シリーズ 三体
登場人物
葉文潔 (イエ・ウェンジェ)
羅輯 (ルオ・ジー)
史強 (シー・チアン)
史暁明 (シー・シアオミン)
ケント
荘顔 (ジュアン・イエン)
セイ
ガラーニン
フレデリック・タイラー
マニュエル・レイ・ディアス
ビル・ハインズ
山杉恵子 (やますぎ・けいこ)
章北海 (ジャン・ベイハイ)
呉岳 (ウー・ユエ)
常偉思 (チャン・ウェイスー)
張援朝 (ジャン・ユエンチャオ)
楊晋文 (ヤン・ジンウェン)
苗福全 (ミアオ・フーチュエン)
丁儀 (ディン・イー)
智子 (ソフォン)
ETO:地球三体協会(Earth Trisolaris Organization)
PDC:国連惑星防衛理事会(Planetary Defense Council)
超あらすじ
三体(一作目)
地球(中国軍)から宇宙に向けて友好のための電波が発信されたが、それを受けた三体文明が宇宙艦隊を繰り出して侵攻に向かった。
それに先駆け「智子」という攪乱分子が地球を混乱させる。
艦隊が到着するのは四百五十年後。
プロローグ
羅輯は、同級生だった楊冬の墓参りでその母 葉文潔に会い、宇宙社会学について示唆を受ける。
三体協会幹部マイク・エヴァンズは亡くなる前、三体世界からの通信を受け取っていた。彼らはエヴァンズの後継として破壁人二号を選んだ。
第一部 面壁者
危機紀元3年。羅輯は宇宙社会学をかじった程度の学者。知り合って間もない女と別れた時、事故に遭うが辛くも逃れる。女は死んだ。
史強に身柄を拘束された羅輯は、わけも分からぬまま国連の議場に引き出され、国連惑星防衛理事会が指名する四名の面壁者の一人に任命されてしまった。
人間の思考を読むことが出来ない智子に反撃するための「面壁計画」を遂行する「面壁者」には、絶大なリソース運用が約束される。
他の三人が各自のアプローチで計画を進める中、羅輯は自分が夢見た最上の場所を探させてそこに住み、過去空想の中で理想化した女性を史強に探し出させて一緒に住んだ。
それを計画の一部だとうそぶく羅輯。
海軍から宇宙軍に組み入れられた章北海。
強固な意思で三体世界との対決に燃える。
第二部 呪文
危機紀元8年。面壁者の一人タイラーが、自身の計画である、一千機の核搭載機群攻撃の意図を破壁人に暴かれ、失意のうちに自殺した。
面壁者レイ・ディアスは核兵器の超巨大化、また面壁者ハインズは脳とコンピュータ協調による機能拡大を目指すが、計画が短期で収まらないため、冬眠により次世代に駒を進める事にした。
羅輯が面壁者として何も為さない事を妻の荘顔が悟り、娘と共に去った。羅輯は安楽な場所を引き払い、新たなタスクに動き出した。
それは、三体世界よりやや遠くに設定した恒星群の位置情報発信。
だがそれを送る中で三体協会から命を狙われる。
体にダメージを受ける中、冬眠して次世代に向かう羅輯。
危機紀元12年。恒星間航行の技術進展に固執する章北海は、その障害となる科学者三名を暗殺。そして北海も冬眠に入った。
感想
三体艦隊の侵攻に先駆けて、攪乱目的で送り込まれた陽子サイズのコンピューター「智子」が監視しているのが前提の地球社会。
この「面壁計画」がビミョー。智子が人の心を読めないからという事を逆手にとっての作戦だが、今のところ勝てる気がしない・・・
しかしタイラーの特攻作戦に、日本人を利用しようとする件にはまいった。要するに作者がそう考えているということか。
面壁者権限を利用して安穏に暮らす羅輯は、妻にも愛想をつかされるが、逆転を狙う「呪文」を仕掛けた。まだ意図は不明。
キーマンとして宇宙軍の先鋭分子 章北海の活動が織り込まれる。
他の面壁者と共に章北海も冬眠に入り、舞台は次の世代へ。
しかしこの作家、やたらと核を使いたがる。手っ取り早く高エネルギーを取り出せるからだとは思うけど(そらー、鉄腕アトムも核だけどさぁ)
あらすじ
(章題が一切ないので、ガイドとして適宜ページを記載)
プロローグ
葉先生、と声をかける羅輯は、葉文潔の亡き娘 楊冬の、高校の同級生だった。今は大学で社会学を教えている。今日は楊冬の墓まいり。
宇宙社会学の勉強を推奨する文潔。
宇宙に散らばる膨大な文明が集まった「超社会」を研究する・・・
宇宙社会学の公理その一:生存は文明の第一欲求。その二:文明は絶えず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量は常に一定。
そして重要な概念。猜疑連鎖と、技術爆発。
興味を惹かれた羅輯に暇を告げる文潔は、彼女にとって最後の集会に向かった。P16
それより数刻前、マイク・エヴァンズは「ジャッジメント・デイ」の船首
で、智子が網膜に映し出す文字列により「あの世界」との二十二回目のリアルタイム対話を開始した。
