第一部『マルドゥック・スクランブル 圧縮』2010年
第二部『マルドゥック・スクランブル 燃焼』2011年
第三部『マルドゥック・スクランブル 排気』2012年
監督 工藤進
原作・脚本 冲方丁
キャスト
ルーン・バロット - 林原めぐみ
ウフコック=ペンティーノ - 八嶋智人
ドクター・イースター - 東地宏樹
シェル=セプティノス - 中井和哉
ディムズデイル=ボイルド - 磯部勉
トゥイードルディ - 小林由美子
トゥイードルディム - 浪川大輔
プロフェッサー・フェイスマン - 有本欽隆
クリーンウィル・ジョン・オクトーバー - 小室正幸
オクタヴィア - 勝田晶子
ベル・ウィング - 藤田淑子
アシュレイ・ハーヴェスト - 土師孝也
マーロウ・ジョン・フィーバー - 小野大輔
感想
名前だけは知っていた(エヴァンゲリオンの「マルドゥック機関」つながり)。なかなか良く練られたドラマ。
殺されかけた少女が、超法規的措置で命を救われる。担当捜査官とのコンビで事件の真相に迫って行く過程は、小出しに情報が開示されて行くため、一度観ただけではちょっと把握し難い。
幼いだけの、ただの娼婦が抱いた「なんで、私なの?」という疑問が次第に明らかにされて行く。連続殺人鬼シェル自身、過去に母親から性的虐待を受け、その代償作用が犯行の動機。
一方バロットを守るウフコックの側にも、元相棒ボイルドとの確執があった。
バロットの林原めぐみはすぐ判ったが、ウフコックが八嶋智人と知ってビックリ。武器としてバロットを助けながら、その心のケアにも腐心する、難しい役どころをうまく演じていた。
カジノでのギャンブルがこのドラマの見せ場。残念ながらポーカーもブラックジャックも不案内だが、緊迫したゲーム展開は、アニメとして十分通用する。
途中に挿入される「アメージング・グレイス」もなかなかいい雰囲気を出している。歌は急逝した本田美奈子。
変形自在で「使い手」の意のままになる武器という、ウフコックの設定は秀逸だが、銃弾そのものも彼の一部だとしたら、物理的に目減りして行くだろう。その辺のロジックがちょっと気になる。レーザーみたいなエネルギー系だったらまだいいんだけど。
しかし一つ不満。オープニングで出て来たシェルの乗る車が、屋根を担いだ霊柩車そのもの。この趣味の悪さは狙ったものか?
こんな所で張り切らなくてもいいのに・・・・
あらすじ
第一部『マルドゥック・スクランブル 圧縮』
予告編
男に捨てられ、車の中で焼き殺されそうになる少女。
目覚める少女。助けたのは委任事件担当捜査官イースター。
もう一人は金色のネズミ型万能兵器ウフコック。
武器に変身する事を「ターンする」という。逃げた男シェルを追う中で少女:ルーン・バロットを助けた。
マルドゥック・スクランブル-09(オーナイン)法(禁じられた科学技術の特別使用による救命)の適用により、金属繊維を用いた皮膚治療を行った。同時に無意識下で望んだ電磁干渉(スナーク)能力も与えられた。
09運用とは別に、唯一禁じられた技術の使用を認められているオクトーバー社は娯楽、快楽に関わる。そこで作られた、汚れた金をクリーニングするのがシェルの仕事。その合い間に、娼婦を引きずり込んでは殺す行為を続けている。殺した女の遺灰を使ってブルーダイヤを作って収集。シェルの側についた委任事件担当捜査官はボイルド。
かつてウフコックと相棒だった男。
シェルは記憶を記録化して消去しないと脳が腐敗する。ボイルドはバロットの話をするが、シェルにその記憶はない。「当事者の死亡もしくは失踪で事件不成立だ」とボイルド。
ウフコックとの関係性に慣れるのとリハビリを兼ねて、車で街に出るバロット。喫茶店で端末からシェルによって作られたバロットの履歴が開示される。
十九歳の銀行員。そのIDを使って金をシェルに横流ししていた。
そして家族環境。兄は刑務所で両親は療養施設。これらを法務局に送らなくてはならない。逡巡の後、それを了承するバロット。
車で流している時に追跡を受ける。ボイルドが送った殺し屋。それをかわし、追って来たボイルドと対峙するウフコック。手を引けというボイルドに「三日後の簡易法廷を待て」。
「なんで私なの?」と言うバロットにやさしく話しかけるウフコック。「俺は君という使い手に尽し、君の事
件を解決したい」。「あなたの役に立ちたい」とバロット。
