感想
クルマの世界総販売台数でトヨタとしのぎを削っているフォルクスワーゲン。CEO交替と共に、エネルギー政策に注目が集まる。
全世界が電動化に走る中で「eフューエル」への投資(記事2)
少しうさんくさい感じもするが、移動手段の電動化がそう短期に完了するとは思えず(航空機への課題もある)ちょっと期待。
ただ、合成に必要な水素を作るにも電気が必要であり、結局電力利用の一形態という事か。
でもワタシはEV車には乗りたくない・・・・
記事1 例によって転載ご容赦
エンジンを捨てないVW 脱炭素の解、複数要るか
日本経済新聞 2022年8月19日
独フォルクスワーゲン(VW)のトップが9月に交代する。電気自動車(EV)戦略を強力に進めた現最高経営責任者(CEO)の更迭という見方が多い。
門外漢として社内改革を推進
「歴代経営者はみな高圧的、独善的だった。なぜ彼だけが、振る舞いが不愉快だというだけで辞めさせられるのか」。2015年に起きた同社の排ガスデータ偽装事件、通称ディーゼルゲート。
それを追ったルポ「フォルクスワーゲンの闇」の著者、ジャック・ユーイング氏(米ニューヨーク・タイムズ記者)は電子メールで今回の人事にこう感想をくれた。
CEOのヘルベルト・ディース氏は独BMWの出身だ。7年前、まさにディーゼルゲートの火中に栗を拾い、VWに移籍。門外漢としての「しがらみのなさ」を強みに社内改革を進めてきた。
米テスラの経営を信奉し、エンジンを一掃せんがばかりの急進的なものだった。21年には同社の「雇用の1割が余剰になる」とするメールが外部に漏れ、経営に影響力を持つ労働組合の反発を買う。
合成燃料で内燃機関守れるか
結局、これがあだになった。労使の関係悪化に対して、混乱の長期化を恐れた2つの創業家株主は労組の求めるディース氏の更迭に同意を余儀なくされた。
「振り子の現象」(または「振り子の等時性」)。
今回、誰もが感じたのは、16世紀にガリレオ・ガリレイが発見したというこの法則のような事態ではないか。
ぶら下がる物体は両端を行ったり来たりし、その往復にかかる時間は糸(弦)が長いほど、長いものになる――。
糸の長さを目標の難易度と考えるなら、伝統的な自動車会社のEV化と脱エンジン化という「長い」課題は、「行ったり来たりの繰り返しも長くなる」可能性を示していそうだ。
VWには今後どんな振り子の動きがあるか。新CEOのオリバー・ブルーメ氏はVWの生え抜きで、今は子会社ポルシェのCEOだ。「30年に世界で50%以上をEVに」との従来目標は「約束する」と強調する一方で、注目されるのは「eフューエル」と呼ばれる、空気と水(正確には空気中の二酸化炭素=CO2=と、水を電気分解した水素)でつくる合成燃料の製造事業に同氏がポルシェでめどをつけたことだ。
ガソリンとディーゼル、どちらのエンジンでもそのまま使え、燃焼中にCO2を出すことはない。つまり、「内燃機関は捨てなくていい」「雇用も守れる」との論法が成り立つ。
3年前に独シーメンスのグループ企業やチリ政府と着手した「ハル・オニ」という構想が事業の主体だ。20年代半ばに大量生産を始め、欧州連合(EU)域内の一般車両やフォーミュラワン(F1)レースに供給するという。
新燃料の評価は二分
では、VWは内燃機関の車に本格的に回帰するのか、といえば容易ではないはずだ。EUは21年に規制案を発表し、エンジンの付いた新車を35年以降、売ることを禁止するとしている。
eフューエルを燃やす内燃機関も現状ではこの枠内に入る可能性が高い。
そんな中、ハル・オニへの財政支援とEUへの働きかけを求め、独政府にロビー活動をしていたことが発覚したのが、ブルーメ氏だ。メディアからは「EUの決定と逆行する」と指摘され、「ディーゼルゲートならぬポルシェゲートだ」とまで言われた。