コミュニケーションに対する齟齬の確認。同義語、類義語の確認。
彼らにコミュニケーション器官はなく、思考を外界に表示して行う。
彼らは思考を隠すことが出来ない。陰謀、偽装に対する質問。
「私はおまえたちが怖い」が三体世界からの最後の情報だった。P22
第一部 面壁者
危機紀元3年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと4.21光年
建造中の航空母艦<唐>の艦長 呉岳と政治委員の章北海に緊急命令がくだり、参謀本部へ出頭。P28
アラスカ州フォート・グリーリー基地。迎撃ミサイルが発射された。国際
宇宙ステーションの反射フィルム誤認識によるもの。
防衛システムの唯一の目的は、智子の低次元展開阻止。だがもし現れればその面積はすさまじく広い。P32
40年勤めた化学工場を昨日退職した張援朝。このマンションに引っ越して約一年。隣人は退職した元中学教師の楊晋文。
退職早々暗い張援朝。四百年後、人類が滅びる話も気になる。
テレビの定時ニュースで、米本土ミサイル防衛システムが低次元展開する智子破壊の演習に成功したとの報道。
もう一人の住人 苗福全の来訪。石炭王で愛人も囲っている。P38
地下室で死のうとしていた破壁人二号の視界に、智子のテキスト文字が現れる。それは以前エヴァンズと話していた三体人。
彼の死により送った文書が開かれないまま。
パスワードを教えてもらい文書を開く破壁人二号。
三体人は「聖書」「三国志演義」等を通じ地球人の理解に努めていた。
智子は人類世界を全て透明に出来るが、思考を見ることが出来ない。
人類が行おうとしている「面壁計画」を既に彼らは知っており、それに対抗するため破壁人二号を後継として指令を与えた。P44
インターネットの片隅の、そのまた片隅で復活した仮想世界。
ピラミッドも、国連ビルも振り子もない。周の文王がさまよう。P45
陸・海・空軍の将校三十名が中国宇宙軍メンバーとして集められた。
招集したのは常偉思少将。その中にいる章北海と呉岳。
宇宙軍建設の困難さが語られる。基礎研究に五十年、航宙技術実用化に百年、宇宙艦隊編成に更に一世紀半。P48
いつもの様に張援朝、楊晋文を夕食に招く苗福全は、銀行がとりつけ騒ぎで少額しか引き出せなかった。四百年後の地球防衛で混乱。
「逃亡主義」に関するニュース。恒星間宇宙船で滅亡を逃れるもの。
選択肢は三つ。1、新惑星 2、宇宙船内で文明維持 3、一時的避難(後に三体人との共存) だが技術公有化が失敗し頓挫。
苗福全が逃亡ファンドについて話す。あの史強の息子、史暁明が扱っているという。金で未来を買う話に他の二人は怒って部屋を出た。P54
三体人のメッセージを受ける破壁人二号。ETOの次の使命は人類の脱出計画阻止又は遅延。現状技術でも船が建造出来る事に危惧する三体人に心配不要と言う破壁人二号。
誰が行き、誰が残るかの落とし穴から逃れられない人類。P55
張援朝に逃亡ファンドの説明をする史暁明。脱出船団が出発出来るのは百二十年後。一般向けに売り出されたら急騰します・・・P59
再び三体世界にログインした周の文王。そこにニュートンが現れた。
世界的な協会への攻撃で救済派は潰滅。
生存派は独立し、残っているのは降臨派だけ。
次回同志が集まる事を期待して散開する二人。P61
羅輯はベッドで、シャワーを終えて服を着る女を見ていた。だらしない恰好に「それでも学者?」と言われ「宇宙社会学者」と返す。
レストランで食事を摂る間にも、終末に対する客の話が耳に入る。
食事の後彼女と別れた。
どんな女も会って一週間でこんな関係になる。
別れもスムーズ。またどこかで会うかも、との言葉は杞憂に終わった。
別れ際に足を取られて倒れた時、目の前で二台の車の事故が起きて彼女が巻き込まれ、宙に舞った。転んだおかげで無傷だった羅輯。P68
息子の嫁の出産に立ち会う張援朝。そこを訪れた苗福全が廊下に導く。張援朝が逃亡ファンドを買った噂を聞いていた。
政府が逃亡ファンドが違法だと可決したニュース。彼はすぐさま携帯で史暁明に連絡を入れるが繋がらない。
四十万元(約700万)をドブに捨てた。P70
地下十階ほども降りた小部屋に閉じ込められた羅輯。多分逮捕された。ドアが開き、逞しい中年男が入って来る。史強と名乗る元警察官。
「あれは事故だった。轢かれた彼女は会って一週間だけの女」
何も言っていないぞ、と史強。
意図が分からない中弁護士を呼んでくれと言った羅輯に、あんたの力になるために来たと言う史強。若い男が来て今すぐ出発すると言った。
父親の病室を見舞う章北海。死期が近づいているとは思えない。
宇宙軍に入った事を報告。何も言わない父。
この様な父の沈黙が彼を造り出した。
