監督 瀬々敬久
脚本 瀬々敬久
音楽 田中拓人
主題歌 AI 「Life Goes On」
キャスト
広岡仁一(ジン) - 佐藤浩市
黒木翔吾 - 横浜流星
広岡佳菜子 - 橋本環奈
大塚俊 - 坂東龍汰
佐瀬健三 (サセケン) - 片岡鶴太郎
藤原次郎 (ジロー) - 哀川翔
中西利男 - 窪田正孝
真田令子 - 山口智子
黒木和美 - 坂井真紀
中西のジム会長 - 小澤征悦
感想
新聞連載された小説の映画化(小説概要は以下)
よって多少の思い入れも含みながら視聴した。
まずいきなり居酒屋で広岡と翔吾が対面。小説では半分ほど進んだところであり、今回の映画が若い翔吾にフォーカスが当てられたものである事が、この点でも明白。
翔吾と広岡という関係性では、原作とそれほど違和感ない。
尺の関係で、本来ボクシング仲間は広岡、佐瀬、藤原、星の4人だったのが、星が藤原に吸収された形になった。
設定がかなり変わったのがヒロインの佳菜子。小説では不動産屋の社員だったが、短い尺で繋がりを出すため広岡の姪という事で、それに関するエピソードも創作された。
そう悪くない(うまく作ったな、的な)
印象をザクっといえば「バキバキのボクシング映画」
人間ドラマはボクシング場面のために演出された様なもの。
翔吾役 横浜流星のキレのある体から繰り出すパンチの迫力。
この映画撮影の流れでプロのライセンスまで取ったというのもナットク。
ライバル 中西利男役の窪田正孝も、やや細身ながら(フェザー級だから全く妥当)裸で見るに耐える姿。この2人のバトルを見ているだけでグイグイ引き込まれる。また試合の間はほとんどバックに音楽は使われず、何とも「スパルタン」な雰囲気だった。
原作と異なる部分についてのそしりも、このボクシング場面を録りたかったと理解すれば、何の問題もない。
逆に原作にはない部分で感銘を受けたのが、網膜裂孔が分かってからの広岡の対応。原作では心配するもののそれほど深刻な扱いではなく、手術をしたら「顔を打たれるな」程度の話。
読んでいても「もっと考えてやれよ!」と思ったものだった。
映画ではそれを知った広岡は徹底的に「ダメだ!」と拒絶。ここにけっこう尺を取っていた。それが心臓発作を起こして死にかけた事で、生きているうちに翔吾が勝つ姿を見たいと思った。
そんな広岡に令子は「黒木君を利用している」と断じた。
この辺り小説でもその域には達しておらず、いい脚本だと思う。
監督の瀬々敬久氏。調べてみたら、元はピンク映画の監督。
過去作には「a」「b」「c」などなど・・・
かと思うと「64-ロクヨン- 前編/後編」「ラーゲリより愛を込めて」などメジャーな監督さんでもある。脚本もこの人。
あらすじ
居酒屋で一人飲む老人 広岡仁一。それを見る若者 黒木翔吾。
騒ぐ若者3人に「静かにしろ」と注意する広岡。
店を出た広岡にインネンをつける3人組だが、簡単に倒されて逃げ出す。その仲間でもないのに向かって来た翔吾。
ファイティングポーズを取って立ち向かうがクロス・カウンターを打たれて跪く。
立ち去る広岡。
真拳ジムを40年ぶりに訪れる広岡。
父の跡を継いだ娘 真田令子。
当時三羽烏と言われていた広岡仁一、佐瀬健三、藤原次郎の当時の写真。現東洋太平洋チャンピオンの大塚俊はジム期待の星。
他の二人の消息を聞く広岡に、藤原は刑務所だと教えられた。
一升瓶を手に、もう一人の佐瀬を訪ねる広岡。
ジムを経営していたがとっくに潰れたと言う佐瀬。
今でも広岡の負けた試合を惜しむ。
共同浴場に誘われた広岡の胸には手術痕が(心臓のバイパス手術をやっていた)
これからの事を一緒に考えてみないかと言う広岡。
一軒家の庭整備をしている広岡のところへ到着した佐瀬。
そこに刑務所から出所して来た藤原。再会を喜び合う三人。
だが一緒に暮らさないかと言う広岡に、成功した者の施しか、と言って険悪になる藤原。
そこへデリバリーの若者が来る。先日広岡に倒された翔吾。
この近くだと踏んでアンテナを張っていたという。
翔吾は日本タイトルに挑んで負けたという。大きなジムに絶対勝てない。そのジジイも、かつて試合のジャッジで負けて日本を出たと言う佐瀬。
あのパンチを教えてくれと食い下がるが、にべもなく断る広岡。
