先日レビューした宮﨑吾朗監督のアニメ「ゲド戦記」。原作との違いがイロイロ騒がれたが、この機会に改めておさらいを・・・・
アメリカの女流作家アーシュラ・K・ル=グウィンによって書かれた5巻に亘る冒険長編小説。
アースシーという海域の中心をなすアーキペラゴ(多島海)が舞台。
今年一月の、彼女の死去により三部作に追加して残りの二巻を通読した。
だが何せ長い。以前書いたあらすじでは冗長過ぎて扱いかねる。
そこで今回二段構えであらすじの再整理を行った。
細かいのが好きな向きには以下を・・・
Ⅰ、 Ⅱ、 Ⅲ、 Ⅳ、 Ⅴ
アースシー地図
全体まとめ
最初は、優れた魔法力を持った少年ハイタカ(ゲド)の成長物語として始まった。
千年前の亡霊を呼び出すと共に、自分の内なる「影」を引きずりだしてしまったゲド。それは心の闇。様々な試練を乗り越えて、再び影と一体になったゲドの姿に勇気をもらった少年たちは多かっただろう。
二巻でのテナーの話は、孤立した者へのメッセージ。運命として大巫女の人生を押し付けられた アルハ(テナー)が、壊れた腕輪の半分を取りに来たゲドとのやりとりの中で自己を見出して行く。
三巻では新たに少年アレンが加わり、世界の均衡の乱れを正すために立ち上がる。
それから二十年あまりを経て書かれた続編は、不遇の少女テルーを加えてテナー、ゲドらとの擬似家族を軸に、竜の娘テハヌーの出現までを描く。
そして最終巻。生と死の境でなおも起きている異変を解決するために奔走するアレン(レバンネン)とテルー(テハヌー)。
続編では、今まで物語の中軸を占めていた魔法の力は全く描かれず、生死の分かち、人の心への回帰などを、竜との関わりになぞらえて掘り下げる。
世界の均衡を取り戻す事のトレースが、自分自身の均衡回復にも繋がっており、人との関係で悩みを持つ者にとっては、いくばくかの助けになるかも知れない。
今回、作者の死というトリガーは望ましいものではなかったが、二十年の時を越えて、生死を巡る壮大な物語を味わう事が出来たのが、我が残りの人生にとっても有益だったと思える。
超々あらすじ(時間のない人向き)
Ⅰ「影との戦い」
ハイタカ(ゲド)の少年期(数歳)から青年前期(20歳前後)までの話。
魔法を使える少年、ハイタカ。ゲドという真の名を得てローク学院で学ぶが、自分の未熟さのため瀕死の重傷を負い、大賢人ネマールが犠牲になる。そして同時に自分の影を現世に放出してしまう。長い追跡の末に、それを自分の中にまた収めるまでの話。
Ⅱ「こわれた腕輪」
アルハ(テナー)の5歳から16歳辺りまで。
ゲドは彼女より10歳上(26歳)
カルガド帝国の大巫女として育てられたアルハが、伝説の腕環の半分を奪いに来たゲドとのやりとりの中で、自分自身を見出して行く。
最後に完成した腕輪をハブナーに持ち帰る二人。
Ⅲ「さいはての島へ」
腕輪が還って25年。ゲドは50歳、テナー40歳。
アレン(後のレバンネン)は少年(13歳前後)
世界中で魔法が使えなくなる事態が生じる。魔法使いのクモの仕業。生と死の隔てを開いてしまった。西の果てまで行って、クモとの戦いを制し扉を再び閉じるゲドとアレン。
そのためにゲドは魔法の力を無くす。
Ⅳ「帰還」
Ⅲの直後から始まる話。ハブナーに戻ったレバンネンが王となり、ゲドはゴント島に戻る。
Ⅱから続くテナーの物語。農夫の嫁を経て寡婦となったテナーは、親に捨てられ火傷を負ったテルーを救い、共に暮している。力を失いゴントに戻ったゲドは、テナーらとの穏やかな暮らしを手に入れる。だがそれを乱す危機に遭う。
ゲドとテナーを救ったテルーは、竜カレシンの娘テハヌーだった。
Ⅴ「アースシーの風」
レバンネンがテナーと会ってから十五年後。
修繕屋ハンノキが見る夢が、生と死の間に築かれている石垣の異変を知らせていた。それに巻き込まれて行くレバンネンとテハヌー。