ぼくはどうすればいい?一睡もせずに考え続けた質問。
まず最初に、しっかり長く考えろ、という言葉を繰り返す父。P77
羅輯は若者から渡されたジャケットを着た。彼らが着ているものと同じで防弾衣だという。その後車両に乗せられる。一緒に乗り込む史強。隊員が史強の身を案じた(歯茎からの出血)
飛行場に着き、待機の飛行機に乗せられる羅輯。史強も同行。P83
建造中の<唐>を再び眺める呉岳と章北海。宇宙軍に対する呉岳の不満を感じ取る章北海。過去、弱小な装備で強い相手に勝った戦いは数多くある。俺には勝つ自信がある、と言う章北海。P85
機内での夕食後、史強に話す羅輯。死んだ彼女と、この立場との関係が結びつかない。人の騙し方を教えてやろうと言う史強。
気を付けるべきは目立たないこと。壁の隅のホウキの様に。
相手を潰す最後の瞬間まで存在を気付かれないようにしろ。
羅輯が、今まで会った者の中で最も冷静だと言う史強。P92
宇宙軍の作戦会議で発言する章北海。部隊の政治思想工作が最も遅れている事に対する危惧。その意見に対し同感する常偉思。
工作報告を続ける章北海。部隊内の敗北主義の分析。
その一、宇宙軍の使命を一般職と同等に考える
その二、待ちの姿勢。事務的な工作に留まり革新性欠如
その三、空想に走る。冬眠技術で決戦の場へジャンプする
その四、軍人の尊厳に対する懐疑。宇宙軍の価値否定であり危険
そこで場の倦怠感を一変させる発言。敗北主義の典型として呉岳大佐を名指し。それを事実だと認める呉岳に場が混乱。P96
飛行機の中で、亡くなった彼女の事を思い出す羅輯。
この一件が彼女と無関係だと知って感じる自己嫌悪。
他人を気にかけた事がない羅輯の心に、一人だけ棲み付いた人。
五年前のこと。白蓉は多少名の売れた思春期小説作家。ごく普通の男女関係だったが相性は良く、結婚を試す気もあった。
そんな時、小説中の人物の実在性に疑問を持った羅輯に「私のために小説を書いて」と頼んだ白蓉。
小説の中の女性に思いを馳せる羅輯。母の乳を飲む姿、教室で取り残された姿・・・そんなエピソードが重なった時、図書館で本を読んでいた彼女がこちらを見て微笑んだ。
その翌日から彼女が実生活に入りこんだ。
寒い外から戻って共に暖炉にあたる。
実際の白蓉よりも心の中の女性に惹かれるようになった。
ある日、彼女と車でドライブに行った。だが途中で車が故障。
修理のトラックが来るまで彼女と焚火をして過ごす。
そして携帯電話が鳴った。白蓉からだった。「彼女と一緒なの?」
「いや・・・」本当に一人だった。「でも、あなたは彼女と一緒にいる」
そして白蓉とは別れた。
精神科にも通ったが、時間が経てば影響は小さくなるとの診断。
愛することができる相手がいるのは幸運・・・・
この不吉なフライトの中で、彼女を求めた。
その後知らぬ間に眠りについた羅輯。P116
六時間も寝た後、史強に起こされた羅輯。専用機は着陸した。
案内の西洋人をケントさんだと紹介する史強。到着した建物の前に浮かび上がる巨大なリボルバー。ニューヨークの国連本部ビルだった。
通された部屋は、国連本部で瞑想室と呼ばれていた。そして合図を受けてケントが「入りましょう」と促した。国連総会議場に入る羅輯。
人々ががやがやと話す中、ケントに促されて座る。
議場が静かになり、華奢な体のセイ国連事務総長が説明を始めた。
今回議題は最終的に選定された「面壁者(ウォールフェイサー)」の氏名発表と「面壁計画」の開始宣言。
多くの智子が侵入しており、人類社会はもうどんな秘密も筒抜け。
三体人が行うダイレクトコミュニケート。そのため彼らは陰謀、偽装、欺
瞞の能力が著しく低く、これが人類のアドバンテージとなる。
智子は文献、電子メディアを読むことは出来るが、人間の心の中は読めない。面壁計画の核心は、面壁者の頭だけで計画を練ること。
面壁者が欺くのは敵味方含めた全世界。そして戦略意図の先延ばし。
全ての面壁者は冬眠技術を利用して「終末決戦」まで時を超える。
これより国連惑星防衛理事会(PDC)が四名の面壁者を発表する。
一人目はフレデリック・タイラー。元米国国防長官。「技術の真相」を上
梓。小国勃興提唱者で対テロ戦争理論に大きく貢献した戦略理論家。
二人目はマニュエル・レイ・ディアス。現職のベネズエラ大統領。タイラ
ーの理論を実践し、アメリカの侵攻を挫き撤退させた。
三人目はビル・ハインズ。妻の山杉恵子と脳科学研究を行う一方、欧州委員会委員長を勤めた。科学と政治分野を繋ぐ逸材。
そして四人目。羅輯は様々に著名な者の名をイメージしていた。
セイが指さした人物は---
「四人目の面壁者は、羅輯です」P129
ロケットが打上げられる光景。ハッブルⅡ宇宙望遠鏡の最後のパーツが運ばれる。初代の観察能力の五十倍。軍に徴用された。その目的は近づきつつある三体艦隊を観察するため。