法廷に出るバロット。シェル側の弁護人は殺意を否定。その場で明らかにされるバロットの過去。十二歳の時から父親の性の対象にされた。それで兄に撃たれて廃人となった父。兄とも関係していたバロット。理由は「愛していたから」。
閉廷の後、姿を現すボイルド。
「次回からは自分が出る、手を引くなら今だ」
アジトに戻り、ウフコックをスーツとして身に付けるバロット。耐熱・耐寒でスナーク能力も強化。思うだけで武器を手に出来る。撃たれた銃弾を射落とす事も可能。
ボイルドが雇った畜産物カンパニーの殺し屋がバロットに仕向けられる。ウフコックを武器にして戦うバロットは、銃撃戦の中、次第に快感を覚えて行く。自衛でなく、楽しみのための戦闘を感じたウフコックは、その指令を拒絶。
殺し屋たちを片付けた後に現れたボイルドは、擬似重力を駆使して壁面も歩ける。止む無く武器にターンして戦うウフコックだが、瀕死の重傷を負う。
第二部『マルドゥック・スクランブル 燃焼』
予告編
「楽園」で目覚めるバロット。負傷したが重くはない。脳内会話で声をかける少年トゥイードルディ。ここは研究所。禁じられた科学技術が開発されたところ。イースターとの面会。タンクで治療中のウフコックに謝る
バロット。
バロットをプールに連れて行くトゥイードルディ。そこで泳ぐイルカのトゥイードルディムは、機能補完でトゥイードルディと同等の会話能力を持ち、ウフコックとは旧知の仲。ここの最高責任者プロフェッサー・フェ
イスマンの話す、研究所の沿革。
ここを利用しての治療、武器の使用等は、その有用性が実証されない限り違法。それを肝に銘じるバロット。
シェルと話すボイルド。シェルは社長の娘オクタビアの知能障害を暴いて、彼女との結婚により権力を得ようとしていた。次の裁判の罪状が明らかにされない事で、シェルを追求するボイルド。彼の記録化された記憶の場所がカギ。
調査名目で楽園を訪れるボイルド。バロットとウフコックを出せとフェイスマンに銃を向けるが、彼の能力は元々ここで授けられたものであり対抗出来ない。
その隙に軍事用の浮遊住居で立ち去るイースター、バロット、ウフコック。
傷も癒えたバロットに、ボイルドとウフコックの話をするイースター。相棒だった二人だが、ボイルドが殺戮に走るようになってウフコックと反目。決裂した。ボイルド自身、楽園で睡眠不要の改造を加えられていた。
ボイルドの気持ちが判る、とバロット。自分も一度は狂った。慰めるイースター。
シェルの記憶のありかについて、楽園のプールでコンタクトを取った結果を話すバロット。
オクトーバー社が経営するカジノの百万ドルチップの中に情報が封じられている。十二個のうちの四個。
治療を終えて姿を現したウフコックと共に、バロックをギャンブラーとして仕込むイースター。
カジノに出向くバロットとイースター。ウフコックは彼女の手袋になっている。
手始めにスロットマシンに手をかけるが、スターク操作は警報が出てダメとウフコック。リズムで出そうな台を絞り込み、操作をすると777が並んで周囲から拍手。だがスロットでは大して稼げない。
次にイースターと組んでポーカーの席に座るバロット。ディーラーと客二人がグルで一人がカモ。その中で技を駆使して勝ち抜けるバロット。
次にルーレットの台に行けとのウフコック指示。ディーラーは女性、ベル・ウィング。カジノ界屈指のスピナー。二つに賭けたバロット。そのうちの一つで当りが出る。ウフコックの話では客引きのための「仕込み」。
移ろうという忠告に「もう少しこの人を見たい」と言うバロット。次に賭けた場所では外す。本気になったバロットに台のデータを出してバックアップするウフコック。勝負は一進一退。合い間ごとのベルとの語らい。右回りを頼んで、出た目を当てたバロット。
控室での会話でベル・ウィングの解雇を聞くバロット。だが冷酷さも身に付けないと先へは進めない。改めてシェルの秘密を暴く決心をするバロット。
シェルとボイルドとの会話。娘の父親(オクトーバー社長)をカジノで遊ばせる事でいきり立っている。
自身の肉体改造の記憶を辿るボイルド。不眠改造の副作用で廃人寸前となったボイルドにあてがわれたウフコック。互いに補完し合う中で蘇えったボイルド。だが結局怒りも悲しみも忘れた者となってしまった。そして
去って行ったウフコック。「取り戻せないなら消すだけだ」
改めてカジノ場に入るイースターとバロット。それを受けて部屋を出る男アシュレイ「それにしても良く出来た手袋だな」
第三部『マルドゥック・スクランブル 排気』
予告編
