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2061年宇宙の旅(小説)アーサー・C・クラーク 1987年

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原題:2061:Odyssey Three


前作までの超おさらい
「2001年宇宙の旅」 詳細はコチラ

月で発掘された石板(モノリス:TMA・1)から木星に向けて信号が発射される。その謎を解くためディスカバリー号が派遣された(計画のキーマンはヘイウッド・フロイド博士)
行程の途中、船内システムを司るコンピュータHAL9000が暴走。

一人生き残ったデイビッド・ボーマンがHALを機能停止させ、木星軌道上にあるTMA・2の調査に赴いた(小説では土星の衛星ヤペタス上にTMA・2がある)
TMA・2から異空間をつなぐチューブを抜けて、ある部屋に辿り着いたボーマンはそこで年老い、眠りにつくと共に記憶の逆行を経て、スター・チャイルドとして生まれ変わった。
「2010年宇宙の旅」 詳細はコチラ
(映画の設定を継承し)木星軌道上のTMA・2及びディスカバリー号調査のため、ソ連宇宙船レオーノフ号が派遣される。

それに同乗するヘイウッド・フロイド。
彼らに先行した中国船チェン号が、木星の衛星エウロパに着陸して全滅(生物の存在)
フロイドはボーマンの亡霊に「14日以内に立ち去れ」と警告され、船長を説き伏せてそれを実行。

脱出の途中で、木星内に入り込んだモノリスの大増殖を見る。
木星が太陽となって輝き出す。そこに謎のメッセージ
「これらの世界はすべて、あなたたちのものだ。ただしエウロパは除く。決して着陸してはならない」
エピローグ・20001年 
語られるエウロパ人の歴史。そびえ立つモノリス。内部に眠る生命体はそのまま打ち捨てられるのか、エウロパ人の橋渡しになるのか。

感想
「2001年宇宙の旅」 「2010年宇宙の旅」に続く続編。
「2010年--」のラストでは一万年後のエウロパ概要が描かれたが、本作は2010年の約50年後として始まる。
ハレー彗星への上陸ミッションに参加するフロイド。人工冬眠と宇宙生活が寿命を延ばすという設定で、103歳でもピンピン元気なフロイド。

クラークの願望が滲み出ているナ。
宇宙ハイジャックに遭い、衛星エウロパに不時着したギャラクシー号を救助するという話に、ゼウス山の秘密が絡む。
ダイヤモンドで出来たゼウス山の争奪、という図式がなんとも俗っぽい感じだが、本編ではそのゴタゴタにまでは発展しない(沈んでしまうから)
最終章で、命が尽きたフロイドが、全ての情報をトランスファーさせて、ボーマンを吸収した生命体と邂逅する。そこにはかつてのコンピューターHALもいて、三者でエウロパの行く末を見て行こうと話し合う。
その期限は千年。そして「3001年終局への旅」に続く・・・

ハードSFとしては、そこそこ成功してると言えるか。
2061年というのは、ハレー彗星が次回出現すると計算されている時期であり、この本のキモ。
それと、もし木星が太陽化するとした時、核には超高圧でダイヤモンドが出来るという理屈にも根拠がある。
でもSFを読むのにここまで理詰めだと、ちょっと疲れる。
未来でも保険会社の「ロイズ」が健在なのには微笑・・・
それにしてもギャラクシー号たちのスポンサーが中国企業とは、35年前の状況でこれを予測出来たのは、社会情勢にも明るかったという事か。

あともう一つ。

ファン・デル・ベルクが地球にダイヤの存在を知らせる暗号に「ビートルズ」の曲を使ったのは、ファンサービスの一環か。

 


あらすじ

第一部 魅惑の山
1 凍りついた歳月
103歳のヘイウッド・フロイド博士は、グラズノフ博士の言う65歳の健康状態だとの評に満足した。
重力は老化のもと、と提唱していたルデンコ博士(カテリーナ)は、長く地上で暮らし100歳まで生きられなかった。
地球に戻って僅か一週間で、バルコニーから転落して複雑骨折したフロイド。パストゥール宇宙病院での療養を余儀なくされた。

それが2015年のこと。今は2061年。
ここでの六分の一の重力が生物時計を遅らせ、更に人工冬眠が若返りを促進した。
「私が行っても大丈夫と思うかね?」の問いに、65歳並みでユニバース号での生活に問題ないと言うグラズノフ博士。
豪華定期客船とはいえ、若干のリスクはある。

だが安楽で泰然とした日々に不満を持っていた。
予期せぬ招待を受けて、ユニバース号の賓客リストに載ったことで熱狂が目覚めたか。
1985~86年の遭遇での、竜頭蛇尾による失望。

数あるうちで最も有名なこの彗星は、宇宙定期客船ユニバース号と遭遇することになるだろう。
「ハレー彗星--さあ行くぞ」

2 最初の望見
宇宙病院での人工的な夜が始まった時、フロイドは部屋の一切の明かりを消して、近づきつつある彗星を目視で観察し始めた。
どこを見ればいいかは分かっている。

ぼやけた斑点としか見えないが、空想に導かれる。
契約書には、ハレー彗星に着地した時、専門要員でない者が船外に出ることについては触れていなかった。

3 再突入
木星からの帰還時、チャンドラ博士が命を落とした。

ハルを失って、生きていられなかった、とカーノウ。
その彼も今はいない。ジェーニャを除く誰もかれも。45年間だ! 

