聖痕(3) 88~124(10/9~11/16) 筒井康隆 作 筒井伸輔 画
中学以来、1年上で貴夫の庇護者的存在だった安曇学。
同性としての危惧もあったが、元木禎子という彼女が出来た事で同性愛の傾向がない事を知り貴夫は安心。
そんな2人を手料理でもてなした貴夫だが、受験勉強のため学がその後貴夫の家を訪れることはなかった。
勉強の甲斐なく学は東大受験は叶わず、早稲田の法科に進学。
翌年、貴夫は東大農学部に合格。大学生活を始める。
新入生に向けた貼紙に「グルメ旅団」なるクラブ名を見つけ「美味珍味を求めてどこへでも行く」という趣旨に惹かれてあっさりと入部を決める貴夫。
新入部員として貴夫と同時に入部した霧原夏子。
授業に出る様になって、貴夫に接近して来る男が居た。2年の土屋。背が低い。数日前から不快な視線を感じていた。
おつきあい願いたい、と言う。粘着質だが、貴夫が女性嫌いだという事も見抜いていた。土屋はその後もしばしば貴夫にまとわりつく。あまりのしつこさに、辟易する貴夫。
そんな貴夫に対し、意外にも霧原夏子が声をかけて来る。土屋は彼女にも貴夫の事を聞き廻っていた。お互い協力し合えないかと提案する夏子。
それからの2人は時間の余裕のある時は常に行動を共にする様になり、土屋も割り込む隙がない。夏子は幼い頃、年上の従兄からひどい目にあわされて以来男性不信になっていた。
夏子は貴夫の本質をうっすらと悟っていた。
そんな夏子を貴夫が夕食に招いた。目が飛び出すほど驚く登希夫。何も出来ないくせにと母に息巻くが、何となく彼らの関係を理解した佐知子。
クラブの活動が新聞に紹介された事がきっかけで新潟の料理旅館からの招待が来た。賛否両論あったものの、結局全員で赴くことになる。
夕食の賞味の後、料理人全員を前に、厳しいコメントを正直に話す貴夫。反発する年配の板長に対しても理路整然と応対。
葉月家の隣に賑やかな一家(利根)が引っ越して来た。そこには双子の娘(小6)がおり、貴夫の存在に気付くと憧れからか、顔を見る度に嬌声を上げた。
貴夫は2年になり、土屋は本郷キャンパスに通う様になり姿を消した。
父の満夫と話をする貴夫。教師からの請け売りで、この景気はいつまでも続かないという。
貴夫は親から株券を譲り受けており、現在の価値は1億を越えていた。今の時価で株を全て売って欲しいと頼む。
貴夫を信じて両親は彼の株だけでなく、自分たちの株も大部分処分して金地金に替え、それは27億にもなった。
夏の終わりに家族全員で真岡にある祖父の生家へ行く。周囲の人々との数日間のやりとり。
秋に入って、霧原夏子が退学すると告げた。さほど心は痛まなかったが、僅かに哀惜の念が滞留した。
成績が上昇した登希夫を褒める満夫。後を継ぐ気のない貴夫は諦め、登希夫に期待をかける。まんざらでもない次男。
貴夫の次年に入部した桐生逸子、前原都美子、田中公子の3人。貴夫目当て。
学年最後の集まりが都心の高級フランス料理店で開かれた。代表者に推挙される貴夫。
会の後、先の3人が貴夫を捕まえようと待ち構えている。
3人を避けて以前祖父良く来た日本料理店に避難すると、そこで偶然霧原夏子に会う。見合いの席。
奥の席に座ったところへ夏子が。退学した後、何度となく見合いをさせられていると言う。
「ねえ葉月君、わたしたち、もしかして助け合えるんじゃないかしら」
欧州旅行の同行者として安曇学を選び、誘うと学は喜んだ。葉月家にも信用の篤い学。
ロンドン、スイス、イタリアと気ままなグルメ旅行を2人は堪能した。
貴夫は専修に入り専門課程の教育を受ける様になる。1年ぶりに姿を現した土屋。
家に変なお婆さんが来たと登希夫が祖母の朋子と母の佐知子に報告。翌日訪れた老夫人は貴夫が受難の際に応急処置をしてくれた人だった。貴夫を知っているという若い男が訪ねて来て、怪我の時の事を執拗に聞いたとの事。夫人は重要な事は伝えなかった。
老婦人から渡された相手の連絡先を見て貴夫は「やっぱり土屋かぁ」。
家族で憤る中、貴夫はいっそ霧原夏子と結婚しようかと持ち出す。それを言い出したのは夏子の方だった。戸惑う家族。
スタートのショッキングなエピソードの割りには案外淡々と貴夫の成長物語になっている。
ただ、料理ネタと旅行にかなりの部分が占められ、小説としての面白みにはやや欠けるか。
霧原夏子との絡みも至って淡白。貴夫自身、背負っているものに対してあまり深く考えていない。まあ達観しているという事なのか。
もう100回を超えて、そろそろ本題に入ってもらいたいものだ。
連載を始めるにあたっての記事から
--ある条件に置かれた人間はどのように成長するか、への考察--
今のところ背負ったものに対する「闇」も「深み」もあまり感じられない。
ふつーのグルメ小説、かな?
夏子との結婚から何かが変わるのか?ちょっと期待。