それをとりなして「テストしてやろう」と言う藤原。
だがその後広岡と口論になり「ガラウケ(身柄引受人)は別の人に頼んだ」と言って去って行った藤原。
テストは河川敷の土手を上下に走るもの。すぐにバテる翔吾。
「これが10本出来るようになったらまた来い」と言う佐瀬。
医師からの話を聞く広岡。弁膜症も現れており、早期の再手術を勧められる。もう少し様子を見たいと言う広岡。
広岡を訪ねて大分から来た姪の広岡佳菜子。がんで余命僅かな父(仁一の兄)が要望する献体の書類にサインが欲しいという。
それを条件に葬儀費用が不要になる。サインする広岡。
土手のランニングが出来るようになった翔吾。
約束を果たしてくれと言う翔吾に「俺は約束を破る・・・」
激怒の翔吾。
TV録画で、スーパーフェザー級世界1位のマーカス・ミラーと戦って勝った中西利男の試合を見る佐瀬。
お前が出来なかった事をこいつはやったと言う佐瀬。
しつこく窓に貼り付いている翔吾。何としてもコーチを受けたい。今しかねえんだよ!と言う翔吾。延々と続く口論。
不公平なんかいくらでもある。ガマン出来るのか?と広岡。
そしてレッスンが始まった。次第に腕を上げて行く翔吾。
佐瀬が翔吾に住んでる場所の事を聞く。
「マンガ喫茶とか・・・」
家に置いてやる様広岡に頼む佐瀬。
藤原を訪れる広岡。一緒に住もうと言ってくれた女性が病気であっけなく死んでしまい、飲んだくれていた。
「お前の家には行かねえ」
自分の家に荷物を取りに行った翔吾。見知らぬ男がいた。母 和美の話では同じガソリンスタンドで働く原田。翔吾のTシャツを着ていたので慌てて脱ぐ原田。必要なものだけ取って去る翔吾。
翔吾を、真拳ジムに所属させてもらうため連れて行った広岡。
そこでスパーリングしていたのは世界戦を目指す大塚。
無謀にもスパーリングをしてくれと頼んだ翔吾。
2ラウンド限定のスパーリングが始まる。優勢を保つ大塚。2ラウンド目で、次第に左のガードが下がる翔吾。
そこに打ち込む大塚。
クロス・カウンターが炸裂し、大塚が倒れて皆で運び出された。所属の話はなしにして、と怒る令子。
「ウチは考えるボクシングなの!」
仕方なく佐瀬の息のかかった「山の子ジム」で練習する事になる翔吾。同業者で、今はその息子が継いでいる。子供たちが練習していた。
まずは下のランクでの試合が設定された。相手は子持ち。家族の熱烈な応援。
優勢は確実だが応援が気になってトドメが打てない。
最後には勝つが広岡は「やめちまえ!」と言い捨てる。
佳菜子の父が亡くなり訪れた広岡。献体すれば火葬に金は掛からないが、遺骨が戻るのは2、3年後。
散骨してとの遺言を話す佳菜子。
母親は心臓が悪く、自分を生んですぐ死んだと話す広岡。そのせいで親父も兄貴も俺には冷たかった。いや、そんな気がしてた。
遺体は大学関係者に引き取られた。車を見送り叫ぶ佳菜子。
荷役場のバイトで体を鍛える翔吾。
川べりで、佳菜子が持たせてくれた弁当を翔吾と食べる広岡。
問われるままに家族の事を話す翔吾。知り合いの連帯保証人になったおけげで父は失踪。母と生活保護ギリギリの暮らしだった。
優しすぎる翔吾を見て「母親を守るためにボクシングを始めたのか?」と訊く広岡。むせて否定する翔吾。
令子と、現WBAチャンピオン中西の所属会長を前にする広岡。
大塚と中西の試合が計画されていたが、大塚は翔吾を倒さない限り世界戦をやらないと言っている。そこで大塚と翔吾の東洋太平洋タイトルマッチを行い、その勝者が中西に挑戦する事を提案。
遅れて来て料理をつまみ食いする中西。
ただの咬ませ犬にする気だ、と言って去ろうとする広岡に中西が
「守りたいのは選手じゃなくて年寄りのプライドでしょ?」と挑発。結局試合のセッティングが行われた
世界戦の話を聞いて興奮する翔吾。だがその前に大塚戦がある。
打ち合わせのため真拳ジムに行った広岡。そこで大塚を指導している藤原。「キレイなボクシングなんていらねえからな・・・」
会長(令子)が声をかけたのだと言うトレーナー。
戻って翔吾に練習をつける広岡は、大塚の武器はスピードとフックだ、と翔吾に教える。
自らの動きで、フックがどこから出るか悟らせるなと伝えた。
