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新聞小説「聖痕」(4)筒井康隆

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聖痕(4)125~176(11/17~1/9)筒井康隆 作  筒井伸輔 画



You Can Fly


貴夫が結婚すると知って騒ぎ立てる登希夫。家族と一緒には暮らせないと考えた貴夫は父猛夫が買っていた和風住宅に手を入れて住む準備を始める。
結婚を知って土屋も騒ぐが貴夫は意に介さない。


盛大に行われた結婚式。華麗な披露宴。
夏子のまた従兄にあたる佐伯食品工業社長の佐伯峰雄。貴夫の卒業後にはわが社に招きたいという。
宴が果て、貴夫と夏子はそのままホテルの一室に引き揚げる。当然ながら何も起こらない。

学生の身でもあり、新婚旅行に出かける冬休みまではそれぞれの親の家に。

12月に入り、若い夫婦はヨーロッパ旅行へ出かけフランス、イタリアを巡った。

佐伯峰雄氏からの誘いもあり、会社を訪れる貴夫。峰雄氏の性格、工場の様子を見て入社を決心する。

就職の報告をしようと実家に帰れば、何やら雰囲気がおかしい。
母、佐知子が妊娠していた。47歳。年甲斐もなくと恥じ入る猛夫。

おめでただと喜び、産んで欲しいと頼む貴夫。

引き取って自分たちの子供として育てると宣言。

深夜まで相談を重ね、自宅に帰りその話を夏子に。いずれ母性愛に目覚めた時は養子を取るしかないと思っていた夏子には願ったりの提案だった。


「グルメ旅団」の3人娘たちの恋情は、貴夫の結婚によって崇拝へと変化し旅団そのものが貴夫を教祖とする宗教団体の様な雰囲気になった。

貴夫は最終学年となったが、就職活動しなくていい分、入社準備として講義、実習に力を入れていた。

春も過ぎ、体形変化も隠せなくなるので、佐知子は貴夫夫婦の家へ移る。登希夫へは夏子の妊娠を告げ、母がその面倒を見るため不在になると説明。登希夫は誰の子だとまた騒ぐ。

佐知子は初秋に女児を産む。瑠璃と名付けられた。
娘の顔が母親とそっくりだったのを見て全てを悟る登希夫。


貴夫が佐伯食品に入社する事が大学内でも知られ、桐生逸子、前原都美子、田中公子の3人娘が自分たちも入社させて欲しいと貴夫に懇願。

卒論を書き上げ、そのコピーを佐伯社長に見せた折りに夕食会を提案。その席であれば3人を紹介するチャンスが出来る。

当日、佐伯社長とお付きの刈谷専務を迎えての夕食会。
話すうちに2人は3人娘の希望を見抜き、入社に対して内諾を匂わせた。


貴夫。幼い時から見る夢がある。ある夜うなされて覚醒。驚いて飛んできた夏子に初めて自分の秘密を話して、アンダー・サポーターを外し、股間を見せる。涙しながらその聖痕に口づけする夏子。

卒業までの間、食べておかなければならない美味を求めて貴夫は全国を廻った。

佐伯食品へ入社した貴夫は新商品開発室に配属される。
素晴らしい設備だが、室長の国松は貴夫をひどく警戒した。部下たちに対し貴夫を誹謗。

貴夫は自社商品を試食、試飲しながらその欠点を調べ、改良方法を考えていた。
スープを紙パックで販売する考えをメニュー企画会議で提案。貴夫は紙パック容器開発の担当者に任ぜられた。
開発は一人でやれと言う国松の陰で室の全員が貴夫に協力。種々検討の末、スープ2種が商品化された。


久しぶりに旧友の安曇が訪ねて来る。彼は司法試験に備えて勉強中だった。安曇はいずれ貴夫の興す企業の弁護士として助けたいという夢を話す。


スープのパックは大好評だったため、社長の配慮で部署が新設され、貴夫はそこでひとり室長として開発にあたる事になる。室長の座が安泰となった国松が部下の拠出を惜しまなくなった。貴夫は社長のお供で得意先廻りもしたが、その博識には社長も驚く。


1年が経ち、例の3人娘が入社して来た。桐生逸子は開発室、前原都美子は営業、田中公子は工場勤務となった。
瑠璃も1歳を過ぎ、驚くべき可愛らしさだが、気位が高く気が強かった。


ある日桐生逸子が貴夫に相談を持ちかけて来る。彼女の父が無職となり、家が困窮しているという。貴夫は佐伯社長と逸子が思いを寄せ合っている事を知っていた。おれに仲介を求めて来たのは正解だと話す貴夫。
佐伯社長は屈託なく笑い、その申し出を受けた。もちろん妻帯者。援助額は月30万とし、密会場所の手配は貴夫が行う。この密会に大いに満足した2人。