喝采を浴びてレオーノフ号が帰還したのが昨日のようだ。

木星へのミッションはパンドラの箱。解明は今後に残されていた。
新しく明るい星は、年に数ケ月だけ太陽の向こうを通過する時以外は夜を追い払い、人類に希望と恐怖をもたらした。
そしてキャロラインとの別れ。

クリスとの別れにもかろうじて立ち直った。
パストゥールでの長い療養のあと地球に戻ると、彼は骨壊死症状を起こして直ちに軌道へ送り返され、宇宙病院での暮らしに戻った。

二度目の、そして最後の核戦争を経て、強国間での本格的な戦争はなくなった。
2060年になると、残った50個の核兵器は国際管理された。
兵器産業の解体は、世界経済に強い刺激を与えた。
新たな世界を建設するため、人類は種族の余剰エネルギーを吸収し得る課題を発見した。

4 大立者
ウィリアム・ツァンら兄弟とその父サー・ローレンスの話。

父は中国の一人っ子政策の時に生まれ、幼年期の孤独を埋め合わせるために多くの子供を作った。

その時には政策が変わり、納付金さえ納めれば生めた。
事業複合体により地球最大の財閥となったサー・ローレンス。
香港プラネタリウムの所長と懇意になった彼は、60歳の誕生日に特別上映をプレゼントされた。

5 氷の中から
香港のプラネタリウム施設で上映されるプログラム。中国の無名のロケット発明者に始まり、世界のロケット発展史が語られる。
そして2007年のチェン号が隠密に建造された話へ移る。
あの木星の衛星への最初の着陸。

フロイドの実況放送は情景設定に利用された。
エウロパ上での光景、技術的説明。フロイドが話す中国の目的。

エウロパを木星以遠へのキー・ポイントにする・・・
だがそうはならなかった。

豪華な椅子にもたれてサー・ローレンスは思った。
エウロパの海洋は、不可解な理由で未だに人類の手に届かない。
また木星が太陽になってからは、多量の水蒸気の雲に隠されてしまった。
今彼が見ているのは2010年当時、少年の頃のもの。

当時の誇らしい気持ち。
次に起こったチェン号の崩壊。それを伝えるチャン博士。

6 ガニメデの緑化
ロルフ・ファン・デル・ベルクは、適切な時期に適切な場所にいた、適切な人物だった。
人物としては、彼が地質学者だったこと。場所は木星最大の衛星ガニメデ。時期は決定的でないにぜよ、その情報をファン・デル・ベルクは占有し、59年からは他人に発表されない様手を打った。
発端はガニメデの天然資源調査。その目録作りが彼の仕事。

隣りには禁じられた衛星エウロパがある。
長くは無視出来ない謎の星。7日ごとに日食を起こし、ルシファーが出来て数十年で変貌を遂げていた。水蒸気、硫化水素、二酸化硫黄などのガスからなる大気を持つ。「夜側」は依然として凍っていた。
2028年の大規模調査では、既に永久的な雲の外套に覆われていた。
10年後になると、エベレストに近い独立峰が出来ていた。

ゼウス山は宇宙の氷山だと言う学者もいたが、これにファン・デル・ベルクが反論した。
エウロパに対して警告された「決して着陸してはならない」は忘れられていなかったが、どの程度までなら許されるかで議論された。
だがガニメデでの、水耕農場のための研究を優先させるべき。
そんな中でもファン・デル・ベルクは肩越しにエウロパを振り返り続けた。
そしてある日、わずか数時間、強風によってゼウス山付近の空が晴れ上がった。

7 変わり目
フロイドを訪れる友人、ジョージとジェリーのカップル。

遺言執行人にされる事に不満を言うジョージ。
もし戻らないようなことがあれば、と家族に届けて欲しいものの説明をしたフロイド。
身内のその後。マリオンがもし生きていれば百歳。

彼女の二人の娘は子供ができた(孫だ)。
二度目の妻との和解はならず、クリスは二十歳で結婚して、クリス二世が生まれたが、十歳で父を亡くした。
クリス二世が送って来た絵葉書は、例の有名なモノリスの写真(フロイドもクルーの一人だった)。
その葉書をポケットに入れる。ユニバース号への唯一の私物か。
この飛行のスポンサー、サー・ローレンス・ツァン。

フロイドをハレー彗星まで往復させる。その見返りはTVに出ていくつかの記事を書き、宇宙旅行を奨励する。
彼のほかにも著名な者の同行が決まっていた。
ジョージとジェリーからの贈り物。

額縁に収められた絵。「メデュース号の筏(テオドール・ジェリコー)」

8 宇宙船団
サー・ローレンス・ツァンは、プラネタリウムで観たチェン号遭難事件に触発され、宇宙開発に目を向けた。
1950年代に発見された核融合。2040年になって「ミューオニウム・水素化合物」が作られた事によりミューオン駆動が実用化され、宇宙旅行が激変した。それに必要な推進剤は「ただの水
ツァン船団の一号機「コスモス号」でミューオン駆動を実用化し、その二年後姉妹船のギャラクシー号が建造された。

