1970年代辺りから10年ぐらいがSFの全盛期だっただろうか。
ハヤカワ文庫から数多くの作家の作品が出されていた。
大御所はアシモフ、アーサー・C・クラーク、、、
そんな中で様々な作家のオムニバス的な短編集として出されたのがコレ。
30年近く前に読んでそのまま本棚にあったのが、例によって出張のお供で再読。
「接触汚染」キャサリン・マクレイン
植民星を求めて宇宙の旅を続けるエクスプローラー号のクルー男女数十名。その多くはカップル。
ある星に着き、調査に出た先遣隊の前に現れた筋骨たくましいハンサムな男パトリック・ミード。驚いたことに英語を話す。パトリックは彼らより3世代前の地球からの植民者だった。パトリックはクルーたちの顔がそれぞれみな異なっている事に驚く。
植民星の菌により、ある家族だけが生き残り、その免疫機構を獲得した者のみがこの星で生存出来る。クルーの男たちは全てその菌に侵され、瀕死の状態となるがパトリックの免疫により救命される。だがその代償として全ての男の顔、体格がパトリックと同じになる。
この星で生き残るためにはミード家の免疫を獲得するしか方法がない。パトリックの妹、パトリシア。選択を迫られる女たち。
「大いなる祖先」F・Lウォーレス
ちょっと難解。人類の進化の過程、先祖について究明しようと旅を続けるうちに、我々人類が宇宙の中で下等な存在だと気付かされ、落胆する。
「過去へ来た男」ポール・アンダースン
西暦950年頃の話。その当時の男がする思い出話。雷に打たれたという男。実は1000年の未来から電気ショックで過去に飛ばされて来た。様々なトラブルを引き起こした末に殺される。
「祈り」アルフレッド・ベスター
ビュキャナンという名前の人間に対して様々に身分を偽装して「ある」事を聞きまわるウォーベック。行動を不審に思うヘドロとジョウに捕まり、事の顛末を話す。ウォーベックは学校の校長だった。学校で少年の出した作文の記述に極めて高度な技術が表現されている事に気付き、その少年(スチュワート・ビュキャナン)を探そうとしたが、その時には家族もろとも消えてしまっていた。その家族の記録も周到に消されており、それからウォーベックの追跡が始まった。
金になるとの想像から捜索に手を貸す2人。
手がかりを見つけてスチュワートを追い詰める男たち。だが彼らは突然異次元の空間に放り出された。物陰に隠れているスチュワート。彼は自分の能力で男たちを葬った事さえ知らなかった。彼は祈りの天才だった。
「操作規則」ロバート・シェクリイ
火星へ向かおうとしている宇宙船。艇長のパウエルは燃料費節約のためにプサイ族の青年ウォーカーを追加する事を宣言した。プサイは念動能力を持ち、宇宙船の燃料節約に大いに寄与する事が知られていた。だが彼らの取扱いには種々の「操作規則」があった。メンタル面でのケアが非常に重要。取扱いの「不適切」で想定より大幅に遠い跳躍をしてしまう。自信をなくすウォーカー。クルーたちの不信を受けてウォーカーはさらに心を閉ざす。
パウエルは新たな規則を見出してウォーカーの運用に成功する。彼を「人間」として取り扱うことで。
「冷たい方程式」トム・ゴドウィン
宇宙船「スターダスト」から発進した緊急発進機(EDS)。惑星ウォードンで発生した熱病の血清を送るために向かっている。目的地までの燃料はギリギリにしか設定されていない。
そんな艇の中に密航者の反応があり、発見のためにその場へ向かう「彼」。密航者はマリリン・リー・クロス、若い娘だった。宇宙で働く兄の元で一緒に働くために潜り込んだ。規則を破ったのだから罰金ぐらいは払うという。
だがこの艇における密航者をそのままにしたのでは、減速時の質量過多で余分な燃料消費を余儀なくされるため、到着は出来ず、血清を待つクルー全員も死ぬ事になる。
慣性航行しているうちはいいが、減速に入る前には排除しなくてはならない。コンピューターが割り出した残り時間は約1時間。様々な葛藤の末、彼女は身内に手紙を書き、最後に「彼」のはからいで兄との交信をした後、エアロックに向かった。
「信念」アイザック・アシモフ
突然体が浮揚する様になってしまったロジャー・トゥーミイ博士。妻に相談するがうろたえるばかり。その挙動から次第に大学関係者に知られる事になるが、正攻法で説明してもウソを言っているとしか思われず、とうとう大学からも休職を迫られる。
友人の精神分析医ジェイムスのアドバイスで事態は好転した。
感想
けっこういろんな切り口でSFを楽しむことが出来た。
接触汚染
女性作家らしく、愛し合う者同士の容姿が他の者たちと同じになってしまった時、それでもお互いに愛する事が出来るかというデリケートなテーマ。ここでは表情の微妙なクセ、動作の特徴等で十分見分けがつくから問題ないというポジティブな結末。ある意味安部公房の「他人の顔」と対極をなす。
大いなる祖先
リボン星人タフェッタなどというトリッキーな登場人物に目を取られて、ちょっとストーリーを追うのに手間取った。もう1回読む必要があるな。
過去へ来た男
雷の衝撃で過去へ飛ばされたジェラルド。すぐに自分が過去に飛ばされた事を悟るが、彼の時代にあった品物のほとんどは完成されたものばかりであり、知ってはいてもそれらを作り出す事は出来ない。結局何も出来ないままケンカに巻き込まれた揚句、銃で相手を殺してしまった末に命を落とす。「知識だけがあっても生き残れない」という教訓か。
祈り
最初の導入からどんどん話の流れが変化して行くのが面白かった。ただ、終わらせ方が「途中放棄」みたいな感じでSF好きにとってはイマイチの終わり方、かなー。操作規則超能力利用という高い概念と、人間的扱いのGAPがなんとも・・・・
大事なのはマニュアルではなく「思想」。まあ教育的視点ではある。
冷たい方程式
「立入禁止」という言葉の恐ろしい意味。でもさー、そんなにギリギリの設定だったら発進時のロスで当然取り返しのつかない事態になった筈。
それが許容されたのなら、後は艇内のあまり重要じゃないもの(例えばイスや備品なんか)を排出すれば女の子1人分ぐらい捻出出来るはず。
すごいヒューマン・ドラマなんだけど、イマイチ共感し兼ねるのはヘソ曲がり?
信念
アシモフだから、かなり期待したのだけど、意外に地味。
空を飛べるという主張をしたのでは信じてもらえない事の逆に、現実を見せておいて「空など飛んでいない」と言い張る事で、相手自身が狂っていない事を証明するために自ら動き出す。
まあこれも「教訓話」ですかね。
一時日本のSF界でも雨後のタケノコの如く作家が出て、却ってブームを自滅させた様な感があるが、現在の映画界を見てもSFのジャンルから逃れる事は不可能。
良質なSFを読むのは映画センスを磨くのにも役に立つ。