つ。

 

脱出したネビュラからの情報を受けてサノスの故郷、惑星タイタンに向かったクイル一行。
一方、ストレンジの乗った宇宙船Qシップは自動操縦でタイタンに向かっており、トニーの操縦で分解しながらも何とか着陸。
先着していたガーディアンズのメンバーとモメるが、状況が判り協力体制に。

 

地球ではロジャースたちがヴィジョンを連れてワカンダ国入りをする。バッキーと再会するロジャース。
ティ・チャラの妹で天才科学者のシュリが、ヴィジョンのマインド・ストーン分離の作業を引き受けた。ニューロンが入り組んでおり、時間が掛かる。
ブラック・オーダーが率いる大量の怪獣(アウトライダーズ)。バリヤーを抜けて次々と入って来る。新たな盾を得てそれらと戦うロジャース。
だが苦戦して、次第に劣勢となるワカンダ側。
そこにソーが新たな武器を手に、救援に入る。

サノスが、ストレンジの持っているタイム・ストーンを奪うため、タイタンに来る。そこで始まる戦い。


戦いの中でトニーが腹を刺される。このままでは彼が死ぬと判断したストレンジは、タイム・ストーンをサノスに引き渡す。
スペース・ストーンの力で地球に向かうサノス。

 

地球での戦い。防衛が破られ、ストーンの取り出し作業中の所へ敵が侵入。作業の途中でヴィジョンを抱えて逃げるワンダ。だが思うように逃げられない。


ヴィジョンはワンダに、彼女の能力でストーンを破壊してくれと頼む。他に手がなくなり、それを始めるワンダ。
そこに現れたサノス。ワンダはサノスへも攻撃を加えて防ぐ。
そのうちに、ヴィジョンのストーンが破壊され、彼も消滅する。号泣するワンダ。
慰めの言葉をかけるサノスだが、タイム・ストーンの働きで時間を戻してヴィジョンのマインド・ストーンを引き抜く。

額に大きな穴が明いたヴィジョン。

サノスがガントレット(手袋)に最後のストーンを嵌める瞬間に、ソーの斧がサノスの胸に突き刺さった。
「頭を狙うべきだったな」と言って、サノスが指を鳴らす。

 

地球ではバッキー、ティ・チャラ、サムの身体が指の先端から吹き飛ばされる様に塵となって消えて行く。
惑星タイタンでもクイル、ストレンジ、ピーターが消滅して行った。がく然とするトニー。

 

エンドロール後の映像
巡回中のマリアとフューリー。直前に飛び出してぶつかった車を覗くが、乗員がいない。そのうちに街中の人が次々に塵となって消えて行く。マリアも塵となった。
急いで通信機で急を伝えようとするフューリーだが、彼の身体も次第に塵と化した。

残された通信機に赤と青と星の紋章(キャプテン・マーヴェル?)。

 

 

感想
アベンジャーズ総出演、といった趣の映画。
サノスの事については「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を観ていると繋がりが良く判るらしいが、当時あのアライグマを予告編で見て、完全に鑑賞の対象から外していた(後悔はしていない)。

サノスが左手に嵌めている「ガントレット」は武器の匠エイトリが作ったもの。タイタンでの戦いでトニーとピーターが外そうとするも、クイルがそのチャンスをぶち壊す(ホント空気の読めないバカ)。

 

マイティー・ソーを観ていた人には違和感がなかったと思うが、短髪で隻眼のソーにびっくり。
ロジャースも髭生やして、どうもイメージが違った。
アイアンマンはナノテク利用で、フィット感が凄く皮膚感覚がナチュラル。だがここまでやると、スーツの感じが無くなって、ちょっとつまんない感じ。スパイダーマンのイメージとと被っている。

 

そもそも論で申し訳ないが、サノスがそんなに悪いヤツと思えないのがツラい・・・・
各星の住民を半減させると言っても、絶滅ではないし、それぞれの星の最上位にある生物を対象にしているのだから、地球同様、そういう者は生態系になにがしかの悪影響を与えている筈。
だから、宇宙規模での生命存続を考えたら、最善とは言わないまでも、半減は次善の策とは言える。
それがあるから、ストーンが取られて「大変だー!」と言う深刻さが伝わり難い。やるならもっと極悪な設定でないと・・・・

 

今回の映画の最大ポイントはサノスとガモーラの親子関係。

滅ぼした星の生き残りだった娘を引き取って育てたサノスは、ストーンのためとはいえ、娘を殺すのに涙を流した。

この辺りにもサノスを憎み切れない要因がある。

 

それから、今回が完結しない事に衝撃(3時間近く観せて前編かよっ!)
そして、その終わり方も後味が悪い。ドクター・ストレンジ、ブラックパンサー、スパイダーマンらを塵にしてしまったら、次のシリーズで面子が足らない。後編で復活なんてのも、もしあったらご都合主義だし。

 

どうにも共感しづらい映画だった。
ただ、何の役にも立っていないと思われていたグルートが、自らの木の腕を伸ばしてソーの斧の柄を作ったところはスナオに感動(いい仕事をした)。声(英語版)がヴィン・ディーゼルって・・・

 

例によってツッコミを・・・
シリアスな中に、意味不明なフレーズが入って来るのに少しイラ付く。以下数例。
・未曾有なんて言葉使うヤツが居るんだな(トニーの言葉:吹替えがマヌケ)
・地球のスーパー・ヒーローと聞いて「ケヴィン・ベーコンとか?」と聞くボム(これはガーディアンズ・・からのネタを引っ張っている様だが、いかにもマヌケ)
・ソーとクイルの間で、喋り方を真似たとか何とかゴタゴタ(これもくだらなすぎる)。

今回、ヴィジョンの扱いがひどすぎる。ワンダとの恋愛から始まって、敵にはやられっぱなし。あげくには額えぐられて絶命みたいだし。

あんな最後ならストーンの結合を切り離すための作業、あれは一体何だったのか?ちょっと疑問。


エンドロール後の紋章がキャプテン・マーヴェルらしいが、この名前を聞いて「オッ!」と思うのは70年代にJazz、フュージョン好きだった人。

 

Captain Marvel

 

 

 

 

”『砂の女』(日本・1964年)”

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ジェーン・ドゥさんのところで記事アップされている。
結末を忘れていたので再視聴(小説の過去レビューでは結末不明・・・)
心情的なものはリブログ参照。


 

監督 勅使河原宏
脚本 安部公房
原作 安部公房
音楽 武満徹

 

キャスト
男(仁木順平) :岡田英次
女(砂の女)   :岸田今日子
村の老人    :三井弘次

 

 

あらすじ

 

砂丘で昆虫を探す男。探しているのはハンミョウの新種。
近づいて来る老人。役人かどうかを気にしている。
疲れて寝ていると、さっきの老人が再び声をかける。
バスはもう出ないと言って、宿を紹介される男。

 

大穴の中に建つボロ家に縄ばしごで降ろされる。
喜々として食事の準備をする女。食卓の上に掛けられる傘。

その理由はすぐに判った。

 

食事の後、砂掻きをする女。村人が、集めた砂を滑車で持ち上げる。

翌朝出発しようと準備し、金を置いて行く男だが、縄ばしごがない。
女を問い詰めるが「すいません」と言うばかり。
不法監禁だと騒ぐが話にならない。

男は崖を登ろうとするが崩れるばかり。

 

女を縛り上げる男。

砂を持ち上げるロープにつかまるが、途中で落とされる。
包みが落ちて来る。酒とタバコ。男手がある家には週一で配給される。

 

女を監禁してしばらく過ぎ、水も底をついた。
仕事(砂掻き)をしないと食料、水は配給されない。

 

やむを得ず女の縄をほどく。

やけくそで焼酎を飲むが、よけい喉が渇いて苦しむ男。
家を壊して梯子を作ろうとする男。止める女。抱き合って転がる。
男はようやく諦める。
水が降ろされ、むさぼる様に飲む二人。

 

男も砂掻きを始めて、奇妙な生活が軌道に乗り始める。
理屈ばかり言う男。

生きるための砂掻きか、砂掻きのために生きるのか・・・
砂を掻かなかったら、誰も私の事かまってくれない、と女。

男は、女に隠れて布を裂き、ロープを作っていた(出来たロープは砂に隠す)。

 

ある日、女にも焼酎を飲ませ、行水を頼む男。

男の身体を拭きながら興奮する女。

 

女が寝入ってから、家の屋根に上り、ハサミで作った引っ掛け具を付けたロープを何度も外に投げる。
何とかそれが掛かり、脱出する男。村人の追跡。
逃げる途中でアリジゴクの様な砂地にはまり、動けなくなる男。
次第に体が沈む中、助けを呼ぶ。

 

村人に助けられ、また穴の底の家に戻される男。

逃げられた女の不信感。
「奥さんいるんですか?」「あんたとは関係ない」ピンで止められた虫。
カラスを捕まえようと、砂地に桶を埋めて新聞紙をかぶせた罠を作る男。カラスの足に手紙を付けて助けを呼ぶという。

 

三ヶ月も経ち、週刊誌を読み焼酎、タバコの毎日。
見回りの男に、もう逃げないから一日に一度だけ外に出して欲しいと頼む男。否定も肯定もしない村人。

内職に精を出す女(ビーズ通し)。ラジオが欲しい。
週刊誌の挿絵に笑った後、突然怒り出した男は、内職のビーズをひっくり返した。
根気よくそれを戻そうとする女に、中味の昆虫を捨てて、入れ物の箱を渡す男。いろりの中で燃える昆虫。

 

村人が集まって声をかける。
「二人で、表でアレを見せたら出してやる」
どうしようか、と女へ振り向く男。「バカバカしい」と女。
一応チャンスだから、と真剣に考える男。そして女を家から引きずり出して脱がそうとする。
はやし立てる村人たち。必死で逃げる女はしまいに泣き出す。
呆然と座り込む男。


カラスの罠の中に水が溜まっていた。雨はずっと降っていない。
毛細管現象だ、と気が付く男。水の心配はなくなるかも知れない。

喜ぶ男は早速図面を描き始める。
表面の蒸発が地下の水分を吸い上げるポンプの役目をしている。

この砂全体がポンプ。
研究次第では貯水装置も作れるかも知れない・・・・

 

嵐が来る。もうすぐ12月。
女が腹痛を訴え、外に助けを呼ぶ男。
村人が二人降りて来た。

女の匂いを嗅いで「子供だな」と言い、女に「いつから?」
「10月から」。あまりに痛がる様子から「子宮外妊娠かも知れない」

女は布団にくるまれてロープで外に出され、病院に連れて行かれた。「イヤだよ」と言い続ける女。
村人に水の研究成果を話そうとしたが、思い留まる。

 

村人が去った後、縄ばしごが残されていた。それを登る男。
海岸に出て海を見つめる。そして男は穴の家に戻った。
貯水装置のフタを開く男。

あわてて逃げ出す必要はない。貯水装置の事を誰かに話したい。話すならこの村人以上の聴き手はいない。
今でなければ、その翌日にでも考えればいい事・・・・・・

 

失踪宣告の書類。期間7年以上。 氏名:仁木順平

 


感想
初めにも書いたが、小説は数度、映画も2回ほど観た筈なのに、結末を忘れている事に愕然とした。
これも老化現象か、とやや落ち込む・・・・・ でも気を取り直して。
小説が見つからないので映画で代用。脚本も安部公房だから、まあ内容は一緒だろうという事で。

 

オープニングで、書類に見立てたキャスト表にハンコがポン、ポンと押されて行く演出。
砂浜で昆虫を探す男は教師。

三日間の休暇を取って訪れたが、結局取り込まれる。
冒頭で語られる、世の中で必要な数々の証明書。証明のし忘れはないかという不安。
男女の関係にもそれは侵食している。妻との会話。理屈っぽいのは俺のせいじゃなく、証明を要求するこの事実。

 

証明で成り立っているこの社会で、三日間だけの休暇しか許されていない男が、いわば拉致された。
考えられない理不尽な部落。

それに何となく順応している女への反発。

 

道を外れる恐怖というのは、自分自身にもあった。その恐怖を特殊な手法で目に見える形にする。
かつて常識人だった筈の男が、穴の外に出るため衆目の前での情事を迫る。精神のタガが外れて行く過程が秀逸。

この期に及んで村人との契約が成立すると思っている。

 

逃げなければ、戻らなければという男の心が変化したのは、貯水の事実を見つけた事から。
実際にこんな事があるかどうかはかなり怪しい。

それは「箱男」でも「他人の顔」でも、ちょっと怪しげな技術展開の提示を行う、安部の得意とするところ。

 

エンディング。男にとってはもう、女や腹の子供に対する興味などなく、心にあるのは貯水装置だけ。
結局男なんて、そんなものかも知れない。
最後に残る「せつなさ」。安部モノの感想はいつもここ・・・・

 

 

 

オマケ

使った食器を砂で洗うという演出にがく然とした。原作にそこまでの表現はあったか?

 

女がやっていた内職。穴の空いた細かいビーズに、糸を通した針を突き立てると、丁度穴と針が対向した時に針を通るので、一回刺す度に数個のビーズが通る。根気の要る仕事。
誰がやっているのを見たのか。母親とは幼い頃に死別しているので、親戚の家で見たか、友達の家か・・・・

 

砂にぶちまけられたビーズの回収も印象に残った。

ふるいの上にざーっと砂を入れると、砂だけが落ちてビーズが残る。

この映画を象徴している様で、いつまでも心に残った。

 

 

 

NHKスペシャル 「人類誕生」 第1集 4/8、第2集 5/13放送

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1集を観て「まあ、こんなもんか」と記事化はパスしていたが、2集も観たので思い直してレビュー。3集の放送は 7/8の予定。ナビゲーターの高橋一生がけっこうチャーミング。6/8に再放送される(1、2集)

番組HP

 

第1集「こうしてヒトが生まれた」 4/8放送

 

ナビゲーター:高橋一生、アナウンサー:久保田麻由子
現人類の祖先であるホモ・サピエンス。猿からヒトへの進化で約20種類から集約されて行った。


道を開いたのは最古の人類「アルディピテクス・ラミダス」。120cm
440万年前のラミダスは、骨盤の形から二足歩行していたと推定される一方、樹上生活もしていた。

大地の大変動により山脈が出現。木がまばらになり、果物の入手困難。果物が持てる事で二足歩行が有利に。


ラミダスでは犬歯が小さくなっている。犬歯は武器(メスを巡っての争い)。一夫一婦制。争う代わりに子育てに注力→家族を持つ人
一夫一婦制はメスにとって有り難い。馬場悠男(国立科学博物館)氏は、進化が偶然で起こる事が多いと話す。

 

その後生き残ったのが「アウストラロピテクス・アファレンシス」(370万年前)150cm。ほぼ地上生活に適応。
アファレンシスは、ヒョウに襲われる弱い存在。

集団が頼り→仲間を持つ人

 

その後ホモ属とパラントロプス属に分化。パラントロプスの方がアゴが頑丈で噛む力が強かった。だが残ったのはホモ属。
ホモ属はハイエナ等から食べ物を横取り。骨髄を食べるために石で骨を割った。
割れた石がナイフになる→道具を持つ人

 

ホモ属が発展し180万年前に「ホモ・エレクトス」となる。180cm。
生き残りの切り札→狩り。確実に肉を手に入れる。
走るのが得意。残った骨の分析で大殿筋が付いていた事が判明(優れたランナー)。体毛が薄いため長距離が走れた(汗をかく事で体温調節)。体毛があると体温下げられず熱中症に。

多くの毛のある動物は長時間走れない。

 

ドマニシ遺跡から出た歯のない老人の骨。介護されていた。栄養豊富により脳が発達し、思いやりの心が生まれた→心を持つ人

ホモ・エレクトスはその後アフリカを出てアジア各地に散る(ペキン原人、ジャワ原人の祖先)。
アフリカに残った者は、その後ホモ・ハイデルベルゲンシスとなり、欧州に進出した者がネアンデルタール人になる。

アフリカに残った者はホモ・サピエンスになった。

 

その後19万年前に地球規模の氷期が来て、ホモ・サピエンスは絶滅の危機に瀕する。アジアは温暖でペキン原人たちには影響なく、ネアンデルタール人は早期に寒冷に適応した。

 

アフリカのホモ・サピエンスは南に逃れた。
南アフリカ南端のピナクル・ポイント。洞窟にホモ・サピエンスの痕跡(古代の炉の跡)。
貝殻が見つかった。今まで口にしなかったもの(ムール貝)。ムール貝はこの辺りでしか取れない。
当時のホモ・サピエンスは1万人以下にまで減少。

その証拠が我々の遺伝子に刻まれている。人口が70億人も居るのに、遺伝子の違いが少ない。

人口の激減で遺伝子の多様性が少なくなった。

見慣れぬ食べ物を口に入れる好奇心が生き残りに繋がった。


感想
人類が猿から人間になったのは、道具を使って相手を殺す事を知ってから、と説くのは「2001年宇宙の旅」・・・
もともと道具を使う事がきっかけだったというのが定説だが、今回の番組で、様々な要因があって辿り着いたのだと再認識。

 

それにしても、その多くが「偶然」によるものだったというのには驚き。
最終的に人類の祖先となったホモ・サピエンスも、一時は絶滅に瀕したのが、たまたま貝を食べる勇気のために生き延びた。
御先祖様に感謝、てか?

 

 

第2集「最強ライバルとの出会い そして別れ」  5/13放送

ナビゲーター:高橋一生
ネアンデルタール人は欧州で進化。ホモ・サピエンスはアフリカで進化。遠い親戚であり最大のライバル。

 

どう出会ったのか?
エルサレムのマノット洞窟。5万5000年前のホモ・サピエンスの暮らしの痕跡が見つかる。その先40kmほどにネアンデルタール人の痕跡。
ネアンデルタール人の集落にはストーンヘンジ。脳も大きく、従来定説より知的な存在。

ネアンデルタール人は寒冷に適応するため、胴長短足(アレンの法則)。狩りは肉弾戦(骨に傷)。家族単位の小さな集団。

 

ホモ・サピエンスは道具の革命により狩猟を進化(アトラトル:投擲補助具)。複雑な石器の開発。

100人規模の集団で情報を共有(4万3000年前)。

食べ物の違い。
ネアンデルタール人は肉主体。ホモ・サピエンスは木の実、果物等のバランス良い食事。

ロシア、ウラジーミル。ホモ・サピエンスは400人の集団で暮していた(社会)。装飾品は死者の埋葬に使われた。原始的な宗教。死後の世界を想像する力を付けた。宗教が絆を深めた。

 

大規模な気候変動(ハインリッヒ・イベント)により10年単位で暑さと寒冷の繰り返し。

ホモ・サピエンスは数千人の社会により食料危機を乗り切った。
ネアンデルタール人は生息域を狭め、孤立して行く。狩りで命を落とすため、ほとんど30代で死ぬ。

体が大きいため維持に大量のエネルギーが必要(あだになった)。

 

ジブラルタルがネアンデルタール人最後の地。最後の一人はとてつもない孤独。刻まれた線(ハッシュタグ)。

意味は不明だが、痕跡を残して姿を消した。
悲しい終わり方。ライバル同士の直接対決はなかった。人類最初の戦争はホモ・サピエンス同士。

 

ネアンデルタール人のDNAは今のヒトにも受け継がれている。
ドイツ、ライプチヒ。マックス・プランク研究所。骨からネアンデルタール人のDNA復元に成功。アジア、欧州の人に2%程度のネアンデルタール人のDNAが含まれる。
サハラ砂漠以南のアフリカ人にはほとんど含まれない。
アフリカを出たホモ・サピエンスがネアンデルタール人と交わり、世界中に広がった。

 

ネアンデルタール人との混血は、例えば家族とはぐれた少女が引き取られて暮すうちに、その集団の子供を産むというケースが想像される。

ネアンデルタール人の遺伝子は、ウィルスに対する免疫、白い肌等ホモ・サピエンスにとってポジティブな影響を与えている。

 

高橋一生のDNA分析。ネアンデルタール人の割合は2.3~2.4%。日本人のほとんどが2%程度持っているという。


感想
ネアンデルタール人は凶暴で頭が悪い、学生の頃に刷り込みがあったので、今回の番組にはびっくり。
体力、知能も優れていたネアンデルタール人が生き残れなかった要因が「集団力」とは象徴的。

 

ヒトをヒトたらしめているのが社会性だとすると、人とのコミュニケーションが苦手な者にとっては辛い事だ・・・・

 

第3集は7月8日放送予定。

 

新聞小説 「国宝」 (20)最終回   吉田 修一

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新聞小説 「国宝」(20)  5/4(476)~5/29(500:最終回)

作:吉田 修一  画:束 芋

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18 19

 

第二十章 国宝 1~25
久しく明るい話題のなかった丹波屋に嬉しいニュース。

一豊の嫁、美緒の懐妊。
義母の幸子に急いで知らせる春江。幸子は曽おばあちゃん。
春江が俊介の墓まいりに行くと、そこにはカップ酒を供える竹野が。
喜久雄の人間国宝の話は難しそうだ、と竹野。竹野自身それを受けさせたいと思う一方、喜久雄の今の状態に苦慮する。
今さら何やの、と春江。例え気が触れても旦那を舞台に送り出すのが役者の女房。

 

タクシーに乗っている喜久雄と一豊。辻村の娘から連絡があった。

長患いの末、最後に喜久雄に会いたいとの事。
彰子は行くのを反対した。辻村との関係を断つ事で歌舞伎の世界に生きて来られた喜久雄。
辻村が逮捕されたのはもう三十年も前の事。刑期を八年ほどで終え、土建屋として十年かけて復活。だがその後、妻に先立たれ、自身も癌を患い、事業をかつての子分に託してから武蔵野の病院に入院。
それまでの間、辻村は喜久雄に一切の連絡をしていなかった。

三十年振りの再会。痩せた辻村の手を握る喜久雄。


最後の告白をする辻村。お前の父親を殺したとは、この俺ぞ・・・・・
だが、喜久雄の目に映るのは徳次の笑顔。

立花組の新年会で徳次と踊った後、風呂場で化粧を落としている時に騒ぎが起こった。宮地組討ち入り。その後の修羅場。父、権五郎の最後の姿。胸から吹き出す血潮。
謝ろうとして咳き込む辻村の手を握りしめる喜久雄。

小父さん、もうよかよ。
綾乃の言う通り、親父ば殺したんは、この俺かも知れん・・・
病院を立ち去る喜久雄の後を追う一豊。妙な事を口走る喜久雄を心配する。

 