そして船団の三番目の宇宙船「ユニバース号」がサー・ローレンスの自慢の船。一級の定期旅客船として設計された。
この宇宙船の建造遅れのため、処女航行としてのハレー彗星行きまでの日程がギリギリになった。

9 ゼウス山
耐用年数を遥かに超え運用されている、探査衛星エウロパ6号からの情報。それを受けて週に一度地球に送るのもガニメデ駐在科学者チームの任務。
その情報を確認するファン・デル・ベルク。

突然に光の爆発が起きてすぐ消滅した。それは山からの反射。
それが出来るのは氷かガラス。

彼は水晶だと推定。本当だったらひと財産。だがそれは空想。

ディスカバリー号からの「例の警告」によって、人類はそこに近づくことが禁止されている。

10 愚者の船
旅が始まってから、その快適さと広さに感嘆するフロイド。

ただ、同船者の多くはそれを当然と思っている。
四つに分類される本船の住民。スミス船長と宇宙士が第一。

その次が乗客。それから乗組員と下級船員、スチュワード。

その下に三等船客(と自称している5人の若手宇宙科学者)
ただし食事は例外であり、誰もが絶賛。
六名の要人。

ヴィクター・ウィリス:科学解説者。背丈の長さのひげを持つ。
イーヴァ・マーリン:女優。天文に興味あり。過去フロイドが恋していた。
ジミトリ・ミハイロビッチ:音楽家
クリフォード・グリーンバーグ:水星に最初に着陸した男
マーガレット・ムバーラ(マギー・M):作家。神話を現代の中に据えた。
初めて「愚者の船」の言葉を使ったのはマギー・M。

11 嘘
ファン・デル・ベルクが思考を再びゼウス山に向けられるようになって、彼はティアマト天文台に通話を入れた。

この天文台ではルシファーを10年以上も観測していた。その向きを一時変更してエウロパの観測をして欲しいとの依頼。

好意的だったウィルキンズ博士はそれを引き受けたが、意外に課題が多くその結果をもたらされたのは約一年後。
異常なものが二つあり、そのうちの一つは長さ2キロのまっすぐな形状。レーダー波を反射しない。
もう一つがゼウス山。

功名心を切望するウィルキンズ博士の問い合わせに
「珍しい形態の石英にすぎない」
仲間の科学者に嘘をついたのは初めてであり、惨めな気持ちになった。

12 バウル伯父さん
ロルフ・ファン・デル・ベルクにはパウルという伯父がいた。素粒子物理学の大家、パウル・クリューガー博士。

甥が周到に、慎重な、婉曲した表現で送ったメッセージを苦もなく解読した。これが真実だったら科学、金融、政治が激変する。

13 「水着を持ってこいとは、誰も言わなかった」
スミス船長は5日目になって、水泳を楽しめるプールがあると言った。宇宙空間での水泳について、いっとき議論。
種をあかせば、本船は推進剤としてを五千トン携行している。

よって贅沢でもなんでもない。
それは手間がかけられていた。

海を演出するために、映像が巧みに映し出されている。

14 検索
パウル伯父は、甥の発見を客観的に説明するため、文献調査を行った。彼が持っている、コンピュータを自由に使える権利。
それは二時間半程度の検索で発見出来た。

ネイチャー誌はその論文を1981年に掲載していた。
その編集者は優れたユーモアの持ち主。

論文の標題が、かつての歌の一節。
だが甥ロルフはビートルズも、彼らの楽曲についても聞いたことがなかった。

第二部 黒い雪の谷
15 ランデブー
ハレー彗星とのランデブーの朝、キャロラインからのメッセージが来ていた。孫クリスにはユニバース号の姉妹船コスモスの部署への便宜を図ってやったが、ありがとうとも言わなかった。
あと三時間で駆動を停止し接近する。

活動していない「夜」側への着陸。

16 着地
着陸は、あっけなかった。宇宙船は高さ百メートルにすぎない丘陵に囲まれた地点に降りていた。
スミス船長がエアロックから体を出し、その砂をひとつかみした。
探査計画には着陸した南極のあと赤道の方へ10キロ移動、その後間欠泉を調べることになっていた。
乗客の船外活動に関する願望。

フロイドはイーヴァ・マーリンを連れて行くつもりだった。

17 黒い雪の谷
スミス船長は、意外なほど乗客の船外活動に寛容だった。

イーヴァとの船外活動に、何人かは羨望したが、彼女自身の反応は弱く、フロイドは苦い気分になった。
極めて堅固な構造を持つ「黒い雪の谷」水と炭化水素の氷からなる岩盤。案内人に引かれながら、フロイドは目に涙を浮かべた。
「私はハレー彗星に立っている。これ以上に何を望むことがある!」

18 オールド・フェイスフル
船長は船を極地から10キロ程度移動させた。

そこにある間欠泉は非常に穏やかだった。
皆に説得されスミス船長は、昼側で最大の間欠泉「オールド・フェイスフル」から100メートル以内まで船を移動した。
それはクレーターに開いた小さな孔から、巨大な樹木の様に生えていた。そこから遠くないところにあった真っ黒な湖。