元は同じ種族だった人と竜。求めるものの違いから別の生き方を選んだ。その上でなおも竜の持つ自由を求めた人は、生と死の境界に石垣を作って、魂の永遠を求めた。そして行き場をなくした死者の魂。
それを解決するために「まぼろしの森」に集結した者たち。
石垣は壊され、人の側の課題は解決した。そしてテハヌーは竜となって去って行った。
超々あらすじよりは細かく・・・・
超あらすじ
Ⅰ「影との戦い」 国内初版:1976年
ハイタカ(ゲド)の少年期(数歳)から青年期(22歳前後)までの話。
多島海(アーキペラゴ)に浮かぶ小さな島「ゴント」で魔法を操る力を持つ少年ハイタカは、魔法使いオジオンに見いだされ、13歳から「ゲド」という真の名を与えられて修行に入る。
その後魔法を教えるローグ学院に入るゲドはメキメキと頭角を現すが、寮生ヒスイにそそのかされ、千年前に死んだという「エルファーラン」を呼び出し、その後始末のため大賢人ネマールが命を落とす。
ゲドも瀕死の重傷を負い、顔に生涯残る傷も受けた。またゲド自身の影が外に出てしまった。
その後忠誠を誓い、4年の歳月を経て18歳でロー・トーニング島への赴任を許されるゲド。ベンダーに棲み着いた竜への対応で、分不相応な魔法使いを求めた島民。
ある時、まじないで子供を助けようとしたゲドだが、自分の放った影がそれを阻んだ。影と対峙するため、島民に申し出てベンダーの竜退治に出掛けるゲド。そしてベンダーで竜を鎮める。
帰島しても子供を亡くした親からは疎まれ、学院へ帰還するゲド。
だが何らかの力が働いて、どうしてもロークへ行けない。
その道程で策略に遭いテレノン宮殿に幽閉されるゲド。権力者セレット夫人の誘惑。強大な力を持つ石の奴隷にされそうになる。
それから逃れるため、ハヤブサに身を変えて恩師オジオンの元に辿り着くゲド。
手厚い看護で蘇えるゲド。オジオンは影に立ち向かえと激励。
舟で影を追いながら難破し、島に打ち上げられるゲド。
島に二人だけで住んでいる男女の老人の世話を受ける。三日かけて舟を修理して立ち去る時、老婆が半欠けの腕環をくれた。高貴な家系を想像させる。
その後三度影と向き合い戦ったゲド。だが決着は付かず、いつしか切っても切れない絆を意識する。
補給のため「手の型島」を訪れたゲドは、その島の老人の目を治したお礼に「はてみ丸」という舟を譲られる。
次に目指すのは、同僚だったカラスノエンドウが赴任しているイフィッシュ島。再会を喜び合う二人。
厳しい戦いを感じて同行するというカラスノエンドウ。
いくつかの島を経由して最南端に到着する二人。
ついに影を捉えるゲド。砂浜での対決。いくつかのやり取りの後、互いが同時に「ゲド!」と叫び己の影をしかと抱きしめるゲド。二人は溶け合って一つになった。
ゲドは勝ちも負けもしなかった。自分の影に自分の名を付し、己の中に戻した。自分自身の本当の姿を知る者は、自分以外のどんな力にも利用されない。
ゲドはそのような全き人間となった。
Ⅱ「こわれた腕輪」 国内初版:1976年
カルガド帝国、千年続くアチュアンの墓所で巫女として五歳から教育を受ける「アルハ」。幼名をテナーといった。幼い頃から世話をしてくれているマナンは宦官。
十四歳になってからは大巫女としての教育を受ける。十五歳で正式な大巫女となったアルハ。だが教育係のサーとコシルに指示されるばかりの行事。
墓所の地下を巡る無数の通路と部屋。これらの把握も大巫女の仕事。始終通っては覚える日々。
墓あらしの話を伝えるサー。カルガド帝国が出来る前、魔法使いの賢人エレス・アクベが神殿に攻撃を仕掛けたが、神官がエレス・アクベのお守りを真っ二つに割って撃退した。
その後魔法使いが何度か割れた腕輪を取り返しに来たが、この墓所で守られているという。ここにあるのは腕輪の半分。あとの半分は失われている。片割れがなくなってからもう七十年になるという。
そんなサーもその年の秋に死に、気の合わないコシルとの生活。