元麻布の一等地。白亜の御殿、弁天の家に入って行く春江。苦労をかけられながらも添い遂げている正子の出迎え。
弁天に頼み事をする春江。弁天が司会をしている「弁天の危機一髪」に出してもらいたいと言う。若手が体を張って笑いを取る番組。
一生に一度の頼み。

一豊に子供が出来て、そのために当分は支えが必要。
自分をいかに晒すかという世界。

躊躇する弁天に正子が、春江の覚悟を代弁する。

 

歌舞伎座。演目「阿古屋」の楽屋入り風景。

喜久雄が行うキッチリ決められた準備作業。
衣装を彰子が整えるのもここ数年の決まり事。本来の妻の仕事ではないが、今では彰子以外を寄せ付けない喜久雄。
そんな頃、竹野宛てに、喜久雄の「重要無形文化財」認定への答申通知が届く。

出番の迫る中、珍しく彰子に普段の礼を言う喜久雄。役者を辞められる役者なんて居るだろうか、などと禅問答。やめたいんですか?との問いに、その逆、いつまでも舞台に立っていたい、と言う。
出を知らせる一豊。暖簾に隠れて涙ぐむ。

そして舞台に出て行く喜久雄。

三友本社に戻り、通知の書類を読む竹野。

この五十年の歩みを思い出し「お前はよくやった」。

 

「阿古屋」の開演を待つ歌舞伎座のロビー。春江と美緒が贔屓筋に挨拶しているところへ、険のある婦人方が来る。
春江がTV出演している事への嫌味。それがエスカレートし始める頃、伊藤京之助の妻が助け船で声をかけてくれた。
そこへ駈け込んで来る綾乃。
バイク便で届いたという二枚のチケットには「お嬢へ 天狗より」とのメモ。徳次が寄こしたもの。
とりあえず綾乃をその席に座らせるが、徳次が来る気配はない。
徳次が大陸に渡ってもう二十年以上。それから一切連絡はない。

いきなりのチケットは、徳次らしいとも言える。

 

始まった「阿古屋」の舞台。囚人となった阿古屋が六人の捕手に囲まれて引き出される。悲しみを湛えた眼差し。

車中の竹野は電話で部下に、明日は三代目の人間国宝の記者会見になるかも知れない、と予告する。
部下が矢口建設社長との会食予定の話を再確認。中国、白河集団公司の社長を紹介したいと言う。インターネット通販の会社。

喜久雄の舞台は続く。思い人の居場所を問い詰められる阿古屋。

弾けと命じられた琴を前にため息をつく。
引き込まれる観客は、高貴な香のかおりを嗅ぐ。至福の香りを喜久雄も感じていた。思えばこの五十年、この香りに包まれて生きて来た。
弾き終えた阿古屋に与えられる盛大な拍手。

 

羽田空港からの渋滞。車内で秘書と会話する男。歌舞伎に詳しい。
李首相との会食を断って来日した。あるお方が日本の宝になるという。
九十年初頭、中国に渡ったこの男。運送業をやる中でたまたま知り合った青年の学業支援をした結果、インターネットの電子取引会社を始める事に。
背中の刺青が妙な信用となり、党幹部の娘との結婚もあって、破竹の勢いで発展した。
首都高の銀座出口が近づく。

 

「阿古屋」の舞台は続く。三味線を弾きながら、虚空をさまよう喜久雄。
最後列でその姿を見る春江の頬を涙が伝う。浮かぶのは俊介の顔。あんたが大好きやった喜久ちゃんは、こんなすごい役者になったで・・・

この「阿古屋」という芝居は、平景清の愛人阿古屋が、拷問を受けて彼の行方を追及されるもので、琴、三味線、胡弓を弾かせる責め苦を受ける。


それに耐えた阿古屋が無罪放免されるところで幕となる。
その最後の場面。じわりじわりと湧き上がる拍手。
本来であれば、岩永左衛門が抗議を申し入れ、それを重忠がたしなめ、本当の無罪放免が言い渡され、阿古屋の最後の決めとなって終幕、という形。

だがその幕が引かれようとする時、喜久雄がすっと右足を出した。そして舞台を降りて客席の方へ歩き出す。
ざわめく客席をよそに、まるで舞台がそのまま外に広がっている様な光景。
そこで拍手を始める綾乃。涙を拭こうともしない。広がって行く拍手。
近づく喜久雄の迫力に、劇場スタッフが扉を開ける。
ロビーの赤絨毯に出たところに居て、止めようとする一豊に目で合図して外に出て行く喜久雄。

 

歌舞伎座の大扉から突如現れた花魁の姿に、通行人たちは驚き、大勢の人だかりとなる。
満ち足りた表情で歩く喜久雄。

車列の間を縫うように、羽織の裾が流れて行く。
信号の変わったスクランブル交差点に、よろめきながら飛び出した喜久雄。
舗道から上がる悲鳴とクラクション。
ヘッドライトに浮かぶ阿古屋の白い顔。

その瞬間、喜久雄はいつもの様に「はい」と頷いて出の合図をした。

その眩い照明がどれほど役者の心を痺れさせるか、鳴りやまぬ拍手がどれほどの幸福感か。
日本一の女形、三代目花井半二郎は、今ここに立っているのでございます。


感想
辻村の告白と、最終章を締めくくる演目「阿古屋」の描写。
中国大陸に渡って成功した徳次は、結局皆の前に姿を見せることなくドラマが終わった。

父、権五郎を殺した仇でもあった辻村。だが辻村自身は喜久雄の親代わりとして、彼の大事な時期を支えて来た。

そして自分の立場が喜久雄の為にならないと知ってからは一切の関わりを断ち、死ぬ直前での告白。

 

一方、歌舞伎に全てを捧げ、それ以外は何も要らない、と戯言ながら綾乃の前で祈りごとをした喜久雄もまた、育て親の二代目半二郎に対する悔恨を持つ。

 

あっけない最後ではあったが、芸を極めるあまりに精神に変調をきたし、最高の演技の後に、その衣装のまま車に撥ねられる・・・・・
人間国宝というものの残酷さも感じながらのエンディングだった。

 

全体感想は、別途まとめたい。

 

 

孤狼の血     2018年 

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監督  白石和彌
原作  柚月裕子
脚本  池上純哉


キャスト
<呉原東署>
役所広司    大上章吾
松坂桃李    日岡秀一
田口トモロヲ  土井秀雄  
さいねい龍二  菊地
矢島健一    友竹啓二

<県警>
滝藤賢一    嵯峨大輔  県警 検察官
井上肇     岩本恒夫  県警 副本部長

<尾谷組>
伊吹吾郎    尾谷憲次  組長
江口洋介    一之瀬守孝 若頭
中村倫也    中川恭二
田中偉登    柳田タカシ
野中隆光    備前芳樹

<加古村組>
竹野内豊    野崎康介  若頭
嶋田久作    加古村猛  組長
音尾琢真    吉田滋   構成員
勝矢      苗代広行  構成員


石橋蓮司    五十子正平(いらこ しょうへい)     五十子会組長      
ピエール瀧   瀧井銀次                  全日本祖国救済同盟代表
町田マリー   瀧井洋子             瀧井銀次の妻  
真木よう子   高木里佳子                 クラブ「梨子」のママ
駿河太郎    上早稲(うえさわ)二郎   呉原金融 経理
MEGUMI     上早稲潤子               上早稲二郎の妹
阿部純子    岡田桃子                    薬局の店員
中村獅童    高坂隆文           安芸新聞 記者

 

予告編

 
 あらすじ
昭和49年、呉原市暴力団「尾谷組」に対し、広島に拠点を置く「五十子会」が抗争を仕掛けた、いわゆる「第三次広島抗争」。激しい報復合戦の果て、泥沼の抗争へと発展した末に、勝者なき結末を迎えた。
あれから14年。ヤクザ組織が群雄割拠した昭和が終わろうとした頃、新たな抗争の火種が。
生き延びた尾谷組残党に牙をむいたのは、五十子会の系列「加古村組」

 

夜、養豚場でリンチを受ける会社員。暴力団風の男数人が暴行し、会社員の口に豚の糞をネジ込む。さんざん殴り回した後で、会社員の指を剪定バサミで切り落とす。絶叫。
「呉原金融から金持ち出したんは、誰や」「・・・・・私です」
更に続く暴行。
事務所で電話をする加古村組 若頭の野崎。「よけいな事は喋らんでしょう。早々にエンコと一緒に詫び入れさせます」
もうそれはいらんらしい、との先方の声。

本店側の話では、もうクビにしたとの事。

 

呉原東署の取り調べ。兄の捜索依頼に来た上早稲潤子。兄の二郎が行方不明になって四日。

潤子に親切そうな大上は、日岡を部屋から追い出す。
県警から派遣され、大上の下に付けられた日岡。

まだ新米の刑事。広大卒。
ズボンをずり上げながら取り調べ室から出る大上。

潤子の口紅が取れていた。

 

パチンコ屋でスロットをする大上。日岡に、パチンコをしている関取風の大男にインネンをつけろと指示。男の頭にアイスコーヒーをぶちまける日岡。
関取にさんざんにブチのめされる日岡。

かなり経ってからようやく助け船を出す大上。
呉原金融の経理係の行方を聞くが「知らん」。さんざん殴って脅した後「冗談や」と言って金を渡す。

 

薬局に行き、そこの女店員桃子に日岡の手当てをさせる大上。
大上の説明。呉原は加古村組のフロント金融。法外な高金利で稼いでおり、その上りで尾谷組のシマを荒らしている。

その前に何とか潰すのがワシらの仕事。
さっきの関取、10年ム所だと言っても口を割らなかった。これはただの失踪事件と違う。

 

署での会議。加古村にガサ掛ければ必ず何か出る、と大上。事なかれ主義の署長。尾谷の肩を持つ、と冷やかす土井たち。
尾谷組系の店でトラブルを起こす加古村組の男。

 

尾谷組へ日岡を連れて挨拶に行く大上。若頭の一之瀬守孝。加古村にいいようにされて気が立っている一之瀬に、組長が出所するまで我慢せよ、と大上。挑発に乗ったら元も子もない。
加古村を追い込むネタは掴んでいる、と大上。

 

クラブ「梨子」へ日岡を連れて行く大上。ママの里佳子が日岡の股間を握って品定め。ツバメのタカシが冷やかされる。
そこへ加古村の一行が店に入って来る、中に五十子組の組長五十子も。大上を見て「びっくり、どっきり、クリトリス」の決まり文句。

 

薬局に行く日岡。店員の岡田桃子に包帯を巻き直してもらう。
悪い事言わんから早く転職しなさい、と桃子。あんなオッサンと働いとっても人生棒にふるだけ・・・・

大上に同行して聞き込みをする日岡。加古村の向かいのタバコ屋。婆さんは上早稲の写真を見て「サラ金の人やろ」。
最近見ていないという。竜の付いたライターを買い、三万渡して「また教えてぇな」

 

次に向かった「広島仁正会」系列の右翼団体に顔を出した二人は、銃声を聞いて建物に飛び込む。
女が散弾銃を撃っていた。相手は亭主の瀧井銀次。女は妻の洋子。博打のため息子の金に手を出した。
屋上で銀次と話す大上。封筒(交通費)を貰う大上。日岡は拒否。
呉原金融の件を聞こうとするが、加古村は広島仁生会の一員、ワシの兄弟分だから喋れん。
そーね、じゃあ女の事、洋子に話しちゃろ・・・・・慌てる銀次。
4月頃、加古村の連中が近所の連れ込み宿で騒ぎを起こした(男を拉致)。

その宿に聞き込みに行くが、門前払い。裏手に回ってブロック塀の中に入り、灯油を撒き、火を点ける大上。
ボヤ騒ぎとなって、その隙に店に入る大上、やむなく続く日岡。
そのドサクサで旅館内の、防犯カメラの録画テープをゲット。

 

拉致の証拠を掴み、加古村の関係者四名を特定して逮捕状の請求。だがそのための放火、窃盗、住居侵入・・・

納得のいかない日岡。

クラブ「梨子」に顔を出した加古村の吉田。里佳子に「真珠入りのナニで楽しませてやる」と誘う。奥でいきり立つタカシ。
店を出た吉田ら一行を襲うタカシだが、返り討ちに遭い、銃で撃ち殺される。

 

雨の中、たまたま出会う日岡と桃子。桃子に誘われてアパートに行く。広い部屋だ、と言う日岡にダンナと半年前に離婚した、と桃子。「やっと声掛けられたら刑事」と笑う。
暴力団より暴力団らしい男と暴力団追い駆け回してる・・・早口言葉?と笑う桃子。

 

泊まって行けば?と言われてその気になって、ビールを買いに出た日岡。銃声を聞いて駆けつける。そこは加古村組。銃を持った男を取り押さえる日岡。
その後、お前はアホか!と大上にどやされる日岡。襲ったのは尾谷組の若いモン。その前にタカシが殺されている。

タカシの遺体にすがる里佳子。

 

尾谷と加古村の抗争を止めるには、尾谷組々長を説得するしかない。
鳥取刑務所に行って尾谷憲次に面会する大上。怒っている尾谷。今動いたら加古村の思うツボ。もう少し時間が欲しい、と大上。
一之瀬と対峙する大上。自分を飛び越えてオヤジに告げ口した、と立腹する一之瀬は、問題解決までに三日の期限を言い渡す。

 

県警の嵯峨大輔に報告する日岡。嵯峨は、大上がヤクザとの関係を綴った、日記のようなものを探せと指示。
これ以上の内偵は不要と言う日岡は、大上を処分すべきと主張。
嵯峨の話。14年前に五十子が尾谷のシマを荒らした時、五十子の金村が殺されて騒ぎが終結した。それをやったのが大上だと言われている。その過去を調べるのが日岡の目的。

 

真珠男の吉田が来る。電話で呼び出された。気のあるフリをする里佳子。だがそれは大上の罠。
手錠をかけられて下半身丸出しの吉田。「警察がこがいな事してええんか!」「警察じゃき、何してもええんじゃ・・・」
人間の身体は、異物が入っとると具合が悪いんじゃ・・・と吉田のナニを切開して真珠を取り出す大上。絶叫。
苦し紛れに吉田が、14年前金村を殺したのはアンタだ、と言ったが「それでしまいか?」と無視される。
もう一丁いくぞ!と声をかけた所で吉田はギブアップ。

 

五十子が上早稲の首を持って来いと野崎に言った。そもそもは、尾谷を追い込むための資金を上早稲から出させていたが、エスカレート。それが高じて追い詰められた上早稲が、本店の金にまで手を出した。
本店というのは、広島の「ホワイト信金」というサラ金(五十子の会社)。

 

豚小屋へ行く大上と日岡。親子で細々と経営している。息子に聞くと、加古村に場所を貸しただけだと言う。男がシャブをやっている目をしているのに気付いた大上は、それを理由に引っ張って拷問をかける。
上早稲を無人島へ埋めに行った事を自供する男。

 

「梨子」に顔を出す大上。里佳子の息子(トモキ)に声をかけるが嫌われている。そこへ銀次が来て、14年前の事を新聞記者が嗅ぎ回っていると忠告。

嵯峨へ報告する日岡。大上の処分を進言する日岡だが、物証がないと渋る嵯峨。例の日記の事を再度聞かれる。

早く入手せよ。処分はそれから。

 

島への捜索が始まる。
それに並行して署を訪れる新聞記者の高坂。署長に大上の14年前の事を聞く。

続けられる島での捜索。上早稲の遺体が出た。首と胴体が別々。
苗代ら四名の特別手配。だが大上の思惑は一瞬で崩れた。
記者からの情報を受け、署長は大上を捜査から外し謹慎させた。

 

尾谷組へ行く日岡。いきり立つ一之瀬。大上を外され東署に裏切られた。約束は反古。
尾谷の若いもんが加古村の店に殴り込みをかける。負傷する加古村幹部。
署は尾谷組の壊滅作戦に出てガサ入れするも、幹部は不在。

 

尾谷の構成員から電話が入り、日岡の手引きで大上が、負傷した加古村幹部の入院する病院へ行く。五十子も同席。
この14年、復讐のチャンスを狙っていた五十子。尾谷組長が居ないうちに決着を付けたかったと言う大上にシラを切る五十子。
カタギを殺したツケは必ず回って来る、この辺で手打ちにしよう、と大上。
三つの条件を付ける五十子。①見舞金1000万 ②尾谷組長の引退 ③一之瀬の破門。それがダメならどっちかが壊れるまで戦争しちゃろうじゃないの。

五十子の話を持ち掛ける大上に拒否する一之瀬。戦争して死ぬのは若いモン。あいつらの命を守るのがお前らの役目じゃろうが!と訴えるが聞かない一之瀬。
日岡を置いて車で出掛ける大上。

 

「梨子」で延々と飲み続ける日岡。そこに顔を出す大上。鳥取の御大に直接話しに行った。守孝に従う、と組長。
どいつもこいつも、と嘆く大上は再度五十子に交渉すると話す。聞くとは思えない、と言う日岡に、頭の中にネタが一杯ある、と大上。
五十子は昔から警察幹部と昵懇の仲。一軒家まで貰った刑事が居る。そのネタ使えば奴も動けない。

こんな綱渡り、いつまで続けるつもりですか、と日岡。
大上は言う。極道と関わった者は曲芸師みたいなもん。極道、警察どちらに傾きすぎても落ちてしまう。
落ちんようにするには歩き続けるしかない。
飲み直そうと言う大上を断って桃子のアパートに行く日岡。そして桃子に抱き付く。

 

その夜を境に大上は姿を消した。
その三日後、逃亡中の苗代らが愛媛県内で逮捕された。苗代は上早稲二郎の殺害及び死体遺棄を認め、加古村組幹部の関与を供述。
東署は加古村組事務所への強制捜査を行い、組頭の野崎を逮捕。大上は依然として行方不明。
日岡は、大上が五十子に拉致されていると嵯峨に訴えるが、証拠もなしに押し入れないと否定。それよりヤツの日記を手に入れろと追及。
嵯峨が記者に情報を流した事を責める日岡。居直る嵯峨。

 

銀次に大上の事を相談する日岡。五十子に探りを入れられないかと頼むが、こっちが危ない、と逃げ腰の銀次。

妻の洋子が「ガミさんにはさんざん世話になったのに」と口を挟む。
ガミちゃん、どこでトチったんか、の言葉に「ヤクザに深入りし過ぎたんですよ」と日岡。
それを勘違いだと諫める銀次。
ガミさんにとってヤクザはただの駒。たまにエサやってしつけとるだけ。
あの人にはカタギの人しか頭にない。カタギを守るためなら極道にだって平気で手を突っ込む。だから極道はガミさんが怖い。

 

日岡が「梨子」を訪れた時、里佳子が「ちょっと外に出ようか」
そして歩きながらスクラップブックを日岡に渡す。大上から、俺に何かあったら日岡に渡してくれ、と頼まれていた。
それは警察とヤクザの癒着を記載したもの。
あの人が一番恐れていたのはヤクザじゃなく警察。弱みを持っていればクビにはならない。
大上は、自分が居なくなったら極道に抑えが利かなくなるのを恐れていた。そうなると里佳子たちカタギも商売出来なくなる。

里佳子もそのネタを取るのにさんざん協力させられた。美人局(つつもたせ)。ガミさんの得意技。県警のオヤジどもにさせられまくった。
県警もそのノートを必死で探している。スパイまで送り込んで来たと大上が言っていたという。
みんな保身しか考えていない、と嘆く日岡。
だが大上も14年前に人殺しをしている、と日岡が話しかけると、里佳子が「それは違う」と遮る。
14年前、金村を殺したのは里佳子。尾谷組に居た亭主が金村に殺された。だが金村は平気な顔で里佳子の身体を求めて来た。
撃ち殺してから大上に連絡した。こんな外道のために刑務所で子供産ますわけに行かん、と言って全部処理してくれたのが大上。

 

東署に来た電話を受ける日岡。走り出す。
川べりのハシケの上に寝かされた死体。大上だった。腹にいくつもの刺し傷。過呼吸を起こす日岡。


多量のアルコールと睡眠薬が血中から検出された。飲酒後睡眠薬を使用し、誤って川に落ちたと推定・・・・
刺し傷の事は伏せられた。
同僚の話では、胃の中から大量の異物--豚の糞があったとの事。

 

豚小屋を訪れる日岡。軽口を叩く息子を無視して豚舎の床を這い回る日岡。そして大上のライターを見つける。
息子を力の限り殴り続ける日岡。これ以上は危険というところで、父親がスコップで日岡を殴る。
「かんべんしたってくれ、本当に死んでしまう・・・」

 

部屋で、自分の捜査日誌に大上の書いた書き込みを見つける日岡。赴任当時から日岡の任務を知っていた大上。

その内容にコメント。多くはダメ出しだが、終りに近づくにつれて褒め言葉も。涙を流す日岡。

 

日岡に向かって「本気なんか?」と言う銀次。そんな事してガミさんに祟られんかのぉ・・・・
大上さんにとってヤクザは駒でしかない、と言ってたのは銀次さんじゃないか、と日岡。

 

五十子系の開催する「やっちゃれ会」。組の幹部たちで鏡開き。その席に座っている嵯峨、土井。
五十子が銀次を幹部に紹介。ガタガタになった加古村組の立て直し。
五十子が小便に行った時に、尾谷組が会場へ殴り込みをかける。騒然となる会場で、案内されて逃げ出す嵯峨たち。
気配を感じながらも一人で小便をしている五十子の元に、日本刀を持った一之瀬が。
「外道は外道らしく、死んだらんかい」と五十子の首に刀を突き立てる一之瀬。吹き出す血しぶき。

五十子の首が小便器に転がっている。
一之瀬は身代わりとなる者に刀を渡し「立派に務めを終えたら組を持たせちゃるけん」
そこへ駆け付ける東署のメンバー。来る事を予想して身代わりを差し出す一之瀬に向かって手錠をかける日岡。
愕然とする一之瀬。

 

スクラップブックを嵯峨に渡す日岡。

喜ぶ嵯峨に「ほとんどは大上の妄想です」。
そして「最後のページは私が書き加えました」。嵯峨の写真と職務情報の下に「やっちゃれ会に出席、パーティーの現場に居て逃げ出した・・・」。
うろたえる嵯峨は、すぐに本部へ戻すと言ったが、日岡は「もう少し呉原で働かせてもらえませんか」
不良刑事がまだ一掃された訳じゃない。 そうだな・・・・と嵯峨。

