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Channel: 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)
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新聞小説 「クラウドガール」(3)金原ひとみ

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作:金原ひとみ 画:山城えりか

 

60~88 (11/1~11/30)

美容室のドアを開ける杏。大塚まりという偽名。予約された広岡が来る。続いて入店する晴臣。
カット、シャンプーと作業が淡々と進む間に、広岡が既婚者で十五歳の男の子が居る事まで聞き出す。
他愛のない会話は続く。恋愛の話、モデルに誘われないか、とか。広岡に「何か、夢がある?」と尋ねられた時、杏の頭の中で理有とママとで仲良く暮らすイメージが浮かぶ。だが、それが叶うことは生涯あり得ない。
突然辺りを見回した杏は、激しい動悸を感じて胸を押さえた。倒れそうになる杏を広岡が受け止める。
救急車を呼びますか、という声に、広岡は杏を抱き抱えて控室に向かった。晴臣が「どうしたの?杏」と声をかける。

杏は息が吸えない。痺れ始める手足。救急車を呼ぼうとする晴臣を制して広岡が「二分でいいから目を閉じて、ゆっくり呼吸して」と指示。吸って、吐いて、と言われるままに続けるうち、次第に胸の苦しさが和らぎ始め、落ち着きを取り戻す杏。
パニック障害の知人の事を引き合いにして、何かきっかけがあったか、と聞く広岡に、夢の話だと思いながら気にしないで、と返す杏。
応急的に最低限のカットだけして、代金は次に来た時でいいから、と話す広岡。そんな広岡を見て、理有が付き合う相手として、いいような気がしていた。
帰りのタクシーの中で「検査だけでもしてみよう」と心配する晴臣。

 

それから三日間、晴臣の家に泊まった杏。三日とも午後から授業には出たが、学校以外には外に出られなかった。
優しく労わってくれる晴臣。かけがえのない時間。
実家に行かないかと誘う晴臣。杏との結婚を考えていた。女優のシングルマザー長岡真理に育てられ、不良息子と書かれながらも、育児・教育を丸投げしていた経緯から、母親は何も言わないと話す。

 

理有に彼氏が出来たら絶対に会いたいと言っていた杏。それがようやく実現して杏と晴臣、理有と光也の四人でレストランに集まった。
注文選びに始まって軽い会話が続く。杏は、理有が姉らしく、ここ一週間杏が晴臣のところに居る話を聞きながら、光也の様子を観察していた。ただひたすら普通の人。
晴臣の母親が女優だという事を杏がバラして盛り上がるのを冷たく見る理有。ママの話に触れられたくない。
食事が運ばれて来て、食べながら光也が晴臣らにダンスの事を聞いた。喜々として説明する晴臣。
イギリスの中学で友達とジャンプスタイルの練習に通っていたが、大動脈弁狭窄症のため帰国。その後大きな発作を起こして二ケ月入院したという経緯。
光也はどんどん杏、晴臣と仲良くなっていくが、理有だけが取り残されている。
食事が終わってトイレのため中座した理有を追いかける杏。
杏たちの対応が、探られているようで、と迷惑そうな理有。どうして光也と付き合おうと思ったのかを聞くと、理有はイラついて杏は私の人生に関係ない、と遮る。
突然の拒絶に戸惑う杏。理有の去ったトイレで涙を流す。

 

理有たちと別れた後、もう帰ろう、と晴臣の家に戻った杏。晴臣がとりなすが、肩を震わせて泣く。
いつも隣にいた理有が自分を拒絶した。
でもここには晴臣がいる。自分の部屋に戻って衣類、靴などをバッグに詰め込む。冷蔵庫からチューハイを出して飲み干すと部屋を出た。

 

7時に晴臣と待ち合わせて食事をする事になっていたが、時間も早いので、一旦荷物を置きに晴臣の部屋に向かった。途中で思い出す理有とのエピソード。

晴臣の部屋に入り、彼がダンスの練習に行くと言っていたのを思い出す杏。冷蔵庫のビールを飲んだ時、寝室からの物音に気付く。
ノックをせず、寝室のドアを開けると、晴臣が居た。布団を剥がすと全裸の女。ビールを逆さにしてその女にかける。
違う、ちがうとわめく晴臣。裸のまま服をかき集めて部屋から逃げ出す女。
言い訳させて、と言って近づいた晴臣のこめかみを殴りつけた杏は、果物ナイフでシーツ、ベッド、カーテンを切り裂く。割れたガラス棚で手を切った。
我に返ったと思ったとたん、急激に襲う恐怖。息が浅くなり、動悸がどんどん早くなる。美容院の時と同じ発作。
晴臣は杏を抱き抱える。さっきまで殺してやろうと思っていた男に従う。
発作が収まるのを待って、マンションを出て行く杏。

 

母親の三回忌。祖父の運転する車の中で理有は杏からの連絡を確認していた。一週間前、四人で食事をして以降、杏とは連絡が取れない。
東京郊外にある母親の墓での法要。焼香を終え、その場を離れたところで高橋に会った。来ていない杏の事を「おさるさん」と呼ぶ懐かしさと共に不快感が広がる。母親が良く言っていた例え(調教すれば猿回しぐらいは出来る)。高橋は長い間母親の担当をしていた編集者。多分母親の元彼。母が離婚する前から不倫していたとの疑い。
未だに母親が心筋梗塞だとは思っていない高橋。
高橋に、母と不倫していたのか?と尋ねる理有。離婚後に一時期、そういう関係になったが、ある時期から急にビジネスライクになって解消したと話す。
左手の指輪を見て聞く理有に、三年前に結婚し、子供も居ると話す高橋。母親の小説の事を少し話すうち、高橋はユリカの最後の原稿を持っていると言い出した。

 

感想
お互い依存関係にありながら、平気で杏を裏切る晴臣の無神経さがハンパない。放任の母親(女優)のせいで精神的に欠落している部分があるのだろう。
杏自身にもパニック障害の傾向があって危険。
理有がこの中ではまともに見えるが、人を受け入れないという点では相当なもの。だからこそまとも風に見える光也とのつきあいを始めたのだろうか。

 

新たなキャストとして出て来た高橋。母との不倫を認めるも、相手にもされていなかったとシニカルに答える常識人。
母親の残した遺稿にどんな秘密があるのか。ちょっと楽しみ。

 

 

 


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