それは米西海岸から東シナ海の電気スタンドを回る、蚊の足に付いたバクテリアを探す様なもの。P133
促されて演壇に立った羅輯。その後の会議の記憶がない。茫然とするうちに会議は終わった。関係者が皆去ってセイ事務総長と対峙する。
何かのまちがいでは?との問いには「あなた自身で見つけてください」その後のやりとりの後「面壁者の地位を拒否する」と言って立ち去った羅輯。想定されていた様に「どうぞ」との返事。
議場を出て外に出ようとした時、史強の「警護は要るか?」の問い。
要らないと言って国連本部ビルを出て歩き始めたが、突然胸に衝撃を受けて倒れる。史強が重ねて言う「警護が要るか?」に頷くと事態が急変。担架に乗せられ救急車で病院に運ばれた。
防弾衣のおかげで助かったが、肋骨が一本折れたとの事。
捕まった犯人に会ったが収穫はなかった。
ケントに頼んで事務総長に面会した羅輯は、改めて辞意を繰り返すが、微笑で返すセイ。それを理解した羅輯。
どうして選ばれたんです?の問いに、あなたを選んだのは史上最大の冒険だったと言う彼女。
そして今後の実務はPDC議長が対応すると言った。
面会を終え、あの瞑想室に一人だけで入った羅輯。P148
瞑想室の大理石に横たわり、いくらか落ち着きを取り戻した。
そして自分が得た権力に注意を向けた。リソースの使用目的は一切問われない。こんな仕事はいまだかつてない。
瞑想室を出てPDC(惑星防衛理事会)の議長ガラーニンに面会した羅輯。そこで紙と筆記用具を使い、自分の夢の中に出て来る最上の場所をイメージしたスケッチを始めた。雪山の前に湖、広大な森林と草原。そこに建つ自然と調和した家と、快適に暮らせる設備。
自分が住み、余生を安らかに過ごすと言った。
ただちに実行すると言う議長。疑義が出るのはリソースが設定した上限を超えた時と、人類の生命に害を及ぼす時だけ。
ここで快適な生活をするのが面壁計画の一部だと言う羅輯。
最後に、家には暖炉が必要だと加えた。P153
父の葬儀を終え、建造が中止された<唐>を呉岳と共に訪れた章北海。軍を退役した呉岳は、むしろ章北海に感謝していた。
ドックを空けるため進水が早められた<唐>を見る二人。P154
ヴァーチャル三体世界に集う、かつてのプレイヤーたち。面壁計画が発動された事を受けての破壁計画の検討。面壁者一人に破壁人一人をつける。指名役は秦の始皇帝。
フレデリック・タイラーにはフォン・ノイマン。マニュエル・レイ・ディ
アスには墨子。ビル・ハインズにはアリストテレス。
羅輯の破壁人を尋ねる声に、羅輯自身が破壁人になると言った始皇帝は、ただ一人彼だけは主と直接対決すると言った。P157
宇宙政治部工作会議
会議の前に、自由意見を求める常偉思。部隊の士気から手をつけるべきと主張する章北海に常偉思は、宇宙軍を三分野に分ける提案を示した。低技術(ローテク)、中技術(ミドルテク)、高技術(ハイテク)の各戦略。
会議参加三十二名のうち二十四名がローテク、七名がミドルテク。
ハイテクを選んだのは章北海一名。
章北海をSFかぶれと揶揄する者たち。
章北海は現在のローエンド研究戦略を批判。
推進システムを例に取れば、核分裂ドライヴよりも核融合から非媒質型核融合エンジンに進むべき。
それを支持する常偉思は、面壁者との関係も示唆した。
干渉が危惧されるが、それに対する準備が必要。P164
羅輯は生まれて初めて夢が叶った気分を味わった。ヘリで降りたその場所はまさに希望した通り。所有者がこの土地を国連に寄贈したという。邸宅やその調度は趣味が良く、暖炉もあった。そして維持管理に必要な料理人、運転手など元オーナーからの引き継ぎスタッフ。
羅輯はケントに史強を戻して欲しいと頼む。彼に英語能力がないと渋るケントに、全て中国人にしてくれと言った。
湖面に映る雪山を見て羅輯は思った。面壁計画なんてクソ食らえ。
ロス・アラモス国立研究所を訪れる面壁者のレイ・ディアス。大統領を辞職し、ここの核兵器シミュレーション・センターを見に来た。
二百メガトン級の核兵器開発の検討を依頼。
宇宙用兵器としては非効率との指摘に、今人類が保有する最も強力な兵器だと返すレイ・ディアス。
山形恵子は目覚めて、夫で面壁者のハインズを探しに行った。
ここは夫が好む日本の家。竹林にいた夫。
何も思いつかず苦悩するハインズ。結論は「自分が思いつかなくても他の人々に手を貸すことは出来る」
一世紀か二世紀かかければ、智子の檻を抜け出せるかも知れない。
まず脳のメカニズム理解。二世紀で基礎科学を発展し、あと一世紀かけて応用ができる・・・P175
PDC第二回目面壁者公聴会。タイラー、レイ・ディアス、ハインズの三名が状況報告。ハインズ以外は計画を提出済み。
