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新聞小説 「ひこばえ」 (15)  重松 清

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新聞小説 「ひこばえ」(15)  5/9(331)~6/1(354)

作:重松 清  画:川上 和生

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第十四章 帰郷  1~23
新幹線で郷里に向かう洋一郎。骨箱はスポーツバッグに入れて膝の上。床の上には置きたくないので、けっこうな苦行。


真知子さんの同行を断り、航太にも断ったが、頼みの夏子は所用で行けず結局一人での旅。
遺骨を持ち出すにあたって道明和尚に断りを入れた時、川端さんから聞いた和尚の父親との関係。厳しいばかりで親しくなれないまま死なれた。ある意味洋一郎が羨ましい。

 

大阪駅に近づくにつれて一九七〇年の万博を思い出す。離婚直後の苦しい中、夜行列車で子供二人を連れて来てくれた母。
郷里へ来るに当たっては、仕事の言い訳を作っていたが、姉には見透かされていた。帰省の理由そのものを否定する姉。
備後駅を間近にして、姉からの電話。航太から何のための帰郷か聞き出していた。そのまま東京に帰りなさい、と冷たい声。

 

予約したホテルは、海の見えるところを選んだ。せめてもの供養。
あんた、今すごく親不孝な事をしようとしている、という姉の言葉を思い出す。


チェックインした後、父の遺骨を置いて待ち合わせの時間まで備後市街を散策。自身の仕事も含め、今後の高齢化社会に思いを馳せる。自分たちの墓、父の遺骨・・・

そろそろ向かおうかと思っていたところに母からの電話。亡き継父隆さんの息子一雄さんと妻の由香里さんが一席設けたとの事。そこで相談があると言う母(私のワガママ)・・・
意味がわからず姉に電話を入れると、何かを察知して私も行くと言い出す姉。

 

母の住む一雄さんの家から、ワンボックスカーで店に向かう。なさぬ仲の微妙さで、会話もぎこちなく、居心地の悪い思い。
店に着いてまず乾杯。最初は当り障りのない話。自分に生まれた初孫の遼星に対する祝いの意味もあったが、一族郎党が増えるのはいい事だという一雄さんに微妙な思いの洋一郎。
一雄さんの一人息子貴大君はまだ結婚の見込みなく、一雄さんの弟である雄二夫妻は、不妊治療するも甲斐なく五十代を迎えている。

先細りの長谷川本家。

 

時間稼ぎも限界で、強い燗酒を注文する一雄さん。車は代行を予約。
そして促される様に母が話し出す。自分が亡くなった後、長谷川家の墓には入らないという。亡き先妻の良江さんと同じ墓に入ったら、いけんじゃろう・・・
母を追い詰めないよう、由香里さんがホタル狩りに連れ出した。


同じ墓でいいと思っとる、と一雄さん。
ヘタに踏み込めない案件に、本題からそれた話ばかりを続ける二人。
母は、自分たちと居るよりも施設などに入った方が幸せなのではないかと話す一雄さん。少しづつ頑固になって来ている、とも。
言い方に引っ掛かるが、捨てるのではなく、彼にも言い分がある、と理解する洋一郎。妻と死別して母と再婚した隆さんに対し、離婚した後隆さんと再婚した母。
お母さんは、あんたらのお父さんの事をどう思っとったんじゃろう、と一雄さん。 なぜこのタイミングで・・・言葉に詰まる洋一郎。

 

そこに尖った声で乗り込んで来る姉。

母と由香里さんから概略を聞いていた。


今はわけの判らない事を言ってるけど、お墓に入れてあげてと言う姉。
姉の頭の中は、一雄さん夫婦が母を追い込んでいる、という思いに支配されている。
そこで長谷川のお墓はこの先持つんですか、と暗に貴大の結婚問題に掠る姉。
お姉さんに心配される筋合いはない、と言い返す由香里。

 

墓の話が進展しない中で姉が、いきなり洋一郎に話を振った。

遺骨の話をしちゃいなさい、と目で伝える。

とっさの事で、シナリオもないまま愚直に、この四月からの状況を皆に話す洋一郎。
一雄さん夫婦の反応は、単に歴史上の出来事を聞いている様なもの。姉は度々声を上げてショックを受け、母は噛みしめる様に聞いた。
ろくに食事も出来ないまま散開となり、遺骨はホテルにあると母らに伝えて戻った洋一郎。

 

夏子に概要を伝えてからルームサービスでウィスキーのセットを頼み、飲み始める。

座ったまま寝入ってしまい、途中で目覚めてベッドに潜り込む。
次に目覚めた時、椅子に父が座っていないかと期待したが、もちろんそんな事はなかった。


だが朝の光を浴びて、温もりを注ぎ込まれた様な骨箱。

 

 

感想
いよいよ、遺骨を母に見せるための行動を起こす洋一郎。
ただ、それはさほど積極的なものではなく、小雪さんに線香を上げてもらうため、順序としての感覚の方が強いのだろう。

徹底して父を否定する姉。しかし母親が長谷川の墓に入らないという話の中で、どうして父の遺骨の話をブチまける気になったのか。
元々合祀してしまえと言っていたのが、洋一郎の墓に入れる事にまで言及するとは・・・・
要は一雄さん夫婦の、いわば子孫作りに対する揶揄。

この先墓の面倒を見られるか、なんて正面切って言われたら、フツーに考えたら相手は怒るだろう。由香里さんとのバトルにビビる・・・

 

しかしこの墓の話、実はウチの数年前でも検討のあげく墓を建てた(記事はコチラコチラ)。

早くに両親が死に、父親は末っ子だったため、本家の墓には入らない。ずっと菩提寺の納骨堂に遺骨を納めていたが、墓の土地だけ買って放置していたら市から建立の請求。
結局建てたが、あれから年数が経ってみると、我が子は結婚の気配なく、この先家系が続いて行く見込みが読めない。
納骨堂のままで良かったか、と思う今日この頃・・・・

 

 


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