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「ソラリスの陽のもとに」作:スタニスワフ・レム 再レビュー

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NHK Eテレ「100分で名著」で12月に取り上げていたのが「ソラリス」。

もともとハヤカワ文庫で出ていたのは標題だが、今はポーランド語から直接訳されたものとなっているようだ。

 

旧訳版ではあるが、ダンボール箱を漁って探し出し、10年振りに再読。 前回レビュー

 

 

小説「ソラリスの陽のもとに」 作:スタニスワフ・レム/飯田規和訳 
                       初版1961年(日本語訳1965年)

1 到着
地球を飛び立ち、惑星ソラリスに向かう宇宙船「プロメテウス」号。

乗員はクリス・ケルビン。心理学者。ソラリス研究に携わって12年。

 

ソラリス・ステーションに到着するが、通信に応答はない。自力で着陸カプセルから出たクリスは、部屋で座っているスナウトに会う。

非常に驚くスナウト。同僚のギバリャンはいないか、と聞くが混乱していて話にならない。

問い詰めると、ギバリャンに今朝不幸が起きたという。
もう一人のサルトリウスは上の階で実験をしている、と話すスナウト。
サルトリウス以外の者に会ったら慎重に行動しろ、とスナウト。訳が判らないクリスに、とにかく自分の部屋で一休みして、一時間後に来てくれ、と言った。

 

2 ソラリス学
ソラリスが発見されたのは100年以上前。赤と青の2つの太陽のまわりを廻っている。二重星を廻る惑星の軌道は常に変化するため、重力場の急変により生命進化が望めないとして、長く無視されて来た。
だが発見から数年も経たないうちに、ソラリスの軌道が一定である事か判明し、最も注目される天体となった。
その後数度の調査が行われ、ソラリスの大部分を覆う海が液体細胞のようなものであり、この海の形態変化により安定した軌道を得ていると推測された。知性を持つ海として大いに注目を集めるソラリス。

 

ステーションのソラリス関係蔵書を読み進むクリス。
ソラリス調査の段階で、海に沈められた装置が複製されるという現象も起こった。だがある時期から海は全く反応しなくなり、以来数十年を経て、細々と観察が維持される程度までに研究は縮小されている。

亡くなったというギバリャンの研究室に入り、そこで彼が、海にX線を照射する実験の計画を立てていた事を知るクリス。3週間ほど前にそれは行われ、実行したのはサルトリウス。
X線の使用は国連条約により制限されている。驚くクリス。

 

3 客
更に部屋の調べを進め、ギバリャンが自分宛てに書いた手紙を見つけ、開封するクリス。
「ソラリス年鑑第1巻付録、『小アポクリフォス』」という簡単なメモのみ。更に部屋を探して超小型テープレコーダーを見つける。

ほとんど録音済み。

 

スナウトの元に急ぐ途中、図体の大きい黒人女が目の前を横切るのを見て、息を飲むクリス。
X線実験の事を聞くクリスに、詳しい事は知らないと言うスナウト。逆にギバリャンの部屋に入ったな、と返される。
見掛けた黒人女の事をスナウトは知っていた。だが何者かと聞いても「知らない」とばかり。苦痛に顔を歪めるスナウトを残して、サルトリウスに会いに行くクリス。

 

4 サルトリウス
まず図書室でメモにあったソラリス年鑑第1巻を手に取るクリス。アンドレ・バートンの記述。ソラリス探検の一員であり、海で初の犠牲者となった、フェフナーとカラッチを救助するメンバーだったが、トラブルに遭い、一名だけ帰還が遅れた。その時に異常な体験をして、報告したいと申し出ていたが、記録としてはそこまで。もう一つの『小アポクリフォス』は見当たらない。

 

サルトリウスの部屋の前で呼びかけるが、出て来ない。ただドアの向こうからは子供の足音とそれを追う大人の足音。
むりやり開けると警告するクリスに、部屋の中に絶対入らないでくれ、と念押しして僅かにドアを開くサルトリウス。ドアの向こうで、カーテン越しに動く小さな影。
ギバリャンの死と、ここで起こっている奇妙な出来事について問い質すが、ドアの向こうに気を取られて話が出来ない。
押し問答の末、サルトリウスは「何でもするから、とにかく下へ行ってくれ」と懇願した。
ドアを閉めた向こう側で聞こえる、激しい足音、割れる音、甲高い少年の笑い声。