タイラーの計画が批判される。まるで自分専用の宇宙軍要求。
宇宙戦闘機を一千機配備(蚊軍編隊と命名)し、それらに百メガトン級の水爆を搭載する。
核兵器を使うアイデアに、計画を盗んだと怒るレイ・ディアス。
羅輯の不在にガラーニンが、彼は来ないと言った。隠居も計画のうち。
三人で互いの計画批判が激化する。
ETO(三体協会)のウェブサイトで破壁者の件が発表された。P179
史暁明は父の姿を見て縮こまった。責めることはなく、任務でこの国を離れると話した史強。病気を心配する息子。
今回の犯罪は庇うことは出来ず、自分の行動に責任を持てと諭す父。
父が少年拘置所を出て行くのを見送る史暁明。P181
羅輯はこの時代にあって、世界で最ものんびりした人間だった。気ままに読書、ゴルフに乗馬。いつの間にか一日が過ぎる。
テレビはたまに見たが、今の時代とは無関係なものばかり。
そんなニュースの中で三百年前に沈没した船から回収されたワイン樽の事を知った羅輯は、それが飲みたいとケントに要求。
それは三十万ユーロで実現された。
グラスに注がれたそれを飲む時「これも計画の一部だ」と言った羅輯だが、ひと口飲んで嘔吐、下痢の大騒動。何らかの有毒物質がワインに溶け出した。点滴を受けながらぐったりする羅輯。
計画の次の一歩を踏み出すため、史強を待っていた。P184
防衛大臣 井上宏一の先導で鹿児島の特攻記念館を訪れたタイラー。
なぜ日本で志願者を募るのかと聞く井上に、特攻隊発祥の地から始めるのは自然ではないか?と聞くタイラー。
コンピュータは智子に封じられており、核搭載の宇宙戦闘機はパイロットの思考で目的を達する必要がある。その特攻魂の確立が急務。
井上はタイラーに、あなたがたは自分らの最も大切なリソースを捨てたと言って去って行った。
タイラーの頭の中でこだました「母さん、僕は蛍になります」P186
国立研究所でレイ・ディアスと討論する職員のアレン。希望する規模の核爆弾は、今のものとは全く別物になる。この爆発はむしろ燃焼。
この爆弾はごく短時間で恒星の進化を再現する。
よって必要なのは恒星研究者。
アレンがレイ・ディアスに日の出を見せた。同じこの場所で初めての原爆実験が行われたという。次第に具合が悪くなるレイ・ディアス。
サングラスをかけて多少良くなったが、それ以後彼は「太陽恐怖症」になり、常に部屋に籠もる様になった。P190
史強の到着を喜ぶ羅輯。警備上最悪の立地だと言う史強。
ロマンチックな仕事を頼みたいと言った。夢の中の彼女。
紙と鉛筆で描き始めたが途中で断念。
とにかく言葉でプロフィールを話せと言う史強。容貌だけでなく精神面も含め話し続ける羅輯。ある程度溜まって、今度は史強から逆質問。それがことごとく的を射ており驚く羅輯。そのデータをパソコンのモンタージュ作成ソフトにかけて作画する史強。
持って来たノートPCの画面を見て驚く羅輯。修正箇所は? ない。
「彼女を見つけられる?」の問いにその可能性は高いと返す史強。
まずは上に報告。承認取れて割り振られたら最善を尽くすよ・・・P197
その話を聞いて、甘やかし過ぎだと憤慨するケント。だが全て報告し、実行しなくてはならないと言う史強。拒否権はPDCにのみある。
問答の末、上層部への報告を了解したケント。
参考のためとその女性の画像を見て表情を和らげた。P199
タイラーが宇宙軍を訪れ章北海を査問。常偉思少将の推薦による。
昔日の軍人魂を取り戻せるかとの質問に不可能だ、と言う章北海。
人類社会は既に成熟している。
後戻りできない以上、決然と前に進むしかない。P201
雨が降り始めた晩に訪れた女性。彼女は荘顔と名乗った。
羅輯は暖炉に火を点け近くへと誘った。
大史、君は化け物だ、彼女をどこで見つけた?と心で叫ぶ。
無邪気な微笑みが彼のハートを撃ち抜く。
中国画を専攻した画学生で、卒業したばかりだという。
翌朝、外の景色を見て感動する荘顔。雪山が好きだと聞いて「出掛けよう」と言う羅輯。ヨットで湖の対岸まで行き、そこからジープ。
走りながら面壁計画の話をする。面壁者は世界最大のペテン師。
史強に電話を入れ、最高だ!と羅輯。最後の任務が終ったと言う史強。冬眠に入り、未来で白血病の治療をする。前回の任務で放射能を浴びたのが原因。一番の親不孝は子どもを作らないことだと言った。
史強に会ったという荘顔は、君は世界で最も大切な仕事をする事になる、と言われたと言う。
三体世界との戦いについて語り合う二人。
彼らとの共存は出来ないの?、と問う荘顔。
彼女に、君の仕事は自分を幸せにする事だと言う羅輯。
欲しいものは特にないと言う荘顔へ更に「明日どこへ行きたい?」と言うと「ルーヴル美術館に連れて行ってください」P216
