形ばかりのリグログで申し訳けないですが、ジェーン・ドゥさんの「マハーシャラ・アリ」愛に敬意を表して・・・・
監督 ピーター・ファレリー
脚本 ニック・バレロンガ、ブライアン・ヘインズ・クリー
音楽 クリス・バワーズ
キャスト
トニー・バレロンガ (トニー) - ヴィゴ・モーテンセン
ドナルド・シャーリー(ドク) - マハーシャラ・アリ
ドロレス・バレロンガ - リンダ・カーデリーニ
オレグ - ディメター・マリノフ チェロ奏者
ジョージ - マイク・ハットン ベース奏者
ジョニー・ヴェネス - セバスティアン・マニスカルコ トニーの弟
ムービークリップ(思い出しの助けに)
1.Tony's Job Interview Scene
2.Fried Chicken Etiquette Scene
3.Barroom Brawl Scene
4.Caught In The Act Scene
5.After Midnight Scene
6.Dignity Always Prevails Scene
7.I'm Way Blacker Than You Scene
8.Dining Room Indignity Scene
9.At The Orange Bird Jukejoint Scene
10.Christmas Dinner Scene
11.Best Scenes
感想
元々行きつけの映画館では上映予定がなかったが、アカデミー賞の受賞を受けて急きょ上映決定。通常館の一週間遅れで公開された(観たいと思っていたのでラッキー♪)。
黒人ピアニストが、白人の運転手を雇って差別の色濃い南部をコンサートツアーに出掛ける。
ツアーに出掛けるまでのバレロンガ家がていねいに描かれる。仕事(用心棒)では強面のトニーも、家では妻のドロレスへの愛妻家ぶりがハンパない。ドロレスもそんなトニーをこよなく愛す。また二人の息子も素直にトニーに甘える。
家族はそれだけでは収まらず、兄弟なのか従兄なのか微妙な者たちで賑やかな、いかにもイタリア系の団らん。
ドロレスを演じるリンダ・カーデリーニは、つい先日までDlifeで再放送されていた「ER(緊急救命室)」の中で看護師のサマンサをやっていた、私のお気に入り。バツグンの安定性で優しい妻を演じる。
この日予告やってた「ハンターキラー 潜航せよ」にも顔出してたし、最近頑張ってる。
初対面での王子様の様な振る舞いに閉口したトニーは、高い週給を吹っかけて自らその仕事を降りる。
ドクが、最初の面接では落としたトニーに期待したのは、腕っぷしもさることながら「リップ」とあだ名される口達者なトラブル解決能力。
今まで、積極的でないにしろ黒人蔑視を行って来たトニーが、黒人を雇い主に持って少しづつ変化していく様が興味深かった。
それは単に金で雇われたという事ではない。初めて聞いたドクのピアノに、みるみる表情が変わって行くトニー。
ドクが毎晩届けるようにと言った酒は「カティサーク」。
白人が好んで飲むスコッチ・ウィスキー。黒人として白人的な生き方を選んだ者のこだわりか。
ちょっと心に残ったのは、店でトニーが盗んだ石をドクが「私が買ってやる」と言った時「それじゃ、意味がないんだよ」と言った事。あれはおまじないみたいなもので、リスクを冒して手に入れたものが運を呼び寄せる、といった意味があったのだろう。優等生には判らない感覚。
ツアーが終わりトニーを送り届け、部屋に戻ってからその石をそっとなでるドク。旅行を守ってくれた大事なお守りに対する労わり。
エピソードを重ねるうちに、次第に心が通じ合って行く二人。
お互いが警察の世話になった時、互いのスキルで相手を助けた。この辺りはなかなかシャレている。
この映画は振りかぶって黒人差別を扱ったものではなく、トニーとドクという二人を描いたロードムービー、という事に尽きる。ヌルく見えても、黒人が納得する、しないという事も別に問題にしていない。
映画として十分楽しんだ、それでいい。
字幕は戸田奈津子。最近あまり見ないが、やっぱりほっとする感じはある。