 

桃子と話す日岡。実は、と言って桃子も美人局をやらされていた事を白状。だが恩人。穀潰しの暴力男と結婚していた。最悪。

その時助けてくれたのがガミさん。
ただでウチのオメコ拝ませてやったからいいでしょ。
ガミさん、アンタの事感心しとった。

桃子が、日岡の仕草を見て「あんた、タバコ吸いよったん?」
大上の残したハイライトとライター。
「ああ、吸っとったわ」

 


感想
東映ヤクザの流れを汲む映画として、かなり頑張って作られたもの。
昭和49年に起きたヤクザの抗争から14年経った、昭和63年が舞台。この後数年経って平成3年に「暴対法」が成立したので、それ以降はこんな派手な抗争は描けないから、ギリギリの時代設定だったのだろう。

 

大上の愛車が白のトヨタ・マークII(1986年前後?)。映画のほぼ全編に出て来て、この映画(昭和)を強く印象付ける。

ほぼ同型車

 

他にも、尾谷組の若い兄ちゃんが、覚せい剤で勢い付けて殴り込む時に乗っていたのがシビックじゃなかったかな。

黒電話もそうだし、昭和を十分堪能出来た。

 

さて本編。
広島近くの架空の都市「呉原市」を舞台にした、暴力団抗争と警察を巡るドラマ。
いきなり豚の糞を食わせて指詰め。これでこの映画のイメージを植え付ける手法は、まあ成功している(気分のいいものではないが・・・)
駿河太郎(鶴瓶の息子)は良く頑張った。

 

しかし、最初大上が出て来る場面、兄の捜索願いを出しに来た娘で「抜く」設定はアカンだろう(MEGUMIだとしても)。そもそも里佳子を助けた事から言っても、カタギを守るのが大上の矜持の筈。
彼のワイルドさの演出として、原作もこの設定だとしたら、それは「勘違い」。ヘルスのネエちゃんの乳を揉むのとは意味が違う。

これでかなりテンションが下がった。

 

東署内に「尾谷派」と「加古村派」があって、微妙な不協和音。
そもそも大上が尾谷に肩入れしているのは里佳子を助けているから。14年前の抗争がらみで五十子が報復を執念深く狙っているのも要因。
だが土井なんかは加古村派なので、いつも方針でぶつかる。

 

最初は直情型で、融通の利かない日岡が、大上のやり方に触れるうちに、単なる反面教師というだけでなく、精神面で吸収していく過程が、なかなか見応えがあった。

ちょっと説明的過ぎるかな?という嫌いもあるが、大上が悪徳と言われる程、ヤクザにブッ込んで行く理由が徐々に語られる。
ただ、何度も尾谷に通ってなだめる姿が、刑事にしてはちょっと不自然っちゃあ不自然。

 

特に印象的だったのが、死んだ大上を日岡が見るシーン。

死後数日経った大上の身体は、本当に水でぶよぶよした質感といい、顔のむくみといい水死体そのもの。
それを見た日岡についても、安易な絶叫ではなく過呼吸の息づかいだけで精神のダメージを描く。

バックに流れるかすかなピアノとストリングス。心に残る場面。

 

「やっちゃれ会」での尾谷組の殴り込みは、日岡のプロデュース。多分銀次と組んで襲名披露を仕組ませた。一之瀬に仇を討たせる場をセッティングした上で、最終的に一網打尽。
大上さんに祟られる、と銀次が言ったのは尾谷組もまとめて潰す作戦だったからだろう。その意味で日岡は大上の上を言っている(その分危険も大きくなる)。

多少突っ込みどころもあるが、刑事の「相棒」モノ、日岡の成長物語として考えれば良く出来ている。
最後の言葉「ああ、吸っとったわ」が、大上の後を継ぐ決意として心に沁みた。

 

とは言っても恒例のツッコミ・・・

真珠男の吉田。全くモウ、とは言いながら楽しめた。ただ男のアレはもっと皮膚が薄い・・・・
血管浮かせたりなんて、あんまりリアルにするのもナンだがら、まあいいけど。

 

野崎を演じた竹野内豊の大根ぶりがハンパない。ただわめくばかりで若頭の味が全く感じられなかった。

一方、一之瀬役の江口洋介は風格ありすぎ。

その割りに思考が軽いのでそっちの面でGAPあり。

 

 

 

 

 

家族はつらいよ2   2017年

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今年の「家族はつらいよ3-妻よ薔薇のように」に関連して、シリーズ2作目をTV放送していたので視聴。


監督 山田洋次
脚本 山田洋次、平松恵美子
音楽 久石譲

 

キャスト
平田周造       - 橋爪功     父
平田富子       - 吉行和子    母。周造の妻
平田幸之助     - 西村雅彦    長男
平田史枝       - 夏川結衣        幸之助の妻
金井成子       - 中嶋朋子        長女。税理士
金井泰蔵       - 林家正蔵        成子の夫。
平田庄太       - 妻夫木聡        次男。ピアノ調律師
平田憲子       - 蒼井優           庄太の妻 看護師
加代              - 風吹ジュン      居酒屋の女将
丸田吟平      - 小林稔侍      周造の旧友
向井                 - 有薗芳記      周造の旧友
刑事                  - 劇団ひとり
葬儀社職員        - 北山雅康
火葬場作業員      - 笑福亭鶴瓶

 

 

予告編


あらすじ
息子、幸之助のオーデコロンを付けて外出する周造。朝のラジオ体操で、居酒屋「かよ」の女将加代に会うのが楽しみ。
周造の車のこすり傷が増えているのを心配する嫁の史枝。免許返納をやんわりと勧めるが、全く効果なし。

妻の富子は、友人たち数人と北欧へオーロラを見に行く準備で忙しい(周造は寒い所が嫌い)。

 

呼ばれて実家に帰り、周造に免許返納の話をする成子夫婦、庄太夫婦。周造が庄太に車をやる、と言うが、それは買い替えのためだと言う。あきれる庄太。

 

富子が旅行に出たため、加代を誘い、車で昼食に出掛ける周造だが、いつもの道が道路工事で、回り道の案内をする作業員。その作業員を見て驚く周造。高校の時の同級生、丸田だった。

逃げるように仕事に戻る丸田。呉服屋で羽振りが良かったが、事業に失敗したと説明する周造。
話に気を取られているうちに、前で停車したダンプと接触。

加代の機転で、二万ほどの金で話をつける。

 

居酒屋「かよ」で、高校の同級生向井と飲んでいる周造。

丸田の件、翌日行ったらもう別の現場に行っていた話をすると、向井の弟が探偵をしているという。
調べの結果、丸田はボロアパートで一人暮らし。

生活のために道路作業員をしている。周造と同じ七十三歳。

 

有志を集め、丸田を囲んで同窓会を開く周造。

二次会で向井、丸田を「かよ」に連れて行く周造。


丸田は高校でのマドンナ、高野節子と結婚していたが離婚。呉服屋を畳んで事業を始めたが、バブルがはじけて逃げ回った。娘が一人いたが離婚で元妻が引き取った。
向井に逃げられ、丸田を家に連れて来る周造。

 

翌朝。幸之助が、周造の免許問題で兄弟に召集をかけていたため、成子夫婦、庄太夫婦が実家を訪れる。
横になっている丸田の横を抜けて一階の便所に入る周造。
上で寝ている丸田の事は誰も知らない。

帰ってもらうよう起こして来て、と史枝に頼まれて庄太が二階に行くが、蒼ざめて戻って来る。死んでいると言うが、誰も信じない。
看護師の憲子が確認に行き、ようやく死んでいる事を皆が信じた。

救急車を呼ぶ史枝。
ショックを受ける周造だが、回りのみんなの態度は冷ややか。

 

救急車が来るが、完全に死んでいるため現場検証の扱いになり、専任の刑事と係官が来る。事件性はないとされ、死体を引き取って行った。
間の悪い時に届く昼食用のうな重。

死体を階段から降ろす現場に直面して、逃げ出すうなぎ屋の店員。

 

行きがかり上、丸田のアパートと警察へ関係者と同行する庄太と憲子。丸田の親族は引き取りを拒否。

この場合、自治体による最低限の葬式、火葬が行われる。
翌日の火葬に立ち会ってもらえないかと家族に頭を下げる周造。

庄太と憲子が行ってくれると言うが、他の返事はない。

 

翌日の火葬場。結局幸之助夫婦、成子夫婦も立合いに来たが、肝心の周造が居ない。
上海出張を控えている幸之助が、せかして始めようとした時、周造の運転する車が飛び込んで来た。同窓生の向井と持って来たのは多量のぎんなん。丸田が大好きで「かよ」でもたくさん食べていた。

 

火葬が始まると、中からポン、ポンという音。あわてて飛び出す作業員。周造がぎんなんを入れたというのを聞いてナットク。
周造に「免許返上の件は帰ってから」と言い置いて、タクシーで空港に向かう幸之助。

 

 

感想
2作目は劇場で観ていなかった。
1作目は、妻の富子から「プレゼントは離婚届が欲しい」と言われて巻き起こるドタバタ。これには本当に劇場で良く笑った。

 

ただこの2作目はちょっとビミョー・・・・
そもそも基本ネタが、事業に失敗して道路工事の棒振りをしていた同級生の死。
いくら小ネタを挟んで笑いを取っても、口から血を流してこと切れている丸田の姿を見てからは、全く笑えなくなってしまった。
だから、ぎんなんの爆ぜる音で飛び出して来た、作業員の鶴瓶を見ても、爆笑出来ない(せいぜい微笑)。

 

しかしこの映画、まだ去年だったからギリギリ免許返納ネタで笑えたろうが、この一年で高齢運転者が起こす、死亡が絡む事故の続出で、もし今年に公開していたら、喜劇としては少し厳しかったかも知れない。

 

オマケ
周造のクルマは「孤狼の血」にも出て来たトヨタ・マークⅡ。でもこすったり、ぶつけたりでさんざんな状態(ちょっとかわいそう)。

 

 

新聞小説 「国宝」まとめ  作:吉田 修一

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新聞小説 「国宝」まとめ   2017/1/1~2018/5/29(1~500)
作:吉田 修一  画:束 芋

 

朝日新聞朝刊で連載されていたもの。世襲が一般的な歌舞伎の世界で、ヤクザの息子から人間国宝にまで上り詰めた男の人生を描いた。

 

1.料亭花丸の場
昭和35年。長崎で立花組を仕切る立花権五郎と女房のマツ。新年会に集まる親分衆。確執のある宮地組。
当代きっての歌舞伎役者、二代目花井半二郎を伴って談笑する愛甲会の若頭、辻村。
気にする権五郎を認めて挨拶に行く半二郎。

長崎で映画の撮影だったというのを辻村が誘った。
余興として田舎歌舞伎が始まる。

遊女墨染を演じるのは、権五郎の息子で中学生の喜久雄。
相方を勤めるのは部屋住みの組員、徳次。喜久雄より少し年長。
喜久雄の達者な舞いに驚く半二郎。

 

演目も終わり、風呂で化粧を落とす喜久雄と徳次。
そこに宮地組が殴り込みをかけて来た。地鳴りと怒声。
武器を持っていない権五郎は二階に逃れ、逃げ延びて来た辻村と半二郎を逃すために暴れ回る。
だがその最中、辻村が権五郎に向けて銃を撃った。

見ている者はいない。

 

2.喜久雄の錆刀
事件から一年後。付き合っている女、春江の家でゴロゴロしている喜久雄。そこへ、鑑別所に居る筈の徳次が顔を出す。

 

事件の顛末。

宮地の大親分は、自身の潔白を押し通し、組員を切り捨てたため、組は解散。立花組は権五郎を失い、若頭も投獄され弱体化。愛甲の辻村が喜久雄の将来も含めて進言し、影響力を付けて行った。

徳次が鑑別所送りになった事件は、権五郎の納骨が終わった頃の出来事。喜久雄、徳次らが映画を観に行った時、他校の不良たちと揉め事になった。親父が撃ち殺されて、敵討ちも出来ん腑抜け息子、と罵る不良たち。
騒ぎが大きくなり、警官が駆け付ける中、不良どもが逃げ出し、徳次が喜久雄を逃がすために捕まった。

 

徳次は、権五郎親分の敵討ちが待ち切れずに鑑別所を逃げ出していた。だが全くその気がない喜久雄。
マツは後妻であり、喜久雄は病死した先妻の子。

彫師の辰に、背中へ彫り物をされる喜久雄。絵柄は春江とお揃いのミミズク。一度恩を受けた人間を忘れないという。泣き言を言うので春江より進行が遅い喜久雄だが、もうすぐ終わる。
喜久雄が通う中学の体育教師、尾崎。ヤクザを毛嫌いし、春江に客引きをさせている様な喜久雄を殴り付ける。

 

珍しく学ランを来て出校する喜久雄。春江からそれを聞いて待ち伏せていた徳次。大阪へ行くという徳次に、昼から俺も行くと言って、駅での待ち合わせを約束する喜久雄。
だがその直後、警察に電話して徳次を売り渡す。喜久雄の覚悟。
学校はその日、寄付をした宮地恒三の演説がある事になっていた。

ドスを腹に差し込んで機会を窺う喜久雄。
壇上に上がった宮地に向かって、叫びながら突進する喜久雄。
手応えはあったが、肩に衝撃を受け、ふわりと浮く。

 

3.大阪初段
どしゃ降りの中、タクシーから改札に走るマツと喜久雄。

発車する寝台特急「さくら」
あの朝、喜久雄のドスは宮地の腹には届いたが、財布に阻まれて軽症。それよりも体育教師、尾崎の体当たりで脱臼して、喜久雄が保健室に運ばれた。
尾崎が宮地に交渉して警察沙汰にしないよう済ませた。ただし宮地の条件は、喜久雄を長崎から追い払う事。

 

列車が博多に着こうとした頃、喜久雄の前に徳次が現れた。驚く喜久雄。あの朝、徳次は警察の気配を察知して逃げ延びていた。その後聞いた喜久雄の刃傷沙汰。
立花組での喜久雄の扱いを盗み聞きして、知った預け先が二代目花井半二郎宅。高校にも通わせるよう頼むマツ。

 

大阪駅で出迎えてくれた源吉(源さん)。
半二郎の家。そこの女将幸子は半二郎の後妻。台所でうどんをすする少年は、半二郎の一人息子俊介。喜久雄と同じ十五歳。
稽古に行くという俊介の言葉を聞いて興味を持った喜久雄。

それは義太夫。

幸子の計らいで義太夫の見学をする喜久雄と徳次。師匠の岩見鶴太夫は、半二郎から子供を預かった事を聞いており、俊介にライバル意識を持たせるため、その子供にも稽古をつける様、頼まれていた。
そうして、喜久雄は義太夫の虜になって行った。

 

4.大阪二段目
昭和40年。大阪駅に降り立つ春江。弁天というチンピラに絡まれていると、迎えに来た徳次が手を出す。

大騒ぎになるが、互角で決着が着かず、見物人もいなくなった。
春江を半二郎の家に案内する徳次。稽古中の喜久雄を見た春江は、その後徳次が探してくれたアパートに行く。
春江は、母親の紹介でミナミのスナックで働くという。

 

喜久雄が大阪に来て一年あまり。俊介と同じ高校に通う喜久雄は、自転車の二人乗りで駅に向かう。この月は、半二郎の出る興業で二人に黒子の役が付き、授業後に京都まで通う毎日。
半二郎から喜久雄を部屋子にしたい、と打診されていたマツは上阪し、喜久雄の様子を見て安堵。

興業が終わった京都の夜、喜久雄は俊介に連れられて初めてお茶屋遊びをする。そこで知り合った市駒。普段着に着替えた市駒とキスをする喜久雄。遊び慣れている俊介の相手は富久春。
「うち、喜久雄さんにするわ」と市駒。

二号でも三号でもいいと言う市駒に慌てる喜久雄。

 

京都興業の間に、半二郎がどうしても見せたいのが小野川万菊。

希代の女形と言われていた。
楽屋での挨拶。俊介にとっては遠州屋の小父さんだが、その視線にゾクッとする喜久雄。
きれいなお顔、と喜久雄を褒めるが、役者になるならその顔は邪魔だとの忠告。
万菊演じる「隅田川」の班女。我が子を商人にさらわれて狂ってしまう。強烈な体験が後の二人に大きな影響を与える。

 

大阪駅で徳次と派手なケンカをした弁天は、その後仲良くなり、春江のアパートにも出入りするようになった。
辻村が手を回して徳次の収容期間を短縮させ、逃げ得となった徳次。
弁天と北海道で勝負に出たい、と喜久雄に話す徳次。

現場監督もどきの仕事だという。
ここに居ても徳次の居場所はない。

心配いらんて、と言った徳次の笑顔。

 

5.スタア誕生
徳次が北海道に出てから既に四年。喜久雄は半二郎の部屋子になっていた。高校に入った喜久雄だが、背中の彫り物の事もあり、あっさり中途退学。

 

歌舞伎の低迷期でもあり、半二郎が始めたのが地方巡業。

そんな中で喜久雄と俊介が行う「二人道成寺」
巡業にあたっては九州の辻村が援助。

巡業を仕切る三友興業の梅木社長。若い二人の演技に満足。早大教授の藤川が二人を絶賛していると聞いて、今の演目を京都の南座でかけたいと提案。
梅木に同行している竹野。ただの世襲の世界だ、と喜久雄の境遇を冷笑。女形のまま竹野を蹴り付ける喜久雄。

 

西回りの巡業の最後は博多。半二郎が、里帰りしてはどうか、と喜久雄に持ち掛けた。
実家に帰った喜久雄を見て慌てるマツ。実は、屋敷は抵当に取られ、そこで住み込み女中として働いていた。

そんな苦しい中で半二郎に金を送っていたマツ。
巡業も一段落した頃、半二郎が通帳を喜久雄に差し出した。

毎月マツが仕送りしていた金を全て貯金していた。

好きに使うたらええ、と半二郎。

 

京都南座での「二人道成寺」は成功を収めた。東一郎(喜久雄)と半弥(俊介)に目を向ける女の子たち。
浮かれる俊介の祇園通いに対し、早く一流になりたいと願う意識の喜久雄。それが大きな違いを生む。

 

6.曽根崎の森の道行
北海道へ行った徳次。実はひと月で大阪に戻っていた。弁天と二人で手配師に頼んで渡ったものの、道路掘削の現場に放り込まれた。
早々にそこを逃げ出し、人の情を受けながらどうにか帰阪。手配師を訴えようと労働福祉センターにねじ込んだ徳次。そこでたまたま撮られていた、ドキュメンタリー取材の様子がそのままTV放映され、話題を呼んだ。その時の監督が三友興業、映画部出身の清田。

 

その後も芝居勘の良さで、清田は徳次を使い、多少の注目を集める。
そんな話が喜久雄の耳に入り、半二郎に相談したところ、三友に早速話をつけてくれ、徳次は大部屋俳優として雇ってもらえた。

 

弁天は、漫才師の沢田西洋に弟子入りしており、TV収録の付き添いをしていた。
徳次と弁天もそれに立ち会っていたが、初めての事であり、西洋はトラブルを重ねてキレたり詫びたり。
そんな時にスタジオへ、半二郎が交通事故に遭ったという知らせ。
早速病院にタクシーで乗り付ける喜久雄。両足骨折だった。
来週から大阪中座で始まる「曾根崎心中」のお初を半二郎がやる事になっている。

半二郎の代役は当然俊介、と思っていた幸子だが、三木社長が電話で告げたのは喜久雄。半二郎が決めたという。

坂田藤十郎の逸話。世襲ではなく実力を重んじた。
実の子より部屋子の方がうまい、と決めたのが半二郎なら仕方がない。代役が勤まるよう助ける、と俊介。

舞台稽古までの三日間、病室での苛烈な稽古を受ける喜久雄。

容赦ない半二郎。
座頭で相方の、徳兵衛役の生田庄左衛門による舞台稽古が始まる。初役の割りには良く入っているとの評価。

だがそれも客から見ればお情け。二度目はない。

 

こうして始まった公演。昼の部は俊介との「二人道成寺」。

夜の部は「曾根崎心中」と称賛を受ける喜久雄。一方、俊介には容赦ない野次が飛ぶ。
極限の二十一日間も、終わってみれば絶賛され、一躍東一郎ブームとなった。
楽日の翌朝から俊介が行方不明になった。同じ日に、北新地で雇われママをやっていた春江も姿を消した。
二人の仲を全く疑っていなかった喜久雄。

 

7.出世魚
マンションの一室で麻雀をする四人。喜久雄と、女優の赤城洋子、荒風関に徳次。
半二郎の代役で「曾根崎心中」のお初をやったのが三年前。俊介の出奔もあって近所のマンションへ引っ越した喜久雄。
喜久雄の人気は続かず、三木は喜久雄を東京に送り出そうとしたが、半二郎は反対。喜久雄は数本の映画にも出演したものの、特有の色香は表現されず。
そんな折り、喜久雄は半二郎から貰った金でスポーツカーを購入。母のマツを大阪見物させるためだったが、半二郎は落胆。

 

祇園で知り合った市駒との間に娘「綾乃」が生まれていた。二歳になるところ。この時世話を焼いてくれたのが幸子。
喜久雄を半二郎の養子に、という話が出てから既に半年。出奔してから三年経つ俊介との関係が悩ましい。

糖尿の気があった半二郎。骨折時、軽度の緑内障と言われていたが、俊介の出奔で放置。もうどうしようもない所まで来ている。
出番のところまで半二郎の手を引く喜久雄。半二郎は、自分が白虎を継ぐからお前も半二郎を継げと言う。
穏やかではない幸子だが、こちらも腹を決める。

 

大阪中座での襲名披露。演目は「連獅子」
幕が開き白虎、半二郎を挟んで大幹部が並ぶ。
喜久雄の挨拶が終り、次は白虎というところで、口上に入る筈が、動きがない。
花井白虎が、突然大量の鮮血を吐いて倒れた。

 

8.風狂無頼
姉川鶴若の舞台を袖で見ている喜久雄。鶴若は小野川万菊と人気を二分する女形。
白虎の吐血事件で全国行脚は全て中止。そのお詫び行脚として姉川鶴之助の、鶴若への襲名を早めて何とか凌いだ。
結局そのせいで梅木は社内抗争に負け、大阪のTV局社長へ左遷となった。
社を去るにあたって梅木は、鶴若に喜久雄を預けた。底にある鶴若の悪意。鶴若の、喜久雄に対する扱いは冷たく、一年にも亘る地方巡業を言い渡される。