目隠しをされた上で到着したタイラー。その相手は、アメリカの巡航ミサイルが息の根を止めようとして果たせなかった者(アルカイーダを率いるウサーマ・ヴィン・ラーディン)タイラーが訪問目的を話す。
あなたにハリ・セルダンになってもらうためです。
終末決戦まで四世紀の間、あなたの組織を維持してください。
その精神と魂を宇宙軍に浸透して欲しい。
老人は、最も必要なものを「憎しみ」だと言った。
三体人が滅ぼそうとしている人類には、憎むべき西側が含まれており、我々は三体人を憎んでいない。この組織ももう長くはない。
帰途は目隠しされず、彼はアフガンの山々を見る機会を得た。P222
FDC第四回年壁計画公聴会で、タイラーは計画の修正案を出した。
蚊軍編隊を人の操縦と無人モードの二系統とし、無人モードではタイラー自身が全機を操縦する。
彼は最終決戦まで冬眠し、自身自ら戦うつもり。その中で独自調査の要望。それは天体エウロパ、ケレス他の彗星調査。
またETO(三体協会)に対する攻撃を緩めるよう進言。彼らが消滅したら情報源を失う。P224
ルーヴル美術館に来た羅輯と荘顔。安全のため閉館後の訪問。
展示ホールを皮切りに鑑賞を進める荘顔。その彼女を鑑賞する羅輯。
終末のあと、これらの美術品がどうなるかを危惧する荘顔。
モナリザを見ながら、人間だけが理解できて智子には理解できないコミュニケーション方法が見つけられないかと話す荘顔。
その話から、互いに表情だけで意思疎通ができないかを試す二人。
何度かの失敗で大笑いする。
見つめ合ううちに、羅輯の心の堤防に水漏れが生じ、侵食して行った。そのうねりはどんどん広がり、ルーヴル美術館も崩壊。
全てが創造的な愛の光の中で消滅した。P232
ハッブルⅡの組み立て完了から一週間後、三体世界の観測を指示するフィッツロイ少将。それを拒否して定型の試運転を行おうとする職員に、私的な運用の証拠を突き付けて命令を実行した。
だが映し出されたのは三つの光輪の一団のみ。惑星など見えない。
だがその恒星よりも大きな径で何かが見える。
「刷毛だ!」と叫ぶフィッツロイ少将。レンズの傷ではない。
専門家たちが走り回り分析を行った。刷毛の中の本数が数えられる。
長い沈黙の後、これの正体が明かされた。三体世界の恒星から移動する物体がその航跡を残した。近距離では認識出来ず、四光年離れてやっと観測可能。刷毛の本数は約千本。
「今我々が見ているのは三体艦隊です」P238
ハッブルⅡの発見は三体艦隊の侵攻を証明し、パニックが一段落した後、人類は三体危機下の状況に慣れて行った。
変わらないのは時の過ぎる速さ。五年の歳月が過ぎた。P238
第二部 呪文
危機紀元8年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと4.20年
タイラーの蚊軍計画はPDCの承認を得た。補足的なエウロパ、ケレス等の研究も着手が承認された。あとは待つだけ。
彼は面壁者となって初めて普通の人間の生活を始めた。
ある日タイラーを客が訪れた。おどおどと客間に入った男は、タイラーに何度もお辞儀をし、最初の言葉を発した。
「面壁者フレデリック・タイラー、私はあなたの破壁人です」P245
常偉思は会議のあと章北海の具申を聞いていた。この五年、基礎研究がほとんど進んでいないと指摘。一世紀後も技術ブレークスルーが期待出来ないかも知れない。未来に増援して下さいと訴える北海。
優秀な政治将校たちを未来へ送り込むのが現任務への痛手になる事を指摘した上で、その案のリサーチと報告を指示した常偉思。P249
タイラーが羅輯を訪れた。美しい母親と一歳の愛らしい娘。それを見つめる羅輯。現実離れした光景に、自分の人生の空虚を知るタイラー。
母娘を家に行かせると、タイラーが話を始めた。
四日前、自分の破壁人が現れたという。その顛末が話される。
破壁人は、タイラーが委員会に報告している内容を全て把握していた。その上でエウロパ、ケレス等の研究プロジェクトに注目。
それらの共通点は水。その話を棚上げし、次の説明に移った。
人類に対するタイラーの裏切り。委員会で彼がETO存続に共感を示したのは、いずれ蚊軍艦隊を彼らに引き渡すため。ETOは蚊軍艦隊で地球艦隊を攻撃後、主の艦隊に投降する。その時の手土産が水。
三体艦隊には水が必須。多くの者が脱水状態。この供物を引き渡す時にスキが生まれ、そのチャンスを狙って自動モードに切り替え、主の艦隊を殲滅する計画。それを暴露して破壁人は去って行った。
この件は暴露されたが公聴会で起訴される事はなかった。
だが世界中から面壁者としての生命を断たれた。
静かに微笑む羅輯。この悪循環から僕らは永遠に脱出できない・・・
その夜、タイラーは湖畔で自殺した。
夜遅く家に戻った羅輯は、荘顔に聞かれ、彼は帰ったと話す。