 

スナウトのところに戻り、その話をすると、君のところへも「お客」が来るようになれば判る、と返される。
下階の冷凍室でギバリャンの死体を確認するクリス。その隣で寝ている黒人女を見つけて息をのむ。

裏返った足の裏は腕や肩のように柔らかかった。
自分の精神が狂ったのではないかとの疑い。ソラリスを廻る衛星の、コンピュータによる軌道計算と、自分の手計算との突合せ。

小数点以下4桁まで合うという結果は、コンピュータがこの世界に実在しているという証拠。

 

5 ハリー
その計算に我を忘れていた。作業が終り、死んだようにベッドに倒れ込んだ後、目を覚ますと、そこにハリーが座っていた。
夢を見ていると思い、固く目を閉じて再び開くが、彼女は消えていない。最後に見た時の彼女は19歳。

今生きていれば29歳の筈だが、彼女は少しも変っていない。

それでもしばらくは夢を疑い、抱き寄せてキス。

だがその後も状況は続く。
どこから来たの?と声をかけても、知らないわ、とばかり。自分がハリーである事、そしてクリスという名前も相手の口から出る。
ハリーとの別れは辛いものだった。仲たがいで、相手を傷つけようと荷物をまとめて出たクリス。その三日後に薬物を注射して死んだハリー。
自分の太ももに傷をつけ、その激痛により現実と悟ったと同時に「これはハリーではない」と確信するクリス。
用事があるから、小一時間待っていてくれ、と頼むクリスに「一緒に行くわ」と断固とした口調。これは既にハリーではない。
狂的な、何かを感じてクリスは無意識にハリーの手を後ろに回し、何か縛るものを探した。だがその一瞬後に強烈な力で振りほどかされた。

 

次にクリスは、睡眠薬で彼女を眠らせようとしたが、それも徒労に終わる。
突然あるアイデアを思いつくクリス。一緒に行きたいなら行こう、と言って2着のコンビネーション(宇宙服)を用意。その服を着せる段になって、彼女のワンピースにボタンもファスナーもないのに気付く。
ナイフでその服を裂き、コンビネーションを着せた。
ロケット発射場に向かう二人。そこには衛星とステーション間の連絡用ロケットが準備されていた。

業務用のため、内部からはハッチが開かない。
自分は後で入るから、とハリーをそこに入れてハッチを締めるクリス。数時間だけでも自由な時間が欲しかった。
だが内部から加えられる打撃でロケットは揺れ、破壊されそうな勢い。スピーカを通してハリーの絶叫。クリスは動転して、手を傷だらけにしながらロケット打ち上げの操作を進めた。
ロケットは炎の尾を引いて昇って行った。

 

6 『小アポクリフォス』
手も顔も発射時の火炎で火傷になっていた。

部屋に戻って薬品を探そうとしたところにスナウトが。
「お客さんが来たんだろう」 「うん」。スナウトは全てを承知していた。スナウトの、治りかけている顔の斑点が、火傷によるものだとその時気付いた。サルトリウスも多分同じ事をした。

 

最初にこの話をしても、信じてもらえなかった、と真相を話し始めるスナウト。
最初にそれが現れたのはギバリャン。ドア越しにしか話をしなくなった彼に、気が違ったのだと最初は思った。

ギバリャンもクリスと同様、計算による正気の確認をやっていた。
1週間ほど経ってスナウト、サルトリウスにもお客が来始め、皆他人どころではなくなった。

彼女は戻って来るのだろうか、と聞くクリスに、時と場合による、と答えるスナウト。彼女がどんな女性だったかを聞くスナウトに、ハリーが劇薬を注射して自殺した話をするクリス。
「無実の罪を着たというわけか」と、それをシニカルに断ずるスナウトに怒るクリス。