この映画で重要な脇役として活躍したのが「クルマ」
キャデラック ドゥビル セダン(Cadillac Sedan DeVille)であり(二代目:1961~1964年式)、当時の設定から言えばバリバリの新車。ドクの評価の高さが窺える。
このきれいなターコイズグリーンも「グリーンブック」との重ねで印象を深めている。
車関連記事はこちら
そういえばドク役のマハーシャラ・アリは「アリータ」で悪役のベクターをやった人で、全く異なる人間をうまく演じている。また今回のピアニストぶりには驚くしかなく、ホント役者というものはすごいと思わせる。
実際のドン・シャーリーの演奏
普通ジャズでトリオと言えばピアノ、ベース、ドラムスだが、ドラムスがチェロに代わる事でクラシック色が強くなる。
10年ぐらい前までは音楽活動していた様だが、知らなかった。
あらすじ
1962年のニューヨーク。
ナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒をやっているトニー・バレロンガ。
店が改装工事で2ケ月休業するため、その間の金の工面に苦慮していた。
家には親戚たちも含めた大人数が住んでいる。家の修理に来ている黒人の作業員に飲み物を出す妻のドロレスだが、後に使ったコップをゴミ箱に捨てるトニー。
生活費の足しにしようとホットドッグの大食い大会で50ドルをせしめ、妻のドロレスに。
店のオーナーの紹介で運転手の口の面接に出掛けるトニー。雇い主はドクターだという。
その住所はカーネギーホールだった。劇場に行くと二階だといわれた。
相手はドクター・ドナルド・シャーリー。音楽家で博士号も持っているため「ドク(ドクター)」と呼ばれている。
仕事は、ドクが今度ツアーで回る南部での旅2ケ月への同行。
運転手だけでなくマネージャー、世話係、用心棒も含む。
経費別で週給100ドル。そしてピアノは必ずスタインウェイを指定。
トニーは、世話まではしないと言い、週給125ドルならやると言った。そのままトニーは帰される。
用心棒としての腕は確かなので、地元のワル連中が仕事を紹介するが、みな断るトニー。そして時計を質屋に持って行き、何とか50ドルを手にする。
翌朝ベッドのトニーに電話。ドクからだった。条件はトニーの言う通りとして雇いたいとの申し出。はっきりしないトニーにドロレスに替わる様に言い、トニーが2ケ月家を空けていいかと訊ねる。承諾するドロレス。
出発の日。車はキャデラック。音楽関係者から「グリーンブック」を渡されるトニー。南部を旅する黒人のための旅行ガイド。ドロレスは、定期的に手紙を送るようトニーに言う(電話は高いから)。
ドクとトリオを組む、チェロのオレグとベースのジョージはロシア人で別の車。
12月23日のツアー最終日が終わったら、クリスマス・イブのうちに家へ帰りたいと申し出るトニー。
ドクはトニーをツアーメンバーとして客に紹介してもいいと思っており、言葉遣いを直すよう言う。更に名前のバレロンガが言い難いので「バリー」としてはどうかと提案。
だがトニーは愛称の「リップ」ならいいが、それがだめなら「バレロンガ」以外はだめだと拒否。
結局トニーは外で、もう一人の黒人運転手とコンサートを見ることに。
司会の話すドクの経歴は、3歳で初コンサート、9歳でレニングラードに留学。音楽、心理学等の博士号を取り、ホワイトハウスでも演奏。
そしてドクの演奏を聴き、その素晴らしさに感嘆したトニーは、ドロレスへの手紙に「彼は天才だ!」と書いた。
だがホテルのベランダから見たドクは、一人で酒を飲んでおり孤独そのもの。
彼の部屋に毎晩必ずカティサークを一本届けるのがトニーの仕事。
車のラジオでリトル・リチャードの曲を流すトニー。黒人ロック歌手の事を知らないドクに驚く。ヨーロッパで育ち、クラシックしか知らないドクはアレサ・フランクリンも知らなかった。
次第に身の上話をする二人。
トニーのあだ名「リップ」は口が達者でデタラメが得意だから。だが嘘とははっきり区別している。
ドクは、兄がいるが今は疎遠になっている事、かつて結婚していたがピアニストと両立出来なかった事などを話す。
