原題:Nightmare Alley
監督 ギレルモ・デル・トロ
脚本 ギレルモ・デル・トロ、キム・モーガン
原作 ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
『ナイトメア・アリー 悪夢小路』
キャスト
[スタン] スタントン・カーライル - ブラッドリー・クーパー
リリス・リッター博士 - ケイト・ブランシェット
[モリー] メアリー・エリザベス - ルーニー・マーラ
ジーナ・クルンバイン - トニ・コレット
[クレム] クレメント・ホートリー - ウィレム・デフォー
エズラ・グリンドル - リチャード・ジェンキンス
ブルーノ - ロン・パールマン
[ピート] ピーター・クルンバイン - デヴィッド・ストラザーン
チャールズ・キンブル判事 - ピーター・マクニール
フェリシア・キンブル - メアリー・スティーンバージェン
アンダーソン - ホルト・マッキャラニー
獣人(ギーク) - ポール・アンダーソン
保安官 - ジム・ビーヴァー
特別映像
感想
予告編で獣人の事がかなりフィーチャーされていたので、そっちの方の興味も強かったが見掛けは普通のヒゲ男で、鶏を食らうと言っても想定の範囲内(ちょっとガッカリ)
他の出し物もインチキ臭くて(怪力男や感電女)この時期のアメリカの娯楽「フリークショー」の雰囲気が良く出ている。
”親の因果が子に報い~~”とか日本でもやってたし。
序盤でスタンが家に火を点けて立ち去って行く姿を見て「ギルバート・グレイプ」を思い出した。死んでしまった母親を火葬するため、家に火を点けたギルバート。家を燃やすには理由がある・・・・
ピートがスタンの時計を手にして読心術を展開して行く姿は秀逸。スタンの表情を探りながら小出し、小出しに殻を剥いて行く。スタンが感嘆した後のタネ明かしも見事。
ピートに与えた酒は多分標本用のメチルアルコール。
飲用と標本用はフタの色が違うとかクレムが言ってたから(ちょっと見落としたが・・・)
故意か過失か。
保安官が押しかけてピンチになった時の切り抜け方も見事。彼の動作を即座に観察し、幼い頃の小児マヒの経緯を推理。彼の今に至るまでの心理、母への思いなどを抉り出す。
これがスタン自身に大きな自信を与える。
そして見世物小屋生活からの脱出。しかしスタンとモリーを送り出すのに、トラック1台をあの興行主クレムが提供する筈がない。なんか都合良く話をまとめた感じ。
そして2年が経ったニューヨークでの成功。スタンの衣装で気になったのはネクタイ。結んだ丈がえらく短い。この結び方はウィンザーノット。付け根の玉を作るのに左右とも回し余分に長さを使うから、結んだ後の丈が短くなる。これはイギリス的な正統派。単なる権威付けか、スタン自身の憧れか。
後半部はグイグイと持って行かれる。ショーの最中でのリリスによる割り込みと、それを切り返して喝采を得るスタン。
そこからズルズルと深みに嵌って行く。観ている時にはほとんど意識しないが、最後になってスタン自身がリリーに利用されていた事が分かる。
素肌にジャケットだけを羽織ったリリスの胸に無残に残る傷跡。
これを見ただけでも、いかに凄惨な修羅場をくぐって来たかを洞察しなくてはいけなかった。乗せられて、今まで禁じていた酒を口にしたところからスタンの転落が加速する。
モリーを幽霊に仕立ててエズラを騙すシーン。あれはいくら何でも無理だろう。あんな方法を思いつくこと自体がオカしくなっている証拠か。だが高揚したエズラが、ドリーの死後若い女性を何人も殺したと告白。
この辺りはホントぞわっと来る感覚があった。
それに前後してキンブル夫妻が心中。妻が笑って亭主のこめかみを撃ち抜いた時、マジで「ドキっ!!」となった。
これは心臓に悪い・・・
スタンが妻の手を取って「息子さんは待っています」などと言ったばかりに逢いたい気持ちを募らせた。
人を操る読心術だが、結局そのために自らが破滅に向かって行く。ピートの忠告があとになって効いて来る。
ここ一年ほど観た中ではかなり気に入った一本。これはスタンの視点で作られたが、リリスの視点で作った映画も観てみたい。
あの胸の傷の真相とか・・・・
あらすじ
丘の上の一軒家に火を放ち、歩き出す男スタン。