 

スナウトは、これがソラリスなりの、他文明との交流だという。
例のX線実験をやってから八日目にそれが始まった。我々の脳から「心理の島」のようなものを引き出したのかも知れない。
人間の心の中で、切り離されている心の断片。抑圧された記憶。海はそういったものを、何かを作るための設計図とみなしたのかも知れない。それを引き出して複製し、我々に送り込んだ。
初めてスナウトに会った時、彼があれほど驚いた理由をようやく知るクリス。

 

スナウトは、ギバリャンの部屋である本を見つけたという。『小アポクリフォス』。クリスはギバリャンからのメモの話をした。スナウトはその本をクリスに渡した。

ロケットで放出しても、また現れるかも知れない「お客」。

ここを閉鎖するしかないと言うクリスに、気が違ったと思われるのが関の山だと否定するスナウト。
「海の正体は突き止められないだろう」と言って部屋を去るスナウト。

 

『小アポクリフォス』を読み進むクリス。ソラリス年鑑に書かれていたバートンの報告を含む文献集。
フェフナーとカラッチ救助に向かった時の海の挙動、見たものなど。雲の間に開いた、いくつもの空間から見える海面に見える巨大な構造物。公園や建物。別の空間には巨大な赤ん坊が、異様に規則的な手足の動きをしていた。
その記録は、バートン本人がこの証言を、幻覚によるものだと処理される事を恐れて中止したため、そこで終わっており、以降はこの本をまとめたメッセンジャー博士の記録として引き継がれる。
バートンが見た構造物、赤ん坊などは、海に取り込まれたフェフナーのものだった可能性への言及。
海が一種の心理解剖を行って、フェフナーの記憶の痕跡を実験的に再構築したとの推定。
自分に起こった事をある程度理解したクリス。

「クリス?・・・・・」とささやくような声。平気だよ、こっちへおいで・・・

 

7 打ち合わせ
長い時間、ハリーと二人だけの時を過ごすクリス。やさしく火傷の手当てをしてくれるハリー。

何度かまどろみ、空腹を感じたクリスはベッドに腰を下ろしているハリーに気付かれないよう、そっと遠ざかり、ドアから外に出て、そのハンドルを押さえた。急に激しく引っ張られ、きしみ始めたためあわてて手を離す。大きく湾曲するドア。押す代わりに引っ張って開こうとしていた。極限まで湾曲したドアからハンドルがちぎれて飛び、その穴から血まみれの手がのぞく。更に引かれたドアが外れ、ハリーが飛びついて来た。彼女の割れた爪から血がしたたり、手の平が裂けている。
恐怖におののくハリーを抱きしめるクリス。手当てをしようとガーゼ、止血剤をあわてて準備するが、傷はみるみる回復して行き、元に戻ってしまった。
ハリーは自分が何をしたのか覚えていなかった。

 

炊事室で缶詰を食べる二人。だがハリーはいやいや食べているようだった。

精密検査だけはしておこう、とハリーから採血し、それを分析にかけるクリス。
そこへスナウトからの電話。サルトリウスが一緒に話したがっているという。テレビ電話での三者会議を一時間後に。ただスクリーンは隠す前提。
様子はどうだ?と聞くクリスに、君の方より少し悪い、とスナウト。電話口で「やめなさい!」と叫ぶ言葉の後、電話が切れた。
ハリーの血液標本の顕微鏡映像を拡大して行くクリス。細胞、蛋白質の混合物、分子・・・だがその先の原子の段階で、何もかも消えて見えなくなった。
もう一つの実験として濃縮酸をハリーの血液にかける。煙が出て泡立った血液。だがその反応の先で、また元に戻った血液。

 

クリス、スナウト、サルトリウスの三者会議。出現した妖怪(ファントム)。F物質と呼ぼう、とスナウト。

各自の持っている情報の開示。クリスはハリーの血液分析結果より、F物質が原子よりもっと小さいニュートリノではないかとの推理を述べた。だがニュートリノ系は不安定。サルトリウス説:F物質は我々に対する実験ではないかとの推理。
サルトリウスのお客が騒ぎ出したため、会議は強制終了。

