新聞小説 「ひこばえ」(10) 12/18(194)~1/13(219)
作:重松 清 画:川上 和生
第九章 トラブルメーカー 1~26
後藤さんが901号室に入居してから二週間。
スタッフ間で入居者の把握を行うファースト・インプレッションの期間を経て問題点が出始めていた。
まずゴミ出しの件。入居当初901号の前に出ていたゴミ箱を、隣室902号の宇野さんが親切心で空にしてあげたが、ゴミ放置が三日続いて苦情になった。
それを伝えると大いに反省して低姿勢となる後藤さん。
だが正しいゴミ出しはわずか一日で、またゴミ放置が三日続いた。
副施設長の本多君からの注意でようやくそれは止まった。
だがそれからしばらくして、週一で部屋の清掃を行う業者からの報告。後藤さんの部屋の散らかりようがひどいとの事。そして高アルコール濃度の酎ハイ空き缶が十数本。
また、別のケアマネージャーからの情報では「やすらぎ館」の女性スタッフに対して、入居者のケアをする姿に対し「もっと楽な仕事があるだろうに」などと、やる気をなくす様な言い方を後藤さんがしているらしい。慰めや励ましが、却って神経を逆なでするとの事で、スタッフらの印象は最悪。
だが別件があり定時で帰る洋一郎。実は父の遺骨を持って北海道回りをしていた神田さんが帰京するため、遺骨返却を兼ねて話を聞くことになっていた。
父の携帯電話のアドレス帳の人への連絡をすると言っていた、西条真知子さんも報告に来る。
電車で向かう途中でメールチェックすると、本多君からのメッセージがありコールバックする洋一郎。
夕食時、後藤さんが初めて夕食の席に缶チューハイを持ち込んで飲んだ。飲酒自体は禁止されていないが、たまたま相席だった入居者の綿貫さんもワインを飲んでいたため、話が弾んだ。
後藤さんはそれからも自販機でチューハイを買って話し続け、綿貫さんは閉口。また後藤さんは息子の自慢話を延々と始めた。入居者の中には、子供の話は地雷原にもなる。
自販機の弱い酒では飽き足らず、自室に戻って強い酒を取って来た後藤さん。既に綿貫さんは部屋に戻っており、今度は回りの人に酒を勧める後藤さん。
それを見かねた入居者が本多君を呼んで収めさせた。
明日、何とか言って下さい、との本多君の言葉。
電話を切ると真知子さんからの電話。既に神田さんは遺骨を寺に返したので、居酒屋で話そうと言う。
海鮮系の居酒屋で神田さん、真知子さんに会う洋一郎。七輪でイカを焼く神田さんの一方で真知子さんの報告。
三十件あまりの登録の中の半分について相手に電話を入れたが、そのうち三件は着信拒否。つながった十件あまりもその反応は冷たいものだったという。中には直後に着信拒否になったり。
真知子さんなりに父に対して好印象を持っていたため、この結果に落胆し、残りについて続けるべきかどうかを聞いて来た。
イカに次いでホッケの干物を焼いている神田さん。迷ってるならひっくり返すな、と。
その禅問答を受けて、残りにも電話するよう頼む洋一郎。結果がどうでも、とにかく親父をすっきりさせてやりたい。
次いで神田さんの話。景色が単調な道央自動車道ではなく、海沿いの国道を選んで走ったという。
ノブさんとの関係を改めて話し始める神田さん。釣りの時の延長で、彼とはいつも隣り同士が多く、差し向かいだった事がないから、立ち入った話はしなかった。
荒川急便の頃には、ちょっと金にだらしなくて仲間から小金を借りたり、会社から前借りなどもしていたらしい。それで会社の寮から夜逃げのように居なくなった。
その後一年ほどして連絡があり、またつきあいが復活。
親父は神田さんにも迷惑をかけたのでは?という問いには
「もう忘れた、昔のことだ」
そうして再会した後、父が急逝するまで付き合いが続いた。父が更なる借金をしたかどうかは、判らない。
友だちの前でいいカッコする気持ち、わかるだろう?
ノブさんが背負っていた事や後悔、そういった事は何もわからん。だから教えてやれないんだ、と謝る神田さん。
「親父と友達で居てくださって、ありがとうございます」との言葉に
「どんな親だろうと・・・親は、親だ」
感想
特別案件で入居した後藤さんの問題。態度が卑屈な割りに、下の者には横柄になる。これは最悪だが自分も高年齢になるにつれ、そうなって行く可能性がある。他山の石としよう。
果たして認知症の前触れなのか。
施設内でゴミ屋敷というのも恥ずかしい話。
そして神田さんと真知子さんの報告。
多分神田さんは父への貸金があったのだろう。それを押し殺して「親は親」と言う言葉が切ない。
神田さん自身、辛い私生活があるのかも知れない。
真知子さんのアドレス調査は、まああんなもんだろう。借金に回るためのリストだったら、そらー受けた後着信拒否になるわな。
この小説も、もう200回を超えた。連載一年少しを前提とすれば起、承ときて、そろそろ新しいネタが欲しいところ。