7月9日に再放送あり
ナビゲーター:松嶋菜々子
感想
昨年この「岸辺のアルバム」をレビューしていた事もあり、直前にTV予告で知って視聴。
被害者家族の経緯、ドラマの概要、そして訴訟の顛末という三つの視点から描かれる。
ドラマでも小堤防がやられて、本堤防も崩壊。最後の手段で川の流れを変えるため爆破するとか何とか言ってたので「スゲぇな」と思っていたが、まさに実話だった。
しかし記憶に新しい、昨年の台風19号で決壊した千曲川も、バリバリの一級河川。こちらも甚大な被害だが、訴訟とか起こすのだろうか。
水はコワイし崖崩れもコワい。安全な住まい探しは大変ダ・・・
番組内容
1974年9月2日。多摩川水害。
木村将英。当時中三。これで私の人生は終わった、という父の言葉。
視点1 被害者家族
マイホームは、当時の企業戦士たちの「幸せの象徴」。ステータス。
狛江市。デパート勤務の父昭久が1955年に購入したマイホーム。
国が河川整備した。
その後ローンを支払いながら、つい2年前に増改築した。
1974年9月1日。台風16号の風雨により、多摩川は荒れていた。
住宅地は小堤防と本堤防に守られている。
だが午後2時。将英は小堤防が吹っ飛んだ瞬間を見た。
上流で、ダムを守るための放水が行われていた。
小堤防が破壊され、河川敷がえぐられ始めた。
現場で100名以上が作業するが効果なし。
午後9時。本堤防が破壊された。
侵食は更に進み、住宅の基礎がむきだしになる。
9月2日の午前一時。木村家が流されたと告げられる。
その日は父の47歳の誕生日。
なぜ多摩川は住宅を襲ったのか
住宅地そばに、農業用水を引き込むための宿河原(しゅくがわら)堰が設けられていた。
それが増水時に川の流れをせき止め、堤防を破壊した。
木村家の三軒隣りの岩井家。新築中で、あと一ケ月で完成の予定だった。ここで止まってくれとの思い(申し訳ないが)
堰を爆破して流れを変える作戦が進められたが、結局間に合わず岩井家も流された。
この水害を題材にして1977年に作られたドラマ「岸辺のアルバム」
ごく普通の家庭が崩壊して行く先に起きた水害。
ホームドラマの常識を覆した内容。
視点2 プロデューサー 堀川とんこう
堀川は今年3月、ガンで亡くなったが、その前にインタビューに答えてくれた。TBSで100本以上のドラマを手掛けたが、その中でも代表作。
山田太一の小説が原作。堅牢に見えたものがあっさりやられてしまう。
山田は被害者家族を訪ねて、その時の状況を詳しく聞いた。
ドラマは、大学生の娘の妊娠中絶、妻の不倫等、家族に潜む危うさをあぶり出した。
ドラマ化に手を挙げたのは堀川だけ。真剣に読んだ。意外に面白い。
妻役のキャスティングは、最初「岸恵子」。これに反対した堀川。
元々色っぽい。秘密がオープンにされた時の効果が半減。
そこで選ばれたのが八千草薫(最も想像出来ない)
長男役の若手俳優には国広富之。ほとんどシロウト。
トラブルを包み隠して突っ走ろうとする、父の思いを長男がブチ壊す。
そんな時に起きた水害。家庭崩壊の象徴が堤防決壊。
山田太一談
戦後の日本が獲得した、いろんなもの。
プラス面と、どんなマイナス面があるか。
「戦後日本」を描いてみたかった。
木村家は、このドラマをどう観たか。一家で注目していた。
流された家を見て「ああ、ウチだ・・・」
ドラマのラストで登場する、川原にのこされた屋根だけの残骸。
これは木村家の実話。
住民は二年後、国を相手どり訴訟を起こした。
それは結審まで十六年に及んだ。
視点3 弁護士 高橋利明
同じ場所で生活を取り戻したいという住民に寄り添った。
八ッ場ダム、原発訴訟も手掛けた。
これは「人災」。国が補償してくれる筈、との思い。
だが国は、土地の復旧はするが、建物には責任がないと反論。
何とかしなくてはいけない。心を動かされたのは、住民の陳述書。
二重のローン、子供たちの将来。一瞬で人生を狂わされた。
住民から、報道以外の多摩川の様子の写真を募った。
100枚以上集まった。これにより詳細な発生経過が判明。1965年に小堤防が決壊した過去もあり、本件は予測出来たとの追及。
一審は住人側の勝訴。だが国か控訴し二審で逆転敗訴。
前例となった「大東水害訴訟」
それに怒る高橋。前判決は改修計画が進んでいない河川のもの。
多摩川の様な一級河川には通用しない。
最高裁での差し戻しを受け、1992年に勝訴判決。父63歳、将英31歳。
同じ場所に父が建てた家に今も住む将英は、多くの写真を撮り続けた。アルバムは、もし何かあったら命がけで持ちだすという。
人は、これからも多摩川と共に、新しい日常を築いていく