薄い粘着状のタールの下は個体。地球上と同じように歩けることで皆が歩いたが、戻った船長がタールで汚れた船体を見て怒った。

19 トンネルの終点
彗星内部にある洞窟探検を、チャント博士とクリフ・グリーンバーグで行った。その探検の途中で、グリーンバーグが緊急事態を受信した。

20 召還
ユニバース号の姉妹船、ギャラクシー号が木星の衛星を調査した折り、誤ってエウロパに立ち往生したという。
その船長ラプラスはスミス船長の旧友。
こちらは太陽系の反対側にいて、月まで燃料補給に戻り、木星に向かっても数ケ月かかる。
そして、救出を企てた場合我々はどうなるのか・・・・
フロイドが呼ばれたもう一つの理由は、ギャラクシー号の乗員名簿。
その名を見たフロイドは「わたしの孫だ」

第三部 エウロパ式ルーレット
21 亡命者の政治学
南アフリカ共和国の革命失敗により同国の富が持ち出され、デル・ブントの資金源となった。

それは今となっては合法的とされ信望を得ていた。
ツァン航空宇宙会社に五億というブントの金が投資された。

サー・ローレンスはそれを喜んで受け入れた。
だが最近の、ギャラクシー号をチャーターした探査計画とブントとの繋がりは掴めていなかった。

22 危険な貨物
チャーター契約を受けたラプラス船長は、ガニメデ付近での待機を歓迎していた。惑星科学財団への匿名の補助金により、木星の衛星調査への資金が提供された。
このミッションを聞いてロルフ・ファン・デル・ベルグは問い合わせた。

そしてエウロパへの接近を行うと聞き、ミッションへの参加を申し出た。
だが彼らは既に彼をメンバーとしてアサインしていた。

このチャーター契約には奇妙な点が多かった事をラプラスは思い出していた。
乗務員二名が急病で交代、積荷の検分でクリス・フロイド二等宇宙士が怪しい荷物を報告。科学装置「エレクトログラム」中味は爆薬。
積荷の責任者アンダースン博士が呼ばれる。
品名「マークVペネトロメーター、数量3」惑星試料採取装置だという。岩石からコアを採取するもの。イオ研究に必要。
中味が適切であるとの保証を受けて、ラプラス船長はそれを受け入れた。

23 焦熱地獄
ギャラクシー号の科学チームにより、衛星イオに最初のペネトロメーターが発射され、二時間後に刺さった。
それは五秒間機能を続け、大量の情報を送信した。
ファン・デル・ベルクは満足を感じたが、イオは易しい目標。

エウロパでの第二のペネトロメーターは失敗するだろう。

24 シャカ大王
宇宙刑事警察機構。

呼称と裏腹に貧弱な組織だが「シャカ」の存在を認めなかった。
「ブント」の組織の中の過激派は爆破、暗殺までも関わり、それが「シャカ」というコードネームで呼ばれた。

25 包み隠された世界
木星が点火され、その衛星系に「大解凍」が起こってからのエウロパ。氷が溶けて広がった大地に長さ二キロの一直線の地形が出現。

例のモノリス。
数年後には探査衛星が投入され、その後「エウロパ式ルーレット」と言われる科学者の提案が始まる。
今回、このミッションが世界評議会から許可が出たことに、アンダースン博士も驚いた。
ゼウス山に興味がある理由を聞くラプラス船長に、数年前まで形もなかった、と博士。
ペネトロメーターが発射され、レーダー映像が送られて来る。

あと一秒というところで記録装置が高高度に切り替わった。

記録すべきものはなかった。

26 夜勤
一人夜勤でブリッジを守るチャン二等宇宙士。最初のペネトロメーターの失敗の後、最後に残った「カリスト」観測用のものを再度投入。

今回は若干のデータが得られたが半ミリセカンドだけ。
その後はエウロパを回る軌道での待機が決まった。
予定より遅れてスチュワードのローズ・マクマホンがコーヒーを持って来た。
彼女におやすみを言い、ドアが閉まる音を聞いたが、その後まるで聞き慣れない女の声。
ローズ・マクマホンだった女が「宇宙船をこの着陸座標に降下させなさい」と命令。銃を向けていた。
いくつかの技術的課題を説明するが、全く説得される気配がない。
「・・・その座標を見せろ」

27 ロージー
ジェットの音で目覚めたラプラス船長。ブリッジにいるのはチャン。

減速を感じるという事は、エウロパに降下しようとしている。
フロイド二等宇宙士が、ブリッジが封鎖されていると報告した。

チャンは返事をしない。
ハイジャックされ、行き先も分かっているが、目的が分からない。
一体だれが?一番の容疑者はアンダースン博士だが、彼が駆け付けてその疑いは晴れた。
ドアを叩く船長に、意外にもスピーカーから返事があった。

女の声で銃を持っている事と、チャンが命令に従っていると話した。

そしてエウロパに降りるという。
犯人がロージー・マクマホンと分かり、誰かが彼女の淹れるコーヒーを褒めた。そうだ、彼女はどんな仕事をやらせても徹底的にやるのだ。

28 対話
船内でこれを厄災と思っていないのはロルフ・ファン・デル・ベルグだけ。この船がゼウス山を目指している事を確信。
だが私の学説がなぜ漏れたか?故意ではないだろうが、パウル伯父の周辺からだろう。
クリスが彼の部屋を訪れ、この件で助けてもらえるかと聞いて来た。
着陸地を聞いたことで、却ってゼウス山の名を出す羽目になった。
若い宇宙士を見つめる。