 

入院中の白虎。彼には現在の厳しい状況など話せない。
幸子は新興宗教の「浄土会」に入れ込んでいた。
そんな時の深夜、白虎の危篤を告げる電話。
白虎の最後の言葉は「俊ぼーん、俊ぼーん・・・・」
昭和60年7月18日に行われた花井白虎の、告別式記事。

 

閑散とした客席の市民ホールで踊る喜久雄。楽屋に戻った喜久雄を訪ねる木下という三友社員。
白虎の自宅の立ち退きに関する話。白虎が作った一億超の借金。

自宅は抵当。その借金は全て自分が相続する、と言う喜久雄に驚く徳次。
三友本社はそれを受けた。抵当だけではとても損失の補填が出来ず、喜久雄に期待。

 

9.伽羅枕(きゃらまくら)
麻雀仲間だった荒風関の引退。マンションの引き払いを手伝う喜久雄。荒風とは東京に来て以来の仲。早い出世をしたが膝を痛めた。
その後明治座へ楽屋入りする喜久雄。この月は小野川万菊と姉川鶴若の共演による出し物。喜久雄には端役しか与えられない。

 

弁天は、持ち前の毒舌キャラで師匠と入れ替わりに人気が出始めていた。そんな中、以前徳次を撮影した監督、清田の映画への参加が決まった弁天が、劇中に歌舞伎の女形が必要という事を聞いて、徳次に話を繋いだ。

徳次が持ち込んだ話を、最初は断る喜久雄。映画には向いていない。だが八方塞がりの状態。年齢も、もう二十八。

 

ようやく決心する喜久雄。映画は「太陽のカラヴァッジョ」太平洋戦争末期の沖縄戦を描く。

喜久雄に難色を示した清田だが、結局使う事を決める。
アメリカのロックバンドのメンバー、ミスター・ハドソンも加えて撮影開始。

だが喜久雄の演技は気に入られず、それが次第に感染して、全体の雰囲気が喜久雄を責めるものになった。
映画の中でも重要な、暴行を受けるシーンを翌日に控え、何者かに本当に暴行される喜久雄。

 

過酷な撮影が終わり、東京に戻ってからの喜久雄は人が変わったように飲み歩く。
映画が高い評価を受け、カンヌ映画祭で賞を取った。だがそれを無視する喜久雄。受賞セレモニーにも喜久雄の姿だけがなかった。

体調を崩して入院する喜久雄に、途方に暮れる徳次。
しばらく市駒のところで暮したい、と喜久雄。

 

10.怪描
かつて三友で梅木の部下として丹波屋に出入りしていた竹野。

梅木に引っ張られて大阪のTV局に出向中。
そんな番組企画の中で、見世物小屋でやる化け猫が人気との話を聞く。

 

鳥取の三朝温泉の劇場で、ビール片手に化け猫の出し物を観る竹野。目も当てられない田舎芝居だが、化け猫への素晴らしい早替わりに驚く。
楽屋とも言えない暖簾の先で化粧を落とす男。

 

海水浴場で綾乃と遊ぶ喜久雄。長い逗留に、次第に慣れる綾乃。
そんなところへ訪ねる徳次。気力の戻った喜久雄を見て喜ぶ。

小野川万菊を連れて別府に向かう竹野。俊介の芸を見てもらうため。
竹野の狙いは、俊介の復活劇をTVで特集することで一大ブームを巻き起こす。核となるのは、喜久雄を完全な悪役にする事。

 

鉄輪温泉郷の芝居小屋で、化け猫の早替わりを見る万菊。次第に手が動き出す。
楽屋で俊介に声をかける「ほんとにあなた、生きててくれてありがと」

 

三友本社での、喜久雄と俊介の対面。この十年の思い。
春江に会ってくれないか、と俊介。そして「ガキ、おんねん」
もうすぐ三歳だという一豊を抱きしめる喜久雄。傍らに春江。

俊介の復帰公演の準備を進める三友。万菊と絡む大役。結局血筋か、と腹を立てる徳次を制しながらも複雑な喜久雄。
万菊に直接稽古を付けられる俊介を見て、悔しさがこみ上げる喜久雄。
そんなところへ「喜久雄お兄ちゃん!」と飛び出して来た娘。

江戸歌舞伎の大看板、吾妻千五郎の娘、彰子。

 

11.悪の華
故花井白虎の屋敷。春江が一豊に柿を食べさせている。幸子は「西方信教」の信徒らとお題目。豊一をけしかけて信徒を追い払う春江。その手腕に感嘆するお手伝いのお勢。
幸子の相談。復帰公演もあり、ここを出て東京へ行ってはとの話。

反対する理由はない。
「喜久ぼんの事は・・・ええんやな?」の問いに「はい」

喜久雄への手紙を春江に指示する幸子。

これまでの感謝、今後の展望について。

 

東京に移った幸子と俊介家族。
多忙の俊介に代わって雑多な手続きは幸子と春江が済ませた。
喜久雄の返信。大阪の屋敷の返却、借金の移譲と丹波屋への感謝。

竹野のシナリオ。喜久雄の隠し子暴きでワイドショーの餌食に。
喜久雄が白虎の代役を奪い、三代目半二郎を名乗っている事の告発。そうして喜久雄の悪いイメージが定着。
その上で、俊介一家をNHKのトーク番組へ出演させた。

 

復帰公演の初日。劇評家の藤川も絶賛。一方喜久雄は、売りに出された大阪の屋敷の事まで勝手にやったと報じられていた。
春江を訪れる松野という男を気にする幸子。

 

吾妻千五郎の次女、彰子。婚約している。相手は東大卒。キャンパスから喜久雄に電話をかける彰子。
電話の後、自分に喝を入れる喜久雄。現状に焦る喜久雄は、彰子が婚約中と知って抱いた。吾妻千五郎の後ろ盾欲しさ。

吾妻千五郎の足元で土下座する喜久雄。横に彰子。

足蹴にされる喜久雄。
とりあえず帰ってくれと懇願する母親に、私も出て行く、と彰子。

 

12.反魂香(はんごんこう)
源吉からの情報で、喜久雄が八重垣姫を踊る事を知る俊介。俊介は歌舞伎座で同じく八重垣姫を、喜久雄は新派。

これは竹野の目論見。競合させて注目を集める。

 

彰子を利用して吾妻千五郎に取り入ろうとした事を知って徳次は激怒。それを受け止め、全てを彰子に話した喜久雄。
廃業寸前まで追い詰められた喜久雄に、見かねて彰子の母桂子が、遠縁で新派の大看板、曽根松子に助けを求めた。
試しに「遊女夕霧」を踊ったところ、大きなを評判を呼んだ。
喜久雄が移った事で、新派における歌舞伎の演目も増え、その対立軸でファン層が広がった。以来四年。

 

その流れの先が八重垣姫の踊る「本朝廿四孝」の新派、歌舞伎による同時期公演。
この話を聞いた万菊が、二人に稽古をつけてやると申し出た。
万菊のマンションを訪ねる喜久雄と俊介。板張りの稽古場も備えられている。
俊介の首がずっと振れている事を指摘する万菊。

喜久雄が数段上だと言う一方、綺麗なままの顔は悲劇だ、とも。

 

俊介との不遇の日々を思い出す春江。
出奔の後、名古屋に落ち着いた二人。日雇いを始めた俊介だが三日と続かない。働きに出た春江は、半年あまりで店を任される。
ヒモ生活の俊介だが、アパートの大家が見かねて自分が経営している古書店で働く事を勧めた。
その店が歌舞伎、文楽を扱う店であり、専門書に接する俊介。

名古屋に来て一年ほどで春江が懐妊。

家に戻る様な望みも口にして、決意の甘さに驚く春江。
生まれた息子の豊生を連れて三人で父、半二郎との再会。
試験や、と言って「本朝廿四孝」の一場面をやらせる半二郎。
あと一年やって、それでもダメなら喜久雄に半二郎を継がせる、と言う父。俊介は、あと一年で戻れると考えていた。
そんなある日、春江が不在の時に豊生が熱を出した。

様々なトラブルの末、ようやく病院に運んだが手遅れ。
俊介の、筆舌に尽せない落胆。
荒みきった数年を経て、ようやく旅役者となった俊介。

 

帰宅した俊介が仏壇の前で手を合わせる。白虎と豊生の位牌。

追って来た春江が聞くと、「本朝廿四孝」の八重垣姫で芸術選奨を受賞したと言う。
喜久雄に電話をかける俊介。彼も同じ賞を受けていた。
数年ぶりの会話。

 

13.Sagi Musume  
俊介が芸術選奨受けた直後に披露したのが「鷺娘」。俊介が長らく研究して復活させた内容。
竹野が以前同様、喜久雄にも鷺娘をけしかけた。
喜久雄はかねて考えていたオペラとの競演を実現させ、七日間の東京公演が行われた。
その絶賛を受けてのパリ公演も大成功。半二郎の名は一般にも知られるところとなる。

そんな折りに九州の辻村からの電話。辻村が愛甲会を引き継いで二十年。その記念パーティーで喜久雄の鷺娘を踊って欲しいという。
徳次の反対をよそに、二つ返事で引き受ける喜久雄。

 

そんな時、徳次に京都の市駒から電話。不良とのつきあいを深めている綾乃。渡阪し弁天から情報を集めて、関係している暴走族のタカシを割り出す徳次。
タカシの家で綾乃を確保する徳次。部屋にはシンナーの臭い。
上の組織の南組に乗り込む徳次。
父親の半二郎に因縁を付けるつもりだった組長だが、その名代だと腹を据えて対峙する徳次。
命を捨てるつもりで来た事を覚った組長は「指詰めて帰ったらええ」と続ける。
前に出されたまな板と鑿。

淡々と準備を進める徳次に「役者の付き人にしとくのは惜しい」
「杯交わしたんが色男、しゃーないですわ」と鑿に体重をかける徳次。

 

福岡のグランドホテルで鷺娘を踊る喜久雄。
見とれる客たちの前で、クライマックスを迎える寸前に照明が入り、警察のガサ入れが始まった。
連行される辻村に声をかける喜久雄だが、無言で首を横に振る辻村。

 

辻村逮捕と共に、その場にいた喜久雄の事がスクープに晒された。今まで控えられてきた刺青の事も一気に歯止めが崩れる。
マスコミからの出演拒絶を受け、新派の舞台にも出られない。

市駒の元に戻った綾乃。男にはもう相手にされない。更に悪い者たちへの接触で、薬物にまで手を出したところで補導された。
さすがに喜久雄も関わらざるを得ない。だが決定的な綾乃との断絶。
そんな時に春江が声をかける。

俊介を薬物から更生させた経緯があった。
春江に預けられる事で、生活の乱れも正されて行く綾乃。

 

仕事の面での苦しい状況が続く中、彰子に千五郎からの電話。
喜久雄と二人で出向くと「戻って来い」と喜久雄に言う。
貧乏クジだと判っていて、世話になった親分の顔を立てた事を評価した千五郎。

千五郎の許しが出た事はすぐ広まり、形を整えるため喜久雄が記者会見を行って、暴力団との絶縁を宣言。
それを受けて三友が仕掛けたイベントが、半二郎と半弥が交代で配役を変える「源氏物語」

 

14.泡の場
「源氏物語」は高い評価を受けた。
舞台の後、二人で酒を酌み交わす喜久雄と俊介。大阪で初めて会ってから、はや二十余年。
次の演目の構想を話す喜久雄。経済的にも余裕の出始めた二人。

銀座のクラブで飲む喜久雄、俊介、弁天、徳次の四人。
弁天が、歌舞伎役者の鶴若がお笑い系の番組にレギュラー出演すると話した。「あの鶴若さんかいな?」と徳次。
持ちビルのテナントが焦げ付いて、資金繰りが苦しいらしい。
かつて白虎の吐血騒ぎの余波で、喜久雄が鶴若に面倒を見られていた時の仕打ちを、徳次も一緒に経験していた。
今その鶴若が、明治座の喜久雄らの公演で端役をやっている。

 

三友の計らいで仕事量をセーブしている喜久雄にイラつく徳次。俊介は新作「土蜘蛛」の準備。
だが喜久雄にも「阿古屋」をやろうという目論見。

だが胡弓の演奏が難しく、今高名な師匠に付いている。

 

年が明け、俊介の「土蜘蛛」公演が始まった。三友からそろそろ「襲名」の打診。半二郎は喜久雄が継いでいるため俊介は「白虎」
だが先代の不吉を思い、不安の幸子は滝行に励む。

俊介の舞台の後見をする源吉。ふらつく体で無理をしている。何とか襲名までは勤めさせて、幹部役者になってもらいたい俊介。
だが源吉の心配をする俊介自身、足の冷えが気になっていた。

 

15.韃靼(だったん)の夢
竹野の仕込みでセットされた宴会。喜久雄と、同じく歌舞伎役者で七歳ほど年長の伊藤京之助が呼ばれた。相手は矢口建設の若社長夫妻。
この人がスポンサーとなって、歌舞伎を後世に残すためのプロジェクトを進める。

社長のリクエストは、前の二人による「国性爺合戦」をやること。

 

丹波屋での正月に、勝手口から顔を出す松野。
松野は春江の義理の父。春江が三歳の頃から住み始め、当時は暴力をふるった。俊介が廃人になりかけて母親を頼った時も、ヒモ生活をしていたが、男手としてそれなりに役に立った。


「国性爺合戦」の稽古が進む中、徳次が中国に渡って勝負をかけたいと言って来た。呆れる喜久雄だが、徳次の意思は固い。
「国性爺合戦」が終わるまでは支える、と徳次。
演目も無事に千秋楽を迎えた翌日、誰にも知られずに姿を消した徳次。

 

次第に進む襲名の準備。喜久雄が口上に同席してくれると聞いて喜ぶ俊介。俊介の復活がなければ白虎の名跡を継ぐのは喜久雄の筈だった。
ふと俊介の足元を見て、痣を指摘する付き人の恵美。

小指の付け根がうっすらと紫色。

 

京都南座での襲名披露。俊介演ずる「曾根崎心中」、喜久雄の「鷺娘」
そして俊介の襲名口上。
形通りの枕の後、一度は逃げ出した事と、亡くした豊生の話をし、初日だけはこの三人で襲名披露をしたい、と結ぶ俊介。

 

16.巨星墜つ
小野川万菊の通夜に駆け付ける喜久雄と俊介。死んだ場所は三谷のドヤ街。享年九十三歳。
三年前の俊介襲名以来、公の場に出ていなかった。
風邪をこじらせて長期入院した後の長期療養で、人を寄せ付けなくなった。
マンションのゴミ問題を起こして三友が乗り出し、入院させたが、九十歳の身で出奔。それからは消息知れず。
ドヤ街の日雇いの者の話では、元おかまバーをやっていたとの説明。

 

阿古屋の稽古が進む中、綾乃からの電話。会わせたい人というのが相撲取りの大関、大雷(おおいかずち)。
腹に子が居る。披露宴の時だけ三代目花井半二郎の娘として嫁に行きたいと言う綾乃。

 

「阿古屋」の舞台が開き、大入りの大盛況。
一方俊介の「女蜘」も当たり、全国規模の巡業が計画される。

九州の「女蜘」公演での事故。俊介の足がもつれ、花道へ転落した。
尋常でない痛がりよう。
診断によれば右足先の壊死。原因で考えられるのは糖尿病など。
幕間で春江からの電話を受ける喜久雄。俊介の右足切断手術の件。
急ぎ病院に行く喜久雄。

「あかんて、あかんて」と言う喜久雄に対し、覚悟を決めている俊介。

 

近づく綾乃の結婚式。父親が、出席するためにリハビリをしている、と言う息子の一豊は、もう二十歳。
「娘道成寺」で高評価を受けている。
盛大に行われた綾乃と大雷の結婚式。手術後初めて公の場に出た俊介は、松葉杖もつかず歩き、復活をアピールした。
その後綾乃は女児、喜重(きえ)を出産。

 

花井白虎の復帰公演は「お富さん」の元となる「与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)」。奇跡の復活と讃えられた。

深夜、春江からの電話を受けた彰子が喜久雄に渡す。俊介が暴れているという。
駆け付けた喜久雄。病院の検査で、左足も壊死のため切らなくてはならないという。
もうあかん、と言う俊介に、旦那さんは最後まで舞台に立っていた、と諭す喜久雄。

 

17.五代目花井白虎
両足義足の姿で喜久雄の楽屋に顔を出す俊介。一刻も早く舞台に立ちたい、と「隅田川」を提案する。
班女を俊介、舟人が喜久雄。「喜んでやるよ」

懸命なリハビリの結果、俊介の「隅田川」による復帰公演が決まる。だが三友側のテストではまだまだ。
元になっている能の動きに戻しては、と提案する喜久雄。動きも穏やかで今の俊介にマッチ。苦しい稽古は続く。

 

俊介の復帰公演「隅田川」の開演から五日目。同情ではなく、その演技は絶賛された。
だが俊介には過度な負担。楽日まで勤めたものの意識障害を起こし、そのまま入院。
そんな俊介に「日本芸術院賞」が授与された。夫婦して喜ぶ俊介。
だが俊介の容体は次第に悪化して行った。

 

出の寸前に、付き人の蝶助から俊介の死を告げられる喜久雄。
緊張が走る中「はい」と言って喜久雄が歩み出る。
観客が観たいのは美しい女形。どんな言い訳も通用しない。

 

18.孤城落日
花井半弥を継いだ一豊。若手の中心として忙しい。今年は父俊介の七回忌。

深夜一時。すすり泣く声を聞いて起き出す春江。一豊が人を撥ねたという。動転した春江は向かいのアパートに走り、松野をたたき起こした。一豊の事を聞いて全て悟った松野は「その車、運転してたん俺や」
だが正気に返って、事故を起こしたという現場に走る春江。

その先には救急車のライトと警官に囲まれた一豊の姿。

 

三友本社で記者会見する喜久雄。進行は竹野。
謝罪会見は全国に流された。徹頭徹尾、謝罪を続けるという喜久雄の姿勢は好感を与えた。

結果的にそれは、これからの若い役者を抹殺した。

 

一豊が起こした事件は、被害者の治癒、判決(執行猶予)により一応決着。それを受けて喜久雄の公演が始まる。
歌舞伎のイメージアップも賭けて、喜久雄の意気込みが凄く、近寄る者もいない。

 

喜久雄に起きた事件。
この時期演じているのは「藤娘」。何を演じても突出してしまう喜久雄は、一人で踊る演目が多くなっていた。
喜久雄の醸し出す気品に観客はうっとりし、それが後方の客にも伝わって行く。

第一幕の終わり。若い男性客がうっとりしているのを認めた喜久雄。
第二場でもその視線を感じ、その客だけのために踊る様な気分になった喜久雄。
だが一連の流れで回転し、次に目を向けた時、その客がいなかった。
訝りながらも踊りを続け、再び回転して戻った時、目の前にその客が立っていた。

どよめく客席。男は焦点が合わないまま喜久雄を見つめている
一瞬の後、黒子やスタッフが男を引き摺り出した。
再開した三味線、長唄の中でぽつんと取り残される喜久雄。

 

19.錦鯉
国立劇場での近松演目の「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」。喜久雄の相方を演じる伊藤京之助は、微妙な違和感を感じる。三年ほど前から舞台以外の仕事を一切受け付けなくなった喜久雄。
そんなわがままも、舞台での演技が群を抜いており許される。

それが彼の神格化を進めた。

 

そんな時期に動き出した喜久雄への「人間国宝」プロジェクト。だが一昨年に文化功労者を受けたものの、その出自から喜久雄を不快に思う者もいた。

「女殺油地獄」の終幕間際に知らされた綾乃の家の火事。
幕が下りて駆け付ける喜久雄。孫の喜重が火傷を負ったという。
病室に入ろうとする喜久雄を綾乃が制した。
「お父ちゃんは来んでええ!」
皆の幸せを奪って行く父親。

ずっと憎まれていた事を思い知らされる喜久雄。

 

一豊の妻、美緒。謹慎が解けた頃結婚した。
ねん挫して入院中の幸子を見舞ってから三友の竹野を訪れる春江。
屋敷を担保に入れるための手続き。

 

珍しく舞台を観た竹野。

最近聞く、最近の三代目は窮屈そう、と言う声。
まるで錦鯉を小さな水槽で飼っている。喜久雄を見ていられない竹野。

喜久雄の付き人をしている一豊に聞く竹野。
「いつから三代目はああなんだよ」
「・・・・時々ああなるんです」喜久雄の、ガラス玉の様な目。

正気とは思えない。
六年前、あの事件があって以来の事。
狂人の目に見えるものが完璧な世界なら、それが喜久雄の求めたもの。

 

20.国宝
タクシーで病院に向かう喜久雄と一豊。辻村の娘からの連絡。
辻村が逮捕されたのは、もう三十年も前の事。それまでの間、一切の連絡を絶っていた辻村。

痩せた手を握る喜久雄に、父親殺しを告白する辻村。
小父さん、もうよかよ。

 

喜久雄演じる「阿古屋」。準備は全て彰子の仕事。
竹野宛てに喜久雄の「重要無形文化財」認定への答申通知が届く。

綾乃宛に届いた「阿古屋」のチケット。「お嬢へ 天狗より」のメモ。

二枚ある席には誰もいない。春江に促されて席に座る綾乃。

 

始まった「阿古屋」の舞台。思い人の居場所を詰問される阿古屋。
高貴な香りに包まれてこの五十年舞って来た。

羽田空港から歌舞伎座に向かう男、徳次。中国で大成功した。喜久雄の人間国宝を知って飛んで来た。

続く阿古屋の舞台。阿古屋が無罪放免される場面。
その幕が引かれようとする時、喜久雄が客席に向けて足を出した。そのまま降りて行く。
劇場スタッフも気圧されてされて扉を開ける。

歌舞伎座の大扉から現れた花魁に周囲は驚く。

 

スクランブル交差点によろめきながら飛び出した喜久雄。
その瞬間、喜久雄はいつもの様に「はい」と頷いて出の合図をした。

その眩い照明がどれほど役者の心を痺れさせるか、鳴りやまぬ拍手がどれほどの幸福感か。
日本一の女形、三代目花井半二郎は、今ここに立っている。

 

 