ある日アルハが地下を巡っている時、顔に傷のある者にばったり出会う。杖の先が光り魔法使いだと感じたアルハは外に出て迷宮入り口の鍵を閉めた。
男は扉にまじないをかけて出ようとするが、びくともしない。
三日後、マナンを連れて中に入ったアルハは、倒れている男を見つけた。枷を嵌めた上で水を飲ませ、パンも与えた。首にかけた飾り物は取り上げた。
翌日また会いに行くアルハ。相手の名はハイタカと言い、自分のものを取りに来たという。
その後も毎日会いに行くアルハ。男に食料を与えるため、自分の分も回した。
魔法使いの証拠を見せよと言うアルハに、着ている服へ宝石をちりばめたハイタカ。
ハイタカを、彼が来たがったという大宝庫まで連れて行き枷を外したアルハ。水と食料は持って来るから信じて従え、と言うアルハに「ああ、そうしよう」。別れ際に「気をつけてな、テナー」との言葉。
自分の名前を取り戻したアルハ。
コシルに男の事は気付かれていたが、殺したと嘘をついていた。早晩ばれる。
大宝庫でハイタカと話すアルハ。石櫃の中から出したという腕輪を見せるハイタカ。アチュアンの誰も見たことがなかった。あとの半分は、アルハが取り上げた首の飾り物。
腕輪の由来。かのエルファーランが身に付けていたもの。九つの穴が明き、九つの神聖文字が彫ってある。統治のしるしである文字が割れ、それ以来優れた王が生まれていない。
もう一つの片割れは、ハイタカが若い頃、島の老女から贈られた。竜と向き合う出来事があった時にその腕輪の由来を教えてもらった。失われた神聖文字を見つけ出すためにここへ来た。
アルハが首からハイタカの腕環を外し、もう一つと合せると完全に重なった。「一緒に行きます」とアルハ。
崩壊を始める墓所。魔法で必死に崩壊を食い止めながら脱出したゲドは、力を使い果たした。
山越え、野宿をするうちに寄り添い合う二人。
馴染みの村に辿り着き「はてみ丸」に乗って内海に戻ったゲドとテナー。テナーをかつての恩師オジオンに預けようと考えるゲド。
Ⅲ「さいはての島へ」 国内初版:1977年
ゲドがエレス・アクベの腕輪を持ち帰ってから25年後のハブナー。
魔法の殿堂ローク学院を訪れる少年アレン。
父親はエンラッドを治めている。
そこで起きているのが、魔法が通じないという現象。
魔法使いも呪文を忘れた。
大賢人ゲドは各長を集めてこの問題を議論し、魔法の力が弱まっているという他の方面からの情報も含め、混乱の正体を突き止める必要性を説いた。
自ら真相を突き止めに出ると言う大賢人は、アレンを同行させる。
まず出掛けるのは全海域の情報が集まるホート・タウン。伝来の剣を持つアレン。
はてみ丸でホート・タウンに着くゲドとアレン。街を外れると「ハジア(麻薬)」が蔓延。
とある布売りの店で女店主に声をかけるゲド。魔法使いだった事を見抜いて、探している男の事を聞く。見つけたのは右手首のない「ウサギ」と呼ばれる男。
ウサギの話す、黄泉の国から夢の中に入って来る道。ウサギとの交信で別世界に踏み込むゲド。途中で覚醒して実世界に戻り、追っ手から逃げるアレンだが気を失う。
目を覚ましたアレンは奴隷船に繋がれていた。首輪と足枷。
日も沈んだ頃、アレンはゲドに助け出される。
ゲドとウサギはあの時、闇の世界に行っていた。アレンはその回りの荒地に迷い込んだ。
はてみ丸で南西に進む二人。次の行き先はローバネリー。
魔法で死者と話が出来るかを聞くアレン。「呼び出しの術だ」とゲドは言い、かつてその術を悪用していたハブナーのクモという男の話をする。黄泉の国の入り口まで連れて行って懲らしめたという。
ローバネリーは優れた布の産地だが染料に問題がある。染師の話す「王」の話。死を征服したと言う。それを知りたくて男は魔法を譲り渡してしまった。
「王」はクモの事だと予測するゲド。この染師ソプリを連れて行くと言うゲドに反発するアレン。
ソプリを加えた三人を乗せて進むはてみ丸。
「王」から聞いた、死んだ者が来てまた帰って来れる場所の話をするソプリ。その秘密の場所にゲドが行きたがっている、と言うソプリの言葉に、ゲドに対して不審を抱くアレン。
