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Channel: 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)
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新聞小説「マイストーリー」(7) 林 真理子

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作:林 真理子 挿絵:三溝美知子


暗闘する人たち(1) 247~278(1/10~2/11)


太田は新幹線で由貴の自宅に向かっていた。由貴にメールを打った後、今度は雨宮恭子からのメールが来た。
由貴がかつてAVに出ていた事は仲間うちで何となく知られていた。由貴は弱くて可哀そうな女性を演じることで、回りの男たちから援助を受ける図式が出来ていたというのだ。
また夫を看病することで自分が主役になれた。
亡くなった高橋の主治医だった小池医師も由貴と関係があったと恭子は続けた。
衝撃を受ける太田。裏切られたという思い。だがなぜこの様な怒りが湧くのか。


続けて同僚の浦田絵里からのメール。太田が由貴に会いに行く事を伝えた時の、辺見の様子を伝えていた。「あの古いマンション」という言葉に、辺見が由貴の自宅で会っているのではと推定した。更に、由貴と会うなら二人きりは避ける様にとの助言。
皆が自分を混乱させようとしている、と怒りを抱く太田。


太田は駅に着くと、由貴の住所にタクシーを走らせた。彼女の住まいは辺見が言った通り古いマンションだった。

オートロックになっており、その部屋番号を押すとインターフォンから「はーい」という由貴の声。ロックが外された。
玄関ドアを開け、そのまま家に入るとソファに由貴が座っていた。
無事でよかったと太田が言うのに対し、あれくらいの事で私は死んだりしません、と返す由貴。
AVに出ていた事を改めて聞くと、それを認める由貴。どうして話してくれなかったのかと責める太田。
由貴は相談したい事があると何度かメールしたと言うが、太田に記憶がなかった。その程度の相手だったのに何故今自分を責めるのかと問い返す由貴。
どうして貴女はそんなに愚かなんですか、と唐突に言ってしまう太田。
でも、私に惹かれているでしょう、と言う由貴に沈黙する太田。亡くなった高橋も、いつも由貴を馬鹿だと言って怒っていたと言う。


由貴が突然セーターを脱ぎ始めた。白いセーターの裾を両手で持ち上げ、そこで止めた。太田は由貴のブラジャー姿をまともに見た。




ブラジャーの谷間のところにこげ茶色の跡が四つ均等の間隔で付けられていた。由貴はセーターから頭を抜いた。高橋が、火の付いた煙草を押し付けたのだと言う。
高橋は、由貴の腕を折ったこともあると言った。外から見えるところには傷を付けない様にするのだと。
高橋が癌になった時、とても嬉しかった。入院して彼は何も出来ず、自分を頼って許しを乞うた。
看病をする間、由貴はいい妻で居られた。だから高橋が死んだ時は本当に悲しかった。
太田はたまりかねて、また由貴を責める言葉を続けた。涙をこぼして嘆く由貴。
どうしてそんなに愚かなんだと繰り返す太田に由貴も、でも私に惹かれているんでしょう、と同じ答えを口にする。そして頷く太田。


由貴が太田の顔に指を伸ばした。
唇は太田の方から求めて行った。ブラジャーを引き下げ、由貴を押し倒す。スカートを脱がせるのももどかしかったが、由貴はその作業に協力していた。
次に太田が覆いかぶさった時、由貴が彼の手に避妊具を握らせた。いつの間に・・・とは思ったが、昂まりの中でそれを装着し、由貴の中へ入って行った。


由貴の家を出て東京に戻った太田。出社したトイレの中で、由貴とのメールのやりとりに震えるほどの喜びを感じていた。
辺見と社長に会うのに、絶対気付かれてはならない。由貴は社にとって大切な商品だった。


朝のミーティングで会議室に入ると、社長と辺見が居た。昨日放映の視聴率が回復しているという。ネットで叩かれたが、却って話題になった結果の様だ。
太田は辺見に彼が六日前、由貴の家を訪ねていた事を問い質した。前の会社の知り合いから情報を掴んでいたらしいが、ユアーズ社に話す前にミズホテレビへ連絡を入れた事を太田は咎めた。必死に言い訳をする辺見。大方のところは話を聞いたプロデューサーの江口が視聴率アップのため、ネットにリークしたのだろう。
太田は、辺見の行動を厳しく責め、社長もそれに同調。辺見は悔しそうに二人の前で謝罪した。


会議の後、浦田絵里からメールがあり、近くのカフェで待ち合わせた。先の会議の事だった。
絵里は女の勘で、由貴の様な女は気をつけた方がいいと忠告した。関係を持ってしまった太田は苦しい思いでそれを聞いた。


土曜の午後、太田は再び由貴のマンションを訪れた。由貴はビーフシチューを作って待っていた。
そんな由貴に激しく接吻し、キッチンの床で前戯もないまま交わった太田は、すぐに果ててしまった。

そんな事をしている間にシチューが焦げてしまい、由貴はのろのろと立ち上がる。内股から流れる液体を見て目をそらす太田。今回は避妊具を付ける暇がなかった。「大変なことをしてしまった」という実感。
二人で焦げ臭いシチュー、ビールで食事をし、並んでTVを観る。
ちょっと中座した由貴が「もうお風呂OK」と告げた。由貴との日常がこんなに早く用意され、太田は声が出なかった。


感想
由貴のAV女優だった過去過去が暴かれた。だが、さぞかしショックを受けているだろうと思っていた当の由貴にはそれほどのダメージではなかった。
この辺が女の強さという事か。特に深い計算はないものの、与えられた状況の中でうまく切り抜けて行く。それは男性関係においても同じ。


それにしても、今までの太田のイメージは常識的、冷静といったものだったが、女一人のマンションに上り込んで、関係を持ってしまうとは・・・・。
由貴が絶妙のタイミングで胸のヤケド痕を見せたテクニックが光る。由貴は元々そういう関係になる事を予想していた。


利用するつもりなのかどうかは今後の展開によるが、そこそこ可愛い女が、その気になってアタックをかけたら、男なんてイチコロ。


恐るべき教訓に満ちたドラマ展開だな。


注)「暗闘する人たち」の章でまとめようと思ったが、2ケ月近く続いているので、ここで一旦一区切りとした



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