感想
ヤクザの家系に生まれ、数奇な運命で歌舞伎の世界に入り、世襲の壁を越えて「人間国宝」まで昇りつめた男を描いた物語。
最初描かれたヤクザの世界で「朝日新聞がヤクザ小説出したらアカんだろう」と思っていたが、その話は二章までで終わり、以後は歌舞伎の世界。

 

物語の軸になるのは「世襲」の俊介に対する「部屋子」の喜久雄との対比。実際の歌舞伎界でも、片岡愛之助などは血縁のない関係で、立派に歌舞伎役者となっている。

 

序章でカギになると思われていた、辻村の権五郎殺しについては、その後封印され、最終章で死の直前、辻村の告白として浮上する。
この辻村、最初は裏切り者として悪感情を持っていたが、喜久雄を半二郎に預ける方向付け、その後の巡業支援等、親がわりとも言える献身。これは単に父親を殺した引け目を越えて、人間的なものを感じた。

 

喜久雄については、徳次という無私の支援者のおかげで助けられ、またそれが徳次の幸せ。この関係はうらやましくもある。
肝心の喜久雄は、自分にとって損と思われる行動を取ったり、逆に千五郎に取り入るため、娘の彰子を誘惑。ここでも「最低の男」と断じてしまったが、恩のある辻村のために踊った事で勘気が解けた。
そこで喜久雄の背中の、刺青のミミズクが利いて来る。

ミミズクは一度恩を受けた人間を忘れない。

 

喜久雄を取り巻く女たちも、様々な形で魅力を放つ。
喜久雄の義母マツ。病気だった喜久雄の実母を看取り、彼が半二郎に預けられてからは身を粉にして仕送り。春江も、喜久雄を追って大阪に来たものの、破滅寸前の俊介に手を差し伸べる。
喜久雄の策略に乗せられた彰子も、真実の告白を聞いて「最後まで騙してよ」と許す。
娘の綾乃、孫の喜重も物語に厚みを持たせている。

 

こうして終わってみると、いい小説だったな、と思う。
惜しむらくは挿絵。最初はその独特の描写を絶賛したが、延々と続く、顔なしに墨を流す表現。まともな顔が描けないのかよ!としまいにはツッコミたくなった。

 

 

さて、次回は「重松 清」氏の「ひこばえ
彼の作品は好きで、何冊かレビューしている。
彼とほぼ同年代の男性が主人公らしい。楽しみ。

 

 


サタデー・ナイト・フィーバー 1977年

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監督 ジョン・バダム
音楽 ビー・ジーズ、デヴィッド・シャイア

 

キャスト
トニー       ジョン・トラボルタ
ステファニー    カレン・リン・ゴーニイ
ボビー       バリー・ミラー
ジョーイ      ジョセフ・カリ
ダブルJ       ポール・ベイブ
ガス        ブルース・オーンスタイン
アネット      ドナ・ペスコウ
フランク           マーティン・シャカー

 

 


 

あらすじ
ブルックリンの塗料屋で働くトニー。部屋にはブルース・リー、チャーリーズ・エンジェルのポスター。
家では、失業中の父が口うるさく、母親とケンカ。それに妹と祖母。何かにつけて聖職者の兄フランクと比較される。
そんな中での楽しみは土曜の夜にディスコで踊ること。いつも行く店は「2001 Odyssey」。給料の多くはここでの衣装代に消える。
数名の連れがおり、いつも移動はボビーの車。

 

 

ある土曜日、いつものディスコに行ったボビーは、そこで踊るステファニーの踊りに惹かれる。
一方トニーのダンスパートナーはアネット。次のダンスコンテストで組む事を引き受けるが、あまり気乗りはしていない。

店で引き抜きらしい男から話しかけられるトニー。店主はそれを警戒して4ドルの昇給を告げる。喜ぶトニーだが、父親はバカにする。

 

ダンススタジオでアネットと練習をしていたトニーは、そこでステファニーに気付き、アネットを先に帰して彼女に声を掛ける。

だが相手にされない。
帰宅すると兄が帰っていた。話を聞くと神父を辞めたとのこと。クビではない。禁欲が理由と言われたくない。

本当の理由は、十字架の男が神に見えない。信仰を持たないまま神を信じようとした。
自分を落ちこぼれだと思っていたトニーは、兄が教会を辞めたら力が湧いて来た。

 

ステファニーをコーヒーに誘い、話をするが、仕事の関係で芸能人と会っている事をベラベラと自慢する彼女に圧倒される。
ダンスパートナーの件は了承してもらえたが、それ以上の関係にはならないとクギを刺される。ダンスは若いうちだけ。

 

 

仲間のガスがバラクーダ・クラブ(プエルトリコ人)に襲われたという知らせが入る。

アネットにダンスのパートナー解消を告げるトニー。そしてフランクをディスコに連れて行く。踊りにはあまり興味ないフランク。
ボビーがフランクに、彼女を妊娠させた事の相談をするが、思う答えはもらえず。フランクは途中で帰る。
ステファニーと待ち合わせた筈が来ないので機嫌が悪いトニー。

アネットの誘いで、ボビーの車の後部座席でコトに及ぼうとするが、避妊していないため断念(コンドームは論外)。

 

その後仲間たちでマンハッタンとブルックリン間に掛かる橋で、欄干に登る肝だめしをして遊ぶ。

翌日、フランクは家を出て行った。トニーへの土産は神父の服。
後日、ステファニーの引っ越し手伝いのために店を休んだトニー。

店主にクビだ、と止められても無視。
引越し先にいた男とステファニーとの話から、彼との肉体関係を知る。都会で仕事をする時には男の助けが必要だったと言い訳するステファニー。橋のたもとで話し合い、気持ちを通わせる二人。

 

バラクーダ・クラブへの仕返しを考えていたトニーたちだが、ボビーが先走って、車をその店に突っ込ませてしまい、大乱闘となる。
その後ガスが入院している病院へ報告に行くとガスは、あいつらだとははっきり判らない、と言い出す。

顔にケガをしたトニーは応急処置。

 

ダンスコンテストの日を迎え、トニーとステファニーはスローバラードで息の合った踊りを見せるが、プエルトリコ人カップルの踊りに圧倒される。


 

結局トニーたちが優勝するが、これは実力ではなく、人種差別の結果だと怒ったトニーは、そのカップルにトロフィーと賞金を渡す。

ステファニーに迫るトニーだが逃げられ、一方アネットは、トニーの友達と次々に車の後ろで寝て見せつける。

完全に落ち込んだトニー。

 

車が例の橋にさしかかり、いつもの様に欄干に登って遊ぶが、恋人の妊娠の相談を誰も聞いてくれない事に失望したボビーは、乱れ始めて、トニーが助けに行く途中で川に落ちた。海面までは100m以上。

 

警察が来て事情聴取された後、ステファニーの家に向かうトニー。

トニーの痛みに寄り添うステファニー。トニーは、もうあの町では暮らさない、仕事を見つけると言った。
いつも褒めてくれた。自信が持てた。

ただ友達として助け合う、とトニー。
出来る? 友達になりましょ、とステファニー。

 

 

感想
実は、まだ未見だった。今年になってTV放送のあったもの。
ただ踊るだけのチャラい映画だと思っていたので、いい意味で少し裏切られた。
まあ、シーツでぐるぐる巻きになってパスタを食う場面(予告編でよくやってたヤツ)はお約束だったが。

ディスコでうまく踊るために、ダンススタジオにまで通って頑張るストイックさ。そして衣装に給料をつぎ込む。

現実逃避ではあるけど、その場所でなら輝くことが出来る。
ど派手な成人式のために一年分の貯金をはたく、日本の若者にもけっこう共感できる。

 

マンハッタンとブルックリンの間にかかる橋が象徴的。

貧富を分けるところでボビーが死んだ。
ダンスコンテストの賞金が500ドルというカワいさに少し感動。

まあ田舎のディスコだからね。
映像の華やかさと裏腹な現実感、これが全てか。

 

しかし、コンドームを使いたがらない男どもの身勝手さ・・・

 


プエルトリコのカップルが踊った時の曲は MFSBの「K・Jee」。

けっこう好きな曲。

 

 

 

 

 

 

妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3  2018年

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監督 山田洋次
脚本 山田洋次、平松恵美子
音楽 久石譲

 

キャスト
平田周造       - 橋爪功      父
平田富子       - 吉行和子    母。周造の妻
平田幸之助     - 西村雅彦   長男
平田史枝       - 夏川結衣        幸之助の妻
金井成子       - 中嶋朋子        長女。税理士
金井泰蔵       - 林家正蔵        成子の夫。
平田庄太       - 妻夫木聡        次男。ピアノ調律師
平田憲子        - 蒼井優           庄太の妻 看護師
加代              - 風吹ジュン      居酒屋の女将
角田                  - 小林稔侍       医者・周造の同級生
泥棒                  - 笹野高史      
講師          - 木場勝己
タクシー運転手  - 笑福亭鶴瓶
刑事           - 立川志らく
鰻屋            - 徳永ゆうき
巡査(中村)       - 藤山扇治郎

 

 

 

あらすじ
朝の風景。食事の用意をしたのに牛乳だけ飲んで出ようとする幸之助。香港に出張。いいなーという息子に「遊びに行くんじゃない!」。仕事はクレーム処理。
今月分の生活費を貰う史枝。これでは足りないと言う史枝に渋い顔で数枚渡す幸之助。タクシーが来て出掛ける幸之助。
友達の家ではお父さんがお母さんから小遣い貰っている、と息子。
平田家は、周造の時から男が金を渡す方式。家計を考えなくていいから楽、と富子。

 

周造が二階から降りて来る。「お父さん、今日は?」の声に「角田君とゴルフ」。角田は同級生で開業医。
富子はカルチャーセンター。息子が「ママも行ったら?」と言うと「行くならダンス」
高校時代、ダンス部でフラメンコをやっていた。だが昨年幸之助に言ったが相手にされない。

出迎えに来た角田の軽に乗って出掛ける周造は、家族の忠告で昨年免許返納。
巡査の中村が来て、史枝に最近空き巣が増えている、とチラシを置いて行く。
近所の主婦二人がパートに出掛けるのを見て羨ましい史枝。

 

カルチャーセンターの富子。仲間数人に男性講師。与謝野晶子の小説がテーマ。三回結婚をしている講師を冷やかすみんなに閉口の講師。
買い物の帰りにフラメンコ教室を見学する史枝。見ているうちに、自分が踊っている空想。

 

成子の事務所を訪ねる庄太。父親たちが墓参りに行くのに小遣いをやりたいが、自分だけで負担出来ない。

成子二万、庄太一万で話がつく。


「かよ」で飲んでいる周造と角田。二人の田舎は瀬戸内海。史枝からの電話を適当にあしらう周造。

富子に小遣いを渡す庄太。だが富子は、本当は行きたくないと言う。墓までは急な坂。年老いた親戚に会うのも気苦労。その話から史枝に、言いたい事があったら言わないと、と言う。
外で働きたいと言う史枝。自分で得た金を自由に使いたい。私は誰にでも出来る仕事をしているだけ、と嘆く史枝を励ます憲子。

 

二階で掃除をしている史枝。一息ついて周造の椅子にふと座ったままウトウトしてしまう。
そこに入って来た泥棒。鍵のかかっていない勝手口から入り、財布から金を抜いた。
冷蔵庫の牛乳を飲んでから、思い出した様に冷凍庫を開け、奥からビニールに包んだ袋を取り出す。その中身は札束。
そこで史枝が掃除機を持って階段から降りて来るのと目が合った。あわてて逃げ出す泥棒。
仕事をしている庄太に史枝から電話。泥棒に入られたという。身動きが取れない庄太。

 

刑事の事情聴取を受ける史枝。被害は普段使いの一万数千円と彼女の時計。それだけですか、と聞く刑事に言い難そうに、冷蔵庫のヘソクリが取られた事を話す史枝。金額は40万近い。

 

皆が居るところに帰宅する幸之助。クレームが何とかなって上機嫌。だが泥棒に入られたと聞いて急に不機嫌に。
ヘソクリの40万を取られた事にこだわる。俺が稼いだ金、家計費増やしてくれって言ったのは何なんだ!
成子が、10年も20年もかけて主婦がヘソクリするのは常識、ととりなすが「こんなイヤな思いさせやがって」とネチネチ続ける幸之助。八つ当たりされて怒って帰る成子。
その後も続ける幸之助。私がガマンすればいいのという史枝に、結局俺が稼いだ金。ピンハネみたいなもんだと続ける。泣き出す史枝。

 

墓の掃除をする周造と富子。この墓に入るのはイヤだと言い、カルチャーセンターの友達と共同で墓を買って、そこに入りたいと言う。

 

墓参りの帰り、泰蔵の車で帰る周造と富子。

大変な事が起きた、と泰蔵。

家に帰って、史枝が居ないのに気付く周造。

史枝が家出したと聞いて、いつかこんな事が起きると思っていた、と富子。ふてくされる幸之助。
40万の金に相変わらずこだわる幸之助。だが皆、今大事なのは史枝さんがどこに居るかだ、と言う。
憲子が行先を聞いていた。茂田井の実家。史枝から電話があった。両親が生きていた頃は良く遊びに行っていた。今は空き家。
「知らせる相手が間違っている、憲子さんは他人じゃないか」と言う幸之助に怒る庄太。「他人じゃないよ、憲子は僕の妻だよ。史枝さんだって元は他人だったじゃないか」
泰蔵が「私だって他人でした」と補強。
史枝さんが、憲子さんだけに打ち明けた気持ちが判る、と富子。彼女も嫁としてこの家に来た。

 

それでも抵抗する幸之助に「偉そうな口きくな!女房に逃げられた男が」と言ってしまう周造。
「それ言っちゃダメだ」と泰蔵。
逆上して外へ飲みに出る幸之助。富子が、明日からは任せてちょうだい、と家事を引き受ける。

 

息子が部屋で泣いているのを慰める庄太と憲子は、以前聞いていた二人のなれそめを話す。
史枝が通勤電車で気分が悪くなった時に、席を譲ってくれたのが幸之助。でも今は愛していないんだろ、と嘆く息子。

 

朝、腰痛で動けない富子。台所では周造と子供たちがバナナと牛乳。弁当が作れないので、幸之助は子供に金を渡す。

周造が洗濯をしているところへ角田が来て富子を診察。1週間はダメ。
角田が手を回して加代を呼んでいた。富子の手前、家政婦協会から来たおばさんという事に。
加代のおかげで何とか家事が回り、昼を作ってもらってビールで乾杯する周造と角田。
「お嫁さんの有り難さが判ったでしょ」と加代。

 

茂田井の家を掃除している史枝を訪ねる叔母のとも子。

昨夜明かりが点いていたのを見て訊ねて来た。
その後同級生の京子を訊ねる史枝。歓待する京子。

 

一段落して角田の車で帰る加代。
夕食の事を気にする富子だが「家政婦さんが下ごしらえしてくれた。鍋の火ぐらい見られる」と言う周造。だがソファに座ったとたん、寝てしまう。
うなぎ屋の兄ちゃんが、家から出る煙を見つけて勝手口から入り、ボヤを消し止める。

 

電話でその事を泰蔵から聞く庄太。だが憲子の祖母が家を出てさまよっており、探している状況。
あちこち探し、ようやく寺で住職と話しているところを保護。

帰りのタクシー運ちゃんにお父さん、と声をかける祖母。

 

京子の家で夕食までよばれる史枝。叔母のとも子も一緒。家の事は、時期を見て帰ればいいと言うとも子に対し京子は、別れちゃえ、と挑発。何ならスナック開こうか?

 

昼休み。会社の幸之助に面会する庄太。

相変わらずの幸之助を諭す庄太。
兄さんが行動を起こさない限り姉さんは帰って来ない。ヘタをすれば離婚、慰謝料、親権争い、そういう事になる。それでもいいのか?
不安そうな幸之助。どうしろと言いたいんだ?
昨日史枝と電話で話した庄太。幸之助と交わされた内容を聞いていた。
稼いだ金で史枝さんや子供を養っていると思っているのか?

当たり前だ。
そこが違うんだ。そうじゃない。史枝さんに家計のやりくり、掃除、子育て、全て委ねているから兄さんは一生懸命働くことが出来る。いわば役割分担。20年間の子育て、家事労働がどんなに大変な事か。
要するにあやまれという事か。そんなうわべの事じゃなく・・・・
兄さんが結婚した時、史枝さんは匂う様に美しくて、高校生の僕は、この人は幸せにならなきゃいけない、そう思った。今でもそう思っている。

考えてみるよ、と言う幸之助に「今すぐ行けよ!」「仕事だぞ」
一生に一度あるかないかの事、カミさん倒れて救急車とでも言えばどうにでもなる。去って行く幸之助。

 

まだ明るいうちに帰宅する幸之助に驚く周造。

茂田井に史枝を迎えに行くという。
逃げた女房迎えに行くのに、敵討ちに行くみたい、と悪態をつく周造。
車で走る幸之助。雨が降って来た。

 

家に着き、玄関先で座っている幸之助。

二階から降りて来てびっくりする史枝。
何で来たの?電車?と言う史枝に「自動車だよ。2時間運転してクタクタだ」。ぎこちない二人。
会社どうしたの?と聞く史枝に「妻が救急車で運ばれたとウソついた」

 

包装した箱を差し出す幸之助。香港みやげ。

開けると薔薇の柄のスカーフ。
自分で選んだの? まあな

スカーフを首にかける史枝。
「史枝、俺にはお前が必要だよ」と手を握る幸之助。

「居なきゃ、困るよ」
そこに雷。思わず幸之助の肩に手をやる史枝。

 

東京の家。皆集まっている。帰宅した子供たちは、父親が迎えに行ったと聞いて喜ぶ。
子供らの「腹へった」という声を聞いて、食事の準備をしていなかった事に気付く女性陣。
うな重を取る事に(うな茂にも世話になったし)。帰宅する二人も入れたら10人前。自分が支払うのか、とビビる周造に、富子が自分がおごる、と言った。ヘソクリ?
今は亡くなった、作家だった富子の弟の著作権料が入って来る。通帳はスマホの指紋認証。

周造が悲観的な事ばかり言うので、離婚後の相談をしようという雰囲気に。
きつい事ばかり言う周造に、泣き出す富子。「だから同じ墓に入りたくないの・・・・」

 

雨も上がり、幸之助の車が帰って来る。
刺激してはいけないと言っていた周造がいきなり「史枝さんどうした?結局帰って来ないのか」
一緒だ、と幸之助。
続いて入って来た史枝。気まずいが、皆に促されて「ただいま」
有難うございましたと言う史枝に「お礼を言うのは幸之助」と富子。

 

成子には「もううんざりだ」と言った事の撤回。
そして庄太に「お前なんかに礼を言うのはイヤなんだけど・・・・」と言いかけて涙声に。
そこに届くうな重。「いいタイミング」

 

自分のアパートに帰る途中の庄太と憲子。
明日病院に行くと言う憲子。ナースなんだから当たり前じゃないか、と庄太。
職場ではなくて・・・・・もしかして?

 

 

感想

最近やった、2作目のTV放映はちょっとイマイチだったが、今回はフツーに楽しめた。
家事に奮闘する史枝の、ちょっとした油断で起きた事件。幸之助のネチネチした小物ぶりが秀逸。まあ、自分にも細かいところがあるから、もし同じ事が起きたら、労わる事が出来るかどうか、自信ない。

そして富子の口から、その状況が親子二代で続くものである事も暴露される。
男が生活費を渡すなんて、昭和の習慣。ウチは平成になった頃に、キャッシュカードをカミさんに渡したかな。

20年間溜め込んだストレスが、この事件で爆発した。それでも最初から行き先を憲子に告げていたのがカワイイ。

後は幸之助がどう折れるかが話のポイント。
そこでいい仕事をする庄太。
ピアノ調律師という知的な仕事のせいか、人格的にも一家の中で軸のような役目を持つ。
息子には、親のなれそめの話をし、幸之助には新婚当時の史枝の美しさを思い出させる。

 

史枝役の夏川結衣。結婚20年の、ちょっとくたびれた主婦を好演。20年前のTVドラマ「青い鳥」では本当に匂い立つようにキレイだった(ちょっと惚れていた・・・・)。
今はウエストの辺りが少し段になっていて、シルエットもちょっと悲しい事になっているが、そこらへんも含めて愛おしい。

今回エピソードの様な積み重ねが、シリーズ映画の厚みを増して行く事になる。

 

茂田井という地名が出たので、どの辺だろうと調べてみたら、軽井沢の少し西。都心からだと、2時間ではちょっと厳しいか(3時間は掛からないだろう)。

 

基本、寅さんのパターン。それほど深いものはなく、とんでもない感動を呼び起こす訳でもない。
だが2時間軽い笑いと、ちょっとホロっとした気持ちを楽しんで、微笑んで帰路につく。中にはこういうジャンルがあっていい。

 

そういう点で言うと、メインキャストは名前も職業も不変だが、毎回レギュラーで出る小林稔侍だけが名前、職業などのシチュエーションが毎回変わるのは、ちょっと違和感。
2作目なんか、血を吐いて死んじゃったし。大いなるマンネリを目指すなら、小林稔侍の配役も固定した方がいいと思う。

 

 

ゲド戦記 Ⅴ 「アースシーの風」 作:K・ル=グウィン

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シリーズ最後の作品。
2018.1.22に亡くなった原作者に敬愛を込めて・・・

 

過去レビュー
Ⅰ「影との戦い」 Ⅱ「こわれた腕輪」 Ⅲ「さいはての島へ」 Ⅳ「帰還

 

ゲド戦記 Ⅴ 「アースシーの風」 作:K・ル=グウィン 訳:清水真砂子  
                             国内初版:2003年

 

 

第一章 緑色の水差し

天翔丸に乗ってゴント港に降り立った男。市場でル・アルビへ行く道を尋ねる。皆魔法使いの家だと承知していた。
10マイル以上も歩き、ようやくそれらしい場所に着いた時、出会った男に声をかける。七十かそこらで、頬に旧い傷跡。
「ハイタカ様、大賢人さま」と挨拶する男。生まれはタオン。ロークに行き、様式の長からこちらへ行くようにと言われた。

 

老人は旅の男を座らせて、簡単な食事を提供した。
男の名はハンノキ。食事のおかげで落ち着いたが、疲労がひどい。
老人はひとり。つれあいと娘は出掛けていない。
畑仕事を手伝い、その後ベンチに座って夕日を眺めるハンノキ。

