監督 森崎東
脚本 荒井晴彦
原作 村松友視
キャスト
安さん :渡瀬恒彦
真弓、美郷 :夏目雅子
若者 :沖田浩之
サンライズ・マスター :津川雅彦
サンライズ・ユキちゃん :中山貴美子
サンライズ・渡辺クン :趙方豪
菊池松江 :朝丘雪路
鈴木健一 :平田満
トン吉・おかみ :藤田弓子
トン吉・おやじ :藤木悠
クリーニング店・今井さん :大坂志郎
クリーニング店・奥さん :初井言榮
平野旅館前主人 :坂野比呂志
平野旅館の客 :名古屋章
感想
過去数度観ている。
夏目雅子のために作られた、と言っていい映画。
「時代屋」という骨董屋に、ふらりと訪れた女性を巡る物語。
オマケの話が多すぎる、との批判もあるが、繰り返し観ているうちに、それぞれのエピソード全てが愛おしくなってくる。
例えば安さんの父の後妻、松江。ただの継母ではない。
安さんが、父の事を母親に対してひどい人だったとは言ったが、それほど母から愛情を受けたわけではなく、彼の幼い記憶にあったのは、当時お手伝いだった松江。息子の世話を松江に任せきりだった母親。熱を出した安さんを抱きしめる松江。
そらー、あの豊満な胸でギューっとされたら刷り込まれるわな。
会話の中の微妙なニュアンスで、この二人の肉体関係を想像させる。安さんが下半身にちょっと倫理観がないのは松江のせいか?・・・・
マスターの津川雅彦もイイ味を出している。
離婚した妻子に送金しながら、店の女の子とイイ仲になるも、借金で首が回らなくなる。それでも安さんの事を心配して盛岡まで付き合う。
小樽へ電車で行く時の別れにはジンと来た。
真弓については、美郷は絶対真弓が変装しているのだと思ったが、マスターが公園で真弓の逆立ちを見た時、胸の下にホクロがあるのを見ていた。鈴木健一の話では美郷のそこにホクロはなく、二人は別人。
まあ、基本大人のファンタジーなのだからいいんだけど。
真弓と関係のあった青年が、彼女の事を「団地に帰るんじゃないですか」と言った事で、安さんが眺めていた団地の明かりにリアリティが湧く。彼女はそこから来たのだろうか。
多少の疑問を残したまま帰って来た真弓と、安さんはどう付き合っていくのだろう・・・
繰り返しの視聴に耐える作品。
あらすじ
東京で骨董店の「時代屋」を営む「安さん」。
ある日猫を抱いて店を訪れる若い女。
品物でなく、時代を売るから時代屋・・・・
猫はその辺で拾ったという。しわがれた鳴き声だから「アブサン」。
店にある涙壺の話。戦地にいった夫を思った妻が溜めるもの。
猫と一緒に店に棲み付いた女は真弓といった。
寝た後に安さんが詳しい事を聞こうとすると「私のことは今わかったでしょ、踏み込まないのが都会のルール」。
それから半年。
「ちょっと出てきます、アブサンのエサ忘れないでね」とのメッセージを残し、真弓が居なくなる。
居酒屋「トン吉」での会話。毎晩おやじにプロレス技をかけるおかみ(当時のリングネームはグレート小松)。
喫茶「サンライズ」のマスター。そしてクリーニング店の今井さん。
安さんの仕事に「死にかけたものを生き返らせる、やさしいのか残酷なのか分からない仕事」との言葉。
それから四日後に真弓は戻って来た。何も訊かない安さん。
その後も時々起こる不在。
三回目の不在から帰った時、「アブサン、どう思う?」と安さん。
銭湯からの帰り、真弓が言う言葉
「涙って、耳の穴から心に戻る気がする」
今井クリーニングの奥さんが旧い革のトランクを持って来る。亭主がずっと持っていたという。引き取った安さんだが、中に切符が入っており、日付が二月二十六日。
もし2.26事件と同じなら値打ちもの、と骨董屋魂。
切符を返しに今井さんを訪ねる安さんに、微妙なリアクションの今井さん。
その後トランクを取り返しに来る今井さん。
言い値で買い取るとの言葉に「買った時の三千円でいいよ」。
そんなある日、また真弓の不在。
今度は「安さん、あまり飲まないでね。さよなら」とのメッセージ。
