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Channel: 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)
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沈黙 -サイレンス- 2017年

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原作  遠藤 周作
監督  マーティン・スコセッシ

 

 

キャスト
セバスチャン・ロドリゴ神父       アンドリュー・ガーフィールド
クリストヴァン・フェレイラ神父   リーアム・ニーソン
フランシス・ガルペ神父           アダム・ドライヴァー
通辞                               浅野忠信
モキチ                            塚本晋也
キチジロー                       窪塚洋介
イチゾウ                          笈田ヨシ
井上筑後守                     イッセー尾形
ジュアン                          加瀬亮
モニカ                            小松菜奈

 

予告編
https://www.youtube.com/watch?v=aVw7MINWKu0

 


雲仙岳。山奥の温泉で、熱湯の拷問を受ける隠れキリシタンの信者たち。役人に押さえつけられてそれを見る神父。

 

1637年のポルトガル。イエズス会の宣教師ロドリゴとカルベは、日本での布教をしていた自分の師であるフェレイラが、棄教したという話を聞く。
真偽を確かめるためマカオで日本人漁師のキチジローを紹介してもらい、日本へ密入国する。自分はキリシタンではない、と否定するキチジロー。

 

入ったのはトモギ村。村のリーダー的存在のモキチ。洗礼等の祭事は「じいさま」と呼ばれているイチゾウが今までやっていた。直接教えを乞うことが出来て喜ぶ村民。次第に進む布教。村人は形のあるものを欲しがり、ロドリゴは持っているものを分け与えた。だがキチジローだけはそれを受取ろうとしない。
キチジローはかつてキリシタンだったが、弾圧を受けた時、踏み絵に応じて免れた。だが家族はみな踏めずに処刑されたという過去を持っていた。

 

噂が広がり、五島からも来てほしいという使者が来て、ロドリゴが訪れた。五島はキチジローの出身地でもあった。
布教の成果を上げてロドリゴが戻って来ると、役人が来てイチゾウを連れ去ったという。翌日イチゾウを連れて再び来た役人は、イチゾウ、モキチを含め四人を長崎まで連れて行くと宣言、猶予は三日。取り仕切る奉行は井上筑後守。

結局志願した一人とキチジローを加えた四人が長崎まで連行される。連行の前にモキチがロドリゴに手作りの小さな十字架を渡した。ロドリゴたちが来るまでは、それだけが唯一の拠り所。踏み絵を強要される四人。みな形だけは踏むが、その後役人が、キリストが十字架に架けられた像を手に持ち、これに唾をかけろと命じる。キチジローだけがそれをやり、残りの三人は出来なかった。そして彼らは海岸で磔にされ、殉教した。隠れてその一部始終を見ていたロドリゴ。

 

村に迷惑がかかる、とロドリゴとガルペは別々に村を出た。再び五島に上陸したロドリゴは、偶然キチジローに出会う。裏切った事を詫び、手を合わせるキチジロー。食料と屋根のある所を捜してくれた。
だが、喉の渇きを訴えたロドリゴを川まで案内した後、姿を消すキチジロー。渇きを癒したロドリゴが顔を上げると、役人に取り囲まれていた。連行される途中で手を合わせるキチジロー。その許にばら撒かれる銀貨。

 

ロドリゴは屋敷内の牢に監禁された。同室の者は全てキリシタン。自らキリシタンだと騒いで、中に入れられたキチジローもそこに居た。裏切った事を再び詫び、告悔するから神の許しが欲しいという。形ばかりの許しの動作をするロドリゴ。

ある日、海岸に連れて来られるロドリゴ。良く知った人に会えるという通辞。牢で同室だった数人の村人の後ろにガルペが居た。ござを巻いて簀巻きにされる村人。船で沖まで連れられ、海に落とされる。ガルペが棄教すれば村人は助かる。
だがガルペは棄教せず、村人を助けるため、船まで泳いで行った。そして村人と一緒に殉教。

 

ある寺に連れて来られたロドリゴ。そこでとうとうフェレイラと再会。彼は沢野中庵という和名をもらい、名乗っていた。

フェレイラは、逆さ吊りの刑を、自分だけでなく他の信者も受けていたので、彼らを救うために棄教した。
更に続ける。日本人の信仰の源は太陽。キリストの教えは浸透しない。彼らが転ばないのは、君に殉じているから。
その晩、独房で大きないびきの様な音を聞かされて荒れるロドリゴ。フェレイラはそれを、逆さ吊りの刑を受けている、信者のうめき声だと言う。
そして、もしキリストが同じ立場なら、彼らのために喜んで棄教するだろう、と諭す。

 