ハイタカがワインとコップを持って来た。

ロークの様式の長から、大賢人の事はある程度聞いていたが、魔法使いが配偶者や子供がいる事に違和感を持つハンノキ。
ハイタカは妻子の事について言い足した。ハブナーの王、レバンネンが「相談がある」と言って迎えをよこし、それで行った。
おまえさんが来たのも同じ用件かもしれん。
だが自分も疲れているから、話は明日にしよう、とハイタカ。
夢と格闘して大声を出すかもしれないから、外で寝たいというハンノキ。夜中に、ハンノキがうなされる声に跳び起きるハイタカ。

 

翌日、朝食を摂りながらハンノキの話を聞いた。
ハンノキは、女まじない師の息子として育った。まじない師シロカツオドリのところへ奉公に出され、いろいろ適性を試された後、ものなおしの素質を見出されて 、その方面を学んだ。
ハンノキが修繕屋になって三十歳の時に、たまたま若い娘が、ものなおしの教えを乞いたいと訪ねて来た。魔女の訓練を受けていなかったが、その腕はハンノキ以上だった。
娘はユリと言い、技を教え合ううちに愛し合うようになった。
そして結婚。妊娠してお産の予定日が来た。
だが出産が遅れた。いつまで経っても生まれない。産婆も力を尽くしたが、結局母子ともに亡くなった。

ユリが死んで二ケ月後、夢にユリが現れた。斜面に立つ自分の先に低い石垣があり、その向こうにユリがいた。

夢だと判っていてもうれしかった。お互いに手を取り合い、キスした。私を自由にして!と言うゆり。だが石垣の向こうにも行けず、ユリをこちらに引き込むことも出来ない。結局ユリは行ってしまい、夢から醒めた。

ハイタカはその石垣を超え、そして戻って来た。だが石垣越しに愛する者と触れ合い、キスまでしたのはそなたが初めてだろう。

ユリにまた逢いたいと思ったハンノキは、その九日後に再びその夢を見たが、その時は五年前に死んだ師匠のシロカツオドリが居り、石垣を壊そうとしていた。彼も自由にしてくれ!と言った。彼の手が触ると痛さと熱さ。その黒ずみがまだ残っている。

 

タオン島の魔法使いペリルに相談したところ、即座にロークに行かなくてはだめだと言われ、彼の便宜で船に乗ることが出来た。だがその船でも毎晩石垣、死者の夢でうなされるため、船員たちから疎まれた。

ロークの「まぼろしの森」では不安も恐れもなく眠れた。ロークでの様子を聞くハイタカ。
学院の入り口で最初に会ったのは守りの長。ここに連れ込んでは困る、との言葉に戸惑うハンノキ。
ベンチに座るよう言われ、そうすると呼び出しの長が来た。
夢うつつの中で、いつの間にか丘の斜面に立っていた。石垣のある場所。呼び出しの長に促されて妻の名を呼ぶが反応はない。「メヴァ!」と呼び出しの長が妻の真の名を言うと、妻ではなく少年が出て来て、石垣を壊そうとしていた。痛ましい光景。
その後の記憶はなく、ハンノキは薬草の長の手当てを受けていた。そうして五日あまり過ごした後、薬草、守り、呼び出しの三人の長が訪れる。呼び出しの長に不信を抱くハンノキ。

 

ハンノキは、自分の過ちのせいでこの事が起きているのなら、ぜひ正したいと話す。少し冷淡な呼び出しの長だったが、石垣の場所に行くようになったいきさつを聞き、それに応えるハンノキ。。
呼び出しの長が言う。賢人と呼ばれる者だけがあの石垣を超えられる。大賢人と王はそこを越え、生と死の間の扉を閉めた。
次いで薬草の長が続ける。前任の呼び出しの長だったトリオンが、その時大賢人を探すために黄泉の国へ行き、そして戻って来た。だが戻った時にはすっかり変わってしまった。
向こうに長く居すぎたトリオンは、ただ生きようとする意志だけの者になり、アイリアンに滅ぼされるまでは長たちの心を食い物にした。

 

聞いていたハイタカは名前を聞き返す「アイリアンと言ってました」。

初めて聞く名。
ハイタカは、黄泉の国でトリオンに会った時の事を話す。
促されて先を続けるハンノキ。
ハンノキが、妻との絆で黄泉の国の入り口まで来た事実を踏まえ、この解決を図るため、その晩三人の長はハンノキの夢に同行して、石垣まで辿り着く。
石垣に近づき、乗り越えようとするハンノキを呼び戻す声。次に薬草の長の手が肩に置かれた。
気付くと部屋に戻っていた。部屋には三人の長に加えてもう一人、様式の長が。薬草の長が今までの説明を行った。

様式の長はハンノキに、まぼろしの森に来れば夢を怖がらなくてもすむと言った。そしてその事にハンノキと他の三人が同意すると、彼は消えた。幻だけが来ていた。

守りの長を先頭に、様式の長のところへ向かう一行。
出迎えた様式の長が、ハンノキをまぼろしの森に案内する。
様式の長について説明するハイタカ。彼はカルガド人。あちらからロークに来たのは彼だけ。まぼろしの森の噂を聞いてロークに来た。大地の中心だという確信。

 

様式の長が、ハイタカを訪ねる様に言った意味を知りたいハイタカ。
彼の言うには、ハンノキと妻は、別れ方が判らないのではないか。ある魔力が表に出て来たのかも知れない。
ハイタカは、男と女が愛し合う事を知っている、様式の長アズバーの信条を認めていた。ここ15年、学院の外で暮らして来て、夫婦の絆の強さを意識している。
ハンノキたちの愛は、モレドとエルファーランの愛に劣るものではないと言うハイタカだったが、愛がいくら深くても、生と死の決まりまで変えられるものではない。
何かが変わろうとしている。おまえさんに起こってはいるが、それは道具の様な役割かも知れない。

別の変化に危惧するハイタカ。レバンネンが王となり、ロークには大賢人がいなくなった。また、竜のカレシンの娘テハヌーの出現。
王は少し前に竜の事で相談したいと、テハヌーを招聘した。人々の、竜に襲われる恐怖。合点のいかない事ばかり。
夜半になっても眠る恐怖を消せないハンノキに、見ていてあげるから、と寝かせるハイタカ。
寝入ってから様子がおかしいのに気付き、ハンノキの肩を掴むハイタカ。「ハラ、こっちへ来るんだ」。真の名を呼ばれ再び動かなくなるハンノキ。
自分があの石垣に居た時の事を思い出すハイタカ。

 

翌日、ハンノキが壊れた水差しを治すところを熱心に見るハイタカ。慣れた手つきで修復を進めるハンノキの顔は穏やかで、緊張も悲しみもなかった。
修理の礼を言ったハイタカは、せめてハンノキがぐっすり眠れるための工夫を考えていた。誰かが手を置くことで石垣から遠ざかる事が出来るなら、動物でもその代わりが出来ないか。
ハイタカは、コケばばを訪ねて子猫を一匹譲ってもらった。そして、かつて自分も小動物のオタクと共に暮らした事を話す。いつか、魂があちこちさまよった時、オタクが手を舐めることで連れ戻してくれた。
猫はハンノキにすぐ懐いた。いなくなった時に悲しまないよう、名前は付けないと言ったハンノキ。

ハンノキに、ハブナー行きを提案するハイタカ。彼の話を聞いて、その意味を考えるべき人のところへ。


第二章 王宮
ゴント港のハンノキ。天翔丸には乗れなかったので、小さな沿岸船の「いとしのバラ」号でロークに向かった。

王の署名と封印がお墨付きとなって、船長は快諾。
船上でのハンノキは、猫のおかげで夢に苦しめられる事はなくなった。
1ケ月ほどで船はロークに着き、王宮に出向いたものの、毎回親書を見せて説明を繰り返した。

 

ようやく王への謁見まで漕ぎ着けたハンノキ。ハイタカからの手紙を読み、大まかな事情を知るレバンネン。
ハンノキが字を読めない事を知って、手紙の内容を代読するレバンネン。そして、どんな夢を見たのかハンノキに尋ねる。
いくつかの質問を行うレバンネン。話すうちに、その夢がすぐそばに迫り、恐怖が満ちて来るハンノキ。
ここでの滞在を提案したレバンネンだったが、ハンノキは命令と受け取った。

 

レバンネンを悩ませる外交問題。カルガド諸島の一つハートハーで、その島の大王を宣言したソル。帝国の中心であるカレゴ・アトにも攻め込み、カルガド四島を支配する大王だと宣言。
この意を汲んでレバンネンは使節を送ったが、外交交渉が難航して五年。エレス・アクベの腕環の意義を粘り強く説明し、和平のメッセージを送っていた。

そして1ケ月前、ソル大王の艦隊がハブナー湾に来た。ソルの姫の腕にその腕環をつけさせるべし。それが和平のしるしとなろう、という主旨。
姫は頭からすっぽりとベールに包まれていた。レバンネンは、王女を滞在のための川館に案内した。市の北に建つ小さな美しい建物。

ひとりになった場で、レバンネンは怒りを爆発させる。利用などさせないぞ!
ソル大王が、王女をレバンネンの妻として差し出したという、この申し出は棚上げにされた。とにかく王女の滞在のみを受け入れた状態。
王女はカルガド語しか話せず、それも召使い、通訳を介してなので意思の疎通は困難。

 

王女がやってきて半月後にテナーとテハヌーがハブナー入りした。
もともと二人を呼んだのは別の理由だったが、レバンネンはテナーにいきなり王女の事を相談。
外見の変化よりも15年前の感覚に戻っていた。
もともと二人を呼んだのは、西からの知らせに悩んでいたから。竜の話を始めるレバンネン。

数日後、レバンネンはテナーに、王女を訪ねてなんとか話が出来るようにして欲しいと頼んだ。同じカルガド人という希望。だがアチュアンではハートハーを野蛮人と呼んでいた。
王女の話をする時のレバンネンは悪意に満ち、過ぎたことをテナーに言った。後でそれを後悔するレバンネン。
相変わらず押し寄せる雑務。夜になってようやく一人になったレバンネンは、ハンノキの話に触発されて、自身があの場所に行った事を思い出していた。黄泉の国を渡ったあの経験。

 

テナーに対して母親に対するような感覚を持つレバンネン。

テナーはレバンネンを愛していた。胸を痛めずににいられる息子。

だがあのハートハーから来た娘に誠意を見せないとなれば、そうではなくなる。
カルガド人がテナーを非難するには根拠があった。テナーの裏切りは政治的、宗教的にも深いものがあった。
だがそれは40年以上も前のこと。ソルの大使がテナーの事を食らわれし者のアルハ様、と呼んだことに感動するテナー。
なぜレバンネンはあの娘の立ち場に立てないのだろう。テナーには彼女の状況が深く理解出来ていた。自らの人

生をそこに重ねる。自分が救われたのはゲドがいたから。
また、テハヌーの事も悩みの種。レバンネンが要請したものの、ゲドは拒否、テハヌーも一人では行かないと言って、結局テヌーが同行。王宮でもテハヌーは馴染めない。

 

王宮での生活を始めたハンノキ。時刻ごとに行われるラッパの告知、携わる者の行動。
王が彼を紹介するために、皆が集まっている場所へ連れて行った。最初はテナー。次いでトスラ司令官、ハブナー家のセゲ王子。それからローク学院の魔法使いオニキス。そして最後は「ゴントのテハヌー」。顔の右半分はつぶれてケロイドになり、右手は鉤爪のようになっている。
ハンノキはテハヌーに、ハイタカからの伝言を伝える。黄泉の国へは誰が行くのか、と、竜が例の石垣を超えることが出来るかの二点。それに頷くテハヌー。
オニキス、セゲらが話す夢の話。改めて、自分が災いを持ち込んだのではないかと危惧するハンノキ。

レバンネンが、夢の話を脇において、最近問題となっている案件を、トスラ司令官に説明させた。
ここ数年、竜が農家や村を襲い、火を放つなどをしている。直接人を襲うわけではないが、火事に巻き込まれて死人も出ている。
クモが起こした事件が解決してから15年が過ぎていた。
竜はものが言えるのに、どうして火を放ったり、建物を壊すのか。王はそこでテハヌーに「どうやったら竜に話をさせられるのかな?」と軽口をきいた。沈黙するテハヌー。
そこでオニキスに、かつてロークにやって来た娘の話をするように促す。

 

8年ほど前、若者に変装した娘がロークに来た。ヘタな変装だったが、それを受け入れたのは守りの長。
当時呼び出しの長トリオンが学院長だった。黄泉の国から戻って来た長。彼はその彼女の受け入れに難色を示した。
様式、守り、薬草の各長は彼女を守る立場を取ったが、トリオン以下それ以外の長は敵対。
そんな頃、トリオンと娘がローク山で対峙する場面になった。トリオンが娘の真の名「アイリアン」を呼ぶと彼女はみるみるうちに竜へと姿を変えた。そして竜がトリオンに触れたとたん、トリオンの体が塵となって消えた。竜はそのまま飛び去った。
その話を聞いた後、テハヌーが感情的になり、立ち去って行った。

 

そんな時に、ハブナーの西で竜たちが森に火を放ったという話が持ち込まれた。

王とその一行は一番速い船でその現場に向かった。テハヌーも同行。
前夜、テヌーとテハヌーの前で、テハヌーの同行を懇願するレバンネン。自分を助けられるのはテハヌーしかいない。その竜を知らないと言って引き込むテハヌー。カレシンを呼べないかという問いにも「遠すぎる」。最後はテナーの「あなたはカレシンの娘じゃないの」の言葉で同行を承諾。

 

船から降りて、丘陵地帯を馬に乗って向かう。

山が燃えているのが見えた。
山火事の現場に近づくテハヌー。竜に気付き、動きが変わる馬たち。
テハヌーが「メデウー!」と叫ぶと竜も気付いて「メーデーウー」と返す。オニキスの解説では兄弟の意味。
言葉を交わすテハヌーと竜。そして竜は飛び去って行った。
テハヌーの話では、竜たちは山中で待つという。彼女は竜に「兄さん」と声をかけた。「妹よ」との返事。
交わされた会話。
カレシンはアイリアンと共に西の果てに行った。だが若い竜たちは、人間どもが誓いを破って竜の土地を盗んだ、と言っている。
最近になってアイリアンだけが戻って来たので、テハヌーはアイリアンがこちらに来られるよう頼んだ。


第三章 竜会議
テハヌーを送り出した朝、激しく後悔するテナー。朝食を摂りながら、年配の召使いベリーがそんなテナーを慰める。
テハヌーの事ばかり考えるのを何とかしようと、テナーはカルガドから来た王女に会う事にした。
名前も明かさず、顔をベールで覆い、誰ともコミュニケーションを取っていなかった。
付き添いを一人つけただけで、川館に向かったテナー。

 

門を入ると女官たちの応対が続き、それを抜けてようやく王女の居室に着いた。

奥で悲鳴が聞こえ、王女が飛び出して来てテナーに抱き付いた。「アルハ様、助けてください!」
竜が出た事と、生け贄を捧げる話があり、その生け贄が王女だという噂を聞いていた。 
そんな話はない、と落ち着かせるテナー。王女は帽子もベールも被っていなかった。
テナーは信頼の証しとして名前を聞いた。ややあってから「セセラク」と言い、テナーも「私はアルハではなくテナー」と答えた。

王女の母国語の、カルガド語で話を始めるテナー。まず竜の話の誤解を解いた。
お互いの国での様々な食い違い。竜もカルガドでは小さいものだった。
セセラクは、結婚によって名前が奪われ、魂を盗まれると信じていた。風習の違いにもまいっていた。
しばらく聞いてからテナーは、あなたがするべきは、あの方にあなたを好きになってもらう事、と諭す。
まずは言葉を覚えること。その訓練を始めるテナー。テナーの話の端々に夫の事が出て、目を輝かせるセセラク。

 

王が竜退治に出掛けると、ハンノキにはやることがなかった。そんな状態のまま三日が過ぎて、ハンノキはテナーに声を掛けられた。とても辛そうに見えるハンノキ。
王に同行したテハヌーについて質問するハンノキ。焚火から救い出し、娘として育てた事、竜のカレシンを呼んで自分たちを助けてくれた事などを話したテナー。

本当のところテハヌーが誰なのか、まるで判らない。
つれあいの事を聞くテナーだが、ユリの事を思い出そうとすると、暗い荒野ばかり、と嘆くハンノキ。
「何かが起ころうとしているんだわ」

 

その時、王の帰還を告げる声が聞こえた。

港で住民に、状況の説明をするレバンネン。ゴントの女が竜との休戦を実現させ、いずれ話し合いのために竜が来る事を話した。
テナーに会い、テハヌーの事を感謝するレバンネン。テナーは王女と話した事を伝える。事態が読めない王。
ハートハーにも竜が居ること、カルガド人は死んでも、こちらの民が行く、あの石垣の所へは行かない事などを話す。
レバンネンを見送りながら、王はまだ王女に怯えている、と思うテナー。

 

この5年、レバンネンが行って来た行政が語られる。王は外交官としては優れていたが、政治家としての才能は特段ではなかった。
今回の問題を議会にかけるレバンネン。休戦の状況を聞き、セゲ王子が竜との交渉の得失を訊ねると、戦うよりは得るものが大きい、と返すレバンネン。
和睦に反対する者もあって、議会に険悪な空気が流れる。

昼食のための休憩が宣言される。
議会への出席も求められ、当惑気味のハンノキ。最近はテハヌーと居ると、安らぎを感じるようになっていた。

顔の傷も慣れれば何とも思わない。
テハヌーも気持ちが和らいで来て、ハンノキに話しかける事もあった。コケばばからもらった猫の事を聞いて話が弾んだ。

 

王がテハヌーを呼んだ。ハイタカの質問の答えがまだ話されていない。ここで話すという事を承知するテハヌー。
死んで向こうに行くのは人間だけだと思う、とテハヌー。
次いで竜が石垣を超えることが出来るか?ということ。けものがそこへ行かないという事なら、答えは出ている、とテハヌー。

 

竜だ!という声で皆窓の外を見る。宙をうつ長い翼。大理石のテラスに降り立つ竜。
竜にあいさつするレバンネン。相手もあいさつを返す。衛兵が剣を抜いたのをたしなめるレバンネン。
テハヌーが前に出て、竜と話を始める。

先方が変身しましょうかと提案。
体全体からモヤの様なものを出し、それが晴れた時、そこに一人の女が立っていた。黒髪でがっしりした長身。

農婦の着るようなシャツにズボンの姿。
「アイリアン殿」とレバンネンがあいさつ。魔法使いの姿を認めて、守りの長、薬草の長などの消息を聞いたアイリアン。腕輪を持ち帰ったテナーの事も知っていた。

アイリアンを伴って議場に入るレバンネン。

紹介され、話を始めるアイリアン。
オーム・エンバーが、魔法使いのクモを破滅させた代わりに死んだ時、カレシンが現れて王様と大魔法使いをロークへ運んだ。

 

カレシンのことば。
西方の竜たちはクモから言葉を奪われ、一時期気も触れていた。正気には戻ったが、東から近いところにいる限り、善からも悪からも自由では居られない。
その昔、我々は自由を選び、人間はくびきを選んだ。我々は火と風を選び、人間は水と大地を選んだ。我々は西を選び、人間は東を選んだ。
我々の中にある人の富への羨望、人間の中にある竜の持つ自由への羨望。この羨望につけこんで邪なるものが入り込んだ。
私はもう一つの風に乗り、西の果てに飛んで行く。一緒に来る気があれば道案内する・・・・

竜の中にはそれに反対する者も居た。
カレシンは重ねる。
その昔、竜と人とは同じ種族だった。どちらの種族にも必ずひとり、ふたりは相手の種族に生まれて来る者が居る。その者は互いへの使者。だが均衡が崩れた今、今後は生まれて来ない。
我々は選択しなくてはならない。西のかなたに飛ぶか、残って善と悪のくびきに繋がれるか、けものへと落ちぶれるか。
その選択を最後にするのはテハヌー。その後はもう西へ行く道はなくなる。ただ、あの森だけは世界の中心に位置する。

多くの者はカレシンに従い西に行ったが、妬みと怒りに支配された者が、人の領地の西のはずれで領土を奪い返そうとしている。今問題を起こしている者たち。

先日テハヌーと話をしたのは、私の兄弟のアマウド。
アマウドはカレシンに同意しているものの、竜たちが支配されているくびきを問題にしている。皆さんが魔法の力で死を左右する事に恐怖している。

 

アイリアンからの話を聞いて礼を言うレバンネン。だが竜が恐れるものが判らない。
「不死の魔法です」とアイリアン。
レバンネンは、魔法に関わる事でもあり、オニキスに説明を求めた。
不死の魔法は使わないが、かつて魔法使いのクモだけが術を使って不死身になろうとした。
そこでハッとするオニキス。アイリアンの鋭い目。
私が倒した魔法使い、呼び出しの長トリオン。あの男が求めていたものは何だったのです? 沈黙するオニキス。

トリオンは死の世界から戻って来た。だが大賢人や王のように生きて戻ったのではなく、トリオンは死んだのに、ロークの術で石垣を超えて帰って来た。
それが世界の均衡を崩した。崩したバランスを戻せます?
議論が進み過ぎるのを危惧して王を見るオニキス。

テハヌーが立ち上がった。
カレシンの言った「世界の中心に位置する森」はロークの「まぼろしの森」。「ここに行く必要がある。

全ての物事の中心に」同意するアイリアン。
それを受けて、レバンネンは問題解決のため、ロークに行くことを宣言する。


第四章 イルカ号
雑多な案件を消化して、レバンネンは出航準備まで漕ぎ着けたが、テナーが、アースシーのバランスについて議論するのであれば、王女も連れて行くべきだと、出航二日前に言い出した。
未だに偏見を拭えないレバンネン。ただ、しばらく考えてから、その考えがテハヌー、アイリアン、オニキスも含んでの話ならば、王女にそうしても良いと伝えてください、と返事。
「それをすべきは王、あなたですよ」と突き放すテナー。

怒りがこみ上げるレバンネン。従僕に、王女をこちらへ来るように使いを出す様言うが、対応のしどろもどろに腹を立て、自ら馬を駆って川館へ走った。

王の来訪に女官たちはびっくりし、テナー様がおいでだと会話が楽なのですが、と言う。そこで初めて言葉の問題を思い出すレバンネン。
出直そうかと思った時に、女王が部屋に迎えるとの返事。そして初めて王女に会い、ローク行きの件を話す。
ベールを左右に開け、たどたどしい言葉でそれを承知する王女。
怒りは消え、自分が勇気そのものを目にした事に気付いた。

