作:林 真理子 挿絵:三溝美知子
暗闘する人たち(2) 279~301(2/12~3/6)
日曜に帰るつもりが、由貴に懇願されて月曜の朝に帰る太田。
三月に入ってドラマ「愛のすべて」は9~10%の間を上下していた。単行本の方は35万部を超えたが、社の者はもっと売れると考えていた。
来週、ドラマの最終回の後の打上げ会について辺見と社長の会話。当然の様に太田の出席を告げる社長に、太田は「遠慮したい」と言った。
その打上げパーティーについては由貴から聞いていた。なおも社長は強く出席を勧める。その話の流れで辺見が、由貴の芸能事務所入りについて話す。驚く太田。
ミーティング終了の後、太田は急いで由貴に電話を掛け、芸能事務所の件について問い質した。肯定する由貴。
それはいけない、バカげている、と否定する太田。由貴の話では、江口プロデューサーがオオシロ・プロに彼女を紹介したのだった。
あの連中はちょっと話題になった君をただ利用したいだけなんだと諭す太田に、それでもいいのだと返す由貴。そんなやりとりの後、太田は今夜由貴に会いに行くと告げた。不承不承に承知する由貴。
席に戻った太田に浦田絵里が声を掛けた。顔色が悪いと言う。急用が出来たので今日の出張の肩代わりを絵里に頼んだが、絵里が「高橋由貴さんのところへ行くんですか?」と冷たく笑った。
こういう事はすぐにバレると言う。月曜の朝、太田が新幹線に乗るのを見た人がいた。先ほども、由貴の話が出たとたんスマホを持ってどこかに消えたのがバレバレだと。辺見も気付いているのではないかと絵里は言った。
由貴の家に行った太田。電話での話について説明を求める。江口にもう一度女優をやってみないかと言われ、大城の事務所を紹介されたという。
騙されている、乗せられていると言い張る太田との食い違い。
女優で食べて行ける筈がないという太田に、印税もあるから何とかなると言う由貴。その金は「風シネマ」の再開に使うのではなかったかと責める太田。
「私は何も約束なんかしていない」と叫ぶ由貴。由貴にとっての印税収入は意外なほど少なかったという。
使い捨てにされるという太田に「それでもいい」と切り返す由貴。
太田は由貴の胸ぐらをつかんで、小池医師と寝たこと、今度はその大城プロの社長と寝るのかと責める。
「高橋と同じね」ぞっとするほど冷たい声の由貴。あなたも最低ね、と言われて太田は相手に怒る理由を与えてしまった事に後悔した。
「帰ってください」由貴は決定的な言葉を口にした。もう顔も見たくないという由貴の態度に太田はうろたえた。これほど早く結論を出されるとは思っていなかった。
ちゃんと話そうと取り繕う太田に対して由貴は、これ以上話しても無駄と切り捨てる。
なおも、君を愛しているとすがる太田に、しつこい事を言うとユアーズ社にも言うと警告する由貴。
東京に戻っても太田は希望を捨てず、由貴にメールを打ったが、返信はなかった。
思い切って電話をかけてみたが、不通通知のメッセージが出るばかりだった。会社パソコンからのメールにも返信はない。
途方にくれる太田。自分としては由貴のためを思うからこそあえて苦い言葉を言ったのに、ばっさりと切っていいものか。
何が由貴の心に変化をもたらしたかが知りたかった。
ドラマは最終回を前にして視聴率が11%に浮上し、辺見は上機嫌だった。ネットでも評価が高まっている。
太田は更に由貴へ「僕たちはまだちゃんと終わっていない」とメールを打った。それに対する「ちゃんと終わっています」の返信。
太田は再度由貴の家に行く決心をしていた。午後6時を待って新幹線に向かっている時に、高木からのメールを受ける。今夜ドラマの打上げがあるとの事だった。その手があったと思いなおし、打ち上げの場所へ向かう太田。
絵里にメールを入れ、打上げの場所を聞く。止めた方がいいという絵里だが、太田の勢いに押されて「ジュピター」というレストラン名を教える。
タクシーで店に乗りつけ、受付嬢の制止も構わず中に入る。マイクの前で男がスピーチをしていた。
座って隣の男と話をしていた由貴の前に立ち、その間に割り込んだ太田。時間を作ってくれと言う太田に対し、冷たくあしらう由貴。
なおも太田が由貴の肩を掴む。「やめてください」という言葉に隣の男が立ち上がる。男に肩を掴まれ、払いのけた拍子に男の眼鏡が飛び、太田は羽交い絞めにされた。
退職した太田に浦田絵里からのメール。
その後郷里に帰ったと聞いていた。社長と辺見の言った「真面目な人間ほど女でおかしくなる」との話を聞いて悔しい思いをしていた。あの女には気をつけろと言っていたのに、と繰り返す。
絵里の話す離婚の理由。夫はカメラマンで、ある時女にはまって夢中になり、DVが始まったという。その女が由貴に似ていたという。
ずっと夫を恨んで来たが、今回の事で、夫も太田もその女に逢っている時は人生の真ん中にいたんだろうと言う。
恋愛している最中は、誰でも目一杯生きて主役になる。
感想
すごい展開にビックリ!。
クライアントと寝ちゃうリスクもそうだが、その由貴が女優になりたいと言って、どうしてそこまで入れ込んでしまうのか。
女っていうのは皮膚感覚で恋愛をするのに対し、男は観念で考える。
由貴の心が冷めたというのは理屈ではなくて感覚。死んだ夫の苦しい思い出とシンクロして突然嫌われたという事実が受け入れられず、破滅まで行ってしまった太田。
ここまではいいだろうと思って言った一言が取り返しのつかない事になり、修復するのに数年掛かった事が実生活でもあったので、この太田には本当に気持ちが入ってしまった。
だがその後どうして自分がクビになるところまで踏み込んでしまったのか。女の気持ちが離れてしまったのなら潔く諦めるというのが賢いやり方だったのだが、過去の離婚を引きずっていたのかも。
太田の妻は旅行会社の添乗員をやっていて、客と深い仲になり離婚になってしまった。
肉体の繋がりを信じすぎたのは、長い独り身の生活が感覚を狂わせたのかも知れない。