バスの中で目覚める。着いた所は雨。
見世物小屋(フリークショー)の獣人「ギーク」の出し物を見るスタン。生きた鶏の首を噛みちぎる獣人。
ショーを抜けてウロついていると、興行主のクレムが小屋の撤収を手伝えば1ドルやると持ちかける。雨の中仕事をするが、賃金受け取りの時25セント差し引かれている。
獣人の見世物を見た時、金を払わなかったのを見逃さないクレム。ただ、持っていたラジオは5ドルで買うという。
粗末な食事をしていると、周りが騒がしくなる。獣人が逃げ出したとの事で、スタンもその捜索に駆り出される。建物の隅に隠れている男を見つけるスタン。こんなじゃなかった・・・と呟く男。黙っててやると手を差し伸べるが攻撃して来る。
スタンは殴って男を気絶させるが飛んで来たクレムが
「死んだらどうする」
この事でクレムに気に入られ、小屋で働き始めたスタン。
またクレムは奇形児のアルコール浸けをクレクションしていた。
お気に入りは「エノク」
胎内で暴れて母親を道連れにしたという。額にある第三の目。
標本を作るためのアルコールは飲めば死ぬ、とそれを見せる。
隣りにトウモロコシから作った飲用の酒もある。
高電圧に耐える「電気椅子」パフォーマンスをするモリーの事が気になるスタン。
「バス10セント」の看板の横に座っている女ジーナに風呂を使いたいと頼むスタン。ジーナは入浴中のスタンの股間に手を伸ばしてキス。
ジーナは千里眼の出し物で人気があった。夫のピートとコンビ。
客が書いた悩みを集める(彼女はそれを見ていない)
別ルートでピートがメモを黒板に書き移して舞台下の穴からジーナに見せる。
あたかも超能力のように客の悩みを言い当てるジーナ。
そのアシスタントになったスタンだが、アル中のピートは時々ミスをやらかす。それを切り抜けるために「降霊」を装うショーを行ったジーナ。
ピートは昔は読心術の達人だったが、過去にトラブルがあったのか今は封印。ただ、一度スタンの時計を手に取って彼個人の秘密を言い当てたピート。その技を知りたいスタン。
読心術の極意を書いた手帳は常にピートが持っている。技を教えて欲しいと言うスタンに小出しにしか与えない。
またこの術は使い方を誤ると破滅するとも言う。
獣人の頭の傷が化膿し、クレムに命じられて一緒に教会の前まで捨てに言ったスタン。
クレムが話す獣人の作り方。アル中で使い物にならない者を拾って来て酒を与える。それには一滴の麻薬を混ぜておく。しばらくしてから「一時的」に獣人の役をやってみないかと持ちかける。
しばらくやらせて、その後次の獣人が見つかったと言って酒を取り上げる。不安と禁断症状で必ず男は「獣人をやらせてくれ!」と言って来る・・・・
帰還兵の酔いどれは「ナイトメア・アリー(悪夢小路)」で簡単に見つかる、と言うクレム。
ある時酔いつぶれたピートの手許のメモをそっと読もうとするスタン。
途中で気付いて警戒するピートだが酒が欲しいとスタンに頼む。
クレムの目を盗んで保管場所からアルコールの瓶を盗み出して与えるスタン。
翌日急死したピート。急性アルコール中毒だろう。嘆くジーナだが、スタンのアシストで千里眼の芸は続けられた。
ピートの手帳から読心の極意を掴んで行くスタン。
モリーに思いを伝えるスタンだが、なかなか通じない。
ある時保安官が小屋の閉鎖を命じにやって来る。
人、動物虐待の通報を受けたもの。
そのピンチでスタンが保安官の読心を行い、彼の心を掴んで閉鎖しない方向へ心を操作。
スタンや団員はその手腕に感嘆する。今まで冷淡だったモリーもスタンについて行くことを決心。トラックでモリーと一緒に街へ出て行くスタン。
はなむけにジーナが占ったタロットで、スタンには「吊るされた男」のカードが。
2年後(1941年)のニューヨーク。
スタンとモリーが小ラウンジの客を相手にショー実演。
目隠しをしたスタンが客の持ち物を当てるもので、モリーが会話に仕込んだ暗号を使う。
そんなショーを行っている時、上品そうな女性がそれに割り込んだ。会話に仕込んだ暗号でモリーがヒントを与えていると暴露。
その上で自分のバッグの中味を当てろと言う。
目隠しを取ったスタンは慎重に相手を観察し、その上で中味は飾りのついた小型拳銃だと言い、見事に当てた。