ソプリが言っているオブホルという島に上陸しようとした時、多数の投げ槍が飛んで来る。必死でオールを漕ぐアレン。気が付くと槍がゲドの肩に命中して出血していた。ソプリは泳げないのに海に飛び込み、多分死んだ。ゲドが気を失い、途方に暮れるアレン。三日間の漂流。
イカダで暮す外海の部族に助けられるゲドとアレン。重体だったゲドはしばらくアレンと離されて治療を受けた。
再会して、ゲドの死を望んだ事を詫びるアレン。死の恐怖から逃れたかった。アレンの真の名「レバンネン」を教えるゲド。
いつか死ぬという事は、天から授かった贈り物。我々が持っているのは喜んで失っていいものばかり。
アレンの不安や苦しみが今回の旅の道案内だと諭すゲド。
海の民にも狂気が迫って来た事を示す現象が起きた。そして竜の来訪。「出発の時が来た」とゲド。
竜の説明をするゲド。オーム・エンバーといい、エレス・アクベを殺し、自分も殺されたオームの血を継ぐ竜。手下の竜を使いゲドに助けを求めていた。恩があり、今度は返す番。
西国に起きた災いで破滅の危機。共通の敵との予感。
ローク学院でも起きている異変。呼び出しの長トリオンが倒れ、姿かえの長が大賢人に異変を知らせるため、鳥となって姿を消した。
長い航海の末に、竜の住むセリダーに到着。出迎えるオーム・エンバー。
そこに姿を現す黒マントの男。クモだった。だが目の前にいるのは幻。わしの国で、わしの好きな時になら会えると言って姿を消した。
更に後を追い、エレス・アクベの亡霊を見つけるゲド。彼までも奴のいいなりにされている。
杖を取り、呪文を唱えてクモを呼び出すゲド。それに竜が襲いかかるが倒される。竜の下敷きになったクモが本当の姿を現した。
闇を集めて黄泉の国への入り口を作り、逃げ込むクモ。後に続くゲドとレバンネン。
死者の蠢く街。そこに呼び出しの長トリオンがいた。道が判らないという。
クモを追い詰めるゲド。クモは生死両界を仕切る扉を開いた。
それが現世での混乱を招いている。
だがもうクモの力ではそこを閉じる事が出来ない。
進むアレンがクモに追い付いて彼の手を掴む。その前にはぽっかりと黒い穴。
「閉じろ!」と叫ぶアレンに続き「ああ、閉じようぞ」と続けるゲド。
精神の全てを動員して、その扉を閉じたゲド。
ゲドが、クモに向かって解放の言葉を授けると、彼はゆっくり死の川を下って行った。
力を使い果たしたゲドは動けなくなる。肩を貸してそれを支えるアレン。ゲドを背負って何とか死から生への境界線を越えて来たアレンだが、ゲドの体は冷たく感じられる。
川に辿り着いたアレンの元に竜が降り立った。警戒するが、目を覚ましたゲドが「乗れと言っているのだよ」竜はカレシンといった。
ローク周辺の島では大騒ぎ。ロークまで竜が来たのは歴史始まって以来。二人を降ろすカレシン。アレンの前でひざまずくゲド。
「我が連れなりし王よ。ハブナーの王座につかれたあかつきには、永く平和の世を治められますように」
そして再び竜に乗ると、ゲドはゴント島に向かって飛び去った。
Ⅳ「帰還」 国内初版:1993年
村で農園を維持している寡婦のゴハ。火に放り込まれたという少女を引き取り看病した。
顔の右半分と右手に骨まで達するやけどを負っていた。
それから一年以上経った頃、ル・アルビのオジオンが呼んでいるとの伝言を受け、子供テルーを連れて出掛けるゴハ。
ゴント山に入ったところで四人の男に絡まれる二人。気丈にやり過ごすゴハ。それを見送る革帽子の男ハンディ。
出発して翌日の夜にようやく到着。
ほとんど寝たきりのオジオンが「おはいり、テナー」と応える。テルーを見てオジオンは、この子に何もかも教えてやってくれと言った。
翌日森の中で、テナーに自分の真の名を明かして息絶えたオジオン。
葬儀は地元のまじない女のコケばばが準備をし、領土付きの魔法使いアスペンと、ゴント港からの魔法使いが儀式を行った。