有名な祖父に驚くほど似ている。どういう立場か?
ブントが関わっているのは確か。だがクリス・フロイドは信頼できる。
ある学説を立てている、とだけ話したファン・デル・ベルク。

29 降下
チャンはギャラクシー号を遷移軌道に乗せた。

様々な思いが交錯する中、制動開始までの時間をロージーが聞く。

そして船内放送で、あと5分で制動に入ると予告。
高度を下げると共に雲が切れ、陸地が見えた。

そのかなたにゼウス山が見える。
そこに近づきながら着陸点を探すチャン。山の麓まであと1キロとなったところで平らな面を見つけ、降下を始める。

凍り付いた湖。厚さはどうか?
接地の瞬間氷が割れた。躊躇なしに赤いレバーを引いた。

取り消しプログラム作動により、宇宙船は再び空へ上がった。

30 ギャラクシー号の着地
着陸地崩壊と、その後の上昇で安堵した皆だが、その先はチャン次第。第四モーター停止により推力低下。反対側も切って横転の防止。推力と重力の釣り合いを取りながら、チャンは船を水面に降ろした。
拳銃の音が一発聞こえ、長い沈黙の後ドアが開かれた。

31 <ガリレオの海>
ロージーの死体は廃棄物投棄口から排出されたという。

そしてオウムの様な嘴を持つ生物に丸飲みにされた。
ガリレオの海は、ルシファー直下では水蒸気で荒れているが、ここはそれから千キロも離れていた。
まず船を扱える経験者が必要。

パーサーだったフランク・リーが選ばれた。
推薬タンクに水を入れて安定させる事を提案される。

第四部 井戸
32 進路変更
スミス船長から伝えられるギャラクシー号の状況。

海に着水して良好な状態。女性のスチュワードが一名死亡。
今就役中の宇宙船の中で救助に行けるは、このユニバース号だけ。

地球に戻り補給と整備を受ければエウロパに85日で着く。

乗客に旅行の中断を詫びた船長は、フロイドと個人的に話をした。

彼が孫のクリスに連絡を取ったことを知っていた。
親しく話したのはそこまで。

それ以降フロイドは「気の狂ったおいぼれ」呼ばわりされる。
それはフロイドではなく、ロイ・ジョルスン二等宇宙士のアイデア。
かつて、レオーノフ号とディスカバリー号をドッキングさせた事例をヒントにした。
推薬(水)を取りに行くのにどうして地球まで帰るのか。

数百メートルの近くでオールド・フェイスフルが「それ」を毎秒何トンも噴き出している。それをすれば三週間でエウロパに行けます。
フロイドが、その事を不可能だとする理由を出し、ロイが答える・・・

スミス船長への交渉。課題が並ぶ。

タンクに入れる方法、汚染物質等々・・・
乗客を道連れにする点も問題。そして食糧。

今までの贅沢な内容を見直せば問題ない。
冷やかな対応に、オーナーに当たってみようと言うフロイド。
サー・ローレンスは船長の予想を裏切った。

33 孔の栓
サー・ローレンス・ツァンは、この30年賭けをしていなかった。

フロイドの案を見てかつてのスリルを改めて感じた。

息子のビルへの相談では「否定」
ロイズに対する立場を検討するよう指示するサー・ローレンス。

パイプラインがオールド・フェイスフルに導かれ、最初のテストを待っていた。船長派とフロイド派の分断の中、24時間で準備された。
無視出来ないのは乗客の意思。

ウィリスは予定が狂ったと騒ぎ、グリーンバーグは有頂天。
中でもイーヴァ・マーリンは、その行為にエウロパ人がどう思うか?と聞いた。その事で努力している、とフロイド。

冒涜的な行為だとは認識していた。

間欠泉の噴出。テスト結果は上々だった。

この速度で行けば20時間でタンクを満たせる。
泥を心配する船長に、循環して二回フィルターを通すと説明。

その上で難癖をつける船長。果てはタンクの内張りへの影響まで口にして、フロイドが持つバルブに入った水を眺めた。
フロイドは素早い動作でその留めコックを外すと、ハレー彗星の水を飲み下した。
「これが答えだよ、船長」
あれは無謀だった、と船医。詳細には何が含まれているか分からない。概要分析だけを見ていたフロイド。
意外な効能は下剤・・・・

34 洗車
態度が決したいま、もう論争はなく準備が続けられた。エンジンテストも順調だった。コロイド状の炭素が含まれていて、明るい尾を引く。
全ての準備が整い、ユニバース号は発進したが、一つだけ用件があると言って、船長が間欠泉に船を向けた。

そして泡立つ円柱に突っ込ませた。それは10秒足らずのこと。
「また清潔で立派な船体になったぞ」
地球からの観測では、彗星が明るさを増したと報告。ルシファーに向かう途中でも、白熱した炭素の尾は世界中に目撃された。

35 漂流
姉妹船ユニバース号が向かっている事実は、ギャラクシー号乗務員の士気を上げた。
ラプラス船長は宇宙船の操作をパーサーに移譲し、ミスター・リーはその業務をこなした。
船は次第に外洋へ出ている。いずれルシファー直下の地帯に行くだろう。歓迎出来ない成り行き。
異常な量の通信がフロイド二等宇宙士に集中しており、船長は彼に直接声をかけた。
「君のパートタイムの仕事について教えて欲しい」
当惑げに「許されていないのです」
宇宙刑事警察機構だとは思ったが、ガニメデで会った時に名乗らなかった。船内で何が起こっているかを知りたい。