ショーのあと客に指名されるスタン。彼はキンブル判事といい、先の割り込みはリリス・リッター博士が依頼されて行ったもの。個人的に対応を頼みたいと言うキンブル。
後日、渡された名刺でリリスを訪ねるスタン。
彼女は心理学専攻でカウンセリングも行っており、キンブル判事は患者の一人。
患者との対話は全て録音されているという。
リリスから、キンブルの息子が従軍により23歳の若さで死に、特に妻の嘆きに苦慮しているのを知るスタン。
キンブル夫妻の家に行ったスタンは巧みに息子の死を言い当て、妻の手を取って息子さんはあなたの事を待っていますと慰めた。
モリーに知られたくないので、報酬をリリーに預けたスタン。
見世物小屋の仲間とまだ繋がっていたモリーは、ある日家に彼らを呼んだ。モリーの話を聞いたジーナが、帰宅したスタンに降霊ショーは止めてと頼むが彼は聞き入れない。
スタンを信用したキンブルが、友人の資産家エズラ・グリンドルを紹介する。
その相手もリリスの患者だったが、猜疑心が強くやめた方がいいと情報をくれない。
スタンはエズラの屋敷に行くが、疑り深いエズラは彼の言動の真偽を知るためポリグラフ(嘘発見器)を繋ぐ。
今までの経験を駆使して、この部屋には女性の影があると言うスタン。嘘の意識はないので機械は無反応。それが功を奏してエズラはスタンを信用する。
リリスの事務所の、音声ファイルを保管している鍵の形を写して合い鍵を作ったスタンは、彼女の留守中にエズラの情報を聞き出す。それを基に彼の妻ドリーが流産で亡くなっている事や付帯の情報を得るスタン。
流れでスタンとリリーは肉体関係になった。
リリーの胸にある深い傷跡。
資料を集める中で、スタンはドリーとモリーが似ていることに気付く。彼女にドリーの霊になる様頼むスタンだが拒否される。
セッション一回につき一万ドル出すと言っているエズラは、具体的な癒しが得られない事にイラ立つ。
ボディガードのアンダーソンはスタンを信用していない。
スタンはある夜を決めて作戦を決行。モリーにドリーの衣装を着せ、亡くなった時のように両手にニセの血糊を付け、8時ちょうどに現れるよう時計を合わせて待機させる。
そんな頃、キンブルの妻が自宅で夫を射殺。そして自分も息子の名を呼んで自殺した。
エズラを庭園に呼び出して会わせる計画。
邪魔なアンダーソンは待機させた。
ドリーに会う興奮で雄弁になるエズラは、妻の死のショックから、その後何人もの女性を殺して来た事を告白。
パニックになるスタン。
そこに現れたドリー(に化けたモリー)。
跪いて祈れというのを無視してモリーに走って駆け寄り抱き付くエズラは、別人なのに混乱する。
事情がバレるのを恐れたスタンがエズラを何度も殴打する。
アンダーシンが待機していた時、聴いていたラジオから、キンブル夫妻の心中が伝えられる。
同時にエズラの悲鳴を聞いて駆け付けるアンダーソン。
エズラは動かない。車で逃げようとする二人に立ちふさがるアンダーソンだがはねられる。それを更に轢くスタン。
逃げる途中で、襲われた様にとガラスを割る工作をするスタンに幻滅して去るモリー。
リリスの事務所を訪れるスタン。金をバッグに詰めて逃げるよう促すリリー。だがその札束は表だけが100ドルで、残りは全て1ドル札。怒るスタンに例の小型銃を向け発砲するリリー。
耳を撃たれるスタン。
全てリリーに操られていた事に気付いたスタンがリリーの首を締めるが、通報で警官が駆け付ける。
辛くもそこから脱出したスタンは、鶏を積んだ貨物列車に紛れ込んだ。
列車の中で、出奔した時の夢を見るスタン。
幼い頃から父親から虐待を受けていた。
病弱になった父親から毛布をはいで死なせた。
そして全てを焼き過去を消した。
逃亡生活の末に、ある見世物小屋に辿り着くスタン。中に入ると興行主はクレムではなかったが、棚に胎児のエノクと、スタンから買ったラジオがあった。
読心術が出来るというスタンに「その出し物はもう古い」と切り捨てるが、ふと思いついて呼び戻し酒を飲ませる興行主。
一気に飲むスタンに「仕事があるんだ」と言う。
「一時的なものなんだ。本物が見つかるまで。ギークが分かるか?」
それを聞いて手を止めるスタンだが、泣き始める。
「俺には・・・それが宿命」と言って自分を笑うスタン。