途中て立ち寄った店で、陳列棚から地面に落ちているグリーンのヒスイを拾ってポケットに入れるトニー。
だがそれを後ろの車で見ていたオレグがドクに告げ口。
車に戻り、出掛けようとするトニーに「石を返せ」と言うドク。落ちているのを拾っただけだと言うが譲らない。なんなら自分が買ってやると言うのに対し「それじゃあ意味がない」と言い、憤慨して返しに行くトニー。
次の会場で設備チェックをするトニー。ピアノがスタインウェイではなく、ゴミも入っている。この指定は興行主には事前に入れてある条件。
相手に契約と違う。まだ3時間あるから、と取り換えを指示するトニーに興行主は、黒人が弾くんだからこれでいいと言い、トニーにも「イタリア野郎」。パンチを食わせるトニー。
結局スタインウェイは準備された。
ケンタッキー州に入り、ケンタッキー・フライド・チキンの一号店で買い込むトニー。それを一度も食べた事がないドクに無理やり押し付ける。
バーレルで買ったので、次を渡すと受け取るドク(意外にうまい)。
残った骨の扱いを聞くドクに「こうするのさ」と窓から外に放るトニー。笑って真似るドクだが、トニーが飲み物の紙コップを捨てた時にはバックを指示して拾わせた。
次の土地は白人と黒人両方が泊まれるホテルがなく、黒人専用ホテルにドクを置いて行くトニー。グリーンブックは必需品。
オレグが飛んで来て、ドクが酒場でトラブルを起こしたと言う。
地元の白人に囲まれているドク。一人を殴って話をつけようとするが、相手の一人がナイフを出した。
彼を放さないと撃つ、と言ってズボンの後ろに手を回すトニー。少しの沈黙の後、店主がライフルを構えてトニーに向け、そして白人にも向ける。ドクを引き取って店から出るトニー。
本当に銃を持っているのか?と聞くドクに「まさか」
そして南部では俺のそばを離れるな、と警告。
翌日、オーバーヒートで車をエンストさせるトニー。
応急処置をする間ドクが外に出ると、そこは黒人労働者が農作業をしている現場。上流階級の黒人に対する冷たい視線。
次の演奏の場はノースカロライナ。白人名士の自宅でのコンサート。晩餐にフライドチキンを希望して客から受けるドク。
だがドクがトイレに行こうとすると、そこの主人が庭の隅の黒人用のトイレを指す。いつ使われたのかも判らない様な汚い小屋。
それを拒否してホテルまで戻るドク。往復で30分以上かかるため、どこか途中でやればいいだろうと言うトニーにも耳を貸さない。
だが戻ってコンサートをし、普通に白人たちと握手をするドク。
その夜、ドクが警察に拘留されたとの知らせが入る。トニーが行くと、手錠をかけられたドクと白人の男が裸で座らされていた。白人を「おばさん」と言う警官。
言葉巧みに警官を買収してドクの身柄を引き取るトニーに、買収した事を咎め「今夜の事は知られたくなかった」と礼も言わないドク。
翌日、ドクは昨晩の事を謝罪する。
トニーがドロレスに手紙を書いているところを見ているドク。
書いたものを読ませると、もっとロマンチックにしなくては、と自分で言う文章を書き取らせた。
手紙を受け取ったドロレスは、それを読んで喜ぶ。
次の地はテネシー州のメンフィス。そこでニューヨーク時代の友達に会うトニー。黒人に雇われていると聞き、イタリア語でもっといい仕事を紹介すると言った友達。
その友達の所へ飲みに行こうとしたトニーに、正規マネージャーとして契約したいと申し出るドク。イタリア語が判っていた。
仕事を途中で投げ出す様な事はしないと安心させ、一緒に飲む二人。
ドクは本来クラシックをやりたいが、その分野で黒人は入り込む余地がない、とドク。あんたにしか弾けない分野があると励ますトニー。
時折りトニーが出す手紙に親戚の妻たちも感激し、亭主に手紙を要求。
旅も終盤に入り、ミシシッピー州を走っている時パトカーに停められるトニー。黒人の夜間外出は禁止だと言う。
穏便に済まそうとしたトニーだが警官が、黒人に雇われているトニーに、イタリア系は半分黒だからと笑う。
その瞬間警官を殴り倒すトニー。
揃って留置場に入るトニーとドク。暴力は敗北だ、と言うドク。