昔からの確執で、アスペンに嫌われているテナー。オジオンの真の名アイハルを、教えたにも関わらず忘れた事にあきれる。
オジオンの家でしばらく暮す事を決めるテナー。元の家の羊と果樹園は二組の小作人夫婦に任せる。
オジオンの養女としてしばらく暮した後、百姓のヒウチイシに嫁ぎ、子も二人育て上げたテナー。そんな時に引き取ったテルー。
コケばばがいろいろ吹き込むのが心配。
庭に腰かけて海を見ているテナーが、飛んでくる赤い竜を見つけた。
岩場に降り立った竜は、男を降ろす。「起きて、ゲド!」と声をかけるテナー。去って行く竜、カレシン。
皆の手を借りてゲドを家まで運び込む。
三日目にようやく目を覚ますゲド。少しスープを飲んだだけでまた眠る。次に目覚めた時にようやくオジオンの話。十日前に亡くなった。
ゲドはセリダーからロークに戻り、そしてゴントに来た。
大賢人を呼びに来る者が誰もいない事を訝るテナー。領主の館からも誰も来ない。
アレン、本名レバンネンの話をするゲド。今はハブナーに王がいるんだ!と涙を流す。
体調を回復したゲド。もうここですべき事はなく、家に帰ろうという事をゲドに話すテナー。
その流れで、自分にはもう魔法の力がなくなった、と話すゲド。彼ならテルーを治せるかも知れない、と期待していたテナーは落胆。
羊の仲買人から聞いた、ハブナー市からの大きな船が港に来ているという話をゲドにするテナー。ぎくっとして身構えるゲド。王からの使いの者だと判っていた。
次いでコケばばが、港から立派な身なりの者が来る、と知らせて来る。匿ってもらうために家を出るゲド。
その後正装した五人の男が訪れる。レバンネン王の戴冠式のためゲドを探している。居留守を使って彼らを帰し、ゲドへの手紙をテルーに託すテナー。
ゲドが今夜発つとの返事を持ってテルーが帰る。
テナーが村での用事を済ませて帰ると、テルーがいない。探し回ったあげく、台所の隅で震えている彼女を見つける。
あの人が来たと言った。こちらに来る時に絡まれた四人のうちの一人、革帽子の男。かつて一緒に暮らしていた男だという。
領主の館の牧草地で働く者の中に男がいると当りを付け、聞きに行くテナー。ヴァルマスから来た男だとの話。運悪くアスペンと出くわした。悪口の言い合い。
口論の末に、アスペンから魔法をかけられそうになるテナー。偶然近くに居たハブナーからの使者に助けられ家に帰るが、ハード語でものを考えられなくなっている事にがく然とする。アスペンの仕業。カルガド語で何とか考えられる。幼い頃のアルハの言葉。
テルーと二人でゴント港に向かうテナー。15マイルを歩き通し、ようやく港町に入った時、革帽子の男が近
づいて来た。目指す船はもう少し。転んだテルーを抱き上げてタラップに辿り着く。船員が気を利かせて男を足止めして、乗り込む事が出来た二人。
王の乗る「イルカ号」。レバンネンに今までの事を話すテナー。ゲドが魔法の力を失ったのが信じられないレバンネン。
レバンネンが来たのは、ゲドの事とローク学院の賢人会議で話の出た「ゴントの女」のキーワードを解くため。だがそれはテナーの事ではない。テナーらの帰郷を約束するレバンネン。
テナーの家があるヴァルマス港では、ハブナーからの船が来た事で大騒ぎ。娘のリンゴも仰天。幼い頃に聞いた腕輪の話も、ただの歌の文句だと思っていた。
娘の家で一晩過ごした後、家に戻ったテナー。伝え聞くゲドは山の上で羊番をしているという。
生活は落ち着いたが、テルーの扱いに頭を痛めるテナー。オジオンの遺言「何もかも教えてやってくれ」が気になる。
そんなある夜、家の外で大きな音がした。火かき棒を持って戸口に立つテナー。数人の気配がし、男がチビちゃんに会いたがっていると言う。更に包丁を持ってドアを開けるテナー。
仁王立ちになり「どこからでも、かかっておいで!」
だが様子がおかしい。倒れている男の後ろで男が顔を出した。ゲドだった。