ガソリンスタンドへ行き、母親にタイトルマッチの事を話す翔吾。だが顔にアザを作っていた母。
原田を見つけて殴りかかる翔吾。
着ていた翔吾の服やズボン、下着まで無理やり脱がせた。
中西の所属会長を訪れる広岡と翔吾。不祥事に激怒の会長。
会長の前で土下座する広岡。「翔吾を戦わせて下さい・・・」
取り壊される家を録画する佳菜子。
スーツケース一つを引き、祭りで賑わう町に出て行った。
大塚対翔吾の試合が行われていた。右まぶたを切った翔吾。
相手のセコンドは藤原。「傷を狙え・・・」
劣勢だったが、カウンターパンチでTKOを取り勝利した翔吾。
アナウンスで春に中西への挑戦が告げられる。マイクを受け取った翔吾はファンに礼を述べながらも、客席でスマホをいじっている中西に「スマホなんか見てんじゃねえよ!」と怒鳴りつける。
広岡の家に身を寄せた佳菜子は食堂で働き始める。
翔吾の母へのクリスマスプレゼントを見立てる佳菜子。
病院での診断結果(網膜裂孔)を聞き試合は中止だと言う広岡。納得出来ない翔吾。間に挟まれて懊悩する佳菜子。
その間にも翔吾の通うジムを訪れ、偵察する中西。
大晦日、神社の参拝中に倒れる広岡。救急搬送された。
目覚めた時に令子が
「あけましておめでとう、と言えばいいのかな?」
佐瀬は「医者は手術を勧めていた」と言う。
手術では心臓を止める。弱った心臓では動き出さない時がある。怖いんだよ、と言う広岡。そこに駆け付ける翔吾。
席を外した令子と佐瀬。
目が見えなくなってもいいから試合がしたいと言う翔吾。
そういうのを特攻精神って言うんだ、と広岡。
あんただってメチャクチャじゃねえかと返す翔吾に
「年寄りはメチャクチャなんだよ・・・」
あいつ相手に無傷では終われない、と言いながらも、俺はお前と一緒に戦いたいと言う広岡。
病院で網膜裂孔のレーザー手術を受ける翔吾。
回復して翔吾との練習を再開した広岡を訪ねる令子。
自分が生きている事を感じたくて黒木君を利用していると言った。そして大塚は引退したとも。
見ていられない、無謀だわ・・・
広岡は言う。会長の言っていた頭のよさ、俺もそう思っていた。
「過去形なんだ」と令子。
打たれないで打つ・・それだけじゃだめなんです、と広岡。
ロスのホテルのオーナーが、日系人はあんたに励まされたと言っていた。その言葉の意味を真剣に考えて来なかった。
それを聞いて呆れる令子。
「自分の事だけ考えてああなったんでしょ」
中西も翔吾との戦いに向けて調整を進める。
その様子を居酒屋のTVで観る藤原。
試合は中西優勢の状況で進む。
ラウンドの間で広岡が「何で打たれるか分かるか?」
「足が止まるから・・・」「そうだ」
6R。中西の猛ラッシュでダウンする翔吾。辛くも立ち上がるが打たれて再度ダウン。何とか立ち、ゴングに助けられる。
傷の手当てを受ける翔吾は「ジンさん、面白れえよ・・・」
TVを観る客が「目、見えてねぇんじゃねぇか」と騒ぐ。
翔吾のガードが下がって来る。「ガード上げろ!」と言う佐瀬に
「いいんだよ!」と広岡。「アレを打たせるのか・・・」
とどめを刺そうとする中西にクロスカウンターを打ち込む翔吾。
ダウンする中西だが、何とか立ち上がった。猛攻するもゴング。
血だらけの翔吾が「ジンさん、タオルなんか入れんなよ。今すげェ気持ちいいんだよ・・・」
そして最終の12R。壮絶な打ち合い。終了のゴングが鳴る。
判定は1人目 中西、2人目 黒木、3人目・・・・
新チャンピオン、黒木翔吾!
ベッドで横たわっている翔吾の隣に立つ母親。
「アンタ、分かってたんでしょ?何でさせたの」
と広岡を責める。
「ごめん、オフクロ。俺がやるって言ったんだ」と翔吾。
明日の手術まで長丁場だから、と母親を外に連れ出す佐瀬。
「ジンさん、俺後悔してないから。すげえ世界が見えたんだよ・・・」
「俺はここまで生きてこられて良かったよ」と広岡。
広岡の二人で歩く令子。
「ホントだったね・・・勇気、もらった」
近くの桜を見て来ます、と歩き出す広岡。
「広岡君」と声をかける。
満開の桜の下で息絶えている広岡。
半年後
スーツ姿で出勤する翔吾を追いかけ、弁当を渡す佳菜子。
「再々デビューだな。行ってきます!」と歩き出す翔吾。
今日の一曲
「春に散る」主題歌
AI 「Life Goes On」