 

8 怪物
スナウトとの打ち合わせの後、ハリーが泣いて震えていた。打ち合わせの中で、彼女がハリーではないという事を聞いたらしい。必死でそれを否定し抱きしめるクリス。
「愛しているわ」という言葉に、叫び出したい気持ちのクリス。

スナウトが手紙で書き残したサルトリウスの研究(ニュートリノの安定を破壊)についての記述。

 

クリスは、サルトリウスに協力するため、ニュートリノ系の文献を探したが、そこで「ソラリス研究の十年」という本を見つける。
ソラリスの海が作り出す様々な形態の記述。調査隊が収集した情報の整理。無数の擬態活動、超長物等、際限もなく集まるデータに関連性はなく、事故で数百人の犠牲者が出た時には、核兵器によるソラリス破壊まで議論された。
このステーションの記述。中央部が四階、周囲を二階とする直径200mの円形の建物。重力調節機により上空500mに浮かぶ。

 

文献調べが一段落した時、スナウトが訪れた。お客と離縁したという。それ以上は話さない。
サルトリウスの分析:お客は常に我々が目覚める時に現れる、という事は睡眠時の情報がお客の処方箋となっているという事。よって、目覚めている時の我々の思考を伝える必要がある。クリスの脳電流をX線に乗せて変調し、投射する提案。
もう一つの計画を話すスナウト。お客を消滅させる、ニュートリノのアンチ・フィールドを作る装置。
だが、人には無害としてもニュートリノ崩壊時に爆発を起こす可能性もある。クリスは反対した。

X線照射への協力を保留したクリスを残し、去って行くスナウト。
スナウトを見送ったハリーは不安を感じていた。 

 

9 液体酸素
夢に現れたギバリャン。海が送り込むものに関する議論。
ギバリャンの残したテープレコーダーが見当たらず、ハリーにも聞くが知らないという。
シャワーから戻ったハリー、いつもと様子が違う。自分の存在に、次第に疑問を感じ始めたハリー。
説明が出来ないクリスを責めることはせず、冷たく笑う。

 

夜中に衝撃を感じて目覚めるクリス。廊下に飛び出すと実験室のドアが開いている。冷気がどっと流れる先に横たわっているハリー。
ハリーの口から流れ出る冷気の白い雲。口のまわりは凍り付いている。液体酸素を飲んだハリーは、気管も肺も焼かれ、乾いた音を立てている。死が近い。
意味がないと思いつつも応急の薬品、器具を探すが、体が動かない。
体をのけぞらせ、けいれんを起こし、激しくあえぐ。そして動かなくなった。息が絶えた、と思ったクリス。
だがハリーはその後も呼吸を続けた。顔はみるみる赤味を増して、呼吸も深く、安定し始める。
それをただぼんやり眺めるクリス。
目覚め、自殺がうまく行かなかった事を知ったハリーは、激しく取り乱す。この数日間、自分の存在に疑問を感じていたハリーは、あのテープレコーダーを聞いてしまった。
そしてハリー自身が、クリスたちの反応を研究するための道具だという事を知った。クリスに対する思いと自分に対する絶望。
自分が何のための存在なのかを教えて欲しい、と懇願するハリーに、ゆっくり諭すクリス。
海との接触によって現れたハリー。それはクリスにとって拷問となるべき性質のものかも知れない。だがこの先自分以外の者たちの意図に支配され続ける必要はない。
自分たちの力が及ぶ範囲では協力して一緒に暮らそう、とクリス。

ハリーは、自分が前の女性に似ていたかと聞く。とても良く似ていた、だが今ではもう判らない。君に遮られて思い出せなくなっている。
僕が愛しているのは君だ。もし君が本当に彼女だったとしたら、僕には愛せないかも知れない。
「どうして?」
「むごい事をしてしまったから」

 