全人類が不幸な時に、私たちは幸せになれるかしら、との問い。
終末決戦を拒否すれば、この先五百年は快適な暮らしが出来る・・・
そこまで話して失言に気付いた。
「あなたはそれでも面壁者なの?」 P263
PDC第89回面壁計画公聴会
破壁人第一号の出現とタイラーの自殺が報告される。
ハインズが計画を説明。CTスキャン技術とMRI技術の組合せにより脳活動モデル研究は進んだが、智子の壁に突き当たった。
またレイ・ディアスの恒星爆弾もプロセス計算の壁が高過ぎる。
両名ともテクノロジー進化を冬眠して待つと宣言した。P266
悪夢から目覚めた時、隣りに荘顔がいなかった。
子供部屋に走るが娘もいない。そこに書置きが。
愛する人へ。私たちは終末決戦であなたを待ちます。
こうなる事は分かっていた。覚悟は出来ていたが、眩暈に襲われる。
そこにセイ事務総長が立っていた。妻と子供は?の問いに「終末決戦であなたを待っています」との答え。
最初からこういう計画だったんだな、の問いを否定しない。
自分は普通の人間だと言う羅輯に、三体文明がその死を願ったのは全人類の中であなただけだったと話すセイ。
あの事故はあなたを狙ったもの。練り上げられた計画が失敗した。
あなたに特に優れた能力がないのは調べで分かっている。
ぼくはかつて宇宙社会学を研究する考えを持っていた。なぜなら・・・と
言いかけて心の奥深くで「おまえは面壁者なんだぞ!」の声。
セイは続ける。学者としても失格。だが三体世界はあなたを恐れている。その理由を突き止めなさい。P275
宇宙機<高辺彊(ハイ・フロンティア)>に乗り込もうとする章北海。そ
れを送り出す常偉思。宇宙を体験することがミッション。
そして提案された未来増援計画は検討中だと言った。
出発後、隣りに制御核融合の権威 丁儀博士を見つけ挨拶する北海。
機は高度三万メートルでロケットに切り替わった。加速後軌道に乗り無重力となった。初めて地球を目にした北海。P282
五年前、三体艦隊の「刷毛」を見つけたフィッツロイ少佐は再びハッブルⅡ宇宙望遠鏡管制センターに来ていた。
雪上の足跡になぞらえ、航跡は「斑雪」と呼ばれた。二つ目の斑雪を見に来たが、実際に見えるのは四年後だと言われる。
この観測で三体艦隊の速度が分かるので重要。P284
羅輯は九年前の、葉文潔との出会いが発端だったと確信していた。
智子はあの会話を全て聞いていた。重要だったのはその指示。
宇宙社会学の公理その一:生存は文明の第一欲求。その二:文明は絶えず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量は常に一定。
そして重要な概念。猜疑連鎖と、技術爆発。一文字づつ咀嚼した。
思索に集中するため、凍りついた湖面に足を踏み出した。深まる思索。その時、氷が割れて水の中に転落。骨まで沁みる冷たさ。
何とか這い上がり、歯を鳴らせながら一人ごちた。
「面壁者羅輯、ぼくがおまえの破壁人だ」P290
ケントに会う羅輯。すっかり髪が白くなった。
まなざしに変化を感じ「とうとう仕事を始めたんだね」
安全な場所が必要、とのリクエスト。P291
十数時間の護衛下の旅を経て目的地に着いた。
それは五年前最初に連れて行かれた場所。
当時の若者張翔はセキュリティの責任者になっていた。
翌日、三体艦隊の航跡を初めて見つけたという天文学者リンギアを呼び寄せた羅輯。この宇宙に三体人以外の観察者がもし居たら、地球の位置は彼らに知られているか?との質問。
否定するリンギア。宇宙の観察者が恒星の位置をマークするのは至難の技。飛行機で砂漠上を飛ぶとき、砂粒が「ここだ!」と叫んでもその位置は特定出来ない。天の川銀河には二千億の恒星がある。
次に羅輯は、地球の位置情報を教える相手として適当な恒星群を聞いた。距離で絞り込まれた結果187J3X1が候補となった。
太陽系まで49.5光年。
この恒星群の位置関係データを依頼した。
そしてケントに、公聴会へリモート会議で参加したいと告げた。P297
ヴァーチャル三体世界で会合をする始皇帝、アリストテレス、フォン・ノ
イマンの三人。主の新たな指令、羅輯の抹殺を伝える始皇帝。
だがそれは容易ではない。一回目は失敗。二回目の狙撃も。
彼の重要性に疑問を持つフォン・ノイマンにアインシュタインが、主が彼を恐れる理由を考察。羅輯は、ある力の代弁者。P300
次のPDC面壁計画公聴会が開かれたのは二週間後。リモート会議が開くのを待つ羅輯とケント。
声がおかしいケントは軽インフルエンザと言った。
近隣で始まり、熱は出ず三日ほどで治るという。
リモート会議が始まり、羅輯は提出済みの内容説明に入った。太陽の増幅作用を使ってメッセージを送信する。三枚の単純画像と付加説明情報。それを恒星187J3X1に対する「呪文」だと言った。
