番組紹介
第一話
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161212
第二話
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161213
第三話
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161214
第四話
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161215
<第一話>
世界11ケ国の判事が東京に集まった。大きな問い。人は戦争を裁けるか。
そこでどんな議論を交わし、どんな結論を出したか。手紙、覚書も交えて掘り下げて行く。
カナダ、オランダとの共同制作でドラマを作った。
日本における戦争の軌跡。
1930~40年代。日本は中国、東南アジア、太平洋地域で戦争を起こし。1946年9月2日に降伏文書に署名。
戦争犯罪人として逮捕された元官僚、軍関係者。
1945年11月、ナチスドイツがニュルンベルクで裁かれた。
1946年1月、マッカーサーにより東京裁判所憲章が公布される。28人がA級戦犯として起訴された。
戦勝国を主体として以下のメンバーが選出され、帝国ホテルに参集した。
オーストラリア ウィリアム・F・ウエッブ 裁判長
アメリカ ジョン・P・ヒギンズ 判事
イギリス ウィリアム・パトリック 判事
ソ連 イワン・M・ザリヤノフ 判事
フランス アンリー・ベルナール 判事
支那(中華民国) 梅汝敖 判事
オランダ ベルト・レーリンク 判事
カナダ E・スチュワート・マックドゥガル 判事
ニュージーランド エリマ・ハーベー・ノースクロフト 判事
ウエッブを裁判長に選任したのはマッカーサー。
判事室でウエッブが課題の確認。この裁判で問うもの。
①平和に対する罪(侵略の罪)
②人道に対する罪(殺人、民族の根絶等)
③通例の戦争犯罪(捕虜虐待、戦場での残虐行為等)
各判事の見解が述べられる。梅判事:中国での残虐行為に言及。
ニュルンベルクの裁判で使われた映像が流れる。
第一次もおぞましかったが、これはもっとひどい。
日本が占領した区域→天然資源が目的。ドイツ、イタリアのファシストと組んだ。インドネシアが重要な標的。
戦犯として起訴された者の訴追期間は1928~1945年。被告のリストはどうやって作られたのか。恣意的に見えるとの意見。
ソ漣の要求で重光、梅津の2名が追加された。
被告を社会に戻すのか、処刑するのか。政治と軍が同じ様には動かない。
天皇の責任は?→起訴されていない。軽々しく議題を作るべきでない。
天皇は間違いなく責任を負っていた。
ウエッブとマッカーサーとの会話。何故天皇がリストから外されたのか。天皇は非常に重要な存在。今後の改革プログラムは天皇を通じて示される。
次いで判事2名の追加を伝えるマッカーサー。
インド ラダ・ビノード・パル 判事
フィリピン デルフィン・ハラニーリャ 判事
1946年5月のニュース映像。東京裁判の開始を伝える。
検察の責務は有罪の立証。
清瀬弁護士がウエッブ裁判長の忌避を申し立て。侮辱を受けたと憤るウエッブ。
格被告の罪状認否→全員が無罪を主張。
清瀬弁護士の主張は続く。平和に対する罪を裁く権限はない(この法廷に)。
ブレイクニー弁護人。戦争の刑事裁判であるなら、原爆を投下した人間、それを指示した国家元首も裁かれるべき。
戦争は合法。ニュルンベルクだけを見てはいけない。
大勢は弁護団の主張を却下だが、レーリンクは弁護団の主張の精査が必要と主張。
新たな判事、パルとハラニーニャを皆に紹介するウエッブ。
レーリンクとパルは、この裁判の進め方に違和感を持つ。