 

ハンノキはは、ローグ行きに加わることに運命を感じていた。
だが子猫を連れて行くわけには行かない。そうなると例の石垣に近づく恐怖がまた心配になる。その事をオニキスに相談すると、バルンから来ている、魔法使いのセペルが助けになるかも知れない、と助言。セペルはこの航海にも同行の予定。バルンはクモが使った「知恵の書」の出所で、魔法使いからは警戒されている。
セペルを訪ねると、境界に近づかないための魔法をかけるには代償が必要だという。それはもの直しの術。
迷いなくそれを承知するハンノキ。
術をかけるためにオーランの洞穴に向かう。そして行われた儀式。疲れ切って宮殿に戻るハンノキ。今夜は猫を遠ざけた。眠りに落ちるハンノキ。夢は見なかった。

 

イルカ号出発の朝。レバンネンを失ったと思ったテナーだったが、笑顔で迎えたレバンネン。
王女が到着し、回りの騒ぎが大きくなった。侍女を連れてタラップに乗り込む。誰も連れて行かない約束だったので失望したテナーだったが、王女は侍女たちに別れの抱擁をしてから戻らせ、一人で船に乗りこんだ。

出発したイルカ号。王女セセラクは船酔いの恐怖でうめいた。それをなだめるテナー。

 

ハンノキは、夢に悩まされなくなった代償として、もの直しの能力を全てなくした事に衝撃を受けていた。なくなって知るその価値。

トスラ司令官との話。海賊イーグルの奴隷船に捕まった時の事を話すレバンネン。アイリアンと気のおけない会話をしている事を冷やかすトスラ。そして王女の事も。

あんな包みをくれたら、私だったら開けますがね。
レバンネンが甲板に出ると、女性たちが居た。

アイリアンの屈託のない笑顔。
レバンネンが近づいた時、さっと立ち上がる王女。ベールを開いたその顔は、悲劇的なまでに美しい。

 

ロークに行くまでの間に、暴風雨に悩まされた。歓迎出来ない訪問者を拒むローク。かつてそういう事があったとハイタカから聞いていたテナー。
テナーと語らうレバンネン。テナーが再び、王女があなたにお話ししたい事があると告げた。

レバンネンと王女との話。竜とヴェダーナンの話。だがどうしても理解しきれない。ロークの様式の長はカルガド人なので、彼に通訳してもらおうと言うレバンネン。
晴れやかな笑みを見せてから帰る王女。それを見送るレバンネン。


第五章 再結集
船旅の最後の夜、それぞれが夢を見る。ハンノキは子猫の触感。セペルは石を持った女。オニキスはより糸でくくられ、レバンネンは裁判所。
女たちも夢を見ていた。セセラクは竜の道を歩き、アイリアンは稲妻に落とされ、テハヌーはトンネルを這い、テナーは玉座への階段を上る。ゲドは長く引きずる黒い翼に弱りはてていた。
ローク島での七人の長たちもそれぞれ、一隻の船が海の向こうからやって来る夢を見ていた。
それぞれの長が目を覚ます。守りの長が「夜明けに王がやって来る」とほほ笑んだ。

 

船はロークの港の、最も長い埠頭に横づけされた。出迎える呼び出しの長ブランド。
あいさつの中にも各様の探り合い。

レバンネンの提案で町の散歩に向かう。
ゲドから何度か聞かされていた「まぼろしの森」。テナーは今、そこへ向けて町を進んでいた。歓迎する町の人たち。
森の入り口近くで様式の長アズバーを見つけたアイリアンは、再会を喜んだ。そしてテハヌーを妹と紹介した。

テハヌーは鉤爪の方の右手を差し出し、アズバーはそこへキスした。「あなた様の事を予言出来て、こんなに嬉しいことはない」。
レバンネンに挨拶した後、テナーとセセラクを見つけたアズバーは、カルガド語で話しかけた。セセラクの口からカルガド語がほとばしり出た。

 

様式の長の先導で森を歩く一行。テハヌーと歩くハンノキを見るテナー。テハヌーは、ハンノキと居る時が一番饒舌に見えた。
しばらく歩いた先に、小さな家が見えた。母屋は女たちの寝所、この小さな方は男たちの寝所となった。
午後も遅くなって、長たちがやって来た。
ひとわたりの紹介が終り、レバンネンが今回の問題について口火を切る。今回の原因は何か、事が起こった後、世界はどこに向かうのか。
呼び出しの長がその先を引き継いだ。
夢は不吉な前兆でもあるのは、よく承知されている。また今回、生と死の強固な境界に問題が起きており、この境界を越える者の存在が恐れられているのを、我々は確認している。
それに次いで、今回の事と竜とは関係ないと主張。
それを巡って座が混乱する。様式の長が静かに集中していた。
そして彼が顔を上げ「さあ、そろそろ出かけなくては・・・・闇の中へ」

 

皆の会話を聞いていたハンノキだが、次第にその声が聞こえなくなり、目の前が暗くなった。闇がひろがり、歩くうちに、いつもの石垣のところに来ていた。そこには大勢の人影がこちらを呼んでいる。
その時、様式の長がハンノキに注意を向けていた。

レバンネンは、船で聞いた王女の話を説明する。
かつて竜と人間は同じ種類で、同じ言葉を話していた。だが両者は違ったものを求め出した。そこで両者は別れて別々の道を歩むことになった。この協定が「ヴェル・ナダン」。
そして人は東へ、竜は西へと移動し、人は天地創造の言葉を失う代わりに、手の技と、ものの所有の権利を得、竜が太古の言葉と翼を得た。
それを名付けの長が引き継いだ。
一千年よりもっと前、最初の魔法使いが神聖文字を作った。天地創造の言葉を文字にした。それにより真の名が付けられるようになった。真の名を持つ者たちに不滅の命を与えた。それがバルンの「知恵の書」が夢としている世界。

 

アイリアンがそれに反発。
人間はものを作って手許に置いた。だがその所有の気苦労を望みながら、竜が手にした自由も欲しがった。私たちの世界の半分を盗み取って塀をめぐらし、そこで永遠に生きられるよう謀った。
アズバーが続ける。
太古の人は竜が時間を越える事が出来る自由がうらやましく、竜を追って西まで出掛け、その世界の一部を自分のものにした。だが人の体は竜のようには行かず、魂しかそこに留まれない。
だから人は石垣を築いた。生きていては人も竜も越えられない石垣。だがその事によって風が吹かなくなり、日の出もなく、死んだ人の赴く世界は暗い、乾ききったものとなった。
呼び出しの長が、クモとトリトン殿はその石垣を壊そうとしたのですな、と言うが、セペルが否定。
二人は、肉体はなくてもいいから永遠の命を願ったのだろう。
だがその行為が生と死の境界をかき乱した。死者の霊魂も生き返りたいと石垣に押し寄せている。

 

その言葉をハンノキが否定。
死者が求めているのは生命ではなく死。大地の一部になりたい。

皆がハンノキを見たが、彼の意識は半分あの石垣の国にあった。彼にはテハヌーだけが見えていた。
連中はこれを作ったのに壊せないでいます。力を貸してくださいますか?
いいわよ、ハラ。とテハヌーは言った。そのとたん、ハンノキは大きな影に腕を掴まれて、暗闇に取り込まれた。
レバンネンに、間違った事をしました、と謝罪する呼び出しの長。どうしてハンノキを呼び戻したのか訊ねるレバンネンに「そうする力があったから」。

 

眠るハンノキの横に座っているテハヌー。
セセラクの不安。死者が、潮が満ちるように石垣に迫っているのを感じる。
テナーがハンノキの具合をテハヌーに訊ねる。石垣のところまで行っていたハンノキを力づくで引き戻した。
「生き返らせたのね」「そう、生き返らせたの」
テハヌーの思い。
死んだら、自分を生かして来てくれた息を吐いて戻すことが出来るんじゃないかって思う。まだ生きている途中の生命に戻せるんじゃあないかな。それが息を与えてくれたこの世界への、せめてものお礼。
テナーの元を去らなければならない事を悲しむテハヌー。
そこに流れ星が横切るのを見て声を上げるテハヌー。

五人の長たちも、その流れ星を見ていた。今まで知らなかった竜との関係。また死へ向かう道に築かれた石垣の意味。カルガド人は、大地が何であるかと、永遠の命の意味を知っていた。
死者たちは一体何を求めているのか。
アズバーが、ハンノキ殿についていくというのを聞いて、風の長ガンブルが無理だと言った。
彼は死者たちに選ばれた、とアズバー。

ゴントの崖の上の家の戸口で星を見上げるゲド。
その後コケばばの家に向かった。コケばばは、このところ石垣のすぐそばにいた。その時が来たらヘザーはパニックになる。

 

夜遅く子供の泣く声が聞こえる。何かが起こる直前の小休止。

目を覚ましたハンノキ。丘の上でテハヌーが待っていた。
「ハラ、私たちは何をしたらいいの?」「この世界をなおすんだよ。石垣をこわすんだ」
テハヌーとの共同作業で一つの石に手をかける。何度も繰り返して少しづつ石は動き、とうとう向こう側へ落ちて行った。
その時地面が震え、死者の群れが石垣に押し寄せて来た。

様式の長が立ち上がる。森の木々が震えた。「とうとう来た」そして木立の暗闇に入って行った。後に続く長たちとセペル、オニキス。
レバンネンは、後に続きかけたが、女たちの家に向かい、アイリアンを呼び出した「私も連れて行ってくれないか」
レンバネンの無事を祈るセセラク。テナーはハンノキが寝ているところに行き、自分の手を彼の手に重ねた。

ハンノキが石に手こずっていると、呼び出しの長が助っ人に来た。大きな石が落ちて行く。
他の者たちも次々合流して石垣を壊していた。
オーム・アイリアンが、巨大な竜の姿に戻って石に爪を立てていた。
ハンノキが上を見上げると、空を星が動き、その先に火花が散るのが見えた。
「カレシンだ!」テハヌーが叫んだ。
両手を高く上げたレハヌーの体を炎が走り、最後に大きな翼となって燃え上がると、彼女の体が宙に浮き、空中に美しく光り輝いた。
死者の群れから、宙に舞い竜になる者が数人いたが、大部分は歩いて前に向かい、石垣の破れ目に吸い込まれて行った。
その人の群れを見るハンノキ。ついにその中にユリの姿を見つけた。
ユリはハンノキを見つけて手をさしのべた。彼はその手を取り、連れ立って石垣を超え、光の中に消えて行った。

 

レバンネンは、崩れた石垣のかたわらで、夜明けの空を見つめていた。石垣の残りは崩れてがれきの山となり「苦しみの山」には火の手があがった。
近づく三匹の竜。カレシンとアイリアン、そしてテハヌー。二匹は去って行き、カレシンが降り立った。
長たちと少しの言葉を交わし、カレシンも去って行った。
私たちには、まだしなければならない事があります、と皆を促すセペル。

ハンノキに手を重ねているテナー。「この人は行ってしまった」と呟く。
様式の長が、ハンノキの顔をなでた。そして最後にみたテハヌーの事を話した。静かに泣き続けるテナー

家に戻った長たち。レンバネンのそばで庇うようにかがみこんでいるセセラク。
魔法使いを信用していないセセラクは、王を死なせてしまったと逆上。
アズバーは、レンバネンの胸に手をあてた。大丈夫、温めてやってくだされ。

 

イルカ号に乗ってテナーがゴント港に帰って来た。
ゲドは、キャベツに水やりをしていた。テナーを認めると「やあ」「ただいま」テナーは駆けだしていた。
何から話していいか途方に暮れるテナーにゲドが「順序を逆に辿ったら?」
婚約承認の話。でも結婚式はもう済んでいる。
レバンネンとセセラクの前で、あの腕環の儀式に立ち会ったテナー。ぴったりと嵌った腕環。
黄泉の国へは、ハンノキが先に行ったと聞いて驚くゲド。
そして去って行ったテハヌーの事。
私たちは世界を全きものにしようとして、こわしてしまったんだ」とゲド。

 


感想
延々と続いた物語の最終章。ここで全体の年代おさらいを。

 

Ⅰ「影との戦い」
ハイタカ(ゲド)の少年期(数歳)から青年前期(20歳前後)までの話。
魔法を使える少年、ハイタカ。ゲドという名を得てローク学院で学ぶが、自分の未熟さのため瀕死の重傷を負い

、同時に自分の影を現世に放出してしまう。それを自分の中にまた収めるまでの話。

Ⅱ「こわれた腕輪」
アルハ(テナー)の5歳から16歳辺りまで。

ゲドは彼女より10歳上(26歳)
カルガド帝国の大巫女として育てられたアルハが、伝説の腕環の半分を奪いに来たゲドとの接触で、自分自身を見出して行く。

最後に完成した腕輪をハブナーに持ち帰る。

Ⅲ「さいはての島へ」
腕輪が還って25年。ゲドは50歳前後。テナー40歳前後。
アレン(後のレバンネン)は少年という表現(13歳前後?)
世界中で魔法が使えなくなる事態。魔法使いのクモの仕業。西の果てまで行って、生と死の隔てを開いてしまった扉を再び閉じるゲドとアレン。ゲドは魔法の力を無くす。

Ⅳ「帰還」
Ⅲの直後からが過去の話として語られる。テルーは8歳前後か
Ⅱから続くテナーの物語。火傷を負い、救われたテルーと共に生きるテナー。危機に陥ったゲドとテナーを救うテルーは、竜カレシンの娘テハヌーだった。


そして今作。レバンネンがテナーと会ってから15年という記述があるため、レバンネンは20代後半。テルーは20代前半。ゲド60代後半、テナー50代後半といったところか。

 

課題を持ち込んで来たのは、ハンノキという修繕屋。三十歳を過ぎてから結婚したが、妻が出産直前に胎児と共に死亡。だがそれ以後、妻が夢に出て来て石垣越しに助けを求めるようになる。

ローク学院、ゲドを経て王レバンネンの元にまで辿り着くハンノキ。
レバンネンは統治上の課題を抱え、また民からの竜に対するおびえの訴えも受けていた。
同時に生じる、カルガド帝国からの女王来訪。

Ⅳで様式の長が「ゴントの女」として予言したのはアイリアン。かつてローク学院の生徒として学んでいた竜。
初めて、竜から人の姿になった者を出現させる事で、ようやくテハヌーもカレシンの娘だという事が理解出来る。

 

サイドストーリーとしての、レバンネンと王女セセラクとの関係。当初政略だと王女を拒絶するレバンネン。元々カルガド人だったテナーが王女に手を差し伸べる。
資質として聡明さを持つセセラク。彼女の心を知り、次第に心を開くレバンネン。

 

人と竜の話とは直結しないが、心動かされるものがあった。

一番手ごわいのが、人と竜の関わる生と死の問題。
数行で収めるのは困難だが・・・・
様々な前兆を経て、全てが明かされる。
この複雑に入り組んだ関係と、クライマックスに向けての収斂は、本文を一度読んだだけでは、なかなか把握出

来るものではなく、このあらすじを読み通す事で、ようやく全貌を理解した。
それらを全て構築し、作品として完成させた作者K・ル=グウィンの力量に敬意を表する。

 

この前提を以てアニメ「ゲド戦記」を改めて視聴し、どこがどうダメなのかを検証したい。

 

 

 

万引き家族   2018年

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監督・脚本 是枝裕和
音楽    細野晴臣

 

キャスト
柴田初枝       :樹木希林
柴田治(榎勝太)   :リリー・フランキー
柴田信代(田辺由布子):安藤サクラ
柴田亜紀       :松岡茉優
柴田祥太       :城桧吏
北条樹里       :佐々木みゆ  ゆり→凛と改名
柴田譲         :緒形直人
柴田葉子       :森口瑤子
北条保         :山田裕貴 樹里の父親
北条希         :片山萌美 樹里の母親
川戸頼次       :柄本明  駄菓子屋の主人
前園巧         :高良健吾 警察官
宮部希衣       :池脇千鶴 警察官
4番さん        :池松壮亮 亜紀の常連客

 

 

感想
毎回、あらすじが長くなるため、感想を先に持って来る事にした。
カンヌ映画祭で、パルムドールを受賞した関係で注目度が高く、そのため賛否も双方あって一概に言えない部分がある。何事も自分の目で確認が大切。

ざっくりと言えば、血縁のない擬似家族を構成していた者たちが、あるきっかけを通じて散って行く物語。

 

元々この家の主だった柴田初枝。年金生活者という触れ込みだったが、話の進行と共に、夫と離婚している事が判って来る。これだと夫の遺族年金をもらうのは厳しいだろう。
後妻となる女性から追われる様に家を出て、その慰謝料として毎月の手当てを貰っているという図式か。元夫と後妻は既に他界したが、毎月の支払いは継続されている。

その息子夫婦の家へ時々焼香に行く初枝。負い目のある息子は毎回小遣いを渡す。彼の娘である亜紀とは、その際に接点が出来たのか、いつの間にか同居。

 

治と信代夫婦。こちらの過去は暗い。信代の元夫を殺して埋めた。不倫関係のもつれか。この時は正当防衛が通り、実刑は免れた。

そして何らかの繋がりで初枝と同居を始めた。祥太を拾って来たのはその前か後か、その辺は不明。

 

祥太は、松戸のパチンコ屋で車から拉致された(信代の言い分では拾って来た:終盤で判明)。想像としては、両親ともパチンコに興じて、子供が車に残された。鍵でも掛かっていれば死ぬ恐れもあった。
血縁はないと知りつつも、治の言うままに万引きの片棒を担いで育った祥太。

凛は、物語の冒頭でもある様に、アパートの外廊下で震えているところを拾われた。


万引き家族、と言う割りに、それに対する依存度はさほど高くない。初枝の固定収入、信代のパート、治の日雇い。普通に考えてリスクを考慮すれば、万引きなんて割りに合わない。
この辺りの中途半端さ。万引きが「遊び感覚」に見えるのが賛同し難い要因。
それと手口が稚拙すぎる。生業として考えるならば、もっと気合いを入れて欲しかった。治のやるスーパー前での指サインなんて、店員から一番に目を付けられるだろう。この辺は元プロなんて人を探し出して研究するとか、方法は沢山あるはず。
そんな覚悟もないのに「万引き」なんて題名を付けた所は失敗。

後述するが、物語としてはいいので、非常に残念。

 

物語の展開としては秀逸。女の子をつい連れて来てしまった治の甘さ。祥太の事を思い出して信代が一旦は返しに行くも、それを断念させる夫婦ゲンカ。元々疑似家族だからこその倫理観のゆるさが、心の繋がりを優先させた。

 

凛に万引きをやらせたくない祥太。困難な環境の中で、勉強に対する望みも捨てていない。

そんな中に挿入される、亜紀のJKビジネス風景。最近このテのお遊びは経験がないので、勉強になった。それにしても海水浴の時の松岡茉優。細々とした体型の割りに立派な胸で、こちらも堪能出来た。

 

ヤマトヤの店主が素晴らしい。祥太の時には知っていて見逃していたのが、凛に万引きをさせた時、初めて諭す。最初から知っていた「おまじない」。店主を演じる柄本明。彼なればこその存在感。

 

スイミーを持って来たのには絶句。息子に買った絵本。「ボクが目になろう」は一生忘れない言葉。
寄り添う事で生存する、はこのドラマの原点でもある。赤い魚たちの中で、一匹だけ黒いスイミーに自分を重ねる祥太。

 

初枝の死体遺棄が判明してからの流れは、やや冗長な感じ。ただ伏線回収のためには必要な事か。
女性警察官、宮部の無神経さが世間の声の代弁。子供を産めない信代を追い詰める言葉の数々。子供二人は貴女のこと、何て呼んでました?ママ?お母さん? と言われた時の信代。言葉が出せずに髪を撫でながら静かに涙を流す。数分間続いたろうか。

印象深いシーンだった。

 

この映画のメイキング映像を観た。
印象的だったのは監督の「それぞれの役を、役者さんに寄せて行く」の言葉。読み合わせを経ながら、どんどん役者の個性に応じてセリフを変えて行く手法。
役者自身があぶり出されるというのも、役者にとっては恐怖・・・かも。

 

ちょっとツッコミ
祥太が作業している廃車。集合住宅わきの、駐車場の一角に置いてあるが、粗大ゴミが周囲にあるものの、いかにも浮いてしまって不自然。自動車修理工場に併設の廃車置き場とかにすべき。監督自身に「都会の中の」というこだわりがあったかも知れないが、それならそれでもう一歩頑張って欲しかった。


いろいろ感じるところはあるが、結局は子供たちの話、だと思う。
疑いを持ちながらも、保護者の意向に沿って悪事を働いて来た祥太が、凛が加わる事で自分が育って来た道程を認識し、車にまで手を出した治を見限る。わざと捕まる事で、自らの力により連環を解き、新しい世界へと脱出した祥太。
信代もそれを感じて、本当の両親に関する情報を祥太に伝える。

 

取り残されたのは治。バスを追って走る姿の頼りなさ、情けなさ。父ちゃんと呼ばれたいだけの、進歩のないクズを実にうまく演じたリリー・フランキー。
信代を演じた安藤サクラもすごい。Zeldaさんの表現した「煮崩れた佇まい」がそのまんま。やさしさの底にある毒の意味も後半で判明。この人、これでまだ32歳(ビックリ!)。
優しさだけでもダメ、理詰めでもだめ。様々な教訓を内包している。要所要所でクサいセリフはあったが、まあ許容範囲。

 

祥太役の城桧吏くん。絶賛の声が高いが、監督の使い方のうまさが基本にあると思う。ヘタに演技をさせるより、その都度セリフを覚えさせて素の表情を引き出す。それが出来るのも才能ではあるが・・・
凛役の佐々木みゆちゃんも、全くの自然体で好感が持てる。

初枝役の樹木希林。もうこの人はあれこれ言う必要もない。全身ガンを公表して久しいが、何とか生存している。今回は自分の入れ歯を外しての熱演。楢山節考の坂本スミ子も凄かったが、歯のない初枝がニカっと笑った顔は、あの映画を思い出させた。


最後に音楽。細野晴臣は昔から高く評価しているが、今回の抑制した音楽は絶品。ピアノやギターソロが多かったが、さりげなさすぎるぐらいの入り方で、人の心に寄り添う。サンプル  
それから2、3ケ所で曲中音程がスーッと下がる(救急車が離れて行く時のような)表現があり、強く印象に残った。

 

