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新聞小説 「カード師」 (7) 中村 文則

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朝日 新聞小説 「カード師」(7)  1/16(104)~1/28(116)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

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感想
長い過去話から、ようやく現在に戻って来た。
市井を追うために始めた作業は、実に危険なもの。

だって自分のものが盗まれてるんだから、今までの市井との会話がどうして信じられる?
警察関係者を装っても、こちらの顔はバレるわけだし、面接に行ったのが三年前だという話も、渡された履歴書も罠の可能性大。
そんな時に、呑気にいかさまポーカーなんてやってていいのか?(笑)
チェック柄の、二軍ピッチャー時代の話もイマイチ刺さらない。

 

そしてびっくりなのは、山本からの「殺人指令」
そもそもスマホを手渡しされたのは、通信履歴をプロテクトするためだろう。端末を押さえられたら全てが暴露される。だから「僕」のスマホに指令を出した時点で、山本は大きなリスクを背負う筈。
この辺がホントにザルで、ちょっと話に入って行き辛い。
山本を占うと言っても、ただ皇帝のカードの写メ送って「洗脳」って・・・

この辺りの幼稚さ、何とかならんか。

 

そして封印した筈のブエル復活~ 伏線活用の第一弾か・・・・・
しかしこの僕ちゃん、ハッキリ顔が出てしまうとイマイチ気が抜ける感じ・・・   挿絵はキレイだが、それだけで終わっている

 


あらすじ104~116
<現在--幸運/不運> 1~13
市井が並べていたカード。<世界> <愚者> <棒8>
今までの事を思い出す。
英子氏からの依頼を受けて佐藤の占い師になったが、その後依頼者は山本に変更となった。死人も出て、新たな依頼が下された。

そんな状況で、占いの顧客だった筈の市井が、僕から様々なものを奪った。
昨夜、行為の後手渡しされたグラスの水を飲んでからの記憶がない。


なくなったものは英子氏と山本から渡されたノートPC、そして佐藤の髪と爪。別のグループの可能性。心当りはあった。

市井はこれが目的で近づいたのか?
何を優先させるべきか。それとも逃げた方がいいのか。
思わずタロットカードに指が伸び、苦い笑いが湧く。

 

警察関係者を装い、市井が面接を受けたという会社を訪問する。

その会社は実在していた。
対応した四十代の男が面接担当の役員。「市井紗奈」は面接には来たが、採用には至らなかったがと言う。それも三年前。
同情を引く感じがあり、面接官の一人が高圧的な態度を取った事もあって記憶に残った。
彼女について、ずっと被害者に思えたという印象を伝え、殺されたんじゃないかと言う男。
ずっと被害者でいる人間などいない、それはあなた達が彼女に対しそうであって欲しいと思っているだけ、と不要な言葉を伝える僕。
その言葉を聞いた男が、しばらく席を外した後、彼女の履歴書を持って来た。折り畳んであった形跡があり、多分個人的に持っていたもの。

それを収穫として去る僕。

 

深夜の違法賭博場でディーラーとして場を受け持つ僕。

相手は眼鏡の男。仕込んだカードを各プレイヤーに配る。


次にめくったカードは♡8。眼鏡の手札はフラッシュ。

それに対して隣りのチェック柄はフルハウス。
チェック柄が賭け金を上げ、それは一千万以上となった。

勝利を確信した眼鏡はそれに応じて同額を賭ける。
次いでチェック柄がオールインして四百万を上乗せし、眼鏡も倣った。
最後のカードは♠3。眼鏡の男は千二百万を負けた。

 

やり過ぎだ、との僕の言葉に甘い、とチェック柄は言い、逆に手札の整え方を咎めた。
あの男が、目の前の♡8という幸運を手放せるか見たかった、と僕。
あの時、眼鏡の男は平静を装ったが、天気の話のやりとりの後立ち上がり、床に崩れ落ちた。
チェック柄は続ける。

あのカードを無視する人生を選んで、何が面白い?
やり過ぎだ、とは言ったが、あれは抗えない。

賭博の魔力で自分を失う快楽と、彼らを誘導する快楽。

 

午前五時。チェック柄が煙草に火を点け、しばらく東京を離れると言った。自分が使った人間がミスをしたその尻拭い。
どんな依頼だったかも言わない。
また、彼らが一番恐れているのはスパイらしい、との言葉に鼓動が早くなる。
スマホを奪われた事は伏せ、山本には破損したと告げていた。

既に依頼を送っているからまた送る、と山本。
つまり依頼内容は奪った人間に知られている。
スパイを恐れるのは組織が強く規律化して行く時の自然な流れ。

こういう時にまずいのは他と繋がっている人間。
僕も姿を消した方がいいかも知れない。逃げるか、市井を見つけてうまく対処するか。決められない。

 

占いもするんだよな、と聞いたチェック柄が二十年近く前の話を始めた。プロだったが二軍止まりのピッチャー。
二軍戦で中継ぎとして出た時、怪我で調整中の一軍選手と対戦した。
一球目インコースのボール球を見送り、二球目のインコースも見送り。それはストライクだった。
インコース攻めの後のアウトコースへスライダー、とのリードに従い投げた。完璧な最高の球だと思ったと同時に、必ず打たれるとの予感。


球は見事にライトスタンドへ入った。
スライダーではなく、逆方向に曲がるシュートにすべきだった、との思い。覚えたてのシュートを投げる選択が、その時出来たか・・・
結局そのチャンスを逃し、別の者が一軍に上がって投げた。
その話をしても、何も込み上げるものがないのに困惑するチェック柄。
野球は、ピッチャーが投げる事でしか試合が始まらない。

指先が深く関わるから、より精神が影響する。
その後怪我をし、甲子園の経験もなかったから、満員のスタンドで投げた経験がない。自分の一球からゲームが始まる瞬間を、一軍の舞台で経験する事が出来なかった。
もしお前があの時の俺を占っていたら判ったのか?スライダーじゃなくシュートだと・・・
そうしたら俺の人生はどうなっていたのか・・・

 

市井の履歴書にあった職歴の会社を回ってみたが、全て倒産していた。二日目にして行き詰まり。
明日、佐藤に会うことになっている。

用件は不明だが、爪と髪を悪用されていたら命はないかも。

 

山本からメールが届く。

先日、前に送った依頼を再度送ると言っていた。
メールを見る。佐藤を殺せと書かれている。

 

山本に電話をかける。
決まったことだ。やらなければお前を殺すことになる、と山本。
関わり過ぎているから、もう断れないとも。
なぜこうも無造作なのだろう。英子氏の言った「知性を持たずに、知的世界の支配権を握ろうとしている」
自殺に追い込むのが理想だが、殺すことになっても後の心配はない。幹部のイスが約束される。
委ねろ、私たちに・・・・悪いようにはしない。

彼らの言う通りに動けば、そうなるのだろう。
方法は考えると言い、山本にあなたの事を占ったと言う僕。
そして、今年はあなたの流れが劇的に変わると言って電話を切り、タロットの「皇帝」をスマホで撮って送った。

山本への洗脳。試す価値はある。

 

--久し振り。
ブエルだった。だが、久し振りと言いながら最近の夢には時々出ていたと言う。
君の人生が終わりに近づいているからだと言うブエル。

そうなる確率が高い。
遠くで鳴るサイレン。 「聞こえる?」 「うん」
注意深く聞いてみるといい。聞こえなくなるはずだ。

 

 


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