弁護士に電話をする権利がある、と要求するドクにしぶしぶ電話をさせる署長。
それから数分して電話が入り、それを受けた署長は血相を変えて二人を釈放した。
ドクが電話を掛けた相手は司法長官のロバート・ケネディ。
だが州警察までも巻き込んでしまった事を悔やむドク。
すぐ手が出るトニーを責めるドクに、あんたは白人相手にピアノを弾いて黒人文化も知らない。俺の方がよっぽど黒人だ、と言うトニー。
車を停めさせて外に出たドクが「ピアノを弾いていない時、私はただの黒人。でも黒人たちにも受け入れてもらえない。私は”はぐれ黒人”だ」と叫ぶ。
その晩、黒人用のドクの宿に泊まるトニー。
12月23日、アラバマ州バーミンガムでツアー最後となるコンサートが開かれようとしていた。楽屋代わりの狭い物置に案内されるドク。こんな扱いにはもう慣れていた。
先に併設のレストランで食事をするトニーと、トリオのオレグ、ジョージは三人でウォッカによる乾杯。
オレグが話す、ドクがこの旅を決意した理由。
1956年、黒人ジャズピアニストのナット・キング・コールがバーミンガムで演奏した時、白人の団体に舞台から引きずり下ろされてリンチされる事件があった。ドクは、そんな南部の状況を自分の目で見てコンサートをしようと考えた。
そこへ食事をしようと訪れたドク。だが支配人が彼を制した。今までの決まりで黒人をレストランには入れられないという。トニーがとりなすがダメ。ここで食事が出来ないなら演奏はしないと言うドク。
支配人が廊下の隅にトニーを連れて行き、金を渡してとりなしを頼もうとする。怒って支配人を殴ろうとするトニーだが思い留まる。
それを見てドクが「トニーがいいと言えば演奏する」
だがトニーは「こんなとこは出ていこうぜ(Let's get the fuck out of here)」と言ってドクを連れて出る。笑い合う二人。
近くのバーに入ると黒人ばかり。ステージにはピアノと楽器が置いてあるが、誰も演奏していない。
酒を注文する時に、ドクが札束を出そうとしたのを鋭い目で見る客がいた。ドクの立派な身なりにバーテンが職業を聞くとトニーが「ピアニスト」と言ってドクに目くばせ。
ドクがピアノの前に座り、見事なフレーズの演奏を行うと、一瞬の静寂の後大喝采。
そして他の楽器メンバーが次第に集まってのジャムセッション。
楽しいひとときを過ごして店を出る二人。だが車の陰に男二人。
ズボンの後ろに手を回して銃を取り出し、空に向けて二発撃つトニー。男たちは逃げて行った。
驚いているドクに「人前で札束を見せるな」とトニー。
トニーはクリスマスパーティーに間に合わせようと帰路を飛ばすが、雪が降って来て視界も悪い。
そんな時に後ろからパトカーが。またかとうんざりするトニーに、後輪がパンクしている事を教える警官。雪道で気付かなかった。
警官が交通整理をしてくれる中、タイヤ交換を済ませて再び走り出すが、睡魔でもう走れないトニー。
数時間後、トニーの家に辿り着いた車。
トニーに代わってドクが運転していた。
起こされたトニーは家族に会ってくれと言うが、そのまま車で自宅のカーネギーホールに戻って行ったドク。
家ではドロレス他親戚が集まりクリスマスパーティーの最中。帰還を喜ぶみんな。
弟のジョニーがそっとトニーに時計を渡す。流されないよう、質屋から取り戻していた。75ドルと聞き、60ドルだった筈だと聞き返すが、差額は手数料。
ドクは一人の部屋に戻る。緑のヒスイをそっと机に置く。返すと言って結局トニーが持って来たものが車に残っていた。
トニーの家では皆が旅の話をききたがった。そんな中、ドクの事をニガーと言った者がいた。「その言葉は使うな」とトニー。
客の来訪。質屋の老夫婦だった。ジョニーが社交辞令で言ったのを真に受けた。だが歓待するトニー。
そんな時、もう一人の客。ドクだった。ハグするトニー。
ドロレスも来てドクにハグし、耳元で「手紙をありがとう」とささやいた。
実話におけるドクとトニーのそれからの交流が語られる。
二人は終生友情を保ち続け、2013年の同じ様な時期に他界した。