ピアニストのエタ・ハーリッヒ・シュナイダー女史とレーリンクとの出会い。
先行きに不安を感じたアメリカのヒギンズ判事が、この裁判から降りると言って帰国。
ドキュメント・パート
ドラマ制作の経緯説明。取材に8年。オランダ、カナダ、オーストラリアと共同で脚本を作成。
オリジナル・フィルムに着色してカラー化。
この東京裁判の論点整理。
第一次大戦後の国際法では、戦争を起こす事自体は合法。
1928年でのパリ不戦条約(侵略戦争を違法とする)。日本も参加。指導者個人の責任には触れず。
その後も続く戦争。その最大のものが第二次大戦。次の世界大戦を防ぐため必要だったニュルンベルクと東京の裁判。
ウエッブ、レーリンク、梅各判事のプロフィール。
感想
あの東京裁判を判事たちの側から描くという事で、なかなかの興味を以て視聴に取り掛かった。
ただ肝心の映画「東京裁判」はビデオの頃で1回、DVDになってからでも1回しか観ておらず、東京裁判そのものの内容についても記憶があいまい。
なので判事の人間ドラマについてあれこれ言うほどの資質はなく、思い出しながら共に進んで行くというスタンス。
1回目の流れとしては、まあまあではないだろうか。天皇の責任問題にそれなりに触れ、戦勝国の押しつけを象徴する、原爆を投下した人間の罪に対する言及も盛り込まれている。
基本的に、レーリンクを物語の進行役として、彼から見た「東京裁判」という体裁になっており、シュナイダー女史との交流など、実際にあったかどうか微妙なところでドラマ仕立てにしているのは、いいのか悪いのか・・・
レーリンクは弦楽の演奏を嗜むという文献記述もあるので、そういった事もあったかも知れない。シュナイダーも当時日本に居たので、まあいいか。ただシュナイダーはチェンバロ奏者であり、ドラマ中ではピアニストだったので、その辺の考証はどうだったのかな?
<第二話>
清瀬弁護人の主張(平和に対する罪についての疑義)を受け、判事の間で広がる不協和音。
米国判事が帰国したため、後任判事が加わった。
アメリカ マイロン・C・クレイマー 判事
同じ軍属という事で喜ぶパトリック。
法廷では南京での大虐殺について検察の実証が進められる。許伝音、尚徳義らの証言。
許せないと憤るベルナールだが、それらを人道の罪として裁く必要はないと主張。
パルは侵略の罪の定義が必要だと主張。平和に対する罪の適用は事後法で裁く事になり、それは許されない(法学者の立場)。
平和に対する罪の適用で対立が深まる。パリ不戦条約、ニュルンベルク裁判も問題あったと考えるパル。
庭を散歩するレーリンクとパル。レーリンクはパルの意見にある程度同調するも、パルから見てレーリンク(すなわちオランダ)の植民地を持つ者の理論には反発がある。
ウエッブが起こした却下原稿を判事間で査読するが、まとまりがないと軽く見られる。また裁判が長引いている事を責められるウエッブ。
シュナイダーとレーリンクとの交流が始まる。
バターン行進についての検察の調べが始まる。ハラリーニャは辛くてその裁判期間中は欠席。
レーリンクと竹山道雄との交流。
レーリンクは判事間の打合せに席上で、侵略の罪は裁けないと主張。戦争は政策であり、個人のレベルで裁くものではない。
パトリックは、今後起こる戦争を食い止めるためにその罪が必要と考えている。噛みあわない主張。
解散後、パトリック(イギリス)、マグドゥガル(カナダ)、ノースクロフト(ニュージーランド)による談合。あと1~2人後に続くと多数派を維持出来ない。ウエッブは人の意見を聞きすぎる。
3人で辞表を出そうと決める(危険な賭け)。
パトリックは母国に辞意を伝える。困惑する首相。
マッカーサーがウエッブに進行状況を聞く。勝つ意思はトップが持たなければいけないとウエッブに指導。