居なくなる少し前に、真弓につきまとう青年がいた。
マスターが訪ねて来る。借金で身動きが取れない。
時代屋を始めたいきさつを聞くマスター。
開いて八年。古い道具が好きで始めた。
ポップな古道具屋は真弓ちゃんのおかげや、と言うマスターに「今度は帰らない気がする」
最近亭主が張り切ってる、とクリーニング屋の奥さん。
あのトランクは若い頃の思い出の品。十五、六の時人妻と駆け落ちし、自分だけが駅で捕まった。彼女とはそれきり。
安さんの父の後妻、松江が訪れる。
父親の見舞いに来て欲しいという。ここ二、三日がヤマ。
母親に対してひどい男だった、と拒む安さん。
安さんが常連と「トン吉」で飲んでいるところへ入って来たパーマの女。安さんの話を横で聞いて「女が蒸発する時は一人じゃない、必ず男がいる」
その後みんなでベロベロになるまで飲み、歌う。女は美郷といった。
美郷を店まで連れて来る安さん。
東京での最後の夜、と言って下着姿になる美郷を抱く安さん。
翌朝、汚れたシーツを洗うと言って聞かない美郷とコインランドリーに行く安さん。駅のホームで、泣きながら走って見送って欲しいという。
マスターのところへ真弓から伝言が入る。
翌日、駅で美郷の願いを叶える安さん。
別れる前に、一週間後に郷里の盛岡で結婚すると言った美郷。
店に戻るとマスターが来ていた。喫茶店を閉めるという。
夜逃げならぬ朝逃げ。
そして真弓からの伝言「のぞきからくりを売ってくれる」を伝える。
昨年の夏、盛岡の平野旅館にあったのぞきからくり。
その時の主人は売らないと言っていた。
車で盛岡に行こうとする安さんに、友人のツテがあり小樽に行くマスターも途中まで同行。
盛岡の平野旅館で酒を飲む安さんとマスター。宿泊の客も合流。
のぞきからくりはそこにあった。先日ご主人が亡くなり、真弓に言われて奥さんが売る気になったらしい。
もう一つ、安さんが欲しがっていた囲炉裏の南部鉄瓶は、売られて小さいものになっていた。
客が奥さんに真弓の事を聞くと、一昨日男と二人連れで来たという。
相手は安さんの様な男。ショックを受ける安さん。
部屋の隅の五右衛門風呂に安さんが入っているところへ、オートバイに乗って来た男、鈴木健一が迫る。
実は美郷の婚約者。盛岡に帰ったが、好きな人が出来たと言って東京へ行ってしまった。
風呂から立ってイチモツを出したまま謝る安さんに「座れぇ!そったらもん見たくねぇ!」と健一。
その後和解して皆で飲み明かす。
翌日マスターは電車で小樽に向けて出発した。
宿に戻ると、客が昨夜の婆さんの話は、昨年の安さんたちの事であり、今回の真弓は一人だったとのこと。
のぞきからくりの屋台をトラックに積み、東京に戻る安さん。
帰りの道で、安さんに近づく軽トラック。
ラーメン屋で事情を聞く安さん。その若者は真弓から時代屋の事を聞いていて、車のロゴを見て近づいた。
真弓に会ったのは、母親の葬儀の直後。
あんなに悲しい目を見たのは初めて、と真弓は若者に体を差し出す。
真弓を主婦売春と勘違いして持ち金の三千円を渡した若者。
若者はそれからも真弓につきまとい、死んでやると言って彼女を引き回した。
ある時線路で、死ぬパフォーマンスをした時、逃げずにそこで動かない真弓。焦った若者。電車は真弓の直前で何とか止まった。
その別れ際、真弓は「旅に出てから家へ戻る」と言ったという。
安さんが家に帰ると、そこに喪服姿の松江が待っていた。
新聞を見せる。ガラス工芸家だった父の訃報記事。
あの涙壺はニセモノだという。松江が作った。
いつかあんたが使う日が来たらいい、女は判れる時、男が自分のために傷付いたらバンザイ。
少しは傷付いたみたいね、と張り紙を指して帰る松江。
そこには美郷が「やっぱり盛岡に帰ります」と書置きしていた。
アブサンもいない。
翌日、アブサンが帰って来た。
その後、窓越しに日傘をさした真弓が歩道橋を歩いて来た。
その差し上げた手には、安さんが欲しがっていた南部鉄瓶が。