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新聞小説 「カード師」 (6) 中村 文則

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朝日 新聞小説 「カード師」(6)  1/4(92)~1/15(103)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

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感想
とりあえず次章で現在に戻る様だから、ここまでをアップ。

 

章題は変わったが、前章と同じく「僕」の過去の話。
ブエルに次いで内部人格に加わったディオニュソス。
子供向けでは飽き足らず、大人用の神話本を読んで心酔する、当時小5の「僕」。ディオニュソスに自分を投影する事で自信を得、思春期を経てブエルと決別した。
単に他を損なえ、と言うだけのブエルに対して、半神として出生時から苦しみを与えられたディオニュソスに、より近いものを感じたのだろう。


しかしミミズクにはまいった。読んで「えっ!そんなもん居たっけ?」と読み返したら前章で、女子が階段から飛び降りたところの直後、オカルト的エピソードとして出ていた。あわてて前章の記事に追記(笑)

 

しかし、これらのエピソードで作者は何を伝えたいのか?
「僕」の心の中にある様々な葛藤、心象風景を代弁させようとしているのか。この程度の事で僕の人格が出来ました、ってのも「薄い」

 

オマケ
オリンポス12神についてはコチラを参考に。

 

 

あらすじ 92 ~ 103
<酒神ディオニュソス(バッカス)> 1~12
主神ゼウスと人間の王女との子、半神のディオニュソスは酒の神。
子供向けに作られた本では、十二神の一人になった経緯があいまい。
実際の神話は根本的に違った。

ディオニュソスはゼウスと、穀物の神の娘ペルセポネーの間に、ザグレウスという名で生まれるが、それに気付いたゼウスの妻ヘラが、巨人のティターン族を使い八つ裂きにした上食わせてしまった。
最後に残った心臓を女神アテナが救い出し、それを飲み込むゼウス。
次にゼウスは人間の王女セレメーを愛するが、ゼウスの妻ヘラがセレメーに、ゼウスへの疑念を植え付ける。
セレメーはゼウスに真の姿を見せてと懇願したが、それを叶えたせいでセレメーは焼け死ぬ。
セレメーの腹から、ザグレウスの心臓が入った彼女との子供ディオニュソスを取り出して、自らの腿に縫い込み、誕生まで育てたゼウス。

 

そして生まれたディオニュソスは、女としてセレメーの家系で育てられるが、ヘラの妨害を受ける。


ディオニュソスは賭博の神ヘルメスに託され、ニンフとして育てられる。
再びヘラに発見され、狂わされた末に放浪の旅へ出るディオニュソス。

 

ディオニュソスはシレノスという者から葡萄栽培と、それを使った酒造りを伝授された。酒神として人間に酒を与えたディオニュソス。

ディオニュソスの名が意味すると言われる「癒し」は、彼の悲劇的な存在ゆえなのかも知れない。
彼がイカリオスという者に葡萄酒の作り方を教えたが、村人は毒と思いイカリオスを殺す。その娘は首を吊った。
怒ったディオニュソスは、村人にも首を吊るよう仕向けた。村人は謝罪。初めて酒の作り方を知る村人。
葡萄酒造りにおける犠牲、生け贄の概念の背景。

 

旅の過程で、貧者や女性信者を増やして行くディオニュソス。
抑圧された女性たちの解放。

女たちは一時的に家事から逃れ飲酒、乱交を行った。


「バッコスの信女」という物語。

二十歳の頃読み返して、女性解放と共に危険と理不尽を抱いた。

 

テーバイの国に来たディオニュソス。

国王の母アガウエはセレメーの妹、即ち叔母。

だがディオニュソスをゼウスの子とは信じないアガウエ。
この地でも、皆を狂わせて欲望を解放したディオニュソスに王ペンテウスは怒り、信者たちを捕えてディオニュソスも死刑にしようとした。
女性蔑視のペンテウスに対し、信女たちによる攻撃で男を屈服させたディオニュソスは、報復よりも偵察だと言って彼を女装させ、山を占領した信女らの所に連れて行く。
狂わされて信女となった母アガウエを救いたいペンテウスに、連れ帰る事が出来ると誘う。
女たちを良く見るために、と木に登らされたペンテウスは逆に見つかり、木を倒され八つ裂きにされる。その先頭にいたのはアガウエ。

首を持って帰ったが、正気に戻って息子のものだと気付く。

 

別の神話でもディオニュソスは、家事に明け暮れる女たちを狂わせて解放した。だがそれは母性までも奪う。
二千年以上前に、既にこんな物語があった事に驚く僕。でもそれは全てディオニュソスの願望ではないか?