裁判から1年半経った。1947年のニュース映像(長崎)。
弁護側の反証。ブレイクニー弁護人が、真珠湾攻撃以前にアメリカは暗号解読で日本の攻撃意思を知っていた、奇襲ではないと主張。
だが、ルーズベルトが知っていたとしても、攻撃場所までは知り得なかった。
パトリックらの画策が功を奏して、ウエッブに帰国命令が出る。表面上は困難な裁判への対応。
ウエッブはマッカーサーにこの指令の撤回を頼むが、指示に従って帰国した方がいいと逃げられる。
ドキュメント・パート
存在感を出して来たパトリック判事。イギリス政府への手紙が残っている(ウエッブの更迭に関するもの)。オーストラリア本国が、この事態を沈静化させるためにウエッブを召還した。
パトリックの根源にあるもの→戦争体験(パイロットだった)。
侵略戦争の罪を問えなかったら大変な事になる。戦争を犯罪として確立しなくてはならない。その前提で判事らを主導。
感想
裁判が始まり検察、弁護両面からのせめぎ合いの中で翻弄される判事たち、と言った感じか。
パル、レーリンクに代表される平和に対する罪「問えない」派と、イギリス連合の「問う」派との戦い。
ただ、ここでのやりとりは同じ様な内容が何度も繰り返されて、重要なのは判るが冗長すぎて散漫。
途中からパトリック判事の仕掛ける多数派工作が出て来たのが、話の流れとしては良かった。
とは言っても、判事の側に重点が行くあまり、検察と弁護の主張がどうなって、こう決着したという所まで表現されておらず(途中で放置)、要するに「ドラマ」としてしか利用価値がない(歴史の資料としては不満足)。
しかし何とタバコを吸うシーンの多いこと。そりゃああの時代だから、タバコが日常的だったというのは判るが、効果的な場面で一話中2~3ケ所もあれば十分だろうに(「風立ちぬ」でもあるまいし)。
<第三話>
駐日オランダ代表部のウィリンクを訪れるレーリンク。本国から他の判事と同調するようにとの文書を受け取っていた。国の利益と君の将来の事を考えている、ととりなすウィリンク。
パトリックはウェッブの後任にノースクロフトを推薦したが、マッカーサーはクレイマーを選出した。
クレイマーは軍人だから問題ないと容認するパトリック。
外出してシュナイダーを訪れるレーリンク。逢っても大丈夫か、と尋ねるシュナイダーにアーティストだから大丈夫だと返す。
裁判のストレスを打ち明けるレーリンク。
レーリンクと竹山との会話。自分に抵抗する勇気がなかったと悔やむ竹山。
ザリアノフがレーリンクを訪れる。ナポレオンの書物を読んでいる事に興味を持つ。なぜ処刑されなかったか→侵略を裁く法がなかったからと、レーリンク。
パルは法廷には出ず、判決文を書くことに重点を置いていた。戦争を始めたのは誰か、ではなく法があったかどうか。
レーリンクは毎日法廷に出るうちに、考えが変わって来た。被告を無罪にするようでは国際法の進歩はない。
パルは、拙速には出来ないと言った。
1947年12月のニュース。札幌の街の風景。クリスマス用品を売る東京の一方で土管に住む人もいる。
ウエッブが復帰した。マスコミが騒ぐのをマッカーサーが恐れたため。
被告の証人尋問が始まる。
エディ東郷と東郷いせ母娘と傍聴席に向かうシュナイダー。途中でそれを見掛けるレーリンク。
東郷茂徳への尋問。キーナン検事の追求。日本は戦争か自殺かの選択。戦争も仕方がなかった。
東郷の共同謀議説に反対するレーリンク。
シュナイダーとの演奏を楽しむレーリンク。裁判所で会った婦人の事を聞き、東郷夫人と知る。被告の身内と親しい者と会うわけには行かないと、その場を辞する。
東條英機に対する証人尋問。傍聴券に大枚をはたく者も居た。
天皇に逆らって何かをした事はない、という発言が問題になった→天皇が始めた戦争という意味か?