男は熊手に刺されて重傷。だが革帽子の男ではない。ゲドの話では、たまたま山から降りて来たところで男た
ちの企てを聞いた。
事件の顛末。男は四人。昨夜倒した男以外では一人殺され、あと二人が捕らえられた。同行していた女は殺されていた。それがテルーの母親。「セニニ」と名を言うテルー。
ゲドに、一緒に暮すことを提案するテナー。その夜愛し合う二人。
冬を越し、春になってテナーの息子ヒバナが三年ぶりに帰って来た。ゲドの立場が微妙になりテナーを悩ませる。横暴になるヒバナに、三人でル・アルビへ行くと宣言するテナー。
ル・アルビへの旅を始める三人。だが近づくにつれて頭がぼうっとして来るテナー。
分かれ道で領主の館に向かってしまうテナー。後に続くゲド。
分かれ道で立ち止まるテルー。
歩いた先で領主付きの魔法使いアスペンが待ち構えていた。ゲドが魔法の力を失っている事も知っていた。
館の牢に閉じ込められるゲドとテナー。
テルーは、ゲドたちの後をつけて、二人が捕らえられた事を知り、オジオンの家の向こうの崖まで走って、ある名前を呼んだ。そしてコケばばの家で一晩を過ごした。
翌朝、アスペンに引き出されて崖のはずれまで歩かされるゲドとテナー。
崖に着いた時、遠い空に一点見えたかと思うと、またたく間にあの竜が飛んで来た。
「カレシン!」と叫んでゲドをしゃがませるテナー。
二人の頭上をかすめた竜は、直後のアスペンとその部下を踏み潰して岩場に舞い降りた。
「テハヌー」と言う竜に「カレシン」と応えるテルー。彼女が竜を呼んだ。
カレシンの娘テハヌー、それがテルーの真の名。
Ⅴ「アースシーの風」 国内初版:2003年
先の出来事から15年後のル・アルビ(ゴント)。
農夫として静かに暮らすハイタカを訪れる修繕屋のハンノキ。
妊娠した妻ユリが、出産時のトラブルで母子共に亡くなった。それから二ケ月後、妻が夢に出る様になった。
石垣を挟んで手を取り合うが、向こうには行けず、ユリを引き込む事も出来ない。
ハイタカはその石垣を超え、そして戻って来たが、ハンノキの体験には特殊な意味がある。
ハンノキは島の魔法使いに相談した上でローク学院に行く。呼び出し、薬草、守りの長の下で石垣まで行く試みをしたが不調に終わる。
ロークの長はこの現象が「ある魔力」によるものと考え、大賢人の身で夫婦の絆にも詳しいハイタカを頼った。彼に起こっているのは、何かの前兆かも知れないと考えるハイタカ。
王レバンネンが最近、竜カレシンの娘テハヌーを招聘した事も関係があるかも知れない。
眠れないハンノキのために、子猫をあてがうハイタカ。小動物の癒しは彼も経験した。そしてハンノキにハブナー行きを勧める。
レバンネン王への謁見まで漕ぎ着けるハンノキ。多くの課題に苦慮するレバンネン。
悩ましい外交問題。カルガド諸島に一つで大王を宣言したソル。和平の申し出の返事として娘を送り付けた。
王女の滞在のみを認め、一度も会わないレバンネン。
王女が来訪して半月後にテナーとテハヌーが来た。別件ではあるが、王女の相談をテナーにするレバンネン。
彼女の立場を深く理解するテナー。自分も大巫女としての経験を持っている。
レバンネンが抱えるもう一つの課題。ここ数年竜が村を襲う事件が頻発。クモの事件から15年経っての異変。テハヌーが呼ばれたのもこの件の解決を期待されての事。
かつてロークにやって来た娘の話。8年ほど前、若者に変装した娘がロークに来た。呼び出しの長トリオンが相手をしたが、塵となって消された。娘の真の名「アイリアン」を口にして、相手が竜になったための出来事。竜は飛び去った。
ハブナーの西で竜が森に火を放つ事件が起き、王たちが出向いた。テナーに説得されて参加するテハヌー。
暴れる竜の一頭に声を掛けるテハヌー。相手は彼女の兄。竜は静まり去って行った。
テハヌーの話では、竜の中で人間に対する不信が拡大している。
アイリアンが来られるよう、兄に頼んだテハヌー。
