長編「風立ちぬ」の後「もう終わった」と誰もが思っていた→終わっていなかった。
誰も知らない、宮﨑の2年間の記録。
2015年1月
かつての制作フロア。誰もいない。ジブリは制作部門を解散し、活動休止。
ジブリから歩いて3分の、宮﨑のアトリエ。
葬式とか多くてイヤだね、と言いながらコーヒーを淹れてくれる。
「世の中に合せて生きる気はない」 引退時、みんなを引っ張って行く気力がない、と言った宮﨑。今はジブリ博物館の展示物制作を行っている。
時々訪れる小鳥の「ヒヨ」へのエサやり。
宮﨑アニメがこだわったのは「手描き」。映画の鬼、と言われた。
後継者は育てたと言う。だが後継者を作るとその人の才能を食べちゃう。スタジオは人を食べて行く。
2015年3月
宮﨑の様子が少し変わって来た。CGをいくつか見せてもらった。やけに話す。若いCGアニメーターとの話。
ボロという毛虫の話。20年前からの企画。プロデューサーの鈴木は、CGで短編作ってみたら、と提案。
2015年5月
毛虫のボロの話をアニメーター達が試しに作ってみた。動きについて、毛は計算で動かしている(空気抵抗も計算に入れている)。うまく行きそうな気がして来た、と話す宮﨑。
「挑戦する」という言葉にムカムカすると言う。トボトボ行く。
今アニメがCGの時代。緻密で圧倒的な表現力。
ピクサーを率いる映画監督ジョン・セラターは友人。モンスターズ・インクでは230万本もの毛を1本単位で動かす。彼に恥ずかしいものは見せられない。
2015年6月
久々のスタジオ。キャラクターの動きの元になる絵コンテを描き始めた。この短編はジブリ美術館のみで上映される。
現在75歳。心臓にも持病を抱える。圧力鍋で煮ても黒い水が出るだけ(肩を揉まれながら)。残された時間をどう生きるか、ずっと考え続けている。
2015年8月
CGディレクターの櫻木らが合流して作業が本格化。細部はアニメーターに一任。動きを見て「新しいウィルスを作っている感じ」と喜ぶ宮﨑。
レイアウト描きを行う宮﨑。正確なイメージを伝えたい→これだけ掛かれたら無視出来ない(櫻木)。
「以前より元気、目力が違う。仕事って大事」とはスタッフのからかい
2015年10月
運転免許の高齢者講習からの帰り。同年代の人たち見て驚いた(みんなじじい)。
冒頭の、ボロが振り返るシーンが気に入らない。生まれたばかり、ボロの初々しさが全く表現されていない。
悲しい知らせが相次ぐ。この頃から「時間がない」を連発。僕より長生きする筈の人間が先に死ぬ。
CGが上がって来るが納得出来ず。作り直し。
あんなもんやるなら潰した方がいい。何十年積み重ねて来たものがパーになる。だがまだ血の雨は降っていない。
2015年12月7日
鈴木プロデューサーに声を掛ける宮﨑。このまま行くとダメ。面倒くさい。やめるかやるか。何度でもやり直させて、それでもやるのか、という話(鈴木)。
どうやってやったの?というものを作りたい。遂にコンピューターに触り、意図を伝えようとするが、手描きのようには行かず、思うようなカットが上がって来ない。
特に冒頭のシーン。どうすればいいのか。アイデアが浮かばない。なんでこんなにヤバいのか。
自分の神通力が通用しない、そこでの七転八倒(鈴木)。アニメーターも疲れて来た。
2015年12月18日
櫻木さんが病院へ行ったとの知らせ。ずっと体調不良、と宮﨑を脅すスタッフ(実は風邪で、翌日出て来た)。
30代、40代のような沸き立つような気持ちは持ちようがない。ただ、何か動かしている。
老監督の話。映画を作っている時が一番楽しい。ワンショットを観た瞬間「すばらしい!」。それが映画。
2015年12月24日
やっと判った、謎が、と宮﨑。生き物の気配がなさすぎる。夜の魚を置こう。ボロの周りに描き込む。
冒頭は呪われたカット。宿便のようなもの。
今までの宮﨑映画でも、これほど大胆に変えるのは初めて。やったけどダメだったねって言う方がマシ。魚は、魚って判っちゃうと面白くない。
短編作りは大きなヤマを越えた。
宮﨑が机に向かう時間がどんどん長くなった。
あるカットを手描きで細かく描いた。負けてたまるか。毛虫の大群が蠢くカット(CGに対抗するように)。驚くアニメーター。今作るんだったら、何を作るんだろう。
ある日、IT企業でCG開発をしている人からのプレゼンを受ける。人工知能による映像処理。頭をなくし、腕や足に頭部があるとみなした上での動作。人間が想像出来ない気持ち悪い動き。
宮﨑は言う。自分には身体障害者の友人が居る。ハイタッチも難しい。だからこの映像を面白いと思って見られない。
君たちの仕事に、生命に対する侮辱を感じる。どこへたどり着きたいのか。
人間が描くのと同じようにCGで作りたい(担当者のことば)。
ミーティングを終えて「地球最後の日が近い」(宮﨑)。
いつの日かアニメは人の手を離れるのかも知れない。
宮﨑さんは、これからどうしようと思っているのか。
2016年8月
鈴木にあるものを見せる宮﨑。「長編企画 覚書」。
「この映画を作る金を集めて欲しい」(宮﨑)
「絵コンテ描いて死ねば売れる」(鈴木)
長編を作りたい。女房にも言ってない。やらないよりは、やってる最中に死んだ方がマシ。
2016年10月
「ヤッチン死んじゃった」
保田道世。享年77歳。宮﨑アニメの色彩設計担当。「全くまいった・・・・」
長編の絵コンテを描き始める宮﨑「100(カット)切ったらやっていいかどうか判る。難しい」
長編が本当に動き出すかどうかは判らない。
生きることは映画を作ること。
感想
根っからのアニメ好きで今まで来ている。つい先日もTV放送の「紅の豚」を視聴。
もちろん「風立ちぬ」も観たが、もうこれで宮﨑アニメは見納め、と思っていた。
今回、CGで短編を作るという作業の中で、次第に「また作りたい」という思いが沸き上がって来たのだろうか。
観ていて強く印象付けられたのは、IT企業スタッフが作った動画の気持ち悪さ。コンピューターに「任せる」という行動の危うさをこういう形で実感するんだナー。
でも宮﨑さん、あと5年持たそうとしたら、タバコ止めなさい。黒い水出してるバヤイではない・・・・・
ただ、アイデアの源泉だって言い訳するんだろう。まあいいか。