真珠湾攻撃の8日前、天皇は拒否権を行使しなかった。
1948年1月の証言。私の内閣において決定した。天皇はしぶしぶ同意したという立場。天皇は平和を望んでいた。ウエッブは、東條とキーナンの間に裏で完全な合意があったのだと判断していた。
レーリンクはウィリンクに立場を変えると報告。平和に対する罪を認める(ただし根拠は他の判事と異なる)。
多数派工作で協議を重ねるパトリック、クレイマー、マクドゥガル、ノースクロフト。情勢の確認。
ドキュメント・パート
巣鴨プリズンの紹介。
エタ・ハーリッヒ・シュナイダーの紹介。戦後日本のクラシック音楽の母と称される。ゾルゲと恋愛関係だったとも言われている。ナチスに反対したドイツ人という位置付け。レーリンクとしばしば逢っていたという記録がある。
感想
裁判も中盤にかけて、証言の重要部分が出て来た。カラー映像で見る東條の姿は臨場感があり、その一言一言がスンナリと頭に入って来る。
ただ、延々と続く平和に対する罪の議論に反して、検察の追求、被告証言との攻防などはあっさりし過ぎて、やはり娯楽作品的扱い。
ゾルゲと言えば、松本清張の「昭和史発掘」に出て来たような。とんでもない女史だこと。
<第四話>
1948年2月11日。キーナン検事による最終論告。責任者による評決を待っている。
レーリンクは侵略の罪を支持。ただしいくつかの同意が必要だと各判事に申し出る。事後法が問題だと言うが冷たくあしらわれる。
マッカーサーが判決の催促をするが、証拠が4万9千ページもあると突っぱねるウエッブ。
梅とレーリンクの会話。中国は現在内戦中。これが終われば帰れる。自分は多数派に加わる。
ウエッブとパトリックの会話。パトリックは過半数に達した自分たちが判決文を書くと言ったが、ウエッブは自分が書くと主張。
梅は「多数派には付くがウエッブ抜きはまずい」と主張。
そんな時にパトリックが倒れる。
ウエッブは手伝いの者を追加して判決文を加速。
レーリンクがパトリックを見舞う。二度の大戦でヨーロッパは破壊された。争いを止められない。
ニュルンベルクが先例。我々が擁護しなくてはならない。
レーリンクはウェリンクを訪ねる。オランダもニュルンベルク判決を支持していると諭すウェリンクだが、独立した判事として正しい事をしていると反発するレーリンク。
ノースクロフトが多数派としての判決書をウエッブの元に持参。ウエッブが承認。
レーリンクは抗議するが、道理にかなっているとウエッブ。我々の反対意見はどうなる?との抗議に量刑は空白になっている、最後のチャンスで死刑に反対は出来る。
死刑に対する意見出し。
天皇が免責されているのに部下を絞首台に送れない。
死刑は絶対必要。
死刑がなかったら、日本が主権を回復した時にみな赦免されてしまう。
各人の死刑に対する見解が噴出。
判決の一例として広田 弘毅、東條 英機について罪の内容が開示される。
1948年11月。1200ページに及ぶ判決文が読み上げられ(7日間を要した)、被告への宣告を行った。
複数の判事による理由書の追加が行われた。
判決の内容は全国に中継された。
広田:絞首刑、東郷:禁固20年、重光:禁固7年、東條:絞首刑・・・
最後に判事全員で記念写真が撮られた。
ドキュメント・パート
東京裁判の判決書は東京に保管されている。四つの個別意見書を加えて全2800ページ。ウエッブの意見書は600ページにもなったが、最後は21ページにまとめられた。
東京裁判の研究は今でも各国で続けられている。ハイデルベルグで今年学術会議が開かれた。
感想
第四話のまとめとしては、まあこんなものか。
先にも書いたように「人間ドラマです」との見解に異論はない。ただ、だからこそ淡々と事実の積み重ねが知りたかったという欲求も出て来る。
これを観たら、映画版の「東京裁判」(小林正樹監督)を改めて観ないと、どうも収まらない感じ。
ただし、カラー化された東條の姿は本当に臨場感に溢れ、この事でもっと深いところでの理解に繋がる気がする。全記録をカラー化して、通しで見せてもらいたい。
パル ベルト・レーリンク