新たなカードの戦いはブラックジャック。中年の男、老紳士、太った貴婦人、イースター、バロットの五人が客。そしてディーラーのマーロウ。イースターとバロットは叔父と姪という触れ込み。
マーロウの仕込みで客が順次減って行き、最後はイースターとバロットが残る。機が熟して全額を賭ける二人。
マーロウの仕込みが裏目に出て客側の勝利。集まったチップをまとめるため百万ドルチップを要求する二人。
カジノでバロット達が荒稼ぎをしているのを見て逆上するシェルは、ボイルドに連絡して始末を命令。
一方解雇されたベル・ウィングは、アシュレイから、このカジノを仕切っているシェルが女を食い物にしている話を聞く。十五歳の少女を焼き殺しそうになった話を聞いて合点するベル。
提示された十二個の百万ドルチップから一つを選んで握るバロット。中のデータが引き出された。
マーロウを解雇して二人の前に出たアシュレイは最強のディーラー。
ベルが顔を出してバロットを応援。
延々と続くドロウ(引き分け)は十六を超えた。バロットには「最適戦略を守れ」と慎重な行動を取らせるウフコック。
それに対して「何を遠慮している」と挑発するベル。
チップを全てバロットに託して勝負から降りるイースター。次第に負け始めるバロット。ミスを謝るが、それはこの男の誘導だ、とウフコック。
バロットは手袋を外し、自分の感覚を頼りにカードと対峙する。次第に盛り返し、ついに勝ちが取れるようになってから百万ドルチップを積む。それにも勝利して次のチップを手に入れるバロット。
最後の勝負。百万ドルチップを積んでの勝負の途中、更に一枚積んで「ダブルダウン」を宣言。7のカードを三枚出して勝利は目前。賭け金と合せて八百万ドルが手に入るが、そこで「イーブンマネー」を宣言するバロット。これだと賭け金込みで四百万ドルの利益が確定(ディーラーの役に関わらず)。
実はアシュレイの手はブラックジャックで、これだとバロットの手より上であり「イーブンマネー」以外では彼女の負けだった。
バロットの判断を讃えるアシュレイ。
あと二枚の百万ドルチップから情報を引き出したバロットは、チップを返したいからオーナーに会いたいと申し出た。
オーナーのクリーンウィル・ジョン・オクトーバー。シェルの婚約者の父でもある。後に続くシェル。バロットを淫売と罵ってチップを取り返した。
アジトに戻ってのシェルの記録の復元は、バロットの肉体を使っての作業。シェルが犯した殺人の数々をトレースするバロット。
シェルのトラウマは、母親による性的虐待。十八歳の時、シェルは母親を殺している。それがオクトーバー社による記憶消去の副作用で感情が抑えられず、殺人衝動の源になった。その時に彼の恋人だった女性にも父に犯された過去があり、彼女が自殺した事でトラウマになり、同じ境遇の少女を殺すようになった。
法廷が開かれ、シェルの一件は解決されたかに見えた。だが彼の記憶はオクトーバー社にとっても都合が悪いものであり、今度はシェルが命を狙われるかも知れない。シェルを守るためにバロットが動く矛盾。だがそれを受け入れて行動を始めるバロット。
シェルのアジトで婚約者オクタビアの死体を見つけるバロット。そこに押し込む刺客。ウフコックがターンした武器で、それらを難なく倒すバロット。刺客に雇い主へ電話をさせると、出たのはクリーンウィル。
父親の話から、ある事に気付き電話の逆探知で居場所を見つけたバロットは、そこに向かって突き進む。
扉を破ったその部屋には、多数の少女をはべらせたクリーンウィルの姿。
彼を撃とうとするバロットを制止するウフコックだが、この父親も娘を犯していたと言うバロット。
私は死んでもいいから、この男を殺させて!と叫ぶバロットに、銃弾を装填して全てを託すウフコック。
すんでのところで思い留まるバロット。そこに駆け付けたイースターが逮捕を宣言。
シェルと対峙するバロット。相手に攻撃させて、命が脅かされている状況を作り出した上で反撃する。怪我を負わせたが命に別状はない。シェルに記憶を戻すバロット。
ダストシュートにシェルを落としてから、ボイルドと対峙するバロット。
お互いバリヤーを駆使してなかなか決着が着かない。戦いが進む中でボイルドは足を吹き飛ばされ、腕を切り落とされるが擬似重力でカバー。
最後にボイルドに銃を突き付けるが、それを取り上げられるバロット。そしてウフコックがターンした銃で狙いをつけるボイルド。だが撃たれたのはボイルドの方。最後はバロットが決着を付けた。
全てが終わり、走る車の中で、ターンした銃の姿のウフコックを抱きしめるバロット。