10 議論
翌日、昼食から戻るとスナウトからの伝文。X線の実験について。
スナウトとの話し合いは、実験の事よりハリーの件について。

かなり深い事まで知ってしまったハリーについて、長く関わるほど・・・難しくなる、と言葉を濁したスナウト。
そしてクリスが、彼女を連れてここを出て行こうとしているのを強く否定。ニュートリノ系の不安定さ、彼女はここでしか生きられない。いつまでも続く議論。
 
彼女を愛しているというクリスに、無意味だと断じるスナウト。環状過程のとりこ。彼女はその段階のひとつ。もし彼女が何か別の怪物だったら追い出すだろう。
アレは我々の手足を縛るために派遣されたもの。

 

翌日サルトリウスの部屋に来てくれと頼むスナウト。例の実験の件。
クリスは、スナウトが戸棚に不自然に左手を差し込んでいる事に気付く。何かが中から引っ張っているような。

出ていってくれ、と静かに言うスナウト。

部屋の外にハリーが座っていた。

少しの間、離れていられるかの訓練。

 

自分の部屋に戻り、あの戸棚の中のものが、クリスの脳電図の記録装置ではなかったがと疑うクリス。自分が潜在意識の中で、もし彼女の消滅を望んでいたら、X線の照射により彼女が居なくなる可能性もある。
脳電図の提供を承諾した事を悔やむクリス。

 

11 実験
翌日、ハリーを伴ってサルトリウスの部屋に出向いたクリス。既にスナウトは来て機械類の整備。電極を頭に取り付けられるクリス。
脳電図の採取にあたっての注意を話すサルトリウス。

そして記録が行われた。
脳電図は十数メートルのフィルムに置き換えられ、機械にセットされた。あっけなく終わる照射。

再び図書室でソラリスの文献に目を通すクリス。調査の段階に応じて、単なる混合物から、生命を持つゼリー、精神活動の存在へと海への理解は進展して行ったが、結局それらの努力が実ることはなく、発達はしたものの、それが衰退した残渣として、残っているのが今の状態だと評価されている。袋小路に入り込んだソラリス学。

 

12 夢
海からの反応がないまま六日経ち、彼らは再び同じ実験を繰り返した。ただし照射場所はレーダー等の情報により移動。
照射しては移動、を繰り返し、結局実験開始から10日経った。
その後は各自が他の行動を知らぬまま数日が過ぎ去る。
今まで見たことのない夢を見るクリス。

実験を中止してから15日目。悪夢を見た翌日、ステーション下の海面に生じた異変。
その2日後、食堂でスナウトと会うクリス(とハリー)。腰も下ろさず手あたり次第に食料とワインを飲むスナウト。海からの反応がない事に腹を立てていた。

 

13 成功
次の3週間は、同じ日の繰り返し。夜は悪夢に苦しむ。お互いに嘘をつきあい、芝居をしている。
叶いもしない、地球へ帰った時の事など話し合った。
ある晩、クリスはハリーがベッドから降りるのに気付いた。部屋を出るハリー。それから千を数えてからハリーは戻った。
翌日、その事をハリーに話すと、夢を見ていたのよ、と否定。
その晩、ハリーは喉が渇いたと言ってジュースを半分飲み、残りを渡した。それを飲み干すクリス。そして急激な眠気に襲われる。

 

翌朝、ベッドにハリーが居ないことに気付いたクリスは、狂ったようにステーション内を探し回った。だがどこにもハリーはいない。
壁を叩いて泣き叫び、いつの間にか気を失った。

 

次に目覚めた時、そこにスナウトが居た。「彼女はどこにいる?」 「彼女はいない」スナウトが指示して睡眠薬を飲ませたと思い込むクリス。
スナウトはポケットから封筒を出して渡した。ハリーからの手紙。自分からこのことをスナウトに頼んだという。そして、あなたはすばらしい人でした、とも。

その方法は、サルトリウスの作った装置。半径数mしか作用しない。
彼女は戻って来る、と言うクリスに「もう、何も戻って来ない」とスナウト。取り乱したクリスはスナウトに詰め寄る。

 