その問いにファン・デル・ベルク博士の名を出す。
今後の情報提供を依頼した船長。

36 異星の岸辺
ミスター・リーは5キロ先に島を見つけ、水を満たしたタンクから排水するよう命じた。海面から上昇し、次いで横倒しになるギャラクシー号。

船腹に空き箱で作った筏を取付け、その抗力で島の渚へ向かうよう仕向けた。
ギャラクシー号が乗り上げた時、リーは最後の切り札、降着装置を出した。船はしっかりと固定された。

第五部 小惑星を抜けて
37 スター
航行を続けるユニバース号。太陽に近づくことによって、その重力場による推進の恩恵も受けた。このために船体を洗浄したのだ、とスミス船長は解説する。それをしなければ過熱状態になる。
イーヴァ・マーリンは、娯楽センターで古典映像を観て何時間も過ごした。そんな時の彼女の話を聞くのがフロイドにとっても楽しみだった。
「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーが最後の映画に出演したのがちょうど百年前。その題名が「愚者の船」だったという。

38 宇宙の氷山
暇を持て余す状況で、ようやくスミス船長はヴィクター・ウィリスのインタビューに応じた。
素晴らしい速度で航行している事への感嘆。

その中で小惑星への衝突リスクに言及するウィリス。
何度かのやりとりの後、宇宙船の速度では、どんなものにぶつかっても破局的なことになるでしょう、と結んだ船長。
そこでウィリスが一世紀半前の事例を持ちだした。

1911年はタイタニック号が沈没した。
あれは受け入れがたい危険を冒した結果だが、ウィリスへの釈明が必要になるため、話すのを思い留まった。
誰もが指摘する類似点があると言うウィリスは、タイタニック号船長の名前を聞く。「まるで見当が・・・」と言いかけてがく然とする船長。

ほくそ笑むウィリス。

39 船長のテーブル
毎晩ユニバース号で18:00に開かれる夕食会。

六人の乗客と五人の非番宇宙士が参加。
話題の大部分は、船長が仕入れた最新のニュース。

40 地球の怪物
軌道上病院の友人ジョージからの通信。

フロイドが数ケ月は帰らないと聞いて、管理部が住まいを転貸しようとしている。ジェリーとのこと(ホモについて)

41 100歳人の回想録
ヘイウッド・フロイド博士は、自らが経験した宇宙への飛行について語りたくなかった。ほとんど報告書で参照出来る内容。

だがあのデイビッド・ボーマンとの遭遇だけは彼自身の体験。
「今の彼は何者だと思うね?」と尋ねるウィリス。
彼はエウロパに居ると思う、との発言。モノリスもある。
近づくなという警告の信憑性にも関心がある。
イーヴァが「ねえ、ウッディ」と話しかけた。

「素直に電波で話しかけたら?」
その考えはフロイドにもあったが、何となく幼稚な気がしていた。
「やってみよう」

42 ミニリス
フロイドが見た夢。テーブルを囲む会話。

意外にも加わっているミルスン宇宙局長。死んで40年経つ筈だが?
君がエウロパに送ったメッセージに問題がある

・・・・誰に許しを得たかね・・・
次いで予想していたものが現れた。TMA1からビッグ・ブラザー。そして今寝棚の横に浮かんでいる。それが墓石に見えて不吉に思った。
メッセージを持って来たのか?君はデイブ・ボーマンなのか?
60年前はあの信号を木星に送った。

その10年後、木星に起こしたこと。今度は何を企んでいる?

第六部 ヘイブン
43 サルベージ
横倒しになっているギャラクシー号。本来宇宙船は推進時、上下が基本。よって今は床が壁になっている。
それを横を前提にした構成への変更作業にいそしむラプラス船長。
その作業の後、第二週の予定を作成。

科学者たちはこの天体の調査がやりたくて仕方がない。
ガニメデからの情報では、この島は長さ15キロ、幅5キロ、最大海抜100メートル。
この住まいの名について、投票の結果「港(ヘイブン)」になった。

44 エンデュランス号
ユニバース号から激励の言葉を送ったマーガレット・ムバーラ。

そこで引用されたアーネスト・シャックルトン及び「エンデュランス号」の壮挙に皆が激励された。
だが彼らは呼吸出来た。船外活動のため、科学者チームは4個の宇宙服を6時間用に改造した。ある程度の気圧があり、胸部密封で足りる。

45 ミッション
ラプラス船長は、フロイドとファン・デル・ベルクの提案を聞いて驚愕した。ゼウス山に行きたいという。そこまでは300キロ。

船内に格納されている軌道作業用小艇「ウィリアム・チャン号(ビル・T)」を使う。

それを出す時には格納庫が破壊されるが、どうせ二度と使わない。
帰還のメドが立った今、この窮境の原因となったゼウス山を調べる意味があると、船長も考えた。

46 シャトル
ミスター・チャンの操縦でビル・Tは格納庫から飛び出し、船から200メートル離れて着地した。
出発準備が行われた後、船長はチャンに、このミッションをファン・デル・ベルク博士とフロイドだけで行かせると告げた。本部の口出し。