別の神話で冥界に行くディオニュソス。死んだ母セレメーの取り戻し。
冥界の神話として知られるオルフェウス。妻を救い出す時、取り決めを守れず振り返って失敗。
だがディオニュソスは成功し、ゼウスの許可を得て、死んだ母を神にした。そしてあのヘラとも和解。

 

出来過ぎている、と思った僕の頭に浮かぶ一人の青年。
父を知らず、母も亡くなった。その蘇りを望み、皆からの尊敬、認めを願う。
実際のディオニュソスは、好色ではなく酒に酔いしれる人々を離れて見ていたのかも知れない。

陽気に酔わせておけば、肩を組む事も出来ると。

常に認めてもらいたがったディオニュソス。

八つ裂きの手段もその一つ。
母性を奪うことも、その対象となる子供への嫉妬があった筈。母親に抱かれるKに僕が感じた様に。

 

後にオリンポス十二神の一つとなるディオニュソス。一説では孤児たちの神ヘスティアがその座を譲ったという。
文学の起源と言われるギリシャ悲劇。

元々はディオニュソスの悲劇を演じるために始まったとされる。
演者は舞台で仮面を付けた。仮面で別人になる。ニーチェは言う。悲劇の各神たちもディオニュソスの仮面に過ぎない。


冬の間、アポロンに代わって予言の神を務めたディオニュソスに、僕は憧れた。十二神の中では一番。物語を、初めて身近に感じた。
それはまるでアニメヒーローかスポーツ選手。

人は白昼夢を見ることでストレスを回避する。神話の世界でディオニュソスに自分を投影しようとした。
悩ませる集団に対する回避。

効かない時は超能力で遥か遠くへ追いやる。
テレビゲームがあればやった筈。

想像、白昼夢の中での世界の救済、もしくは滅亡。

女性を穴に落とすより、恰好の良かったディオニュソス。
ディオニュソスと内面を一体にする事で自信を持ち始めた僕。

彼はなぜブエルの様に、僕を支配下に置かなかったのか。
他の多くの神。残酷だが緩い。

 

漠然と将来の自分を想像する。プロの手品師。驚いている人間は均等。人が恐ろしければ驚かせればいい、喜ばせればいい。

将来の自分への期待は、今の自分への自信。

将来凄い人間になる、という山倉の暗示。
ディオニュソスの様に複数の仮面を付けて、相手の喜ぶ自分を演じ始める。自分で考えたトランプ占いは30を越えようとしていた。

世界の秘密を思う。
一定のルールでめくるカード。それにより計算される確率。
生きるという事に対する行動。めくる、めくらないの選択。
未来の選択肢を選べるのか?膨大な可能性の無視。
験担ぎをしても、思った通りのカードは出ない。

 

出来事をカードで表現する事もあった。

犬に吠えられ、給食は好きなソフト麺、職員の小言・・・
これらの出来事の順や数、マークを事前に知り、変容させる事がなぜ出来ないのか?
毎日カードを並べて、数字やマークの支配を考えた。無数の選択。

小五の終わり、大学に合格した18歳の入所者が声をかけた。
「占ってよ」
大学生活がうまく行くかの問いだったが、薄手の部屋着にも戸惑い、間違えて恋愛成就のトランプ占いを始めてしまった。

成功確率は5%の設定。甘い匂いを発する彼女の髪。

数日後「初恋」と認識したが、その時は混乱。施設前を通る黒髪の女性はどうだったろうか。性愛願望の転化?

占いは予想に反し、成功に近づいていた。

カードの導きか。成功したら。
速まる鼓動の中で浮かぶ想念。彼女に対する特別な思いを告白しなくてはならない。拒絶の恐怖と同時に、解放される思い。
♡のエースか♡のクイーンが出たら言わなければならない。


♡のクイーンが出た。呼吸か苦しい。

 

自分の赤面を感じた。手も震える。まだ未熟。
大学生活がうまく行くと伝えたが、声は震えていた。
彼女は奨学金で大学に行くため来月施設を出る。施設はかなりの田舎にあった。彼女のその後は知らない。

黒髪の女性も、いつの間にかみかけなくなった。

 

小6になり、以前こっくりさん絡みで階段から落ちた彼女とすれ違った。
振り返ってバツが悪そうに笑い、去って行った彼女。
あの頃、別の世界に感染していた僕たち。成長への不安?
ミミズクの剥製の耳は立ったままだった。恐らくあの学校で、今でも立っているだろう。

 

中学生になり、ギリシャ神話の白昼夢は徐々になくなった。
女性に対する苦しい想像は続く。それが思春期。
初めてつき合う女性が出来た時期に、インフルエンザに罹った。

再びブエルの出現。


君の仮面をめくった先にあるのは、とても奇妙な存在。

レトルト文化人間という言い回し。
ブエルが消えた瞬間たてがみをひるがえした。

胸に強い衝撃があり、飼育小屋の臭気を感じた。
ブエルは言う。君が将来精神を病んだ時、頼れるのは私。世界全体が病んだ時は別の者が出現する。
目覚めた時、飼育小屋の臭いは残っていた。

 


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