王女の事を思い、単身面会に行くテナー。女官に構わず中に入ると王女が抱き付いて来た。信頼の証しとして名を聞くテナー。彼女はセセラクと言った。
自分の母国語でもあるカルガド語での会話。まずあの方に好かれるために言葉を覚えなさいと諭すテナー。
王が帰還し、竜との休戦の件を議会にかける。和睦に反対する者もいて、いったん休会。
その時、竜が外のテラスに降り立った。挨拶するレバンネン。テハヌーが通訳して、人の姿になったアイリアンが議場に入る。
語られる、竜と人間との関係。元々同じ種族だったが竜は自由を選び、人間は安定した暮らしを選んだ。方角としては竜が西、人は東。だがお互いに相手を羨望する気持ちがある。
今までは僅かながら、相手の種族に生まれて来る者がいて均衡を保った。だが均衡は崩れ、もう生まれて来ない。
今問題を起こしている竜は、人の住む西のはずれで領土を奪い返そうとしている。竜たちが恐れるのは「不死の魔法」
レバンネンが、かつてクモという者が不死身になろうとした事を話す。
だがもう一人、アイリアンが倒した呼び出しの長トリオンの存在。死んだのに、ロークの術で石垣を超えて帰って来た。それが世界の均衡を崩した。帰って来てから人が変わってしまったトリオン。
均衡を戻すにはロークの「まぼろしの森」に行く必要がある。
イルカ号でロークに向かう宣言をするレバンネン。
ローク行きにあたっては、王女の同行が必須だと進言するテナー。やむなくそれを伝えに行くレバンネン。
王の来訪に驚く女官が言葉の心配をするが、今さら後に引けない。
女王が前に進み出る。レバンネンがローク行きの件を話すと、ベールを開いて、たどたどしい言葉でそれを承知する王女。勇気そのものを見て、怒りが消える王。
必要な、全ての人を乗せてイルカ号はロークに向かった。
行く手を阻む暴風雨に耐え、ようやくロークに着いた一行。
学院の長たちと合流し、今までの整理が行われる。
生と死の境界に起きた問題。
かつて竜と人間は同じ種類だったが、両者は違うものを求め出したため「ヴェル・ナダン」という協定を結び、人は東、竜は西へと移動。人は天地創造の言葉を失う代わりに物の所有と権利を得て、竜は太古の言葉と翼を持った。
人は物の所有を求めながら、竜が手にした自由も欲しがった。それは時間も越えて飛び回る力。竜が行った西まで出掛けてその一部を自分のものにした。だがそこには魂しか留まれない。
だから人はそこに石垣を築いた。生きていては人も竜も越えられない石垣。だがそのために風が吹かなくなり、死んだ人が赴く世界は、魂として生き続けるが、暗く乾いたものになった。
クモとトリオンの行為により、その生と死の境界が乱された。今では死者の霊魂もその石垣に押し寄せている。
半分石垣の側に引き込まれていたハンノキが「死者が求めているのは死。大地の一部になりたがっている」と話す。
そんなハンノキに寄り添うテハヌー。それを妨げた呼び出しの長。死の世界から引き戻されるハンノキ。
再び目を覚ましたハンノキ。
「この世界をなおす。石垣をこわすんだ」とハンノキが石垣に手をかけ、それをテハヌーが助ける。落ちる石垣。だが死者の群れが石垣に押し寄せる。
レバンネン、アイリアン、長たちも合流して石垣を壊し始める。
カレシンもやって来た。それに応えるテハヌー。
死者の群れの中にユリを見つけるハンノキ。二人は手を取り合って石垣を超え、光の中に消えて行った。
壊れた石垣のそばで夜明けの空を見つめるレバンネン。三匹の竜カレシン、アイリアン、テハヌーは去って行った。
現実世界でのハンノキに手を重ねるテナー。「この人は逝ってしまった」。テナーに、去って行ったテハヌーの事を話す様式の長。
動かないレバンネンを前に逆上するセセラク。大丈夫、と諭す様式の長アズバー。
ゴントに帰ったテナーは、ゲドに今までの事を話そうとするが、内容が多すぎて要領を得ない。
ひとわたりの話を聞いた後「私たちは世界を全きものにしようとして、壊してしまったんだ」と呟くゲド。