それを了承したチャンだが、グレート・ウォール調査と、かつてこの星で命を落とした仲間の死に場所に花輪を落としたかった事を告げた。

37 破片
荷物を満載したビル・Tは、かろうじて離昇した。

ヘイブンの全島が眼下に広がる。
それもつかの間、あと20分は雲の中に入る。その間はフロイドと荷おろしの下準備をするファン・デル・ベルク。

プログラムに従った「プレーキ開始」のアラーム。
晴れた雲のむこうにそびえる山腹。
着地に適した場所を探しながら降下。

割れたガラスの様なものが一面に散っている、とフロイド。
そして着地。

48 ルーシー
ガニメデ本部に連絡を入れるファン・デル・ベルクは、これ以上近づく必要はないと言った。それに違和感を感じるクリス。
ビル・Tに異常がない事を確認するため、クリスが先に降りた。

続いて外に出るファン・デル・ベルクは、クリスが岩の破片を持とうとするのを大声で制した。
ファン・デル・ベルクは慎重に手を伸ばし、ガラス状の長い裂片を拾い上げた。
既知の宇宙で最も鋭いナイフだという。意味が分からないクリス。
ファン・デル・ベルクは、ガニメデ経由で地球に「ルーシーはここにいる」とメッセージを伝えた。
意味が分からないが、止めるべきだった。
真相を話せと迫るクリスに、このゼウス山が、百万トンの百万倍のダイアモンドで出来ていると説明した。

第七部 グレート・ウォール
49 聖堂
自分の仮説を証明したファン・デル・ベルクは、真剣な科学者に戻って実験を完結させようとしていた。
彼は、クリスがどの程度まで知っているかが気がかりだった。
ギャラクシー号からの交信。ゼウス山の情報を船長から要求されるが、証拠を持って帰るまで待って下さいと回答。
交信のあと、クリスが聞く「ルーシーとは何者だね?}ルシファーと関係があるのか?
このコード名が絶好だと思った。
100年ほど前にビートルズ(BEATLES)というミュージシャンがおり、同じくらい奇妙な題の歌を書いた。
「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ(Lucy in the Sky with Diamonds)」まるで彼らが知っていたかのように・・・

その後ビル・Tはは西方300キロほど飛んで、チェン号の残骸がある場所に降り立った。花輪と供え物を海に投げ込んだ。
帰路はビル・Tを高度千メートルまで上げて、西への飛行を続けたクリス。次の目的地はグレート・ウォール。

着陸はしたくないと言ったが、祖父が50年前ここから遠くないところで感じた事を、自分も知るかも知れない。

50 無防備都市
近づくにつれ、吹き付けるみぞれ、風吹に晒される。

その百キロ先の夜側はもっとひどい。
目的地に着く直前に晴れ渡り、巨大な黒い壁がそびえ立っていた。

それは即座にモノリスと識別できた。
その麓には半球状の数百の構造物。イグルーだ、とファン・デル・ベルクは言った。住居に違いない。
撮影や報告で多忙にしていたファンだが、何らかの接触なしには立ち去れないと主張。
危険が大きいのと、帰還までの燃料に余裕がない、と言うクリス。
壁画の様なものを見つけて「もっと近く!」と言う言葉に合わせてクリスが降下する。

だが本気で着陸しようとしている事に、逆に驚いたファン。
どうしたんだ、クリス?の問いかけに「彼が見えないのか」誰の姿も見えない。
そのまま理想的な着陸をしたクリスは、着陸後の点検を完璧にした後、幸福そうな顔を浮かべ、窓外を見た。
「こんにちは、お祖父さま」

ファン・デル・ベルクにその姿は見えなかった。

51 亡霊
狂人と共にカプセルに居る自分。しかし暴力的ではない様だ。
虚空を見つめ、無言の会話を続けるクリス。周囲の様子を見ると、書物のようなものがある。車輪がついた乗り物の跡も。

生命の存在は間違いない。
「さようなら、お祖父さま」と言った後、ファンに向き直るクリス。
申し訳ない、と謝るクリス。あの着陸の燃料消費で、もうギャラクシー号に戻るだけの燃料がない。
ユニバース号が拾い上げ易い場所までの移動を提案。

安堵するファン。
海岸を赤道に向かって飛ぶ。その内陸部の平坦地を目指す。
制動ロケットの轟音が消え、着陸の手順を終えたクリス。

これから四日がかりでシャトルの食糧のまずさを知る・・

52 寝椅子で
ファン・デル・ベルクは、あの着陸の事を尋ねた。キチンと自己分析が出来ているクリス。
確かに祖父を見たし、話しかけられた。

これは彼が死んだことを意味するに違いない。
彼が言ったのは、お前に会いたいと思っていたので嬉しい、ユニバース号が助けてくれるだろう、といった内容。
それから、あそこの住人がいない事について聞いたら、お前たちが去って毒が去るまで出て来ない、と言った。
自分たちの水蒸気が彼らにとっての毒。
そして、祖父の姿がずっと若く見えたという。人工的なホログラムか。
「モノリスだ!」レオーノフ号でデイブ・ボーマンが祖父に見せたのと同じようなもの。
充分に話したと言った後、ファン・デル・ベルクにゼウス山がダイアモンドである事の説明を求めるクリス。