呪文の効果発揮が50年後、それを観測できるのは更に50年後。
この先百年をどう過ごすか?との問いには「冬眠」と答えた羅輯。
「効果が観測されたら起こしてください」P305
冬眠の準備中に、羅輯は軽インフルエンザに罹った。特に気にしなかったが二日目に発熱。その夜高熱により昏睡。
PDC保安部トップから連絡を受けた張翔。更に医師から羅輯が意識を失ったとの報告。専門家チームが到着。
これは遺伝子兵器。普通の人には軽症だが、特定の遺伝子に反応して毒素を出すという。
史隊長ならこんな事にはならなかったと自責する張翔。
現代医療では治療できず、早く冬眠させる事になった。
二日後、強力な電波が太陽に向けて送信された。
増幅され面壁者羅輯の呪文を乗せて。P308
危機紀元12年
三体艦隊の太陽系到達まで、あと4.18年
ハッブルⅡ宇宙望遠鏡管制センター。「刷毛」が再び出現。三体艦隊が、二つ目の星間雲を通過した。それを確認するフィッツロイ少佐。
だがそのうちの十本ほどが先行している。かなり小さい。探査機か?との推定。この速度から行くと艦隊より一世紀半早く着く事になる。
艦隊が探査機を発射させた日時を出させたフィッツロイはその日が、羅輯が宇宙に呪文を送信する日だったと言った。更にその日は三体世界からETOに二度目の羅輯暗殺指令が出された時期。P312
テレビで生中継される軌道エレベーター「天梯Ⅲ」のテスト運行。
天梯Ⅰ、Ⅱは既に運用されている。
三人の老人 張援朝、楊晋文、苗福全はその中継を見ていた。
世間では食料は配給制となっていた。P317
核融合実験基地に丁儀博士を訪ねる章北海。制御核融合確立の発表を延期するよう頼むが、できるわけがないと返す丁儀。
宇宙軍は、恒星間航行のため放射ドライヴを推しているが、このまま行くと研究は進まない。
丁儀は、拮抗した派閥の均衡状態を破るには影響力のある三、四人を味方につければいいが、彼ら全員が保守派だと言った。
基地をあとにした北海。恒星間航行可能な船は絶対必要・・・P320
軌道エレベーターの完成、制御核融合の確立は世界の大きな励みになったが、これらは始まりに過ぎず、宇宙軍は政治将校を未来へ増援する計画を正式に決め、章北海がその指揮官に選ばれた。
そのため冬眠に入る前に、彼と候補士官が一年間宇宙基地勤務を行う事が決まった。
隕石収集家を訪ねる章北海。大きな隕石を要求する北海に、希望のものを水増し価格で提示した収集家。言い値でそれを買った北海。P324
買った隕石を持って模型製作工場に入った章北海。時間外で無人。
最新NC旋盤で三十六本の円筒形の隕石を作る。
7.62mm銃の弾薬から先の弾丸を外し、そこに特殊な接着剤で隕石を付けた。それが三十六個。
それを2010制式ピストルに装填し4発を試射。的である牛肉の固まりを入れた布袋を確認。隕石は中で砕け、加工品とは分からない。
残りの銃弾をしまい込み、宇宙へ行く準備をする章北海。P325
黄河宇宙ステーションから五キロのところで待機する章北海。彼が所属するのはここから八十キロの宇宙軍第一基地(ベースワン)。三ヶ月前からそこで勤務しながら機会を覗っていた。
章北海が抹殺対象とする三人を含む実務会議が、黄河宇宙ステーションで行われていた。
会議終了後の記念撮影(宇宙空間で実施)がチャンス。
ハッチの表示灯が赤から緑に変わり、一団の三十名ほどが出て来る。太陽は沈みつつあり、皆撮影のためバイザーを透明にした。ターゲット確認。
ピストルと弾倉を取り出す。弾薬には酸化剤を含んでおり宇宙空間でも撃てる。スコープで照準を合わせる。大気がないため五キロの距離でも減速しない。三人のターゲットに各十発づつ撃った。疑念を抱かせないよう、途中わざと数発ターゲットを外した
届くまでに約十秒。スコープで確認する。
被弾したのは三人を含め五人。
全員が恐怖の叫びを上げている。多分「隕石雨だ!」の声も。
章北海はスラスターをふかしてベースワンに帰着。あの三人が死んでも放射ドライヴ研究にシフトされる保証はないが、出来ることはやった。
章北海が戻った頃、ヴァーチャル三体世界ではこの事件に関する議論が行われていた。智子経由での完璧な情報。クール過ぎる方法に脱帽。本件については関与できない。それが主の意思。
開発が放射ドライヴに向いたとしても、物理学が智子に封じられていては時間とエネルギーの無駄。
未来増援特別分遣隊が冬眠に入るのを、常偉思が見送った。
君たちが目覚めるのは早くても五十年後。未来に適応すると共に軍人魂を維持し続けなくてはならない・・
隊員が全て搭乗し、機が離陸した。
それを見送る常偉思。今日が彼の五十四歳の誕生日。厳しい寒風の中に、自身の終わりと、人類の終わりを見たのだった。P335