独政府はすでにハル・オニへの支援を決め、EUへの働きかけもしていく方向だという。ブルーメ氏の思惑通り、今後は新燃料に関する検証と議論が欧州で進む可能性がある。
だが論点は多い。同燃料には不明な点が多く、燃焼時にCO2を出さないとするが、製造に使う水素の由来次第で話が変わる。コストもそうだ。巨大なプラントをゼロからつくり、欧州まで運ぶ。
それで従来の車やEVより競争力と経済合理性を保てるかどうか。
いずれにしても、注目されるのは欧州がこの議論を「揺り戻し」とみなすか、まだ技術的に発展途上にある「EVを補完する存在」と考えるかだ。議論は二つに割れる可能性が高い。
早期の脱エンジン化は再生エネルギー大国の英国や北欧が支持し、自動車産業が大きいドイツ、フランス、イタリアは雇用問題を抱えていてeフューエルに関心が強い。
経済安保など議論尽くせ
世界はEVに舵(かじ)を切っており「今さら合成燃料か」との議論もある。だが、EVが本当に世界を100%覆い尽くすだけの技術と経済合理性を持ちうるかどうかとの問題はなおくすぶる。
疑問が残るなら、他の選択肢も広く知る必要はあるのかもしれない。
そう考えれば日本にも教訓はある。日本は50年の脱炭素化を、EVの普及を軸にめざす方向だが、日本の電力は例えば火力発電に7割超を依存し、製造時や充電時にCO2を排出しやすい。
ホンダ元副社長の入交昭一郎氏(セガ元社長)が最近、独立した立場で、日本でのeフューエル製造拠点の建設を各界に呼びかけている。
プロジェクトの規模は2兆円程度と試算するが、EVを補完する役目のほか、国内に燃料製造拠点を置くことは「経済安全保障にもかなう」と入交氏は話す。
もちろん遠大な話であり、実現には技術や資金に加え、政府関与の是非も話し合う必要がある。だが、選択肢を複数議論することは悪いことではない。日本の場合は「揺り戻し」の前に、「まだ尽くされていない議論が多すぎる」ということかもしれない。
記事2
ポルシェ、合成燃料「e-Fuel」の生産プロジェクトに7500万ドルを投資 日経xTECH 2022.04.11
ドイツPorsche(ポルシェ)は2022年4月6日、合成燃料(e-Fuel)メーカーのチリHIF Global(HIFグローバル)に7500万ドル(約93億円、1ドル=124円換算)を投資すると発表した。
e-Fuelは、火力発電所などで排出されるCO2(二酸化炭素)と、再生可能エネルギーを使って生産したH2(水素)を合成して製造する燃料。カーボンニュートラルな燃料として利用でき、「人工的な原油」とも呼ばれる。今回の調達資金は、再生可能エネルギーが豊富なチリ、米国、オーストラリアで、産業用e-Fuel生産拠点の開発に充てられる。
HIFグローバルは、チリのプンタ・アレーナスにe-Fuelのパイロット生産工場「Haru Oni」を建設中である。
この工場は22年中ごろから稼働を始める予定。Haru Oniプロジェクトは、ポルシェが主導して、ドイツiemens Energy(シーメンス・エナジー)や米ExxonMobil(エクソンモービル)などと共同で実施しており、風力発電の電力を利用してe-Fuelを製造する。e-Fuelをエンジン車で使うと、走行中のCO2排出はカーボンニュートラルになる。
合成燃料は、気候変動対策に貢献できる液体燃料として、自動車だけでなく航空機や船舶などの交通部門でも期待されている。
また、e-Fuel生産時に中間生成物として得られるe-メタノールは、化学業界で使われる化石由来の原料を代替できる。
ポルシェは持続可能性戦略の1つとして、研究施設やレーストラックでe-Fuelの試験を進めている。
チリ産のe-Fuelは、おもにモータースポーツで使用する計画だ。