海が行ったのは心理的な生体解剖。我々が何を求めているかを全く考慮に入れていない。海に対して憎むとは、まるで人間に対するみたいに、と冷静なスナウト。

海は、我々の記憶の中だけに存在するものを甦らせ、創り出した。

身のこなしも、声も・・・
だから、その気さえあれば海は我々の心を読むことが出来る。
だが海が再生したは脳、肉体等の構造物だけ。人間の記憶は、多分結晶の上に核酸の言語で書き込まれた一種の絵。
それがどんな意味を持つかは、海にとって知る必要のないもの。

初めて全てを理解したクリス。海はそもそも、我々を踏みにじる意思など持っていなかった。ただ偶然に・・・

 

14 別れ
皆で5日間かかって作成した上申書が、地球に向けて発信された。それから数日の間は地球での生活を思い浮かべる。
部屋にスナウトがやって来た。神についての議論。
不完全な神に対する信仰。不完全さを内在的に持っているような神。
時計は作ったが、それで計る時間を作らなかった。
スナウトの補足。このソラリスの海は、幼さが理性を上回っている、神の胎児のようなもの。
そして、僕らはしばらくの間、その幼児のおもちゃだった、と付け加えるクリス。

 

水平線の向こうに擬態を見つけるスナウト。突然、それを見に行こうと思い立ったクリスは、スナウトに手伝ってもらい、ヘリコプターを引き出す。変な真似をしないかと訝るスナウトを置いて飛び立つクリス。
次第に、擬態を擁する島に近づくヘリコプターは、その岸に何とか着陸。その擬態は、半ば崩壊した古風な都市。
だが、クリスはこんな擬態には興味がなく、海に会いに来たのだった。

 

波の端に腰をおろし、手を差し出すと、まるで手袋のようにクリスの手を包み込む「波」。
ここにある現実の神秘をまざまざと感じるクリス。そして全てを許す気持ちになった。

この液体の巨人が、二人の悲劇に心を動かす、などとは露ほどにも信じていないが、彼女が残していった最後の期待は、永遠に過去のものとなってしまったわけではない、と信じていた。

 


感想
小説としても、映画としても自分にとって、かなり上位に来るSF。
ただ、大まかなストーリー展開は覚えていても、細かい部分で抜けがあり、例の「100分で名著」の内容だけでは却って消化不良になってしまった。

 

記憶から抜けていたのは「ソラリス学」の項に代表される、技術面のバックボーン。
二つの太陽の重力支配を受けながら、安定した軌道を取っている事から注目を集める、という設定は秀逸。SFにとって、ハード面での構築はけっこう重要。
そして延々と語られる、ソラリス発見からの長い歴史。
単にSF小説としてだけなら、ここまで細かくなくてもいいのだろうけど、こうしたものを辛抱強く読みこなした先に、ドラマ展開の楽しみがある。

 

どうせ信じてもらえないから、と最初はこの星の秘密を一切話さなかったスナウト。それはクリスに一体どんな「お客」が来るか想像出来たかったという面もあったろう。
自分自身の深層心理に宿る、人に知られたくない、封印された記憶。他の三人に比べたら、クリスのケースはまだラッキーだったという見方も出来る。

 

だが、クリス自身にとってのハリーの存在は、痛々しいものだった(だからこそ出現した)。妻だったのか恋人だったのかは明らかではないが、一緒に暮らすうちに見えて来た違和感。
そんな彼女を懲らしめるために家を出たクリス。ハリーという女性は、自己主張の強い人だったのかも知れない。あてつけのために毒物を自分に注射した。死ぬつもりはなかったかも知れないが、結局命を落とした。

 

その悔恨がクリス自身を支配していた。悔いると共に、自分を恨みながら死んで行ったハリーに恐怖していた面もあったのか。早々とロケットで彼女を放出してしまったのは、そのせいだったかも。

次に現れた第二のハリーも、クリスの姿が見えなくなっただけでドアをぶち壊す、恐怖の対象でしかない存在。その上血液構造は、分子レベルまで人体を再現しているものの、そこから先は人間でなはい。
要するに、かつて愛した者と同じ外見をしたモンスター。

 