ロドリゴに踏み絵が行われる時が来た。彼の目の前には逆さ吊りされた信者たち。踏み絵のキリストが「踏んでよい」とささやく声が聞こえた。その言葉に従うロドリゴ。

ロドリゴは、フェレイラの行っていた仕事(外国からの輸入品にキリスト布教に関するものがないかのチェック)を、共に藩に協力して行うようになっていた。

 

その後も、藩はその確認のため何度でも、棄教に関する証文の提出を要求した。ロドリゴが棄教した後も度々訪れるキチジロー。ようやく彼に対して心を開く事が出来たロドリゴは、キチジローに感謝の言葉を伝える。また踏み絵についても、藩は皆を集めて踏み絵を行った。

ある日、いつもの様に踏み絵を行った時、ロドリゴに次いで踏み絵をしたキチジローは、役人に見咎められて、首から下げた袋を取り上げられた。その中にはキリストを連想させる彫刻物が入っていた。いつもの調子で自分のものではないと言い張るキチジローだが、役人に連れて行かれる。何も出来ずに見送るしかないロドリゴ。

 

状況も落ち着いて来た頃、亡くなった武家の名前を継がないか、という井上筑後守からの提案。岡田三右衛門という名。資産、妻子も含めての引継ぎ。
そして四十年間、ロドリゴは日本に暮らした。

 

岡田三右衛門が亡くなり、妻だけが許される遺体の世話。彼は仏教徒として火葬された。重ねられた手の内側には、妻が握らせた、モキチの形見の十字架があった。


感想
この映画については先日「こころの時代」で取り上げたので、楽しみにしていた。
冒頭の、信者に熱湯を掛けるシーンから始まり、緊張が高まる。
ストーリーそのものは判っているので、興味はどう描かれるか、という事。

 

神の存在を素直に信じる若い神父ロドリゴとガルペ。その二人は日本に来て、キリシタン信者の壮絶な信仰の解釈に圧倒されて行く。その中でロドリゴは、命を守るために踏み絵を踏んで良いとモキチに言うが、ガルペは否定。この二人の間に立って途方に暮れるモキチの表情が印象的だった。
結局ガルペは最後まで棄教を選ばず、自らの死を以て意思を通した。

何度でもロドリゴたちを裏切るキチジロー。後半では役人さえ彼を転びの手本として扱う。それでもロドリゴから離れられず、何度でも近づく。

 

徹底的に「弱さ」の象徴として存在するキチジロー。だが棄教し、和名まで名乗っているロドリゴを、変わらず「パードレ」と敬い、キリストを思う心にいささかの変節もない。

またキリシタンの弾圧に力を注ぐ井上の執拗さ。ニコニコ笑って好々爺としか思えない笑顔で、残酷な事が出来る。信者をいくら殺しても、喜んで殉教するだけ。指導者を「殉教」ではなく「棄教」させて、生き続けさせる事こそキリシタンを根絶やしに出来るという信念。

 

巨匠マーティン・スコセッシが30年近く温めていた企画、という事ではあるが、あまり過大な期待をかけるのはフェアではない。
そういう点で振り返れば、いい映画だと言える。原作の思いである、「棄教すなわちキリストに対する裏切り、ではない」という思いは十分反映されている。
音楽も、エンディングで、音楽ではなくて波の音、虫の声等だけでずっとエンドロールが流れるのを見て、そういえば今まで音楽らしい音楽がなかった、と気付いた。
この題材に、中途半端な映画音楽は不要、と切り捨てた潔さは素晴らしい。

だが、そういう解釈から行くと、最後の最後でロドリゴがモキチの形見の十字架を握って焼かれる姿に、ちょっと違和感。

 

元々日本人は「八百万(やおよろず)の神」を信仰する民族。それが根底にあるため、仏教も中国から取り入れた。だからこそ、何らかの拠り所(形あるもの)があれば信仰を維持出来る。踏み絵が踏めないという怖れも、結局はモノに依存している事の現れ。
それに対して「踏んでよい」という啓示は、そもそもキリストの心は踏み絵というモノには宿っていない事の証し。表面上は棄教し、和名まで戴いてキリシタン弾圧の片棒を担いだロドリゴ。それが最後の場面で、十字架というモノに頼る。
まあ、握らせたのは彼の妻だが・・・。これは解釈が違うのではないか。

 

そのロドリゴの姿よりもキチジローの方が、よりキリスト教徒らしい。踏み絵などという「モノ」には全くこだわりがなく、ロザリオにも平気で唾を吐く。だから最後に「モノ」によって連れ去られたという表現はいかにも残念(そんな筈ないだろう)。

 

マーティン・スコセッシ監督については10年以上前に「アビエイター」でかなり辛口批評をしてしまったが、ここでもハワード・ヒューズという人間の本質を掴みきれなかった点が、非常に残念だった。
まあ、いろんな解釈をして楽しむというのも、映画の醍醐味、か。

 


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