誰に知られる筈もなかったが、前原都美子は特有の鋭い勘で秘事を悟っていた。
口実を作って貴夫に会いに来て、逸子が何かあると訴える。自分も豊かになって満ち足りたいという。相手が要るだろうと言うと、刈谷専務と仲がいいらしい。ただ打ち明け合ったことはない(もちろん彼も妻帯者)。
佐伯社長の了解を得て、刈谷専務はその驚きの提案を喜び、社長と同額の援助を行うという。

2組のペアのセッティングはその後普及した携帯電話により楽になった。


登希夫は明治大に入学し、しばしば貴夫の家に立ち寄った。瑠璃の相手は口実で、夏子に情交を迫っていたのだ。凛として撥ね付ける夏子。危惧を抱いた夏子は佐知子と朋子に訴えた。
祖父母に悪罵を浴びせられ、二度と近づかない様誓約させられる。妻からの話を平然と聞く貴夫。貴夫は佐伯食品直営のレストラン建築の企画に忙殺されていた。


瑠璃が2歳半になったある日、勝手に表へ出た娘を追って外に出た夏子の元へ酒屋の息子。
瑠璃が水路で鰐の背中に乗っているという。駆けつける夏子。
マスコミや動物園職員、警官らが大騒ぎの末捕獲。瑠璃は無事だった。
瑠璃が鰐の背中に乗って笑う姿が撮られており新聞、テレビで流され一躍有名な存在となる。

日本舞踊の師匠から瑠璃を教室に入れないかとの申し入れ。多少しとやかになるかとの期待から通わせることに。


直営レストランの件は行き詰まっていたが、貴夫はそのレストランの専属調理師として例の3人娘を選び、調理師免許の勉強を命じていた。

そんな折り、父から所有している銀座の空きビル取り壊しの話を聞く。父は貴夫が直営レストランの件で苦慮している事を知っていた。会社を辞め壊した跡地にレストランを建てて独立してはどうかという。

佐伯社長は3人娘の移譲も含め貴夫の退職を快諾した。ただし逸子との関係継続は必須。

「レストラン葉月」は3階建てビルの1階に開く前提で、着工から4ケ月ほどで完成し、完成祝賀パーティーを迎えた。

貴夫の実家の隣りに住んでいる双子の娘も手伝いに。貴夫の店で働く事を目標に、調理師免許まで取っていた。祝賀パーティーには佐伯社長はじめ会社関係者、2年前に結婚した安曇夫妻他大学の旧友らも呼び、盛大に行われた。
食材を全て使い果たし、翌日は休業。その後レストラン葉月の休店日は水曜となった。


ビルは1階がレストラン、2階が3人娘らの従業員宿舎、3階が貴夫一家の住居となっていた。自宅を引き払って移り住む事を決める貴夫。


桐生逸子と前原都美子からの提案。従業員宿舎を彼女らの専用にして欲しいという。その部屋をパトロンとの忍び宿にも出来る。快諾する貴夫。

レストランは大いに繁盛したが、貴夫の美貌目当ての「そのテの者」たちが増えるのが困りものだった。店の奥に設定してある「特別室」に席を取れという客も多く居たが、うまく断っていた。ここは佐伯社長、刈谷専務他、ごく限られた人しか入れない。


秋になり、瑠璃の師匠のところで発表会が開催される。可憐な演技で皆を魅了。
発表会の後、師匠らを招待しての宴会。宴席で即興の踊りを披露する瑠璃。
レストランはその後も千客万来の繁盛。


収入も増え、レストランに女性シェフを迎え入れる。
パリで遊んでいた双子の姉妹が帰国し、見習い社員に。


ある時、貴夫の店と知らず偶然訪れた、高校の同窓生金杉。現在は有名な批評家になっていた。他の客の前で金杉とばかり話すわけにも行かず、特別室へ案内。そこには佐伯社長が来ており、桐生逸子と戯れていた。この部屋の存在理由を敏感に察した金杉。
今後ここへはいつも通うことになるから、特別室にも入れる様会員にしてくれないかと申し出る。貴夫は佐伯社長に相談し了承される。



作者が筒井康隆、冒頭の性器切断から、相当過激な展開を予想していたが、ごく普通の展開にやや拍子抜け。ただ過度のバイアスを取り除き普通の家族小説だと思って読めばさほど違和感はない。

それでも自分の大学の後輩を元上司の不倫相手としてセットし、そのケアもソツなくこなす貴夫自身、倫理面では独特の感覚を持っているのだろう。


かくして「レストラン葉月」は不倫斡旋システムとしてウラの発展を遂げるのであろうか・・・・





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