話変わるが、同じYMOでも、高橋幸宏は何とかならんか。最近でも、こんなくだらない歌を出している。

 

 

 

あらすじ
スーパーに入る親子(治と祥太)。祥太は降ろしたリュックに菓子を落とし、次には治が店員から視線をガードしながら、その間に祥太がカップ麺をリュックに入れる。盗みの前にやる、祥太のおまじない。


総菜屋でコロッケを買う治。ウィンドーを見て、車のガラスを割る器具の話を祥太にする。
帰り道にあるアパートで、目隠しの間から見える女の子を見つける治。寒い中で震えている。以前から気になっていた。「コロッケ食べる?」

 

結局その女の子を抱いて連れ帰る治。家には祖母の初枝、嫁の信代、その妹有紀。それぞれがカップ麺をすすっている。女の子はユリと名乗った。コロッケや麺を食べさせる治に「返して来て」と言う信代だが、傷だらけの体を見て驚く。
その後信代が、寝てしまったユリを抱いて返しに行くが、その家ではすごい夫婦ゲンカの最中。「産みたくて産んだんじゃない!」とのフレーズを聞いて、ユリを連れ帰る信代と治。

 

翌朝おねしょをしてしまうユリ。信代が何気なく「ごめんなさい、は?」と言った言葉に「ごめんなさい」を何度も繰り返すユリ。
治は日雇いの仕事に出る。ビル工事現場で、適当に掃除をして力仕事を避ける治。信代も仕事に出る。

 

留守番の初枝、祥太、ユリ。そこへ訪ねる男。米山と言った。慣れた様にユリを連れて外に出る祥太。
頼まれたものを持って来たついでに世間話をする米山。近所の老人の引っ越し話から、立ち退きの話に。今は地上げはやってない、と米山。彼には初枝が一人暮らしだと思わせている。

 

外を歩く祥太とユリ。家で勉強が出来ない事が不満な祥太。学校へ行きたい。
小さな店に入る二人。店主が、タバコを買いに来た客の相手をしているうちに、菓子とシャンプーを盗む祥太。

信代の仕事場は大規模クリーニング店の工場。客が入れたままにしたアクセサリーをネコババ。同僚もグル。
休み時間に同僚と談笑する信代。

団地駐車場の片隅に置いてある、廃車の中で作業をしている祥太。何かを削っている。それを見ているユリ。
ユリに手の傷を事を聞くと「ころんだ」。だがそれはヤケドの跡。

ママやさしいよ、と言うユリに「じゃあ何であんなとこ居たんだよ」

 

帰った祥太とユリ。シャンプーを亜紀に渡すが、メリットはイヤだと文句(ヤマトヤにはメリットしかない)。
ユリの事を誘拐だと言う亜紀に、監禁も身代金要求もしていないから違う、と信代。
食べているのは麩と野菜の煮込み。欲しそうにするユリに食べさせる初枝。おばあちゃんの事を少し話すユリ。
またおねしょすると言うみんな。食卓塩をユリに舐めさせて「昔はこれで治った」と初枝。

治が足に包帯を巻いて帰って来た。肩を貸す同僚。現場での事故。

同僚の話では日雇いでも労災が出るかも知れない。

 

翌日ユリを連れて万引きをして回る祥太。ユリの好きな麩も取ってやった。ユリのおばあちゃんの事を聞く祥太。今は天国にいると言う。


一方金を降ろしに行く初枝に同行する亜紀。暗証番号を口ずさみそうになるのを止める亜紀。
亜紀のやっている仕事の事を聞く初枝。3,000円を店と半分づつ。

おばあちゃんのは?と聞く亜紀に慰謝料、と言いかけて年金と訂正する初枝。途中で別れる亜紀。

 

昼近くなっても出勤しない信代に理由を聞く治。ワークシェアだと言う。金を払えないので10人は午後からでいいとの事。みんなで少しづつ貧しくなりましょう・・・・と治。
労災が下りない事を知って落胆する信代。
初枝がいない時の治と信代。初枝の金の話。月6万。

ダンナのおかげで死ぬまでもらえる。帰って来る初枝。

 

店に居る亜紀。店の名は「JK見学」。店ではサヤカと呼ばれている。

マジックミラーの前で乳を揉んだり股を開く姿を見せる。
亜紀を指名する常連が「4番さん」。「こんにちは、仕事お休みですか・・・・」

 

釣り具店で仕事をする治、祥太、ユリ。治が店員に相談しているスキに、祥太が数本の竿を持って自動ドアの前に。

そこでユリが防犯システムの電源コードを抜き祥太が出る。その後コードを戻してユリが出る。
得意そうに手口のコツを話す治に「二人でも出来るよ」と祥太。ワークシェアだと聞きかじりの言葉を言う治。

 

家で信代が、亜紀にも少し金を入れてと言うと、初枝が「そういう約束だから」と否定。おばあちゃん食い物にしてるじゃん、と亜紀。信代が言い返すと「食えるもんなら食ってみろ」と初枝。
初枝のふとんに潜り込む亜紀「あったかーい」


玄関先で座っているユリ。祥太が帰らないので心配している。その姿を見て話し合う治と信代。親からあんな目に遭ったのに人の心配。

産まなきゃよかったなんて言われて育ったら、ああはならない。・・・普通はな。

廃車の中で相変わらずの作業をしている祥太を迎えに来た治。
ユリが待っている事を教える。男二人の方が楽しいと言う祥太。

ユリも何か役に立つ方がいいだろ?と治。
ユリはお前の妹、とダメ押し。そして「じゃあ俺は?」と続けるが、希望する言葉を絶対言わない祥太。
祥太はスイミーの事を治に聞く。小さな魚が大きなマグロをやっつける話。食い物のマグロにしか興味がない治。

家の庭で、ここに池があったの知ってるか?と聞く治に、昔は鯉飼っていた、と聞いた話をする信代に、ばあちゃんのホラだと言う治。

 

祥太が、TVでユリの事を言っている!、と飛んで来た。
行方が判らなくなって2ケ月。親は捜索願いも出してなく、事件になっていた。ユリの名は、実は樹里だった。
こりゃマズい、と言う治に「何言ってんの、今頃」と信代。

ユリを家のそばまで連れて行き、ここから一人で帰れ、と言う治に「ズルいんだよ、今さら」と抱き上げる信代。

そうなると違う名が必要。初枝の言う「凛(りん)」に皆が賛同。

 

信代が髪を短く切ってやり、雰囲気もかなり変わった。

祥太が凛に話す。おじちゃんに助けてもらったんだよな。

おばさんとおばあちゃん好きか?じゃあガマン出来るよな。
初枝と信代の会話。戻るって言うと思ったけどね。選ばれたんかなー、私たち。親は自分で選べないからねー、

普通は。大体自分で選んだ方が強いんじゃない?
凛が最初着ていた服を燃やす信代。

凛を強く抱きしめて「好きだから叩くというのはうそ」

 

亜紀が治に「信代さんとさァ、いつしてるの?」と単刀直入に聞く。心で繋がっている、と言う治。ウソくさー。

デパートに行く初枝、信代、祥太に凛。試着室で着られるだけ着込んで万引き。服あげると言うのに、後で叩かない?と聞く凛を抱きしめる信代。
風呂に入っている信代と凛。信代の腕の傷。アイロンで作ったもの。私にもあるよ、とおなじ様な場所を見せる凛。もう治っているよ、というのに信代の傷跡を指先でいつまでも撫でる凛。ありがとう・・・

 

部屋で教科書を読む祥太。スイミーの話。離れない、持ち場を守る。

そして一匹の大きな魚の様に泳げるようになった時・・・ボクが目になろう。

公園でセミの抜け殻を集めて遊ぶ祥太と凛。凛が、木に登りつつあるセミの幼虫を見つける。がんばれー
ヤマトヤで、祥太が盾になって凛が菓子を盗み、店から出て行く。そして祥太も出た時に、店主が呼び止めた。
棒ジュースを二本出して「これやる」。そして「妹には、させるなよ」動けない祥太に、いつも彼がやるおまじないの動作をやって見せる店主。

 

信代ともう一人が上司の前で座っている。時給の高い二人のうち一人を解雇。どっちかに辞めてもらいたい。
だが話はつかない。相手が「女の子の事を知っている」
黙っててやるからと言う相手に「そのかわり・・・喋ったら殺す」

よその家で仏壇に手を合わせる初枝。夫の写真がある。月命日を思い出したと言う初枝に、恐縮して座っている夫婦。母の事は本当に申し訳なかった、と息子。
近くに亜紀の写真。この家の長女。夫の話ではオーストラリアに留学中。帰り際に封筒を渡す夫。

帰り道で袋を開き「三万か」。いつもと同じ。

 

店で仕事中の亜紀。相手は例の「4番さん」。タイムアップして、亜紀がプレイルームに誘う(追加料金)「私も顔見たいなぁ、4番さんの」・・・・ヤッター
何しようか、添い寝、ハグ、膝まくら?
膝まくらをされる男。妹の話をする亜紀。水着を買ってもらって、嬉しくてお風呂でも着ている・・・
何も話さない相手。右手の指の殴り傷を見つける亜紀。

誰を? 返事無し。
私もねぇ、自分殴ったことありますよ。痛いねぇ、これ。痛い イタイ・・・そこでタイムアップのチャイム。
太ももに残った涙の跡を拭こうとする男に「いいよ」
最後にハグする亜紀に「あ、あ・・・」としか言葉が出ない。強く抱きしめる亜紀「あったかいねぇ」

 

そうめんを食べる治と信代。パートをクビになった話をする信代に、また西日暮里辺りで店でもやるか、と治。
水着の上にスリップを着ている信代に、治がちょっかいを出したのがきっかけで、信代がキスを仕掛けてのしかかる。「オイオイ、何だよ・・・・」外はどしゃ降り。
突然の雨に、ずぶ濡れになって走る祥太と凛。

鼻歌を唄う治。何カッコウつけてるの。
「できたな」できた、うん。 「まあね」
もう一回、と迫る信代に「お前いくつだと思ってんだよ、もう少し余韻に浸らせてくれ・・・」
そこに帰って来る子供二人。あわてて服を着るこっちの二人。

 

夜の団欒。子供らに手品をやって見せる治。その折りにヤマトヤの店主に言われた「妹にはさせるなよ」の事を話す祥太。
「これには、まだ早いだろう・・・」と話をはぐらかす治。
隅田川の花火の音。見る事は出来ない。

 

一家で電車に乗り、海水浴に出掛けた。
祥太を連れて沖へ出る治。祥太が亜紀の胸を見ていた事に気付いていた。男はみんなオッパイが好きなんだよ。朝ココが大きくなったりしないか、と股間をくすぐる。
「みんななるの?」男はみんな、なるんだよ。安心した?うん、ちょっと病気かと思った。

 

信代が、遊ぶ凛を見て「私が言った通りでしょ」。そんなの長続きしないよ、と初枝。
長続きしない方がいいって事もあるじゃん。 まあ、余計な期待しないだけね。 そうそう・・・
初枝が信代を見て「姉さん、良く見るとキレイだねぇ」逃げて行く信代。
一人残された初枝が、足にサラサラと砂を掛ける。

 

朝、凛が祥太の寝ている押し入れを開ける。「歯が抜けた」下の前歯が抜けている。
「丈夫な歯が生えますように」と、治がその歯を屋根の上に投げる。

 

凛が初枝のそばで泣いている。死んでいた。
救急車を、と言いかけて止める信代。しようがないよ、こういうのは順番なんだから。
治が床下に穴を掘っている。祥太に「いいか、これは内緒だぞ。ばあちゃんは最初から居なかった。俺たちは五人家族だ。いいな」「うん」
仕事を終えて風呂場にいる治。「またこんな事するなんてな」「でもあの時とは違うでしょ」「だよな、バアさんだって、考えようによっちゃ幸せ」「そりゃ、そうでしょ。一人で死ぬよりはずっとね」
「もし俺が死んだら庭の池の下にでもよ・・・・」「うん。でもそんなに大きくない、あの池」

 

信代がATMで金を下しに行く。祥太が「いくら?」
「11万6千」「誰の金?」「ばあちゃんのだよ」「じゃあ悪くないね」「悪くないよ」「じゃあ万引きは?」「父ちゃんは何だって?」
「お店に置いてあるものは、まだ誰のものでもないって」「まあ。店がつぶれなきゃ、いいんじゃない」
店の前で「お母さん、どう?コロッケ」と言われて喜ぶ信代。「嬉しい?お母さんって呼ばれて」
「呼ばれてみないと判んないかな」治から言えと言われている事を話す祥太。

家の仏壇から、金の入った封筒を見つけて喜ぶ信代と治。

全部で十五万。金は金だから・・・

 

駐車場で車の中を物色する治。「ねえ、これは人のものじゃないの}「・・・・だから?」
「お前もやってみるか?なあ」と言う治から逃げるように離れる祥太。
ワゴン車の後部ガラスを器具で割り、中のバッグを持って逃げる治。

後を追う祥太。
「僕の時はさあ、あの時も何か盗もうとしていたの?」

「あん時はお前を助けようと思ったんだよ」

 

ヤマトヤの前に立つ祥太と凛。

「忌中」の文字の「中」しか読めない祥太。
次にいつものスーパーへ。店の前で「待ってろ」と凛に言い置き、店に入る祥太。だが後をついていく凛。
祥太が盗もうとした時、その後ろで凛が菓子を盗もうとしていた。すぐそばに店員。
近くの食品を崩して走り出す祥太。追う店員。祥太は玉ねぎのネットを持って店の外へ走り出る。
だが二人に追われ、高架まで追い詰められると、そのフェンスを乗り越えた。下までは数メートル。ころがる玉ねぎ。走る凛。

 

病院に呼び出された治。続いて駆けつける信代。祥太は骨折。

署まで同行して下さいと言う警官に、入院だから一回家に帰ると言ってその場を逃げる二人。

家に戻り、最低限のものを掻き集め、夜逃げしようとする治と信代。イヤだと言い、お兄ちゃんはどうするの?

と聞く凛に「後で迎えに行こう」とその場しのぎを言う治。
だが家を出たところで明かりに晒される。

 

会議室。クレヨンで海の絵を描く凛。警察官の宮部が声をかける「凛ちゃん、海へは何人で行ったのかな?」
続いて前園が「何して遊んだの?この時おばあちゃんいなかった?」

 

祥太への質問
廃車の中で一人で暮していたと言う祥太。誰かを庇っていると断じられ、彼らが荷物をまとめて逃げようとしていた事を話す。男の本名は榎勝太、女は田辺由布子。前の夫を殺していた。刺して、殺して、埋めた。痴情のもつれ。あの二人はそういう繋がり。

 

信代の弁明
前の事件は正当防衛。殺さなかったら二人ともやられてた。判決はそう出た。それと今回とどういう関係があるの?

 

治の弁明
誘拐ではない。腹空かせているのを見かねて。信代が連れて来て。

無理やりじゃなくて。--そういうのを誘拐と言うんですよ。
俺もそう言ったんだけど・・・・

 

両親の記者会見
樹里ちゃんの様子。昨日は何を食べたのか。

 

亜紀の話
おばあちゃんが一緒に暮らそうって言ってくれたから。

でもそれはやさしさじゃないよね。
自分の育った家族からお金もらってた訳だし。驚く亜紀。
私がおばあちゃんと暮らしていたって知ってたんですか? 

ご両親は知らなかったって言ってるけど。
おばあちゃんはお金が欲しかっただけなのかな?
・・・おばあちゃん、今どこに居るのかな?

 

ニュース映像
柴田初枝さんが発見された家の前からの中継。
遺体は死後数週間経過。初枝さんが殺害された可能性も含め捜査中。家族になりすましていた人たちが、一体何を目的にこの家に集まっていたのか、未だ謎に包まれたまま。

 

信代-宮部
貴女は一人でやったと言うの?ハイ、掘ったのも、埋めたのも? そうです、私が全部やりました。死体遺棄は重い罪ですよ。
拾ったんです。誰かが捨てたもんを拾ったんです。捨てた人ってのは他に居るんじゃないですか。

 

治-前園
子供に万引きさせるの、後ろめたくなかったんですか?
他に教えられるものが何もないんです。だからって・・・・・
何で男の子に祥太って名前付けたんですか?あなたの本名ですよね。

 

祥太-前園
私設で六人の子供たちと一緒に暮らす。子供だけで?そう。
祥太はそこから学校へ通えるんだ。
家で勉強出来ないヤツが学校行くんじゃないの?
家だけじゃ出来ない勉強もあるんだ。どんな? 友達との出会いとか・・・
凛ってどうしてますか? 家族の元に戻った。本当の? うん。
祥太も、もし・・・・ 覚えてないよ、何も。

 

凛(樹里)
母親に話しかけるが「忙しいからあっち行ってて」とじゃけんにされる。
母親の頬の傷に触ると「痛ったい!」そして「ごめんなさいは?」返事しない凛。
母親が声を変えて「樹里、お洋服買ってあげるから、こっちへおいで」

 

信代-宮部
戻りたいって言ったの?凛が?
子供にはねぇ、母親が必要なんですよ。
母親がそう思いたいだけなんでしょ。産んだらみんな母親になるの?
でも産まなきゃ母親になれないでしょ?貴女が産めなくて辛いのは判るけどね。羨ましかった?だから誘拐したの?
憎かったかもよ、母親が。
子供二人は貴女のこと、何て呼んでました?ママ?お母さん?
一言も言えず、静かに涙を流す信代。

 

海岸で釣りをしている祥太と治。

祥太がルアーの事を教える。本で覚えたという。
刑務所へ、信代への面会に行く治と祥太。
治に、アンタは前があるから5年じゃ利かないと言う信代。

でも楽しかったと言う。
ごめんなさい、と祥太(ボクが捕まったから)。「いつもうまくは行かねえよ」
学校での様子を話す祥太。
信代が、祥太を拾った時の事を話し始める。
その場所は松戸のパチンコ屋。車は赤のVITS。ナンバーは習志野。その気になれば本当の父ちゃんと母ちゃん判るから。
お前、そんな事言うために祥太連れて来いって言ったのか。
そうだよ。もう判ったでしょ。ウチらじゃダメなんだよ、この子には。

 

治が住んでいる住宅で二人、カップ麺にコロッケを入れて食べている。
日も暮れ始め「ここで泊まって行こかな」と祥太。
「怒られないか?」と言う治に「今帰ったって同じだよ」

タバコを吸いに部屋の外に出た治、祥太を呼ぶ。

外には雪が積もっている。
雪だるま作ろうよ、と祥太。治も下りて作り始める。
寝床の中で治が「俺な、父ちゃんじゃなく、小父さんに戻るから」

 

翌日のバス亭。ごめんな、おじさんは・・・・と治が言いかけた時
「わざと捕まったんだ、ボク」と祥太。 「・・・そうか」

バスが来て乗り込む祥太。治を見ない。
治が声をかけても席に座ったまま窓の方を見ない祥太。
バスが走り出す。頼りない足つきで走る治。
十分遠くなってから後ろを振り返る祥太。

 

アパートの廊下で一人遊ぶ樹里。おばあちゃんに教えてもらった歌を唄っている。そしてビー玉遊び。

 

じっと見る目隠しの隙間。
そして台の上に乗って目隠しの上に顔を出し、遠くを見て微笑む。

 

 

 

NHKスペシャル「 縮小ニッポンの衝撃 労働力激減 そのとき何が」5/20放送

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番組詳報

 

概要
「-1000万人」この20年で日本が失った現役世代。その穴埋めが高齢者。65歳以上の労働力→全体の12.4%。
高齢者が犠牲になる事故の多発。
人口は2008年から下降に転じた。今まで日本を支えた団塊の世代800万が高齢者となって歪みを与える。
恐ろしいシナリオ--2050年代には現役世代が-3500万。「棺桶型」の人口構成→世界が注目(人類史上例がない)

 

岡山 美作市。高齢化率40%。昨年切り札としてホーチミンの銅像を設置。ベトナムからの移住者を期待。
萩原市長談:外国人労働力受け入れが生きる道。

外国人獲得に予算付けた。
介護の現場では人材が38万人不足。
美作市の現実。3年で10ケ所の介護事業者が廃業。
ある事業所。82人中16人高齢者(頼みの綱)。トラブル発生。勤務中に居なくなる。約束忘れて帰宅。
田淵さん(73)。利用者の送迎。巡回の順を逆にした。今まで事故なしだが、本人は老化を意識し、引退時期を考えている。

 

シルバー人材センター。会員73万人。昭和50年代の設立。当初目的は生きがい。それが派遣労働に変化。10年で40倍の規模。
若者がやりたがらない3Kの仕事ばかり。
深刻な事故も起きた。ゴミ処理業務での挟まれ事故(70歳)死亡。人とのつながりを求めて働いていた。仕事はゴミの仕分け。息子が現場を見て驚いた(こんな所で・・・・)。

 

群馬桐生。幼稚園の送迎バス。

運転者の希望者が来ない。期待と現実のGAP。
東京での現役世代20万減少。外国人は27万増加。

レストラン、オリンピック系建設現場での外国人増加。

ベトナム(勤勉、低賃金の優等生)。どうしても日本に来たいという若者が減って来た。世界規模の争奪戦。
ルーマニアでは技術を身に付ければ何年でも居られる。

台湾へも増えている(行くのに費用少ない、すぐ稼げる)。

 

日本の制度:実習生という形態でMAX5年。台湾は12年。転職も可能。
台湾では2060年に棺桶形の人口構成になる→それを先取りしていち早い対策を取った。介護分野でのベトナム人は1/3を占める。

制度の違い。日本は日本語の試験に合格が条件。台湾では語学、専門問わず。

 

外国人を強く求める地方の声。
ベトナム実習生へのいじめ。不正行為は300件(2017年)。

これまで移民を受け入れていない日本。
解決を模索するも、縮小スピードに追い付いていない。
どこまで守り、何を考えて行くか、現実が問いかけている。

 

 

感想
日本の人口が減少に転じて、はや10年。

フランスの様に、何十年も前から人口対策している国があるというのに、ほとんど無策のまま現在まで来てしまった日本。
世界中でどの国も経験していない「棺桶型」の人口構成。
現役世代が社会保障を担う、という制度がいつまで維持出来るのか・・・・
我々はギリギリ逃げ切れるだろうが、子の世代が老人になる頃には相当厳しくなっているかも知れない。

 

これが本当の「日本沈没」

高齢者を支えられないため、寿命を制限する制度が検討され始める・・・・・どっかのSFであったっけ?

 

 

 

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