53 圧力釜
二年前に自身の伯父パウル・クリューガー博士にこの発見を知らせたファンは、彼から80年前の論文を入手した。

気体の巨大惑星には途方もない量の炭素がメタンの形で存在する。

中心核の圧力は数百万気圧で--結晶する。
木星は爆縮して、それから燃え上がった。爆縮の間に、仕組みはどうであれ、そのダイアモンド中心核の破片が飛び出してエウロパに収まった。

それを巡って多くの連中が、事実を知ろうとやっきになった。

54 再会
「今ほど元気なことはないぞ」と通信でクリスに話すヘイウッド。

誰かが仕掛けた悪ふざけ。だが互いの無事を知った喜び。
救出までの手順が知らされた。
シャトルで待つ四日間。臭くなる船室。

食べ物のまずさでは意見が一致。三日目には退屈で、猥談も底をついた。最終日が終わる直前にレディー・ジャスミン号が降下して来た。

55 マグマ
ガニメデからの特別番組を観るパウル・クリューガー博士。ヴィクター・ウィリスの司会で進行。甥のファン・デル・ベルクが技術説明。
昨日、定点カメラが壊されるまでの映像が出される。沈むゼウス山。

そして完全に没した。
大きな財宝が、永遠に消えてしまった!と嘆くウィリス。
ネイチャー誌にもう一つの論文を送るべき時期。

56 摂動論
ネイチャー・データバンク宛て「ゼウス山と木星のダイアモンド」
ゼウス山の沈没を嘆くのは愚か。

木星のダイアモンド中心核の総量はゼウス山の百億倍。
ルシファーの生成に際してこの素材の多くは消滅したが、ゼウス山が堆一だとは考えられない。
少なくともその百万倍がルシファー周辺を公転しているだろう。
これを捜索するためのシステム設立が急務。

57 ガニメデにおけるエピソード
乗客たちのその後が描かれる。

ギャラクシー号の全員を乗せてガニメデに降りたユニバース号。
ここにピアノがない事を嘆くミハイロビッチ。
イーヴァ・マーリンはこの環境に完全に適合した。

グリーンバーグはこの衛星の行政にうまく嵌り込んだ。
ヘイウッド・フロイドは、彼らの仲間には入らず、孫の作業を手伝った。
サー・ローレンスが次のギャラクシー二世号建造の準備を始めたが、ロイズとの係争が続いている。

宇宙ハイジャックは保険契約に入っていない。
これらのきっかけを作ったファン・デル・ベルク博士は、多くの大学や団体からのオファー。だが宇宙滞在が長すぎて、地球での生活は無理。
宇宙大学の設立を目論むファン。

残る疑問。クリスが巨大モノリスの前で見たヘイウッドの幻影。
実はエウロパに着陸する前、彼に送信してみた。返事はあったかと聞かれ、不意にあのミニモノリスが船室に現れた夜のことを思い出した。
あの事でクリスの無事を確信した。
「いや、何も返事はなかったよ」

第八部 硫黄の世界
58 火と氷
惑星探査の時代が開幕するまで、太陽から遠い天体に生物の生育環境があると考える者はいなかった。
近くにある木星の影響がなければ、エウロパの海は凍り付いていた。
惑星と衛星の引き合いによる潮汐力は、衛星内部に熱を与えた。
その結果現れた様々な生物。だが彼らは滅びる運命にあった。

潮汐力そのものの衰え。
彼らは火と氷の間に閉じ込められていた--ルシファーの爆発で彼らの宇宙を解放するまで。
そして新たに生まれた大陸に巨大な長方形が現れた。

59 三位一体
死に瀕しているヘイウッド・フロイド。本物の行く末を気にするが、どちらも本物だと諭される。もう一人の存在は、デイビッド・ボーマンだった者。もう一人はハル。再会を喜んだ。
助けが必要だと聞いていた、ヘイウッドだった者。
ハルがモノリスを調べた結果、あれは知能を触発させるためのものだった。
木星が太陽化された時、別の生物圏が多く破壊された。
希薄な大気の中で生息する動物たち。
ルシファーを創造するために、これらの者が滅ぼされた。
あの気体環境の中では、本当の知能の発展は期待できない。

だからといって彼らを滅ぼして良かったのか。
ハルと私はこの疑問を解こうとしている。それにあなたの助けが必要。
木星を滅ぼしたモノリスに対抗出来るのか?
あれは道具に過ぎない。桁外れの知識だが「自意識」はない。

何か手違いが起こった。ゼウス山の落下で、この星が完全に滅びる可能性もあった。あれは計画外。
我々三人は、この天体の保護者であると共に管理者でもある。
我々の仕事は彼らが潜在能力を発揮するよう助けること。
時間はどれぐらいあるのかね?
非常に少ない。わずか千年。

それに木星人のことを忘れるんじゃないぞ。

第九部 三〇〇一年
60 真夜中の広場
セントラル・マンハッタンの建物は、千年経ってもほとんど変化がない。
空の上の変貌ぶり。世界を取り巻く、ダイアモンドからなる「世界を取り巻くリング」に赤道から伸びる臍の緒が到達する。
不意にルシファーが、生まれた時に劣らぬ速さで消え始めた。
三十世代に亘って人間が知らなかった夜が、空を埋めつくした。
そして四百万年のうちで二度目に、モノリスは目覚めたのである。


 


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