だが、この二人目のハリーに対して、以前とは違う愛情を感じ始めるクリス。それは彼女がハリーそのものではなく、クリスの事を判ってはいるが、自殺した記憶、元々の性質だった自己主張の強さなどが欠落していた事も幸いしていた。
液体酸素によるハリーの自殺未遂を経て、彼女を以前のハリーとは違う別人として愛し始めるクリス。

 

相手から決して離れない、という行動は「海」が常に対象物を把握するため「お客」に仕組んだプログラムなのかも知れない。
だがハリーはスナウトの元に行くクリスの後について行くも、勇気を出してドアの外で待ち、それをやり遂げた。その健気さに胸打たれる。

クリス自身不安を感じる中での、第二のX線照射実験。元々X線照射により「お客」が出現するようになったから、ハリーを失うかも知れない。

 

自ら望んでサルトリウスの装置により消滅したハリー。

終盤、スナウトとクリスの会話で語られる「海」。ヒトの深層にあるものを、無邪気に形にしてしまった「不完全な神」という存在。
そんな海の気まぐれの犠牲になった、ハリーの思いを継承しようとするクリス。ソラリスに留まる、という思いに自己はなく、これはもう至上の愛。

 

ハードに偏った理詰めのSF、という最初の印象から大化けした、というのが初めて読んだ時の読後感だったが、今回再々読しても、概ねそれは変わらない。
本当に上質なSFというのは、こういうものだろう。

 


100分で名著:ソラリス」概要
放送12月4日~12月27日(全4回)
観たのは後半の2回分だが、短い割りによくまとまっていた。
以下視聴メモ

 

<第3回>
ミモイド(擬態形成体)。幽体F。最新のAIに似ている。
クリスはハリーを別人格として愛し始める(引き受ける)。

ハリーの健気さ。
クリスの心の中を分析して作られているハリー。血液が違う点→ニュートリノで出来ているかも知れない。

 

クリスは夜中に目を覚ます。液体酸素で自殺を図るハリー(自己犠牲)。
二つの自殺。ハリーのは自己主張のための自殺(狂言からの死)。

結果がちがう。
私はハリーじゃない! じゃ、私は誰なの?
自分の存在を問う。人間とは何か。実物より深い愛。人間よりも人間らしい(境界すらあやしい)。

ハリーと共に生きる決意をするクリス。
「私、その人に似てるの?」「ああ、とても。でも今はもう判らない。ひどい事をしてしまったから」

 

スナウトにステーションを出て行くと宣言するクリス。
思い出にすぎない、とスナウト。君の思い出が素晴らしいから。

ある実験。目覚めている時の脳電図を海に照射。

 

<第4回>
人間であること、人間でないことの違いは何か。現代につながる課題。
ロボットの定義
1、人の役に立つ 2、コミュニケーション 3、人間理解

脳電図照射実験。15日目に海に変化。新たな幽体は現れなくなった。
クリスはハリーは地球に帰った時の事を話すが、それを信じてはいなかった。
海がどう思ったかは不明。自分を騙しながら、つかの間の愛。

ニュートリノ壊滅装置によりハリーは消滅。X線照射の後は、誰も戻って来ない。
あいつ(海)を本能的に憎むクリス。スナウトは冷静。
海と向き合うクリス。欠陥を持った海。

 

小説は唐突な終わり方。レムの宇宙観→星を作ったり消したり。神様の赤ん坊。
クリスは残った。明確には書いていないが、立ち去ることはしていない。

 

小説と映画でラストシーンの解釈が違う。
映画ではクリスが両親と再会。懐かしさへの回帰。引きの映像で海の中の島が見える。
レムはこういう解釈が大嫌いだった→ポーランドに帰った。

 

タルコフスキーは終盤での違和感をノスタルジーに置き換えた。
関係性があるから違和感を持てる。タルコフスキーとレムの違い。

残酷な奇跡。違和感を持ち続ける勇気が人間らしさ。
今の世界に関係ある。異質な他者に向き合う時どうする。抹殺、無視。
他者とのつきあいはきれいごとじゃない。


挿絵がけっこう良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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