番組情報
http://www4.nhk.or.jp/P3452/x/2016-12-16/31/9872/1988019/
死んだ患者がいる。心拍はなく、呼吸もしていない。
心臓外科医ジョン・エレフテリアセスが行う手術。低体温にする事で細胞のダメージを回避する。
体温18℃。細胞の活性が止まる。生死判定で言えば「死」。手術出来る時間は45分。手術は7分の余裕を残して完了し、決められた手順で患者は蘇生された。この手術では死の定義が変わる。
死者のよみがえりは出来るのか。
ランス・ベッカー(ペンシルベニア大 蘇生科学センター)。蘇生のカギが細胞にあると見る。
冷たい場所での肉の保存の例。温度が決め手。
細胞は、調節遺伝子により指示を受けている。毎日500億の細胞が死んでいる。例えば心臓発作。傷付いた細胞は、それを周りの細胞にも伝える→次々死ぬ。
死のプログラムの引き金は何か。正常な細胞の酸素を遮断しても死なない→酸素を与えたとたんに死ぬ。
死のシグナルは冷却で抑えられる。
死のシグナルはどこから発せられるか。
全てはミトコンドリアに繋がっている。栄養、酸素を取り込み、エネルギーを取り出す。ミトコンドリアに硫化物、シアン化物、一酸化炭素を加える事でミトコンドリアのリセットが出来る→エネルギーの生産(死んだ人の蘇生につながる)。
ロバート・ランサ(生物工学の権威)。数々の動物のクローンを作って来た。
2001年、絶滅に瀕した牛、ガウルを誕生させた。ガウルの凍った細胞からDNAを取り出して牛の卵子に注入。
クローン作りに反対する者が居る。人類は数千年に亘って植物のクローンを作って来た(品種改良)。
人間のクローンが可能かどうかは不明。倫理的問題の前に卵子の確保が困難。
人間の場合、5個の卵子を取るのに1年以上かかる。
しかし、ある人間のクローンを作ったとしても、その人の完全なコピーにはならない。遺伝学的には同じでも、育つ環境によって全く別の人になる。
ランサは言う。死からのよみがえりは、新しい体を作るのではなく、元の細胞の修復の方がいいのかも知れない。
ドリス・テーラー(ミネソタ大)。命を吹き込む研究。旧い細胞から新しい臓器を作り出す。
建物建築がヒント(レンガが細胞)。細胞一つづつを組み合わせれば臓器を作り出せる。
テーラーは肝臓、肺、心臓を作ろうとしている。
細胞を全て取り除いた心臓の外形が示される。ここに細胞を注入すると正しい形になる→心臓は鼓動を始める。
本人の細胞を使えば拒絶反応は起きない。ブタの心臓の外形にヒトの細胞を入れて臓器を作ることも出来る。
脳の再生も可能か?→多くの困難がある。
脳は柔らかい組織のため、細胞を取り除くと原形を留めない。更に研究が必要→生きているのなら修復は可能。
死からの蘇えりで一番大切な事→心を移せるか。
デジタル技術で心の蘇えりが可能になる?
誰かのデータを一生分集めたら蘇えりが出来るのか。
ある学生。毎日の出来事をデジタル化。カサル・ガーリン(コンピューター科学者)が推進。1日3000枚の写真(人の記憶を補う)。
過去データ→自分の記憶と差がある。ライフログを取ることで過去の出来事を正確に知る。
今ではネット上にライフログを残す時代。
本研究では1年に100万枚の写真データを撮る→検索システムに負担。
データだけでは無意味。便利に使える事が重要。
人格は記憶や経験によって作られる→再現可能。その人が生き返った様な感覚を得るのも可能になる?
人の心は脳の複雑な活動から生み出される。
心の中身を脳から切り離すことは出来るか。
ケン・ヘイワース(神経科学者)。脳保存財団の代表。目的:死者の心を蘇らせる。
脳の神経回路→電車の線路の様なもの。長さはオモチャの数十億倍。情報伝達の分岐点はオモチャの何百兆倍。脳内神経回路、分岐点全体
→コネクトーム。
コネクトーム丸ごとのコピーが出来れば心の再生は可能。壊れたPCもハードディスクをコピーすればデータは生き続ける。
脳の神経回路に保存されたデジタルデータの保存、再生は人間でも可能。
人の脳を取り出して樹脂で固め、ダイヤモンドナイフで超微細の断片にする。それをイオンビームスキャナで読み取り、デジタルデータ化。これは既に実現している技術。
PC上で人を生き返らせる事が出来る。現在では人の脳の全解析に数百億ドルかかる→将来は数千ドルで可能になる。
ただし、PCのプログラムとして生きる事に耐えられるのか。死ぬよりひどい体験かも知れない。
心を蘇らせるだけでは不十分。触れたいという気持ち。
新たな体を作ることは可能→ロボット。
石黒浩(ロボット工学者)。生身に近いアンドロイドの研究・開発。目的は「人間とは何か」を理解する事。
人の心を宿したアンドロイド→死から蘇った人の姿か。
将来誰にもさよならを言わなくていい日が来るかも知れない。
生と死の境界があいまいになる。オリジナルか、人工の体かという違いが新たな境界となる。
感想
このシリーズもけっこう繰り返し再放送されているので「これ観たっけ?」と自信がない時がある。
ただ今回は初回の6/3を見逃し、再放送の8/5も見逃していた。
「不老不死」の概念と並んで「よみがえり」も人類の大きな願いの一つ。
支配者がこの世を去る時、必ず願うこと。
低温下の挙動で死の概念が変わる、というのはややこじつけめいているが、ある物質を加えることでミトコンドリアのリセットが出来るというのは非常に興味深い。
ちょっと脱線:ミトコンドリア・イブの話が面白い
脳内情報のデジタル化についても異論はないが、脳を樹脂で固めて断片にしてから読み取るという事には、どうしても違和感がある。分離する時、必ずその断面にはダメージがある筈であり、細胞レベルでそんな事をやれば極端な話、情報の半分はダメになる。
非破壊で何とかデータを吸い取る方法がない限り、その先はないと思う。
確かに蘇えった時、そこがPCだったら悲惨だろう。
人の心を宿したアンドロイドって、まんま「Ghost in the Shell」。ロボ・コップは生身の脳だったっけ。
いずれにせよ、こういう事が真剣に議論されるところまで技術が進歩して来たのが、果たして幸せなのかどうか。
ライフログ。まあこのBlogというヤツもそれに類するのかも。
生きた痕跡を残すことに重きを置くか、生き続ける事に重きを置くかでも、取り組み方が変わるのだろう。